〈49#ミーティング〉
「聞いたぞお前ら、さっきは派手に喧嘩したそうじゃないか。オマケに【聖剣使いの勇者】まで出張らせてからに」
クックック、と『監督官』のヴァレンタが愉快そうに笑う。
その横では、無表情のコリンがこれ以上ないほどご立腹な様子だ。彼女の背後では瘴気と見紛うレベルのどす黒いオーラが大噴火している。
「はぁ~~~~もう~エンペラーは憤怒ピカイチ丸状態なのですよ~。このケツ拭きやらされんのは『神器戦略人事局』なのですからね~。どうしてテメェらは次から次に問題起こしやがるのですか~キルしますよ~」
「あの~……喧嘩を吹っ掛けてきたのも壁を壊したのも相手側の方で、ウチらは被害者なんスけどぉ~……」
「そんなの聞きましたよ~【処刑刀使いの勇者】は~後で絶対泣かせますから~。っていうか~『記録官』のあなたがいたのに~なんて体たらくですか~」
「うぅ……不可抗力っスぅ……」
責められて半泣きするチャット。いや、実際彼女に全く非はないと思うのだが……
――さて、【処刑刀使いの勇者】であるヒューゴと一悶着起こした俺たちは、その後『ラオグラフィア』の作戦室までやって来ていた。作戦室は部屋中央に大きな机が置かれ、大の大人が10人以上入っても広さにゆとりがある。あくまで『レギーナ城』の一室であるため室内は小綺麗で整理されているが、その趣きは如何にも軍人のためといった様相。中央の机には『レギウス王国』全土を網羅した戦略地図が敷かれ、地図上に置かれた幾つかの駒は【神器使い】の配置を意味しているのだろう。それは数こそ少ないが東西南北に隙なく置かれ、どこで魔族が出現しても即応できる布陣になっている。見事なものだ。
もっとも、そんな場所で正座させられて説教を受けていては、戦略の要である俺たち3人も形無しなのだが。
「まあまあ、大目に見てやれよ『事務官』。【神器使い】同士がいざこざ起こすのなんて、昔からよくあることなんだろ?」
「それはそうですが~城下街で散々暴れ回った上に~廃家を吹き飛ばした方に言われたくないですよ~」
「ハッハッハ! さあ、本題に入るか!」
おい、露骨に話を逸らしたぞ、この『監督官』。
まあ戦闘狂とまで呼ばれる彼女のことだ、〝本音を言えば喧嘩に混ざりたかった〟くらい思っていそうだが。
ともかく俺たちは促されるまま立ち上がり、机上の地図を囲む。
「よし、よく聞けよ3人とも。大まかな概要は既に知っていると思うが、王都から北東に約1000マイル離れたガリファロという街が魔族の襲撃を受けた。ガリファロには王国軍も駐屯していた他、一定の防衛陣地も構築されていたことから2夜は攻勢を退けたが、こちらの被害も大きい。すぐに救援に向かう必要がある。そこでお前たちの出番だ」
「よろしいでしょうか、マスター? たしかお話では、私たち以外にも【神器使い】が現場に向かうと伺ったのですが……」
「ああ、クリードとヒューゴの2人だな。彼らは一足先に向かってもらっている。この場に集めたら、また揉めそうだったからな。戦況の詳細は現地で聞かされるだろう」
なるほど、一応彼女も気を利かせてくれたらしい。まさか編成が決まった直後に仲間割れが起きるなんて、普通は想定外だろうからな。その柔軟さは流石『監督官』、と言いたいところだが……
「……そもそも、どうして俺とアイツを一緒にさせた。暗殺者と処刑人など、どう考えても共同歩調が取れるワケないだろう」
「編成を決めたのは私じゃない。動かせる人員の効率を考えた結果、こういうメンバーになっただけだ。文句なら〝ラオグラフィア評議会〟に言え」
「はぁ……だから組織立って動くのは嫌なんだよ、単独の方がよほど気が楽だ。……しかし【神器使い】を4人も配置するのは、些か過剰戦力では? そのガリファロって街は、それほど重要地点なのか?」
「いい質問だな、後で先生が撫でてやろう。――確かに、常に人員不足な【神器使い】を4人も配置するのは贅沢過ぎるが……地図を見てみろ」
ヴァレンタに言われて、俺は机上の地図へと視線を落とす。
「ガリファロが襲われる少し前から、街周辺の村と連絡が取れなくなっているのは聞いたか? そして地図上にある街の位置と、安否不明な村の位置を比較すると――」
