創造神の御子?!
リアンとの会話にうまく答えれないまま、ニュクスは眠りにつく。
そして夢の中に現れた人物は創造神を名乗り、とんでもない事実をニュクスに告げる――
「どうか私と、結婚して欲しい」
三度目の言葉。
でも、俺は即答できなかった。
嬉しい理由もわかった、でも――
いやだ、だから上手く答えられないんだ。
「その……俺、リアンの事好きだけど、忘れてたから……」
「それは仕方ない事だ、君は心に鍵をかけていた。だから忘れていただけ、自分を責めなくていい」
「でも……」
本当自分がみっともなくて嫌になる。
「それに結婚を申し出る場合ではないからね本来は、君の心と体の傷が癒える方が重要だ」
「リアン……」
リアンの優しさにずっと甘えていた自分に反吐が出そうだ。
「ニュクス、君は無理をしてきた。だから私に甘えて欲しい、昔のように」
その言葉を聞いてふと思った。
「リアン、失礼なんだけど」
「何だい?」
「子どもの俺を口説くとか、リアンは幼児愛好趣味なのか?」
「それは断じて違う!!」
即答された。
「君だから私はずっと君と別れた日から、君が姿を消したあの日から探し続けて、漸く君と再会できて感極まって父上に言ってしまった位だ、子どもは可愛いが、そこまでだ。私は君だから君と結婚したいと思ったんだ」
「あ、ああ、うん。わかった。ごめん……」
ごにょごにょと言ってしまう。
リアンはごほんと咳をして、私を見る。
「今は君の心が良くなる方法を探そう、少しでも良くなるように」
「リアン……」
「大丈夫、今度は君と離れる事などしないから」
「うん……」
そう言って俺の手を握ってくれたことが、嬉しかった。
その日の夜、俺はリアンに手を握られながらいつものように目を閉じた。
『祝福の子ニュクス』
誰かが呼ぶ声に目を覚ませば、不可思議な空間の中にある神殿に俺はいた。
目の前にはフードを被った男とも女ともつかない声の持ち主。
「あ、アンタ誰だ?」
『へスペリア、我が名はへスペリア』
「……はぁ?!」
俺は耳を疑う。
へスペリア、この世界の創造神。
それを騙ることなどできない。
ならばこい――いやこの御方は――
「あ、あの、おれ……じゃなくて、私に、何の御用でしょうか……?」
『そう畏まらずともよい、わが御子よ』
「……はい?」
――俺の聞き間違いじゃなければ俺の事を「御子」と呼んだよなこの御方?――
『其方は私の祝福を受けし御子。つまり私の子どものようなものだ』
「は……」
「はああああああああああああああああああああああ?!?!?!?!」
俺は心の底から絶叫した。
「えっと、つまり……祝福の子は貴方様の御子であるから、殺したら天罰が下って悪いことがおきるようになっていると……」
『うむ、それと私が御子をだすとその子が20になるまでは世界にうまく干渉できなくなる制限を受けていてな』
「おおふ……」
王様の言っていた通りの事を思い出す。
『其方が20になり、そろそろ不味いなという頃合いで神託を下した』
「あ、有難うございます……」
とりあえずお礼を言う。
『いや、寧ろ20年何もできずにすまぬ。それにしても……』
「⁇」
『何で「観察者」の国以外、私の言葉を聞けぬ程に歪んでしまったのか……これが分からぬ!! 人だけではない、ドワーフも、妖精も、エルフも皆だ!! 各国の守り木であるマナの木すらも「観察者」以外の国では枯れはて、切られ……うがー!!」
神様は地団太をふんだ。
「へ、へスペリア様?」
『もう、本気で各国を滅ぼそうと思っている』
「ちょ、ちょっと待ってくださいー!!」
爆弾発言を俺は慌てて止める。
『何故止める!!』
「国を亡ぼしたらそれこそなにが起きるか分かりません!! 奴ら躍起になって俺達を保護してくれている国を攻め込むかもしれません!!」
『ふむ……一理ある』
「でしょう?!」
『よし分かった』
俺はその一言で安堵した。
『神託で各国、各種族代表とっ捕まえて死刑にしろと言おう』
「ヴぁー?!?!」
直後にその安心がひっくり返された。
「ちょっと待てー!!」
俺は飛び起きてそう叫んだ。
「にゅ、ニュクス?! ど、どうしたんだ?!」
「ゆ、夢の中でへスペリアを名乗る人物が神託で各国と各種族代表とっ捕まえて死刑にしろと言うって言ってて……」
「いやでもゆ……待ってくれ、まさか……」
「話の途中ですまぬ」
リアンのお父さん――王様が部屋に入ってきた。
「少し話を聞かせてもらった。ニュクス」
「は、はい」
「……其方の言った通りの神託が先ほど下った」
「ギャー!!」
俺は枕を抱えてベッドにうずくまる。
夢は事実であったことを認識させられたからだ。
つまり、俺は神へスペリアの御子ということにもなるし、神様は本気で怒っているのが分かった。
「……一応全員とっ捕まえたが」
「ギャー!!」
王様が既に実行済みなのに俺は二度目の悲鳴を上げる。
つまりだ。
その中に俺の父親にあたる人物――
聖王レオンがいるのが確定している。
死刑にしたいかと聞かれたら即答でしたいと答えるが、色々とこちらもされて首ちょんぱで終わられるのは何か――
腹が立つ。
「……腹が立ってきた」
「ニュクス?」
リアンが俺の手を握る。
「あんだけ俺や母さんたちを追っかけ回す命令をしてた野郎が、あっけなく首切られてはい終了ってのは何か許せない!! 俺達どれだけ苦しんだと思ってやがるんだあの野郎!!」
思わず本音をぶちまける。
「他の連中だってそうだ!! あんだけ俺達を追い回して、殺そうとしてたくせに!!」
「母さんがそれで体を壊したんだぞ!!」
もう一つ言いたい事があったがそれは飲み込んだ。
すると、リアンが俺の手をにぎったまま頷き王様を見る。
「父上、ニュクスの言う通りです。ニュクスと家族がどれほど苦しい思いをさせられたか――ニュクスが此処迄苦しむ程に辛い目に遭わされたか、それを想像するとただ死刑にするだけでは私の気もおさまりません」
「リアン……」
リアンは俺を見て、にこりと笑ってそして生真面目な表情で再度王様を見る。
「父上、どうかよく考えて処罰を」
「……うむ、分かった。では神へスペリアにお聞きしよう」
王様はそう言っていなくなった。
「ニュクス、大丈夫、貴方が最も楽になる道を見つけましょう」
リアンの言葉に、心にこびりついていた汚泥が落ちるような気がした。