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〈39#サムライVS監督官〉


 クリードは完全にキレた(・・・)表情で、右手を前に突き出す。


「――〝神器顕現(じんきけんげん)〟ッ!」


 彼の手に金色の光が握られ、それは〝長剣〟へと形を変えた。


「クソ女が……この【バスタードソード使いの勇者】をコケにしたことを、たらふく後悔しやがれッ!」


 クリードが握るのは、長さ4フィート(130cm)前後の直剣。長めの刃渡りに対して、やや短めの(グリップ)を持つ。だが両手で握るには十分で、刀身が厚すぎないことからも、斬る・突く・払う・守る、どれも両手・片手問わず容易く行えるだろう。


「ふむ、〝バスタードソード〟……たしかランク〈B〉の〈均衡型(バランス)〉だったか。良い得物を持っている」

「今更褒めてもおせーぞコラァッ!」


 刀身に黒い模様が描かれた神器(バスタードソード)を大きく振り被り、ヴァレンタへと斬りかかるクリード。その踏み込みは【神器使い】の名に恥じぬ速さで、とても長剣を持っているとは思えない。構えや動きからしても、彼が相応の戦闘経験者であるのは疑う余地なしだ。

 だが――


「……〝神器顕現(じんきけんげん)〟」


 今度は、ヴァレンタの左手が金色に光る。それは細く、短く、まるでレイピアを切り詰めたような形状――所謂〝ダガー〟と呼ばれる物に変化した。黒い模様が描かれたその刃渡りは、俺の神器(ダークナイフ)より少し長いくらいだろうか。

 ヴァレンタは神器(パリィングダガー)を持つが、特に構えることもなく脱力したままだ。


「オラアアアアアアアアアアッ!!!」


 神器(バスタードソード)の強烈な振り下ろし。誰の目にもハッキリとわかる痛烈無比な斬撃は、ヴァレンタの頭目掛けて一直線に振り下ろされるが――

 彼女の目が間合いを見切った瞬間、神器(パリィングダガー)の刃が〝変形〟する。刀身が前後に開いて扇状に展開し、瞬時に3本の刃へとその身を変えた。

 そして神器(バスタードソード)の刃が当たる瞬間、目にも止まらぬ速さで神器(パリィングダガー)神器(バスタードソード)へと突き入れ――そのまま受け流すように、軽やかに振り払った。


「う――お――っ!?」


 当事者であるクリードには、なにが起きたのか理解できなかっただろう。〝当たった〟と思った瞬間には視界からはヴァレンタが姿を消し、自分の動きに倍以上の体重移動が加算されたのだ。振り下ろした一太刀は勢いを殺すどころか数倍に速度を増し、地面へと直撃した。当然動作にブレーキなどかけられるはずもなく、バランスを崩した彼の身体は完全に無防備となる。


「そお――っれ!」


 クリードがバランスを崩すのとほぼ同じタイミングで、ヴァレンタが宙で身体を捻る。そのまま右脚を上げ――クリードの後頭部へ、回し蹴り(・・・・)をクリーンヒットさせた。


「んご……ッ!」


 見事なまでのカウンターを受けたクリードは吹っ飛ばされ、地面の上を2、3度バウンドした後に、意識を失った。横たわる彼の身体は尻を空へと突き上げたような姿勢となり、なんとも残念な具合になっている。

 ――シン、とした静けさが訓練場を席捲した。

 クリードは正真正銘の【神器使い】だ。彼の動きが常人のそれでないことは明らかだったし、彼自体も剣戟のいろは(・・・)は叩き込まれている感じだった。腕利き――と呼べるかは些か微妙ではあったが。

 だがそれでも一瞬で、たったの一瞬であまりにも簡単に打ち負かされた光景は、俺たちにとって十分過ぎる衝撃だった。


「さて……まだ私の実力を見たい奴はいるか?」


 言葉を失っていた俺たちに向けて、ヴァレンタは物足りなそうに言ってくる。

 数秒ほど、皆が皆の出方を伺っていたが――


「……拙者が参ろう」


 朱色の鎧を着た東洋風の男が、皆の前に出た。


「ふむ、お前は極東の生まれか。名をなんという?」

「……サツキ・オニワ。『フソウ』の(サムライ)なりて。お相手仕る」


 そう言って、東洋風の男は腰の剣――ああいう形はたしか〝刀〟といったか、それに手をかける。(シース)に収まっているが、おそらくアレが【神器(じんき)】だ。

 サツキ・オニワ……奇妙な名前だな。『フソウ』というのは国名だろうか? 東の国のことはあまり詳しくない。暗殺者ギルドにいた頃、東洋人は俺の目標(ターゲット)になったことがないからだ。

