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〈41#暗殺者VS監督官①〉


「す……凄い強さです、マスター・ヴァレンタ……」

「ああ、しかも驚くことに、ほとんど【神器(じんき)】の能力に頼ってない。常人の身で魔族と戦う部隊を指揮していたというには、伊達じゃないってことだな」


 俺とリリーは物陰から戦闘の始終を覗き見て、開いた口が塞がらずにいた。

 ……アルニトで肥えた化物(ファット・アーマー)と戦ったからこそ、よくわかる。なんの異能も持たない常人で魔族と戦おうなど、狂気の沙汰だ。自殺行為に他ならない。

 だが、世の中にはその狂気すら飲み込んでしまう人間がいる――そういうことなのだろう。

 ヴァレンタは屋根の崩れた家屋から飛び上がり、他の屋根に飛び乗ると、キョロキョロと周りを見渡す。


「さぁーて、残りの奴らはどこいったー?」


 気が付けば、サツキとクリードの姿が見えなくなっていた。彼らからすれば、この訓練は再挑戦(リベンジマッチ)の機会でもある。逃す手はないだろうが……

 そう思った刹那――ヴァレンタのいる屋根の下から、サツキとクリードが飛び出した。片やヴァレンタの前方から、片や背後から。今までチャンスを伺い、下の道を移動していたらしい。

 これは――挟撃(・・)だ。


「クリード殿! 合わせられよ(・・・・・・)!」

「うるせえ! 俺に命令すんじゃねえ!」


 タイミングを合わせ、互いに渾身の一撃を狙う2人。彼らの【神器(じんき)】は〈速度型(スピード)〉ではないが、攻撃速度はそれに準ずるほど速い。奇襲による前後同時攻撃ならば、如何にヴァレンタと言えど回避しきれないはずだ。これは考えたな。


「工夫をしてきたな。努力に免じて――コイツを抜いてやろう!」


 2人の奇襲を見たヴァレンタは、右手で腰の細剣(レイピア)に手をかける。そして2人が斬りかかる瞬間に抜刀し――神器(パリィングダガー)でサツキの神器(カタナ)を、細剣(レイピア)でクリードの神器(バスタードソード)を受けた。


 いや――それは〝受けた〟というより〝受け流した〟といった方が正確かもしれない。サツキの斬撃の軌道を上に、クリードの斬撃の軌道を下にずらし、刃と刃の隙間を背面飛び(・・・・)でもするかのように背中を反らして、しなやかに回避して見せたのだ。


 驚異的、という他ない。細剣(レイピア)は品質こそ最上であろうが、刃はあくまで人工によるもの。【神器(じんき)】と鍔迫り合わせれば、容易く叩き折れてしまう可能性が高い。

 故に〝受け流した〟のだろうが、そのためには2人の剣筋を僅かな誤差すらないほど完璧に見切るか、そうでもなければ目でも腕でも増やすしかない。


 彼女は――ヴァレンタは、紛れもない剣術の達人にして、見切り(パリィ)の天才だ。おそらく、世界に2人といない逸材だろう。

 そんな彼女に攻撃を回避されたサツキとクリードは勢いを殺し切れず、〝ゴツン!〟と互いの額を正面衝突させる。


「うごぁ!」

「むう……!」


 そのままバタリと倒れ落ち、気を失う2人。クリードに至ってはこれで2度目の失神だ。気の毒に。


「おめでとう、私に細剣(レイピア)を抜かせることに成功したな。しかし、そんなところで寝ると風邪をひくぞ、半熟勇者共。……よぅし、残るは――」


 ペロリと舌なめずりをするヴァレンタ。そう、もう残っているのは俺とリリーだけだ。


『リリー、聞こえるか?』

『はい、良好です。それで、私たちだけ残ってしまいましたが……』

『よし、降参して帰ろう。やるだけ時間の無駄だ』

『え、ええ!? なに言ってるんですかラクーン!? そんなのダメですよ!』


 頭の中にリリーの声が鳴り響き、鼓膜を刺激されていないはずなのにキーンという耳鳴りを覚える。


『いいか、よく聞け。結論から言えば、ヴァレンタは俺たちより強い。圧倒的にな。このまま俺たちだけで挑んでも、すぐやられるのは目に見えてる。俺は無駄な争いは嫌いだ。面倒くさい』

『で、ですが……そんなのはいけません! せっかくマスターが指導してくださっているのですから、負けるとしても戦わないと!』

『しかしだな、意味もなく手の内を見せるのは――』

『ラクーンがやらなくても、私はやりますから! 見ていてください!』

『……わかった、やる。俺も戦うから、少し落ち着け』


 勢いに任せて飛び出そうとするリリーを、俺はなんとか押し留める。まったく生真面目なことだ。彼女の良い所でもあり悪い所でもある。

 どちらにせよ、訓練だろうがなんだろうが俺はリリーが傷付く所を見たくない。ヴァレンタなら相応に手加減してくれるだろうが、万が一ということもある。

 とはいえ、あんな化物よりも化物らしい女相手に俺の〝神技(しんぎ)〟が、〝縮地(ゼロ・シフト)〟が通用するのか――いや、正面からは絶対に無理だろうな。


 あらゆる攻め方を思案していた時――俺はふと気が付く。

 いつの間にか訓練に没頭し、俺たちは『レギーナ城』から離れて〝ベロウ・ポート市場〟の近くまでやって来ていた。時間はまだ昼過ぎなので、今頃市場は賑わいを見せている頃だろう。ほとんど全ての店が開いているはずだ。

