〈30#加護と神技〉
チャットの口から出たその単語を聞いて、俺は首を傾げる。
「〝神技〟……はわかるが、〝加護〟とはなんだ?」
「まあ順番に話すんで、ゆっくり聞いてほしいっス。〝加護〟と〝神技〟――この2つは言わば【神器使い】の――というより、所有者固有の能力のことを指すっス。基本的に所有者が変わっても【神器】の性能は変化しないんスけど、〝加護〟と〝神技〟は違いまス。ある意味、この2つこそが真の恩恵とも言えるんスよ」
「理解が難しいかもしれませんが……【神器】はただの強力な兵器ではありません。所有者の特性によってその在り方を変え、【神器使い】が最も能力を発揮できるように自らを調整するのです」
リリーの補足を聞いて、なるほどと少し納得する。代理者が言っていたことと合致するからだ。
調整――確かに、神器は俺が扱いやすい〝神技〟を獲得した。以前の所有者がどういう能力を得ていたのかは定かでないが、俺と同じ《縮地》を使えたとは到底思えない。ただ純粋に戦うだけなら、もっと強力な技があるはずだからだ。俺は俺自身が――暗殺者として効率的に動ける技を要求したに過ぎない。
――ということは、その〝加護〟とやらも似たような特性があるのだろうか?
そう思っているとチャットは言葉を続け、
「まず〝加護〟について説明しまスね。これは【神器使い】の特技や特性を、超常レベルにまで引き上げてくれるんス。だから50年前の所有者とおにーさんでは同じ【ダークナイフ使いの勇者】でも、異なる能力を持つことになるんスよ」
「例えば、【モーニングスター使いの勇者】である私の〝加護〟は『幸運の祝福』と言います。日頃から神々に祈りを捧げているから獲得した能力……なんでしょうか。常時発動タイプで、とても高い水準で幸運《POW》が保たれます。アルニトにいた時なんて、街のフォルミナ教徒の方がウェルシュケーキを差し入れしてくださったんですよ! 私、すっごく好物で――ハッ!? ち、違います違います! 別に神々の恩恵を悪用しているつもりはなくて――!」
気が付けばシラ~っとした目で見ていた俺たち2人に、バタバタと両手を振って弁明するリリー。敬虔な修道女が神の恩恵を都合よく利用して良いのだろうか? いや、常時発動だから本人の意思に関係なく幸運が舞い込んでしまうのかもしれんが……
ともあれ、〝ぐすん〟と涙ぐむリリーに俺は話題を逸らさざるを得なかった。
「……とにかく、〝加護〟のことはわかった。それで俺の場合は、暗殺に絡む能力でも強化されるのか?」
「それはまだわからないっス。〝加護〟は【神器使い】の数だけ種類があって、覚醒するタイミングもまちまちでス。それに、1人につき複数の〝加護〟を獲得することも多いんスよ。基本的には【神器】が直接精神に刷り込んでくれるんで、リリー様みたいに最初から自覚してる人もいれば、戦いの最中で唐突に自覚する人もいまス。おにーさんにまだ自覚がないってことは、これから覚醒するんでしょうね」
「そう、か。まあ暗殺者の特性を生かすモノであるのは、間違いないだろうな。で、〝神技〟ってのは――」
「…………フ、フフフ……フヘヘヘ……!」
俺が言いかけるや、不穏な笑い声を上げるチャット。……正直、この後彼女が何て言うか手に取るようにわかってしまう。
「YO・KU・ZO! 聞いてくれましたぁパート2ッッッ!!! では、説明しよう! 〝神技〟とは――――ズバリ、浪漫溢れる必殺技のことだああぁッ!!!」
狭苦しい馬車の中で颯爽と立ち上がり、明後日の方向に人差し指を掲げるチャット。ああ……言いたくて仕方なかったんだな。
「必殺技っスよ、必殺技! 一撃必殺! 究極奥義! 起死回生の一発逆転! こんなにロマン溢れる言葉が、他に存在しますか!? いや、決してない! 断じてない!」
「うん……そうだな……凄いな……」
チャットの迫力と弁舌に押され、もう止める気力さえ湧いてこない。俺は諦めて、大人しく彼女の話を聞くことにした。
「そう、〝神技〟とは【神器使い】の切り札にして、魑魅魍魎を駆逐する神々の怒り! 〝魔族に対抗し得る力〟である【神器】を、〝魔族を捻じ伏せる技〟へと昇華させる無双の絶技! つまり力こそパワー! 技こそヴィクトリー! 力を超えた純粋な強さ、それが〝神技〟だぁッ!!!」
「すまん、俺にもわかる言葉で話してくれるか? それから無駄な誇張はいらん」
「リリー、馬車が揺れるから落ち着いて話して。とにかく座りましょう?」
