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〈34#アルスターラント〉


「さて~まずはあなた様が【神器使い】である証を~見せてほしいのですよ~」


 コリンはそう言いながら、カウンターの下から幾つかの書類を取り出す。


 ――まあ当然、そうくるだろうな。

 俺は小さく頷くと右腕を上げ、


「――〝神器顕現(じんきけんげん)〟」


 唱える。すると金色の光が手の内に現れ、やがてそれは神器(ダークナイフ)として実体化した。


「おお~間違いありませんね~。ありがとうございますですよ~」


 ぱちぱちぱち、とコリンは小さく拍手し、さっそくインクの付いた羽ペンで書類に記載を始める。


「あなた様で登録20人目ですね~。キリ番ですよ~よかったですね~」

「20人目? 【神器使い】は全部で108人いるんだろう? えらく少ないな」

「いえ、それは〝『レギウス王国』に現れた【神器使い】の数が〟という意味なんです」


 俺の疑問にリリーが答えてくれる。


「【神器使い】は世界を救う存在――故に、選ばれし者は世界中に現れます。それでも『レギウス王国』は国内における【神器使い】の出現率が高い傾向にありますが、単純に〝国土の大きさに比例しているから〟ですとか、〝マナの大樹の存在やフォルミナ聖教の信徒が多いから〟など、色々な理由が唱えられています。『フォルミナ聖教会』の信徒である私としては、後者を推しますけれど」

「相変わらず信心深いですね~。ちなみに『地上(グラン・ワールド)』全土では~現在74人の【神器使い】が登録されているのですよ~」


 74人――ということは、まだ全ての【神器使い】が『ラオグラフィア』に登録されたワケではないのだな。それは見つけていないだけなのか、あるいはまだ現れていないのか……あの代理者(プロキシー)にでも聞かないと、真相などわからんか。

 そんな会話をしている内に、コリンは書類への記載を終える。驚くほどの手際の良さだ。


「こんなところですね~。【神器(じんき)】に関する詳しい記載は~『神器記録管理局(エジレック)』のオタク(ナード)共に丸投げするとして~。それでは~あなた様のために~『ラオグラフィア』が【神器使い】に求める役割と~そして『国家連合(ナショナル・ユニオン)』から与えられる特権を~ご紹介致しますよ~。耳の穴かっぽじって聞きやがれですよ~」


 ……俺が他人の品性など語れたものじゃないが、それでもこの口の悪さはどうにかならんのだろうか。悪意があるのか天然なのか、表情から読み取れないから余計に質が悪い。まあ、世界の命運を担う組織の人事担当ともなると、これくらい肝が据わってないと務まらないのかもしれんが……

 ともかく、俺は彼女が始める説明に耳を傾けることにした。


「よろしいですか~? まず『ラオグラフィア』及び『国家連合(ナショナル・ユニオン)』があなた様【神器使い】に求めるのは~『深淵(ジ・アビス)』より襲い来る魔族の撃退と~それによる世界の救済ですね~。ですから~世界各地の危険な戦場に~赴いて頂く必要がありますね~」

「……世界の救済に興味はないが、俺はリリーと共に戦うと決めた。危険など、とうに承知している」


 アルニトでの一件もあったのだ、今更だな。それに生きる意味もなく各地を放浪して、暗殺者ギルドの追手に追われ続けるよりも、彼女と一緒にいられる方がずっと良い。

 それに『国家連合(ナショナル・ユニオン)』に保護される身となれば、あのギルドマスターと言えど迂闊に手出しはできまい。幾らかは肩の荷が下りる。


「それで、特権というのは?」

「まず~あなた様には『国家連合(ナショナル・ユニオン)』加盟国のあらゆる免税と~国際移動の自由が認められるのですよ~。それから爵位で言えば公爵(デューク)~軍で言えば少将(メジャー・ジェネラル)と同等の地位を与えられますね~。他にも危険な戦いの見返りとして~衣食住に関わる保証とか~一族全体の裕福な暮らしを約束したりとか~とにかくベリーマッチョなVIPになれますね~。羨ましいですよ~」

「フン……地位や金なんてロクなモンじゃない。それに、俺には親兄弟もいないしな。リリーと一緒にいられるなら、他にはなにもいらん」

「ふぇ!? あ、あの、それは……!?」


 途端に顔を真っ赤に染め上げるリリー。俺は、なにかおかしなことを言っただろうか? リリーは俺に〝自分のために生きてほしい〟と言ったのだから、彼女と共に在るのは至極当然だと思うのだが。


「あら~お熱いですね~。でも~そういうのは余所でやってくださいね~。特権に関しては自動に付いてくるので~適当に行使しちゃってくださいね~。それじゃ認識票(クラス・タグ)を作るので~ココに個人情報を書いてくださいですよ~」