 俺は――ある作戦(・・・・)を思い付く。


『……リリーは王都(サントゥアリオ)の生まれだったな。地勢には詳しいか?』

『え? ええ、まあ多少は……』

『この辺りに空き家はあるか? できれば廃家が望ましい』

『廃家、ですか? うーん……最近の王都(サントゥアリオ)は人の流入が激しいですから、あまり多くは……あ、でもこの辺りでしたら、あの家(・・・)がそうですね』


 リリーはとある家屋を指差す。如何にも古ぼけた、灰色の屋根をした民家だ。市場からもあまり離れていない。


『あの家は、たしか取り壊される予定だったはずです。もう何年も人が住んでいませんから……』

『そうか、よし……これなら一泡吹かせられるかもしれん』

『! なにかいい作戦を思いついたのですね! アルニトの時のように!』

『……いい作戦、ではないだろうがな。それじゃあリリー、さっそくだが――〝買い物〟を頼まれてくれないか?』


◇ ◇ ◇


「おーい、どこいったー。出てこないと王都(サントゥアリオ)の外周100周追加するぞー」


 ヴァレンタが俺たちを探し、屋根の上をテクテクと歩く。どこからでもかかってこいと言わんばかりの、脱力した様子で。

 ……さて、そろそろいい頃合いか。俺はわざとらしく大きく飛び上がり、屋根の上に着地する。さっきリリーが指差した、灰色の屋根をした民家の上に。


「……」

「そこで戦う、ってことか。いいだろう、誘い(・・)に乗ってやる」


 ヴァレンタはこちらの目論見に薄々気付いている様子だが、その上で屋根の上までやってくる。大層な自信だ。


「アルニトの報告書は読ませてもらった。お前と戦うのを楽しみにしていたぞ。名は……確かラクーンと言ったか?」

「……ああ、俺の名はラクーンだ。別に覚えておかなくていい」

「そうもいかん。曲がりなりにも大事な教え子だからな。それに……上等魔族を倒したその実力、気にするなという方が無理だろう」


 とてもウキウキワクワクとした楽し気な顔で、俺を見つめてくるヴァレンタ。まったく度し難い戦闘狂だな、この女は。


「さあさあ見せてくれ。お前の腕前、この目でしかと確かめさせてもらう」


 ヴァレンタは左手に神器(パリィングダガー)、右手に細剣(レイピア)を構え、細剣(レイピア)の切っ先を俺へと向けてくる。俺相手には手を抜き過ぎない、ということらしい。


「俺には初めから細剣(レイピア)を抜くのか。『監督官(チーフ)』が生徒を差別するんだな」

「これは差別ではなく区別だ。喜べ、お前は特別に優遇してやる」


 ヴァレンタの細剣(レイピア)がユラリと揺れる。来ないのならばこちらから行くぞ、と言うように。

 ――ああ、いいだろう。せいぜい時間稼ぎ(・・・・)をしてやるさ。リリーの準備が整うまでな。

 それに丁度いい機会だ、試させてもらおう。


「……〝神器顕現(じんきけんげん)〟」


 唱える。そして金色の光が俺の手に現れるが――それは右手だけではない。左手にも同様の光が現れ、併せて二振りの神器(ダークナイフ)を形作った。

 〝双剣〟。俺は両手に神器(ダークナイフ)を握り、構える。

 アルニトでの戦いの後くらいから〝出せる【神器(じんき)】の数に制限はあるのだろうか?〟という素朴な疑問を抱いていたのだが、中々試す機会がなかった。しかし、どうやら制限はないらしい。頭の中で2本の神器(ダークナイフ)をイメージしたら、その通りに現れてくれた。これはまた活用の幅が増えそうだな。

 俺は二振りの神器(ダークナイフ)を逆手に構え――


「では――行くぞ!」


おまけ設定解説


鎖鎌(チェイン・シックル)】の神器性能(スペック)

 速度型(スピード)/ランク〈C〉

 種類:投擲武器

 全長:3m

 重量:3kg

 神 格: C 

 攻撃力:C+

攻撃範囲: A 

攻撃速度: B 

 生存率:D+


カマノスケの〈加護〉:『忍び不忍(ハイド・オア・エクスポージャー)

 任意発動型(アクティブ)。隠蔽率が上がり、見つからないように幸運(POW)が向上する。姿が露見している間は筋力(STR)敏捷性(DEX)が向上する。

カマノスケの〈神技〉:『鎖渦牢(チェイン・ボルテックス)

 無限に伸びる鎖が渦の牢獄となって敵対象を閉じ込める。


 鎖鎌のルーツは、帯刀が許されなかった農民たちが一揆などに参加する際、隠し武器として農具を転用したのが始まりとされている(所説あり)。


 扱いが難しい武器として知られ、基本的な扱い方は鎖に繋がれた分銅を敵に投げつけて武器や身体を捕縛、引き付けた敵を鎌で切り裂く。分銅を投擲武器代わりに投げつけても強力。


 "忍者の武器"というイメージが強いが、実際は農民や武芸者が習得する武技として発展したもの。

 あまり知られていないが、『鎖鎌術』として流派が多く存在している。

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