〈40#ムーヴ・アウト!〉
――聖歴1547年/第2の月・下旬
―――時刻・昼
――――レギウス王国/王都サントゥアリオ/市街地・上空
――――――ダークナイフ使いの勇者『ラクーン』
「ほらどうした!? 私に追いつくこともできないのか、腰抜け共め!」
建物の屋根から屋根へ飛び移り、隼と見紛うほどの速さで駆け抜けるヴァレンタ。
そんな彼女の後姿を全力疾走で追いかける、俺たち7人の【神器使い】たち。この常人離れした身体能力も【神器】の恩恵だが、それにしてもヴァレンタのソレは突出している。
――とはいえ、アレでも手を抜いて走っているのだろう。所作からなんとなくわかる。7人の中でも特に機動力が低い肥満体の大男や、そもそも身体能力が低いリリーでもギリギリついていけてるのがその証拠だ。
「マ……マスタぁ~……! 待ってくださいぃ~……!」
はぁはぁと息を切らし、神器を手に走り続けるリリー。このままでは一太刀入れる前に体力切れを起こしてしまいそうだ。
……丁度いい機会だし、コレを試してみるか。
『リリー、聞こえるか?』
『ふぇ!? あ、はい! 聞こえます!』
よし、〝通唱石〟は機能しているな。このまま頭の中で会話を続けられそうだ。
『体力は持ちそうか? 厳しいなら無理をするな』
『いえ、大丈夫です。それよりどうしたんですか? わざわざ〝通唱石〟を使って話すなんて……』
『なに、この後を考えて少し試してみただけだ。聞こえているなら、最初にひとつだけ伝えておく。いいか、俺がいいと言うまで――決してあの女に仕掛けるな』
『? 攻撃するな、ということでしょうか? わ、わかりました……』
『うむ、まずは他の奴らの出方をみる。全員の【神器】も把握しておきたい。せいぜい『監督官』の餌になってもらおう』
『……その言い方は非道徳ですよ、ラクーン……』
――俺たちが頭の中でそんな会話をしている内にも、ついにヴァレンタへ追いつく者の姿があった。
「お、トップはお前か、騎兵隊員!」
「僭越ながら、一番槍は騎兵最大の名誉ですので。愛馬がいないのが残念ですが――【騎兵槍使いの勇者】アイリスタ・キャドバリー、突貫する!」
アイリスタと名乗った騎兵の女は、金色の光と共に己が【神器】を呼び寄せる。それは――自分の身長の倍以上はあろうかという、長大な長さの〝騎兵槍〟。その全長は10フィート近くもあり、盾と見紛う巨大な護拳から伸びる柄と穂先の形状は、さながら塔を連想させる。
大きく、重く、斬撃という言葉をかなぐり捨てて〝刺突〟にのみ特化したその武器は、アルニトで戦った肥えた化物の鎧すら穿てるだろう――そう思わせられる。
「心意気や良し! 〝神技〟の使用も許可する! 本気でこい!」
「では遠慮なく――――〝神技〟! 〝大地這う雷貫徹〟ッ!」
騎兵槍の握りをがっちりと脇に固定し、その切っ先でヴァレンタを捉える。そして――突撃。
彼女の走る速度が急上昇し、電流を得物にまとわせながら、家屋の屋根上を猛然と直進していく。その光景はまさしく地を這う稲妻だ。
「いい突破力だ、だが――工夫が足りんな」
しかしヴァレンタは苦もなく刺突を回避し、神器で僅かに騎兵槍の軌道を変える。するとアイリスタの身体はバランスを崩し、進行方向に対しての制動力を失う。オマケに接近してきたヴァレンタに足をかけられ――
「な――――うわあっ!」
――完全に横転。そのまま転がりながら、家屋の煙突へと突っ込んだ。
レンガ作りの煙突がガラガラと音を立てて崩れ、巻き上げられた煙と共に沈黙。ここでアイリスタは脱落する。
「街への被害も意識しろと言わなかったか? 修繕費は『ラオグラフィア』につけておけ」
それだけ言い残し、再び走り始めるヴァレンタ。理不尽極まりない言い草だが、修繕費用を請求しないだけマシ……なのかもしれない。というか世界機関の『監督官』が住民への迷惑を鑑みなくても大丈夫なのだろうか。
「さあ、次はどいつだ!?」
「――では、某が行くでござる」
次にヴァレンタに追いついたのは、全身黒装束の者。男か女か性別は不明だが、言葉のニュアンスからサツキと同じ極東生まれと思われる。
「へえ、お前は〝忍〟か。『フソウ』忍者を見るのは初めてだな」
「お初にお目にかかる。某はカマノスケ・モリナガ、『火輪の里』の忍にして【鎖鎌使いの勇者】でござるよ。お見知りおきを」
「おいおい、忍者が名乗って大丈夫なのか? お前らは隠忍自重が基本なんだろ?」
「はっはっは、それは些か古い常識にござるな。今や派手な忍が世界的流行でござるよ。それに心配無用、何故なら――御身は既に、某の術中なれば」
――次の瞬間、ヴァレンタの周囲にどこからともなく〝鎖の渦〟が出現する。まるで竜巻のように彼女を取り囲んだ鎖は、瞬く間に逃げ場を封じてしまった。
「〝神技〟……〝鎖渦牢〟。この鎖に囚われたが最後、決して出られぬと思うがよい」
そう語るカマノスケの手にあるのは、鎖に繋がれた短い鎌。鎖は伸縮自在なのか、渦になっている分も含めると長さの想像がつかない。黒い模様が描かれた鎌の刃は死神のそれを彷彿とさせ、容易く獲物の首を落とせてしまえそうだ。