 そう言って、コリンは1枚の書類を俺の前に出す。俺の個人情報を記載するらしいが……そもそも俺には〝個人情報〟と呼べる類のモノはない。戸籍はおろか、本名や生年月日すら不明なのだ。当然、生まれた頃の記憶などあるワケもない。

 とりあえず羽ペンを手に取り、どうしたものかと考えていると、


「あ……ラ、ラクーンはご自身の誕生日などは……」


 なにかを察した表情で、リリーが聞いてくる。そういえば彼女は俺の身元――と言えるかは微妙だが、それを知っているんだったか。


「一応……決めてもらった(・・・・・・・)のはある。生まれた日なんてどうでもいいし、それでいいか。ただ……〝名前〟はな……」


 そう、名前だ。〝ラクーン〟というのは暗殺者ギルドで使っていた呼び名(コードネーム)に過ぎないし、髪の毛がアライグマ(ラクーン)に似ていたから付けられたモノだ。つまりは動物の名称なのである。それをそのまま書き込むのは問題だろうし、なにより俺には〝姓〟がない。

 ……ま、適当な偽名でいいか。暗殺者ギルドに属していた頃から、そんなのは幾つも持っていたし……

 ――と、俺が思った矢先。


「で……では……では……〝ラクーン・アルスターラント〟では如何でしょうか!?」


 ――――リリーの口から出たそんな言葉が、俺の思考を途絶させた。

 シン、と静まり返る室内。数秒間ほど、この場にいる者たちの動きが停止(フリーズ)する。


「あ……あの……ダメ、でしょうか……?」

「いや、ダメではないが……〝アルスターラント〟はリリーの姓だろう? それを――」

「い、いいんです! ラクーンは、私と共に歩むと決めてくださいました。で、ですから、その、これくらいのことはさせてください!」


 ……いいのか? いや、よくないと思うんだが。というかよくない。

 俺は暗殺者(アサシン)で、彼女は修道女(シスター)。今後、もし俺の過去の罪を国から言及されることがあった場合、俺に姓を分けるなんてしたら真っ先に関係を疑われてしまう。最悪無実の罪で共犯者に仕立て上げられるかもしれない。それは避けねば。


「気持ちはありがたいが、それはダメだ。何度も言うが俺は――」

「いいんです! 私は大丈夫ですから!」

「リリー、あのな――」

「大丈夫ですから!」


 ……これである。リリーは一度言い出すと、もうテコでも動かない。

 仕方ない……彼女の気持ちを無碍にするのも気が引けるし、もしもの時は俺がリリーを騙して利用したってことにしよう。

 やれやれ、と俺が折れる決心をすると、


「あ~あ~、なんていいましょうか~アレですね~なんというか~その~なんていいましょうか~う~ん~なんというか~まあなんていいましょうか~そのまあ~……もう1回言いますけど~そういうのは~余所でやれっつってんだろうがこの色ボケ共が、とエンペラーは厳しく注意しておきますよ~」


おまけ設定解説


神器戦略人事局(ブローパーズ)


 『神器戦略人事局(ブローパーズ)』は『ラオグラフィア』の事務機関であり、同時に統合参謀本部であるラオグラフィア評議会の戦略幕僚機関でもある。


〝ブローパーズ〟とはビューロー・オブ・ラオグラフィア・パーソナル(Bureau of Laographya Personnel)の略。〝Bureau of Laographya Personnel〟の綴りを短縮してBULAOPERS(ブローパーズ)となる。


 主に対魔族戦略・作戦の立案と人的資源の管理を受け持つ機関で、『ラオグラフィア』の中でも特に幅広い業務を受け持つことから選りすぐりの人員が集められている。

 戦略立案と人事の両方を1つの部門が担うというのは大変に珍しく、さらに『神器戦略人事局(ブローパーズ)』は兵站に関しても一部権限を持っているという、文字通りの戦略の要となる機関である。


 このような集権機関が出来た背景には、第2次~第3次の〈終末戦争(ラグナロク)〉において【神器使い】に代表されるような少ない人的資源を巡って部門同士が揉めるという事態が多く発生し、混乱を招いたことに由来する。特に刻一刻と変化する戦況に、戦略立案側が【神器使い】の正確な情報を把握しきれなかったことにも問題があった。


 そこでそれら機関を統合し、迅速な情報共有と意思決定を可能とすべく『神器戦略人事局(ブローパーズ)』が設立。当初は『ラオグラフィア統合参謀事務局』という名称になる予定であったが、これはラオグラフィア評議会の権威を侵害しかねないとして変更された。


 これらの理由から、『神器戦略人事局(ブローパーズ)』は〝究極のなんでも屋〟〝究極の裏方〟などと呼ばれることもある。また多忙で激務な部門であることでも知られる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読んでて思ったが久々に本物の勇者を見た気分で面白いです(  ̄ー ̄)ノ [一言] ただの人殺しの駒が人間になったか(#゜Д゜)y-~~
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