 名前も装備も特徴的な男だが、他に目を引くのが左腕の黒い籠手(ガントレット)。肘から先を全て覆う大きな物で、指先に至っては1本1本が革と鉄片で隠されている。まるで左腕だけ別人の物をくっつけたような違和感だ。

 見た目から、俺がこの男についてわかることはほとんどないが――1つだけハッキリと言えることがある。

 コイツは――――強者(つわもの)だ。クリードよりもずっと。


「私の師匠も極東の生まれでな。『フソウ』の民は戦慣れしていて、皆鋭い覇気を持つと聞いたことがあるが……お前のソレは、少し独特(・・)だな?」

「詮索無用。構えられよ」


 口数少なく、サツキは腰を落として重心を下げる。左手で(シース)を握って親指で僅かに抜き、右手は刀の(グリップ)に添える。得物を抜かないその構えは異様で、『レギウス王国』では似たモノを見たことがない。

 ――ジリジリと、サツキとヴァレンタが間合いを詰めていく。張り詰めた空気が、両者の間で圧縮されていく。

 そして互いが必殺の距離に足を踏み込んだ時――サツキが動いた。

 (シース)から、刃が抜き打たれる。その速さたるや目で追うのがやっとで、ゼロ距離で放たれた弓矢をも上回る速度だ。

 だが、ヴァレンタはそれすらも見切っていた。首を狙って横一閃に放たれた斬撃を、神器(パリィングダガー)を当てて僅かに軌道を逸らすことで回避して見せた。

 まさに刹那の攻防。両者は再び間合いを開く。


「まあまあの腕だな。お前の【神器(じんき)】は〝打刀〟か」

「左様、拙者は【打刀(カタナ)使いの勇者】。……我が抜刀術を避けるとは、(おん)見事」

「いやはや、師匠と同じ【神器(じんき)】か。私はなにかと極東に縁があるな。それで、お前の〝流派〟は?」

「〝散桜一刀流〟、免許皆伝」


 サツキは刀を構え直す。刀の刃渡りはおよそ2フィート(65cm)。ロングソードともレイピアとも似つかない反りのある薄い刃を持ち、さっきの攻撃動作から軽量であることがわかる。また、抜き放たれた刃には他の【神器(じんき)】同様に黒い模様が描かれており、彼の覇気と相まって禍々しさすら感じる。

 ヴァレンタに向けられた切っ先が、キラリと光を反射する。彼は刀を顔の横に構え、左足を前に出し、身体は相手に対して真横に向ける。

 それを見たヴァレンタも神器(パリィングダガー)を前に構え、初めて迎撃の姿勢を取った。


「――参る」


 今度は読み合いの間を置かず、一気に飛び込むサツキ。

 初手は刺突(・・)。刀の切っ先を一気に突き込む。だが扇状に開いた神器(パリィングダガー)はそれを容易く絡め取って受け流し、ヴァレンタは苦もなく回避して見せた。

 二手目、左腕の黒い籠手(ガントレット)による裏拳。刺突がいなされると予め予測していたサツキは、あえて剣戟ではなく意表を突く攻撃に出る。

 しかしそれもヴァレンタには通じない。軽々と上体を反らして回避。サツキは刀で神器(パリィングダガー)を弾き、上へと振り上げる。

 三手目――息もつかせぬ斬撃。それも一撃だけではない。上段、中段、下段と異なる場所へほぼ同時に三連撃を打ち込んだ。その速さは〈速度型(スピード)〉である俺の神器(ダークナイフ)に負けずとも劣らない。