「えっ、あ、ごめんなさいっス……」
我に返り、〝しゅん〟と腰掛けるチャット。俺は片手に顎を乗せ、
「簡潔でまとめると、〝神技〟ってのは【神器使い】だけが使える特殊な技なんだな?」
「ハイ……ソノトオリデス……。ぶっちゃけ、おにーさんは高等魔族を〝神技〟で倒したんスからよくわかってると思いますけど」
「私も〝神技〟は使えます。《聖なる重鉄球》と言って、鉄球の大きさ・重さを自由に変えられるんです。鎖も伸縮するようになって、遠くからでも攻撃できるようになるんですよ」
「確かリリーの神器は多対一に向いた〈防御型〉だったか。なるほど、変幻自在な大重量の鉄塊を振り回して、間合い外から群れを薙ぎ倒す――使い手の体格の無視、武器の変化、どれを見ても神の技と呼ぶ他ないな」
そういえばアルニトでリリーを助けに入る直前、巨大な地響きが街を揺らし、空まで届く砂煙が中央交差点で巻き上がった。アレがリリーの〝神技〟だとしたら、その威力は計り知れない。とても常人の成せる芸当ではない。故に、だからこそ〝神技〟――これは上手い表現をしたものだ。
「俺の【神器】は強襲向きの〈速度型〉だから、一気に間合いを詰める《縮地》を会得できたのかもしれん。こっちはリリーみたいに群れを相手取ることはできないが……どっちにしても超常現象の類だな」
「〝神々を信ずる者は永久の命をもち、神々に従わぬ者は命を見ず、却って神々の怒りその上に留まるなり〟――これが人間に与えられた奇跡の力であればこそ、我々は魔族に屈してはなりません。神々に感謝と祈りを捧げましょう」
目を瞑り、胸の前で両手を組むリリー。
……俺には信仰も、神に祈りを捧げる気持ちもよくわからない。祈ったって飯にはありつけないし、命が助かるワケじゃない。人を殺して生き永らえ、最期の最期に都合よく神へ祈る奴をあの世に送る。これまでの俺の人生はそういうものだった。だから神など信じたことはなかった。
――けど、【神器】を手にしてから、リリーと会ってから、少しだけ考えが変わった。【神器】のお陰で命を拾って、その神力を己が身で体感したのも大きい。今なら神の存在を疑わない。
でもそれ以上に――生きる希望が持てた気がするのだ。俺の人生を明るく照らして、導いてくれる人が現れた気がするのだ。
そういう意味では、俺が信じてるのは神なんかじゃなくて――
「――お、やっと見えましたよ【勇者】様方! 長旅も終わりでさぁ!」
その時、馬車を操る御者が大きな声を上げた。真っ先にチャットがその声に釣られ、馬車前方の穴から顔を出す。遅れて、リリーも顔を出した。
「ようやくっスか!? ――おお、見えてきたっスよぉ! 愛しの王都が!」
「ええ、これで家に帰れますね。ほら、ラクーンも見てください」
リリーに誘われ、俺も馬車の行く先へと目を向ける。
長い長い街道の先。そこにあるのは――途方もない広さを誇る、白い大都市。地上に描かれた六芒星の中に数え切れぬほどの建物が並び、中央には荘厳な王城がそびえ立つ。
だがそれ以上に目を引くのが――城にぴったりと沿うように直立し、天空まで伸びる〝巨大な樹〟。それはさながら柱のように雲の上まで伸び、先端はまるで確認できない。
そんな光景は幻想的で、白レンガの森とすら形容できるだろう。
「……見えますか、ラクーン。ここが『地上』原初の聖域。『天界』の名を継ぐ『レギウス王国』が誇る、不落にして明星の場所。ようこそ――〝王都サントゥアリオ〟へ」
オマケ設定解説
〈加護〉
【神器使い】の特性を超常現象レベルにまで引き上げ、異能へと昇華させる能力。
〝神技〟と同じく、【神器】が同じでも歴代所有者によって獲得能力が異なる。
記録されているだけでも実に多種多様な〝加護〟があり、1つとして同じ能力・名称のモノはない。
大まかに常時発動型と任意発動型の2種類があり、〝神技〟と違って戦闘時以外にも有用な能力も多い。
また1人の【神器使い】が複数の〝加護〟を覚えるのも〝神技〟と共通しているが、こちらは【神器】の形や種類とは特に関係性がなく、あくまで所有者の特性が優先されるようだ。
〝加護〟の例
『幸運の祝福』:常時発動型。かなり高い水準で幸運《POW》が保たれる。また、この幸運《POW》には精神力・正気度の高さも含まれる。
『毒麦飲みの抗体』:常時発動型。あらゆる状態異常や毒に類するスリップダメージの完全無効化。
『肉体極化』:任意発動型。発動している間は筋力《STR》が大幅に向上。




