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59 回想 高校生編 中編

入学式で色々やらかしてから(永遠が。)1年とちょっと過ぎた。


本当に去年から今日にかけて酷いものだった。

女子からは蔑まれ、男子から疎まれ、先生からも風紀違反だとかで何度懲罰を食らったことか...思い出すだけで涙が...


....人が感傷に浸っていると言うのにこの畜生は何をしているんだ...


熱にうなされている身体を動かし、俺の身体を恍惚な表情で一心不乱に嘗め回しているそいつをむんずと掴み「そおいっ!!」とベッドの外に投げ捨てる。


動物虐待で訴えられそうな行為だがくーにとっては何のその。


五輪にも出れるほどの体操選手すら真っ青になりそうな自分の身長より五倍以上ある高さから落ちている変態兎はYの字を描きながら着地した。


「くー...お前本当にウサギか?実は他の生物なんじゃ...?」


身動きが難しい身体を横に向けくーを観察していると何処からともなくサングラスとシガレットを取り出し咥え始め、タブレットを操作している。


「......」


最早見慣れた光景ではあるが未だ驚きを禁じ得ない。


「くぴくぴ。」


声になってない音を喉から出しながらタブレットを差し出し、画面をポンポンと足で指し示す。


「行儀悪いぞ、くー。....今度は何を...」


言うことを聞かない身体で這いずりタブレットを覗き込むと『ご主人が風邪で死にそうっす!!彼女さん方来てほしいっす!!』と書かれていた。


「.....おい...何してくれてんだ、ウサ公...」


しかもこれ俺のアカウントのSNSじゃねえかっ!!


何とか削除しようと試みているとポンッと音がなり書き込みが追加され、それを見るなり絶望感に苛まれた。


『おにいちゃーん、二人ともそっちに行ったっぽいからよろしく。』


なん...だと?勘弁してくれ。

あいつらがこっちに来たら余計熱が上がるじゃないか。


楓と永遠の仲は最悪だ。

事あるごとに喧嘩しては俺を巻き込んでくる。


ガンガンと痛む頭に手を当てながらタブレットの画面を見ていると更に文章が送られてきた。


『御姉様が生徒指導の先生に捕まったみたい。楓さんだけ行くっぽいよ。』


それは吉報ではあるが出来るなら楓も来てほしくはない。

毎日告白され続けるのも心労の要因だろうからな。


「くぴくぴ」


「腹へったのか?...ほら....いやいや、人参食えよ...お前ポテチ好きな...」


両前足、後ろ足でキャルビーのポテトチップスの袋を開け、ポテチに体毛がつかないようにピンセットでつまみながら動画チューブを見ながらにやけている。


先程までのSNSの件で目が冴えてしまいベッドの脇に移動してきたくーと猫動画を見て癒されているとピンポーンとインターホンがなった。


ってか兎が猫の動画見てにやけてるとかどうなの?


「おーい!いーおーりーくーん!!起きてるー?入って良いー?」


「良くないなあ...」


俺は聞こえないふりをして布団に潜り込んだ。

確か鍵は衣音が掛けた...ガチャって音がしたんだけど。

え?衣音ったら鍵かけて無いじゃないの。お兄ちゃんが危険な目にあったらどうすんの?

