結婚を申し込まれる~何で俺嬉しいの?!~
リアンの母国に連れてこられたニュクスと家族は、リアンの父である王から事情を聞かされる。
ニュクスは何だかんだで、礼ができない事をもやついていたら、王から、リアンからとんでもないお願いをされる。
自分の伴侶になって欲しいと――
気が付けば、大規模な転移魔法で俺達は見知らぬ城の前に転移させられていた。
「えっと、ここもしかしなくても……」
「はい、王宮です」
「げぇー!?!?」
変な声を上げてしまう。
「リアン、どうしたのだ? 転移魔法など使って」
壮年ほどの男性の声に振り向けば、真っ黒な服を着た少し長めの黒髪に、赤い目、青白い肌をしている男性が立っていた。
気が付けば周囲の俺達家族と王子様以外は膝をつき、首を垂れている。
――もしかして、この国の王様?――
「父上『祝福の子』とその家族を保護いたしました」
「何?」
男性――王子様の父は俺に近づいてきて、俺の事をじっと見つめている。
――なんか見つめられるのはちょっと嫌だなぁ――
「――確かに、間違いなく祝福の子だ。リアンよくやった」
「有難うございます父上」
何か色々と話が進みそうでやな予感がしたのでまずたずねる。
「あの、王様なのでしたら、知っているかもしれませんが……お……私の命がここ最近急に狙われ始めたのはどうしてでしょうか?」
そう、ここ最近いつもの増して命を狙ってきやがったのだ。
色んな連中が。
「無理にそのような話し方をせずともよい」
「ああ、はい、ありがとうございます……そうさせてもらい、ます」
「それと、此処では何だ応接室で話すのが良かろう、リアン客人たちの案内をせよ」
「はい、父上」
姿を消した王様にぽかんと俺達が口をあけていると、王子様は微笑んで俺の手をとった。
「こちらです、どうぞ」
王子様に案内されて広い城の中を進んでいく。
そして広い部屋に案内され、柔らかい布で包まれた座り心地の良い椅子に俺達家族は腰を下ろすと、王様が姿を現した。
「祝福の子――名前は確かニュクスでよかったな?」
「え、あ、はい。あれ、俺自己紹介……」
「本日へスペリアの神託があったのだ、今日齢20になる祝福の子ニュクスが危機に陥るから助けよと、保護せよと」
「へ?」
予想外の言葉に俺は間抜けな声を出す。
「ちょ、ちょっと待ってください!! 何故そのような神託があったなら20歳になるまでなにも――」
「へスペリアの言葉を要約すると『祝福の子を私が保護するように言うなどできるのは祝福の子の齢が20を超えてからでないとできない、それがこの世界の制約なのだ』との事だ」
王様の言葉に何も起きなかった。
それが事実であることを俺達は悟る。
この世界でへスペリアの言葉を語ることは許されても、騙る事は許されないからだ。
騙った者には天よりの死が与えられる。
つまり――
王様の言った神託とかも全部、事実なのだと。
「本当は其方達をもっと早く見つけたかったが、中々見つけられずにいてな、今回の神託で場所が判明してリアンが飛び出していったのだ」
「は、はぁ……」
「お聞きしたことがあります……この国は他の国から敵視され、常に攻められ続けていると……」
「今も、な。全くいい加減にしてもらいたいものだ」
「そんな中私達を助けていただき、感謝いたします……」
「礼などいらぬ聖女ダフネよ。私はすべきことをしたまでだ」
王様は母さんの感謝の言葉にそう返した。
――つか、母さんが、聖女って呼ばれてたの知ってたんかこの王様!!――
と内心驚いていた。
「其方たちも私の国を頼ろうなど考えもできなかっただろうからな」
「……おっしゃる通りです」
「さて、本題に入ろう。何故急に其方の命を狙おうとしはじめたのかをな」
そして王様は語り始めた――
「――ははは! ざまぁみろ!!」
話を聞き終わった俺は思わず笑ってしまった。
血縁を大事にする国々は俺を抱えて母さんと義父さんが逃亡生活を始めてから、その血縁が少しずつ死に始めたそうだ。
聖王に至っては、他の女をあてがったのに子どもが生まれない!
そして今、血縁はほぼ死に絶え、国が滅びかねない状態に。
全て俺の所為だと決めつけて、俺を殺そうとしたそうだ。
殺したら、全員死んで、国は滅びるそうだというのに。
「ニュクス、人の死を笑ってはだめ、喜んではだめ」
「えー……うん、ごめん、母さん」
「俺もざまあみろだとおもうよ。ニュクス兄の事執拗に狙った罰だよ、罰」
「よくわからないけど、もうこわいひとたちにおわれない?」
「そうだよレイア、もう追われないよ」
「やったぁ! おじちゃまありがとう!!」
「ちょ?! お、王様すみません、レイアはまだ三つで……」
「構わぬ、其処迄器量は狭くはない故」
何処か上機嫌そうに王様は言った。
――もしかしてこの人わりと子ども好き?――
俺はそんな事を考えた。
「あの、俺達お礼とかできないんですが……」
「その件なのだがな……」
俺がどう助けてもらった事への返礼を返すべきかたずねると、王様は渋い表情を浮かべた。
「私は構わぬのだが、其方が良いというかが……」
「はい?」
「ニュクス」
王子様が近づいてきて俺の前に膝をついて、手を取った。
「どうか私の伴侶になっていただきたい」
――へ?――
――はん、りょ?――
俺の思考は停止する。
「はあああああああああ?!?!?」
思考がようやく動いた途端、俺は再度変な声を上げた。
「いや、待て。俺は女じゃないぞ?!」
「知っています」
「男でもないぞ!!」
「知っています」
「ヴぁー!! なんなんだ?! なんで俺地味に喜んでるのどういう事だよマジで?!」
そう、何故か、嬉しいのだ。
何か不思議な感じを覚える、この王子様に。
結婚して欲しいと言われて喜んでいる自分が一番謎なのだ。
理由が分からない。
「ちょ、ちょっと待ってください!! いきなり我が子を嫁がせろとか言われても私が困ります!!」
「えー、ニュクス兄が喜んでるならいいんじゃね?」
「ゼロス! お前本当私に反抗的だな!!」
「フン」
こんなところでも反抗期ですを主張するゼロスの態度に頭が痛い。
「ゼロス、義父さんのいう事はもっともだ、俺が喜んでるならいいだろ、じゃないんだよ」
「うん、わかった。ニュクス兄が言うならそうなんだろう」
「何で私が言うと……」
場を考えずに頭を抱える義父さんに、色んな意味で頭痛がした。
「とりあえず、今日は休むのが良かろう。アルゴス、マイラ、客人を部屋に案内せよ」
王様がそう言うと、二人の従者らしき存在があらわれ、俺達を家族用の部屋へと案内してくれた。
綺麗な部屋にきゃっきゃと喜ぶレイアと、初めて見る城からの景色に感動しているゼロスとは真逆に、俺と義父さんは頭痛がして大変だった。
――一体、なんでなんだ?――
何故、結婚を王子様に求められて嬉しかったのか、どうしても俺は分からなかった。