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〈26#決着〉


 飛び散る音(・・・・・)をかき鳴らしながら、左足首から青色の(ブルーブラッド)が噴き出た。ついさっき、俺が狙った装甲と装甲の隙間からだ。


『な……なん……なんじゃこりゃぁああッ!?』


 自身の身になにが起こったのか理解できず、絶叫するファット・アーマー。そんな奴に対し、


「……どうだ、やってやったぞ(・・・・・・・)。醜い化物め」


 背後から、俺はそう言い放ってやった。

 ファット・アーマーは血相を変えてこちらに振り向く。


『!? て、手前(テメエ)……どうしてそこに……! どうやって避けやがったぁ!?』

「別に……たいしたことはしちゃいない。俺が【神器(じんき)】に求めて、【神器(じんき)】がそれに応えてくれただけだ」


 そう……夢の中で代理者(プロキシー)言ったように、【神器(じんき)】は力を――逆転の可能性を恵み与えてくれた。

 正直に言えば、夢の内容を鵜呑みにするのかはギリギリの判断だった。アレに死にかけた俺の夢想や妄想の類が少しでも混じっていたならば、逆転など到底不可能になるのだから。

 最後の最後に【神器(じんき)】を信じ、身を任せたが――――ああ、そうだ、〝神〟はいた。


『こ、このクソガキャ……! ぶっ殺して――ぐぁ!』

「無駄だ。腱と靭帯を完全に切断した。そんな超重量の鎧を着て、マトモに動けるワケがない。今のお前は、ただ硬いだけの的(・・・・・・)だ」


 ――趨勢は決した。もう奴に勝ち目はない。それでも、ファット・アーマーは不敵な笑みを消そうとはしない。


『……へっ、だからどうしたぁ? どうせ手前(テメエ)の武器じゃ、俺の鎧は貫けねえんだろうがよぉ』

「ああ……そうだな、確かに貫けない。だが、もう貫く必要もない(・・・・・・・)


 俺は右手に持った神器(ダークナイフ)を構え直し、


「もう一度だけ見せてやる。ヒット&ランの――いや、一撃離脱(ヒット&アウェイ)の極致。暗殺者(アサシン)が求めし神の技。……〝神技(しんぎ)〟――――《縮地(ゼロ・シフト)》」


 もう一度、代理者(プロキシー)が教えてくれた技を使う。常人には決して不可能な、万物の法則を無視する神の奇跡。

 ――それは幻影にすら見えただろう。静止状態の、全く前動作のなかった俺の身体。それが、時間差なし(ゼロタイムラグ)でファット・アーマーの眼前まで移動したのだ。

 ――――〝瞬間移動〟。この現象を説明するのに、これ以上的確な言葉もない。


『んな――ッ!?』

「……終わりだ」


 ここは奴の間合いの中の、さらに内側。意表を突いた刹那の出来事に、防ぐ余裕などあるはずもない。

 俺は神器(ダークナイフ)を握った右手を突き入れ、喉輪(ゴージット・プレート)(ヘルメット)の間の隙間へと滑り込ませる。肉眼では生身など見えず、極限の接近という奇襲だからこそ狙える場所。

 ――右手に伝わる、刃がしっかりと刺さる感触。それを感じた俺は、振り切るように神器(ダークナイフ)を引き抜いた。


 ――――鎧の隙間から、青い血が噴き出る。それは盛大に、まるで花弁が開くかの如く。


『ギ――――ギャアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』


 ファット・アーマーの絶叫が、夜空に木霊する。

 俺は再び《縮地(ゼロ・シフト)》を使って距離を離し、ファット・アーマーは両手で首元を抑える。


『血、血ィ! 血が止まらねえ! 俺様の血がアアアアアッ!』


 ファット・アーマーは必至で出血を止めようとするが、分厚い鎧のせいで生身に手が届かず、無慈悲なまでの血飛沫が続く。これまで身を守ってきた大鎧が止血を阻むなど、とんだ皮肉だ。