「……なるほど、北東から国の中央に向かって順に要所を落としていってるのか。距離はまだまだ遠いが、このまま侵攻されると――」
「うむ、いずれはこの王都に行き着く。そして魔族共にガリファロを通過された場合、そこから直線状には強固な防衛線を構築できるほどの街や城塞がないんだ。それに夜になって現れる魔族は、出没地点の予測がつかない。早急に陣地を作ったとて、迂回されないとも限らん。侵攻上にある中小の街や村への被害を抑えるためには、魔族と平野か森で戦わねばならなくなるだろう。奴ら相手に正面から兵力をぶつけては、兵士たちにもどれほど損害が出るか……」
「だから、どうにかしてガリファロで抑えたい――か。それで、魔族共の戦力は?」
「ハッキリとしたことは不明だが、複数の種族が混在していることは間違いない。アルニトの時はほとんどの敵がスケルトンだったんだろ? 油断するなよ、魔族も戦力を増してきている。ま、上等魔族が確認されていないことが救いだな」
複数の種族――魔族というのは、あの骨の化物以外にも色々いるのか? 確かに俺を瀕死に追い込んだ肥えた化物は骨の化物とは似ても似つかない風貌だったし、配下である奴らをゴミクズ呼ばわりしてバカにしていた。このことからも、魔族の中にもなんらかの階級制度があることに違いはないが――あんな異形が他にもいるとは、あまり想像したくないな。
「敵戦力に関しては、まだ本部にも詳細情報が届いてない。現地の司令官から聞いた方が早いだろう」
「そうか、わかった。……だが、どうやってガリファロまで移動する? 下手をすれば、街は今夜にでも落ちかねない。今から馬に乗ったとしても、絶対に間に合わんぞ」
俺が尋ねると、ヴァレンタは不敵な笑みを浮かべる。
「そりゃあ、アレを使うのさ。喜べ、アレに乗れるのは【神器使い】の醍醐味の1つだぞ?」
「……マスター、アレってもしかして……」
リリーの顔から、何故か血の気が引く。どうやら、彼女は知っているらしいが――なんだか嫌な予感がするぞ。
「さて、私から伝えることは以上だな、『事務官』からはなにかあるか?」
「はい~リリー様はもうご存知かと思いますが~もし【神器使い】の方々に必要な物資がある場合は~できる限り『神器戦略人事局』でご用意しますよ~。私たちは需品科も兼ねているので~兵站に関してはお任せくださいですね~」
ほう、それは知らなかった。戦略・人事に加え補給までも一手に引き受ける部署――なるほど、それはコリンの苦労はかなりのモノだろう。彼女たち『事務官』は文字通り縁の下の力持ちであり、俺たち【神器使い】の母でもあるワケだ。薄々気付いていたが、少なくともこのコリンという女は事務に関して相当優秀な人物に違いない。
「それからあなた方は~この任務の後にキッチリと説教させて頂くので~死んじゃダメですよ~ちゃんと生きて帰ってくるのですよ~。わかったら~大きな声で返事~」
「「「はい……」」」
「へ~ん~じ~」
「「「はいッ!!!」」」
ブレンの威圧感に負けずとも劣らない強烈な威圧に気圧され、元気よく返事する俺たち3人。いやはや……母と呼ぶには恐ろしすぎるな……
「よし! では出発は明日の早朝、それまでに準備を整えておけ。コイツは楽しい魔族狩りになるぞ? それでは解散!」
おまけ設定解説
〈事務官〉
『事務官』は『神器戦略人事局』に属する局員で、対魔族戦略・作戦の立案と人的資源の管理、他にも多岐にわたり【神器使い】をサポートする役割を担う。
幅広い業務を受け持つためマルチタスクを処理できる優秀な人材が集められているが、その特殊性故に特定の分野に特化した人材も多く在籍しており、実に種々様々な経歴を持つ者たちで固められている。また身分を問わずスカウトすることでも有名で、軍人・商人・冒険者・医者・農民、果ては盗賊団の団長までもが勧誘対象になったこともある。
『記録官』とは違い戦地に赴くことは少ない。そのため殉職率は低いが、戦略考案から兵站までを担う彼らの役割は非常に重要で、実質的に【神器使い】たちの命を預かっていると言っても過言ではない。
一見して目立たず地味ではあるが、【神器使い】にとって『事務官』は縁の下の力持ちなのだ。