最近妹からの扱いが雑な気がする。


「お邪魔しまーす。...部屋だよね?行ってみよ。」


入ってきちゃった。不法侵入だと思うんすけど。


階段を登ってくる足音が次第に大きくなり、部屋の前で止まった。


こんこんと扉をノックした楓が「入るよ?」と一言告げ直ぐ様扉を開け放つ。


俺は寝たふりを敢行するべく目を瞑り壁側に寝返りを打っていると。


「....寝てるのかな...伊織くーん?」


起こさないように静かに話しかけてきた。

ちょっと心苦しい...永遠と違って常識はずれな事はしないやつだ。


入学以来1日も欠かさず告白とアプローチをしてくること以外は...だが。


心配して早退までして来てくれたのに帰って欲しいだなんて俺はなんて屑なんだ...学校でそう言われても仕方ない気もする。

折角来てくれた楓に今更ながら申し訳なくなってきたので、目を開けようとしたらぎしっとベッドがしなる。


目を閉じているので分からないが恐らくベッドに座ったのだろう。


....何故?直ぐそこに椅子があるんですけど。


「ねえねえ、くー。何見てるの?」


「ぶうぷう。」


「ねこちゃんの動画か~。可愛いね~...ええ?何でそんなの見てるの...捕食されたい願望でもあるの?」


それさっき俺も思った。


「ぶう。」


「ウケる。」


実のところくーと楓はとても仲が良い。

よく一緒に遊んでいるのを見かけるぐらいだ。


仲良く動画を二人してみているらしいのを耳で感じ取っていると眠気が襲ってきた。

そのまま本当に寝てしまおうかと思っていると不意に再度ベッドがぎしっと先程よりも大きくしなる。


だがベッドから降りたわけでは無さそうでそれどころか沈み込んでいる部分が段々とこちらに近づいてきている感覚がし、ついには妙な圧迫感に襲われた。


更には至近距離で視線を感じた気がしてついもぞもぞと頭を動かしまう。


「....起きてるでしょ、伊織くん。....おーい。ふーん、そういう態度とるんだー。ならちょっとお仕置きしちゃおうかなー?」


楓がそう言いながら俺の腕をつーっと上から下に指でなぞっていく。


こしょぐった過ぎて今起きた振りをして目を開けると指の動きが止まった。


だが気づかれた様子はなくどちらかと言うと興奮した様にはあはあと息遣いが荒くなっている。


すると気配が少しだけ遠ざかったので安堵しているとしゅるしゅると布が擦れる音がし、その直後ベッドが少し揺れ目の前にセーラー服の胸元にあった筈のリボンがポトッ落ちてきた。