 石畳には真っ青な血だまりができ、奴の鎧も左半身が青に染め上げられる。これだけの血が流れれば、失血死は目前だろう。

 そんな奴の様子を、俺は間合いの外から見つめていた。


『ち……ち……チクショウ……! ありえねぇだろォ……この俺様が……この大鎧が負けるなんざ……!』

「……お前はさぞや名のある武人だろう。ワザと鎧に〝隙〟を作って俺を誘い込んだのは流石だった。弱点を予め用意しておけば相手の動きは直線的となり、想定も対処もしやすい。だが……防護力に頼り過ぎたな。いくら頑強な鎧でも、防げない攻撃があるってことだ」

『ク、クソッタレ……! このクソガキがァ……!』


 ファット・アーマーは左足を引きずって向かってくるが、すぐに地面へと倒れる。だがそれでも太い両腕を動かして、這いずるように動く。


『俺様が……俺様はオーク族最強の……【勇者】なんて……喰ってやるぞ……喰ってや……る…………喰って…………』


 佇む俺に大きな手を伸ばし、あと僅かで届く――そんな距離で、ファット・アーマーの腕は地面へと落ちた。


 ――北門前の広場に、静寂が戻る。

 ファット・アーマーは俺に向かって腕を伸ばしたままこと切れ、それきり動くことはなかった。今だ止めどなく溢れる青い血が小さな池を作り、奴の巨体がその中央に浮かぶ。


「……仕留めたぞ(・・・・・)、リリー……」


 そう呟いた俺は、ゆっくりと横を向く。視線の先にあるのは、青白い炎が灯る(デモンズ・ホール)

 神器(ダークナイフ)を持ち直すと、それを(デモンズ・ホール)に向けて投擲。青白く燃える水晶(オーブ)に刃が突き刺さると(デモンズ・ホール)は転倒し――炎が鎮火、機能を停止した。


 ――――これで、終わった……戻ろう……


 彼女に会うんだ……会って、答えを――――


 俺は歩き出そうとするが、途端に意識が遠のく感覚を覚える。

 そして、そのまま地面へと倒れた。


おまけ設定解説


〈ファット・アーマー〉


 上等魔族/危険度:B+

 身長:274cm

 重量:731kg(大鎧重量含む)

  攻撃力: B ■■■■■

  防御力: S ■■■■■■■■■

 移動速度: D ■

 使用武器: 暴食者の金棒

 使用防具: 金剛閉殻立方晶石(ハイパー・ダイヤモンド)の大鎧

 特殊能力: 『オークの怪力』『狡猾なる隙』


 並外れた怪力と巨躯を持つオーク族出身の上等魔族。

 本来オークという種族は中等魔族だが、ファット・アーマーはその群を抜いた馬鹿力と際立った残虐性により上等魔族となり、〝名持ち(ネームド)〟として異名を名乗ることを許された。


 彼の着込む大鎧は金剛閉殻立方晶石(ハイパー・ダイヤモンド)という『深淵(ジ・アビス)』でも特に希少性の高い鉱石で作られており、その硬さは【神器】による攻撃を容易に弾くほど。反面重量が超大で、ファット・アーマーの巨体を包む大鎧の総重量は300kgを超える。


 動きこそ鈍重だが、大鎧の防護力と金棒による力任せの攻撃は特に集団戦で脅威となり、ひとたび戦場に出れば何千という死体の山を築く。その反面で一対一の戦いや、立体的な高低差が生まれる都市部での戦いは苦手としている。


 しかし彼自身も機動性の低さは自覚しており、それを補いつつ一対一の戦いでは大鎧に隙を作って相手を誘い込むというカウンター戦法も用いるなど、狡猾な面もある。

 オーク族の中では英雄的魔族だが、その下品な振る舞いから他の上等魔族からは嫌われている。


 また真名を〝ルビカンテ〟という。

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