〈12#【神器】①〉
「待て……話が急すぎる。そもそも、俺は今まで魔族なんて見たこともないんだぞ? いきなりそんな話をされて、簡単に信じられるか」
「ああ、そこは気にしないでいいっスよ。おにーさんが魔族を見たことないのは当たり前でス。だいたいウチやリリー様だって、まだ本物の魔族を見たことないでスし」
本や資料でならたくさん見ましたけど、と言い加えるチャット。
「…………ないのか? 1度も……」
ラクーンは私の方を見て、驚いたような呆れたような顔で尋ねる。もう表情で「は? お前ら本気で言ってる?」と聞いてるようなものだ。
「……はい、恥ずかしながら……」
ラクーンから顔を背けつつ、小さな声で答える私。
正直に言えば、私やチャットくらいの年齢で本物の魔族を見た者はほとんどいない。いるとすれば既に魔族の対処に当たっている【神器使い】か、あるいは50年前の〈第3次終末戦争〉の経験者――つまり高齢の者くらいだ。
だから別に、恥じるほどのことではないのだが――
「……もう寝る」
ベッドの上で横になり、こちらに背中を向けるラクーン。どうやら完全に聞く気を失ってしまったらしい。
それはまあ、魔族を説明してる本人たちが〝本物を見たことない〟なんて言ったら、一気に説得力なくしますよね……
「あーっ! 待って! 最後まで、最後まで話を聞いてください! ほら、まだ説明してないこととかありますから! た、例えばそう、あなたの持つ【神器】について!」
――ピクリ、とラクーンが反応する。そしてすぐにこちらへと振り返り、
「……わかるのか、この武器のことが」
「よぉ~~~~っくぞ! 聞いてくれましたぁ! おにーさんの【神器】のことは、このチャット・サンプソンがく・わ・し・く調べてきましたとも!」
私よりも先に、待ってましたと言わんばかりのチャットがずずいっとラクーンの顔に急接近する。よっぽど話したかったんだろうなぁ……
「……なーんて、今更ウチが見栄を張るまでもないんでしょうけどねぇ。おにーさんにはわかるはずっスよ。リリー様が、自分と同じ存在だってことが」
「……」
無言になるラクーン。実際、彼は初めて会った時にも気付いていた。
自分と同じ存在の者が、組織立って動いている――とすれば、なにかしらの情報を持っていて当然。彼だって理解しているのだろう。確かに、今更と言えば今更か。
私はラクーンを見据えて、
「……ラクーン、あなたに1つだけ伺います。その【神器】――いえ、その武器が使えるようになった時、誰かとお会いしましたか?」
「…………ああ、会った。全身に黒い紋様がある、白い髪の少女だ。俺の顔を見るなり、〝あなたは選ばれた〟などと言っていたが……」
――確証が得られた。私とチャットは顔を見合わせ、互いに頷く。
「では、【神器】のことについてなにか知っていることは?」
尋ねると、ラクーンは首を横に振る。これはまあ、予想はしていた。
「はあ、やっぱりそこから説明しなきゃなんスね……」
「ふふ、良いじゃありませんかチャット。あなただって、別に嫌ではないでしょう?」
「そりゃ、そうでスけど……」
チャットはちょっと照れた様子で肯定する。彼女ほどの好事家となれば、【神器】に関しては何度説明しても飽きないはずだ。
「うぉっほん! それでは、おにーさんが一番気になってるであろう【神器】について一から説明してあげるっス。耳の穴かっぽじって聞くっスよ!」
「いいから早く話せ。俺は一体、何に巻き込まれたんだ」
「むぐっ……、聞く者の態度とは思えませんが、いいでしょう、大目に見まス」
チャットは機嫌が良いのか、それとも早く話したくて仕方ないのか、ラクーンの言葉を流し気味に話し始める。
おまけ設定解説
〈第1次終末戦争〉
聖歴1347年に勃発した、人間と魔族における史上初の全面戦争。
この戦いによって死亡した人間は8000万人から9000万人にも上ると言われており、世界総人口の約1/5が犠牲になった。これは第2次と第3次の〈終末戦争〉による死者数を合わせた数字より大きい。
魔族の力に為す術もなかった人類は存亡の危機に瀕したが、108名の【神器使い】の登場によって優勢は逆転。魔族を再び『深淵』へ封印することに成功した。
この時の【神器使い】の活躍は数多くの英雄譚を生み出し、その中でも〝終末の魔王〟を倒した〝七大勇者〟の物語は特に有名な伝説として後世に語り継がれている。
〈第1次終末戦争〉における108名の【神器使い】は全員が魔族との戦いで命を落としたとされている。