 これは決まった(・・・・)――俺を含め、戦いを見ていた全員がそう思ったことだろう。

 だが――


「…………いい打ち込みだ、悪くないぞ?」


 ――ヴァレンタが、楽しそうにニコニコと笑う。

 驚くべきことに、彼女はあの連撃を完璧に防御していた。かすり傷すらついていない。

こうして第三者の視点で見ていたからこそ、全ての攻防を見て取れたが――もし俺があのサムライと正面から殺り合っていたら――無傷で勝てる確証はない。

 あのヴァレンタとかいう女は、本当に底が知れない。これまで武芸者を暗殺したことは幾度かあったが、あれほどの強者はいなかったと思う。

 そんなヴァレンタを前にして、ついにサツキは刀を引いた。


「……(おん)見事。拙者の負けだ」

「おやおや、もう少しやってもいいのだが?」

「いや、あれだけやって実力差を測れぬほど、拙者も愚鈍ではない。それに結局、腰の細剣(レイピア)を抜かせることは叶わなんだ。……ヴァレンタ殿が我らの上官となる旨、認めさせて頂く」


 今までと打って変わって、慇懃な態度でペコリと一礼するサツキ。どうやら、彼もヴァレンタの実力がよく理解できたらしい。


「いいだろう、他に文句のある奴はいるか?」

「「「…………」」」


 皆一様に無言で、首を横に振る。気絶したままのクリードを除いて。

無論、俺も文句はないのだが――


「……大丈夫か、リリー?」

「は……はわわ……マスターが、あ、あんなに強かったなんて……。私は、ついていけるのでしょうか……?」


 俺の隣で、リリーがカタカタと震えていた。どうやらサツキとヴァレンタのレベルの高さに愕然とした――というか、2人の攻防に目がついていかなかったのだろう。まあ仕方ない。

 ヴァレンタは気絶したままのクリードをゲシゲシと踏み、


「ホラ、いい加減起きろ。この童貞野郎!」

「んが……はっ!? お、俺はなにをして――!?」

「一言でまとめると、お前は負けた。大人しく言うことを聞いてもらうぞ」

「な、なにぃ!? 俺は負けてなんて――!」

「さて、では満場一致ということでさっそく訓練に移るぞ」


 ヴァレンタは華麗にスルーして話を進める。……あそこまでいくと、もうクリードが気の毒になってくるな。本人も滅茶苦茶悔しがってるし。


「我々に設けられた時間には限りがある。いついかなる時に魔族が現れるかわからんからな。だから訓練は常に実戦形式。多少の怪我は付き物と思え。今回は――そうだな、丁度いい機会だし全員の実力を見せてもらおう」


 ヴァレンタは再び皆を一望した。今の戦いにあてられて、この場にいるほぼ全員が闘気を剥き出しにしている。やる気全開だ。……リリーは例外だが。


「やることは今と一緒だ。私に一太刀入れてみせろ。それが達成できた者から、今日の訓練は終了とする。だが今度は楽じゃないぞ? 実戦を意識するため、次は機動力も加味する。つまり〝動き回りながら戦う〟ってことだ。訓練範囲(フィールド)王都(サントゥアリオ)全域。街への被害も、ちゃあんと意識しろ。話を理解できなかったマヌケはいるか? それじゃあ――――皆まとめてかかってこい!」


おまけ設定解説


打刀(ブレード)】の神器性能(スペック)


攻撃型(パワー)/ランク〈A〉

 種類:刀剣

 全長:80cm

 重量:1kg

 神 格:A+

 攻撃力: A 

攻撃範囲: C 

攻撃速度: B 

 生存率: C 


サツキの〈加護〉:『なし』

 特定の条件により〝加護(スキル)〟が得られない。

サツキの〈神技〉:『雪崩桜(アヴァランチ・チェリーブロッサム)

 打刀(ブレード)の周囲で桜が舞い散り、振り下ろされる一太刀が雪崩となって対象に降り注ぐ。桜には1枚1枚に全て打刀(ブレード)と同等の切れ(ダメージ)がある。


 極東の刀剣。刃を上に向けて腰に携行するタイプを打刀と呼び、下に向けて携行するタイプは太刀と呼ばれる。一般的に打刀の方が短く、携行しやすい。


 刀剣の中でも特に優れた斬れ味を発揮することで知られるが、使い手の技量に大きく左右されるため、西洋の刀剣と比べて長い修練期間を必要とする。


 使い手が未熟であれば本来の切れ味は発揮できず、また容易に折れてしまうが、熟練者の会心の一撃による破壊力は計り知れない。

引用元『武器図書館』様

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