「では――御免!」
鎌側の鎖を回転させ、遠心力に任せて振るうように投擲するカマノスケ。それは鎖の渦に囚われていたヴァレンタを、渦ごと斬り裂いたかに見えたが――なんと、渦の中に彼女の姿はなかった。
「!? な、なんと……!?」
「これがお前の忍法なのか? 拍子抜けだぞ」
消えたはずのヴァレンタの声、それは上から聞こえた。その直後、上空から降ってきたヴァレンタの手がカマノスケの顔を掴み、そのまま屋根へと叩きつけた。
「二次元的な動きを阻害するのはいいが、アレじゃ上がガラ空きだ。次からは三次元的な檻を作るんだな」
「む……無念でござる……ぐふぅ」
陥没した屋根の上で意識を失うカマノスケ。これで奴も脱落。
残るはサツキとクリード、俺とリリー、それから――
「ムフー! ムフー!」
遅れを取っていた鈍足の巨漢が、猛牛のように息を荒げながら突っ込んでいく。
肥満体の彼は鎧を一切身に着けず、上半身はほぼ裸でオーバーオールのみを着用している。そんな大男が全身汗だくになりながら突撃する様は、色々な意味で圧巻だ。
「ムフー! 【破城槌使いの勇者】、チャド・マウナロア・ハワイアンホースト! お願いしまぁす!」
黒い模様が描かれ、2つの取っ手が付いた巨大な円柱状の【神器】。それを手に、ドスドスドスと重たい足音を奏でるチャドという巨漢。
他の全員が戦闘経験ありという中で、彼だけは唯一そういう気配がない。戦いに関してはリリーと同じく、基本的には素人だろう。格好からして、おそらくは鉱夫の類だったのではないか。
「ムフー! ムフー! 〝神技〟! 〝城門破り〟!」
ヴァレンタに突撃したチャドは、一心不乱に神器を突き込む。
――彼が〝突いた〟瞬間、その威力と速度によってドンッ!という衝撃波が巻き起こり、円状に広がった空気の圧力が足元の屋根を破断する。
「おおっと、コイツはヤバい!」
チャドの攻撃を見たヴァレンタは、流石に驚きを口走る。
戦いは知らずとも、その怪力は本物。攻城兵器は俺の専門ではないが、あの神器というのは城門を正面から叩き壊すための物だったはず。通常は何人もの兵士を動員して扱うような超々大重量な質量兵器、それを1人で振るっているというだけで、【神器使い】として見ても桁外れな腕力なのは確かなのだ。
そんなチャドの攻撃に対し、なんとヴァレンタは神器の切っ先を神器目掛けて突き込む。まるで大木を小枝で突くような所業に俺は目を疑うが――
「ム――ムフゥゥゥゥゥ!?」
途端、チャドの神器は軌道を下へと変え、足元の屋根をぶち破った。
――信じられん。あの女、あれだけの力を受け流しだけで方向転換させてしまった。威力を相殺するのではく、ただバランスを崩す。あの神器の前には、どんな力も無意味だというのか。いや、それともヴァレンタ自身の――
「ム、ムフゥ……ハウアッ!?」
屋根をぶち破って家屋の中に落下したチャド。どうやら、運よく中は空き家だったようだ。
砂煙の中で尻もちをついてグルグルと目を回す彼だったが、すぐ目の前にヴァレンタの顔があることに気付くと、気恥ずかしそうに顔を赤く染めて、パタパタと両手を振る。
「ア、アワワ……近すぎる……!」
「とう」
そんなチャドの頭に、ヴァレンタは手刀を入れる。
「アウチっ」
「お前の負けだ、チャド。だが戦士相手に思い切った踏み込みができたのはよかった。もっと精進することだ」
「イ……イエス、マム……」
ヴァレンタも、彼に戦闘経験がないと気付いていたらしい。心なしかアイリスタやカマノスケよりも接し方が優しい気もする。
それに対して残念そうに、しかしやっぱり恥ずかしそうに両手の人差し指をチョンチョンと合わせるチャド。……もしかしたら、彼はあまり女性に慣れていないのかもしれない。
……こうして偵察に専念していても、ヴァレンタを攻撃する切り口はまるで見えてこない。
このままだと、俺とリリーが取る手段は1つだけだ。
まだサツキとクリードが残っているが――さて、彼らはどう攻めるだろうか?
おまけ設定解説
【騎兵槍】の神器性能
攻撃型/ランク〈B〉
種類:長槍
全長:3m
重量:4kg
神 格: B
攻撃力: A
攻撃範囲:B+
攻撃速度: D
生存率: C
アイリスタの〈加護〉:『騎士の乗馬』
任意発動型。馬に乗っている間、特定のステータス(筋力・体力・精神力・敏捷性・正気度)が向上する。
アイリスタの〈神技〉:『大地這う雷貫徹』
下馬時に使われる技。槍に電流をまとい、突進する。技の使用中、直進運動のみ敏捷性が大幅に向上する。
ランスとは騎兵槍の総称であり、3m以上の長い柄を備えた槍である。
その圧倒的な長さは馬上からの攻撃に最適化させるためのもの。
基本的に馬とセットで扱われる武器で、馬の突進と鋭利な先端部による刺突は『ランスチャージ』と呼ばれ、その破壊力から戦場の華とされていた。
そんな馬上からの刺突が基本的な攻撃方法であるが、熟練者ともなればある程度は白兵戦も行える。
引用元『武器図書館』様




