〈24#代理者(プロキシー)〉
――――ここは、どこだ。
俺は目が覚めると、真っ暗な暗闇の中にいた。辺りは光源らしきモノが一切なく、漆黒の闇。音もなく風もなく、暖かさも冷たさもない。ただ、暗闇という虚無。
いや、そもそも目が覚めたと言ったが、俺は眠っていたのか? 俺は、あのファット・アーマーとかいう化物と戦っていたはずだ。覚えているのは、不意打ち受けた後に一撃を食らって――なのに、なぜこんな場所にいる?
……立っている感覚がない。足の裏に、地面を踏んでいる感触がない。しかし、横になって倒れているという感じもない。
まるで、意識だけが存在しているようだ。肉体が消え去ってしまったかのようだ。
俺は――――俺は、死んだのか? ここはあの世なのか?
「だとしたら、これが〝地獄〟ってヤツか。なるほど、俺にぴったりの場所だ」
俺が死んだら行く場所なんて、地獄に決まってる。真っ暗で、空っぽで、なにもない。まさに俺の人生そのもののようだ。まったくもって相応しい。
そうか――――俺は、死んだのか――――
『……いいえ、あなたは死んでない』
――真っ暗な虚無の空間に、突如そんな声が響いた。声は、俺の背後から聞こえたようだった。
「! 誰だ!?」
俺は急ぎ、後ろへと振り向く。するとそこには――1人の少女が立っていた。
『あなたは死んでない。いいえ、あなたはまだ死んではならない』
少女は全身に黒い模様が描かれ、純白の長髪は暗闇の中で輝いて見える。そして両目は固く閉じられているにも関わらず、その顔はしっかりと俺へと向いている。
漆黒の空間の中にあって、彼女の立ち姿は神々しくも儚く思えた。
「お前は……あの時の……」
『……ごめんなさい、あなたは選ばれたの。だから、まだ死なせてあげることはできない。あなたは、まだ戦わなくちゃならない』
少女は抑揚のない透き通った声で言う。
たしか、リリーたちは彼女を〝代理者〟と呼んでいた。【勇者】となる者に【神器】を授ける、謎の存在。彼女自身が神なのか、それとも別の何かなのか――
「……お前は何者だ。何故俺に【神器】を授けた? どうして俺を【神器使い】に選んだ? 俺は……【勇者】になど、なる資格はない」
『あなたは世界を救う者。〝神〟の名の下に、神羅万象の命運は委ねられた。ここで倒れることは許されない』
ダメだ。会話が成り立たない。まるで思念が一方通行で動いているかのようだ。
――いや、違うな。この少女の正体など俺にはどうでもいいのだ。俺が【神器使い】になった理由も、俺が世界の救世主とやらに選ばれた理由も、知ったことじゃない。こんな話をしても無意味だろう。
俺は深くため息を吐き、
「…………俺は負けた。あの化物に一撃もらって、身体は今頃ミンチになってるだろう。悪いが、お前の期待には沿えなかったらしい」
『いいえ、あなたは負けてない。まだ肉体は滅んでいない。まだ諦めてはならない』
「ハッ、人様に適当な道具だけ渡しておいて、よく言う。大体、状況はもう絶望的だ。あの全身鉄屑の化物相手じゃ刃が通らない。それなのに、どう戦えと?」
『大丈夫、決して絶望的なんかじゃない。あなたは――ただ、【神器】の使い方を知らないだけ』
「【神器】の使い方……だと?」
『あなたは【神器】を信じていない。【神器】はただの道具ではない。【神器】はただの武器ではない』
少女は――代理者は、俺の傍まで歩み寄ってくる。そして目の前まで来ると、右手を少しだけ掲げて手の平を見せた。
直後、彼女の手の上に見慣れた【神器】が出現する。黒い模様が刃に描かれた、一振りの短刀。
そう――俺の〝ダークナイフ〟だ。
『【神器】とあなたは一心同体。あなたが【神器】を信じれば、【神器】は必ず応えてくれる。あなたが【神器】に欲すれば、【神器】は必ず恵み与える』
彼女がそう言うと、手の上にあったダークナイフがフッと消える。
どこにいった――? そう思った刹那、俺は自らの手にダークナイフが握られていたことに気付いた。
俺は、黒い模様が描かれダークナイフの刃を見つめる。
『あなたは【神器】を知らないかもしれない。でも【神器】はあなたをよく知っている。あなたがあなたの生かし方を知っているならば――――【神器】に求めよ、さらば与えられん』
俺の、生かし方――? そんなの、1つしかないじゃないか。俺がこれまで、ずっとやってきたことじゃないか。
俺の生かし方――――俺の戦い方――――
この神器に俺が求めるのは――――
想像した、その直後――俺の手に握られたダークナイフが〝ドクン〟と脈打つ。
同時にダークナイフが強烈に光り輝き、漆黒の暗闇だった周囲が一気に白く照らされる。あまりの閃光に、俺はまともに目を開けていられない。
「う……お……!?」
『あなたは【神器】に求め、【神器】はそれに応えた。……使いなさい。あなたの〝神技〟は――――』
最後に、代理者は俺に向かってなにかを言いかけた。
その言葉を聞き終えた瞬間――俺の意識は再び消失した。
おまけ設定解説
〈代理者〉①
【神器使い】に選ばれた者が必ず出会う少女であり、彼らに【神器】を託す存在。
外観としては白い肌と白い髪を持ち、全身に黒い模様が描かれている。
なんの前触れもなく現れては「ごめんなさい、あなたは選ばれた」と語り、選ばれし者に【神器】を授ける。彼女に関してわかっているのはコレ以外になく、極めて謎の存在。
彼女も〈神魔大戦〉を生き残った神々だと唱える説もあれば、あくまで神々と人間とを繋ぐ〝代理者〟であると唱える説もある。
『フォルミナ聖教会』が後者の意見を推しているため、代理者という呼び名が一般に広まった。だが『フォルミナ聖教会』は彼女も神々と同じく神聖な存在だと説いている。