心臓の鼓動が速まる。


俺は今から襲われてしまうのだろうか...そう脳裏を過るがふと永遠の顔を思い出した。


あいつとは好きだからって理由で付き合ってる訳じゃない。


とは言えこれだけ長く続いているのだから愛情もだが、それよりも安定を感じているのかもしれない。


他人から見たら俺と永遠、楓の関係は歪に映るのだろうが最近はこんなのも悪くないと思っている自分がいる。


だからこそこの三角関係を崩したくない。

永遠を裏切りたくない、楓を泣かせたくない。

自分勝手にも程があるがそう思えて仕方ないのだ。


だから俺は伏せっていた身体をガバッと起き上がらせ。


「そういうのは駄目だと思います!!」


なるべく見ないように顔を背ける。


だが俺もやはり男。結局チラリと見てしまったのだがどうもおかしい。

服を着てるじゃないか...あれ?と思い視線を上げ楓の顔を見るとにんまり小悪魔的な笑みを溢していた。


「伊織くんのエッチ~」


「~~~っ」


俺は赤くなった顔を隠すため布団に潜り込んだ。


ーー「ご飯まだだよね?お粥でも作ってくるよ。」


楓はそう告げるなりそそくさと一階に降りていってしまった。


大体10分ぐらい経った頃だろうか、階段を登ってくる足音が聞こえガチャっと扉が開く。


「お待たせー。」


「ありがと。」


「いいよー。」


コップと小さい土鍋にれんげを乗せたお盆を部屋の墨にあるちゃぶ台に置き、それをベッド前まで引きずってきた。


土鍋の蓋を開けると湯気が立ち込め梅干しが一つ入ったお粥が姿を現し喉がなる。

思いの外腹は減っている様だ。


れんげを取ろうと手を伸ばすが楓がひょいっと取ってしまった。


「はい、あーん。」


「いや、自分で食べれるから。」


「病人は言うこと聞く!はい!」


「うぅ...分かったよ。あーん。...うま...」


「良かった~!頑張ったかいがあったよー!」


楓はグラビアアイドルだからと甘く見ていた。

あんな世間的に有名な女の子がこんな家庭的だとは思わず少しときめいてしまう。

永遠が居なかったら逆に告白してしまう所だ。


ーー食事を終え楓が片ずけをし終わると帰る準備をし始めた。


「じゃあ私帰るね。ちゃんと寝とくんだよ?」


「ああ、わかってるよ。ありがとな。」


「うん。...ばいばい。」


手を小さく振り扉に手を掛けようとするとくるっと振り向く。


何だ?と思っていると近付いてきて唇を俺の唇に合わせた。


「....え?....」


「伊織くん...私本気で君の事が好きだから...それは覚えておいてね。....えと...じゃ、じゃあね!!」


顔を真っ赤にさせた楓は逃げるように去っていった。

俺も楓に負けないくらい火照っているのを嫌でも感じ、ドキドキが止まらなくなる。


「~~~~~!!」


この高鳴る感情と暴れる鼓動に自分自身がどうしようもなくなってしまい、枕の下に頭を突っ込み足をジタバタさせてしまっていた。


ーー「....んん?....」


どうやらいつの間に寝てしまっていたらしく閉じた瞼を擦る。

そこで違和感に気づく。何故枕が下になっているんだ?

確か枕は上だったはず...まあくーがやってくれたのかも...んな訳あるか。多分俺の寝相の悪さだろう。


と、気楽に考えながら今何時なのかと携帯の時計を見ようと目を開けた。


「......え....うわっ!!」


「おはよう、伊織くん。よく寝てたわね。」


「お...まえ...何して...心臓止まるかと思ったわ!」


寝ている間に侵入していたらしい永遠が俺の目を覗き込んでいるのに驚きベッドの壁側に飛び退いた。


「あら、酷いわね...私の方が心臓止まる気分よ?...だって...浮気...してたんだものね。ここで。」


「...は?...お前なに言って....っつう!いきなりなにすんだっ!」


「嘘を吐くなっ!!」


前髪を思い切り掴まれたと思ったら永遠が自分のポケットからスマートフォンを取り出し、ある動画を再生した。


「な...んだ...これ...俺の部屋...?....!?」


画面を覗いてみるとそこは確かに俺の部屋で、それも楓とキスした瞬間の映像だった。


何だこれは?意味がわからない。...いや、意味は分かりきっている。だがそれを理解したくなくつい問いかけてしまう。


「な、何だよこれ...」


「貴方の部屋の盗撮動画よ?見て分からない?」


「.......っ!」


背筋が凍り、身の毛がよだつ。

こいつは何を言っている?盗撮だと?いつから?いつから撮られてた?何処からだ!?


永遠の腕を力ずくで振り払いカメラがあるであろう本棚の右上部の本を無造作に崩していく。


「~~~!!何処だ?何処にある!?」


「...ここにあるわよ。」


永遠の指差す先に一冊の本がある。

それは分厚い辞書だったが崩した時にそれほど重くは無かった筈だ。

恐怖心を押さえ込みながらそれを拾い上げると驚愕した。


「......カメラ?」


辞書の下部に小さな穴が空いておりそこから小型カメラのレンズが光を反射した。


「ひっ!!」


余りの不気味悪さに床に叩きつける。


「なんだよこれ!!何してんだ、お前!幾らなんでも非常識すぎるだろ...!!...うあ...」


問い詰めようと振り向くとキスが出来る程の距離まで詰め寄られていた。


「何で嘘吐くの?どうして浮気したの?どうして?どうして?」


その冷たく心を無くしたかの様な瞳に身体が強ばる。


固まっていると本棚をバンッと叩き俺を本棚に押し込んだ。


「う、嘘なんて...吐いてない...あれは...楓から...」


「嘘よ。嘘吐かないで。」


「嘘じゃない!あれはほんとに!」


「嘘吐くなって言ってんだよ!」


俺の髪を掴みそのまま床に叩きつけられた。

そして間髪いれず腹に何発も蹴りを入れられ嗚咽を漏らす。


「うあ....やめ...誰か...助け...」


「どうして!どうして、私だけ愛してくれないの!!何で嘘吐くのよ!私はこんなに愛してるのにっ!!なんで!?なんで!?」


「ぐあ...と...わ....」


痛みで動けない状態の俺の首を両手で絞めてきた。

息が出来ず意識が朦朧とする。

意識を手放しかけたその時、永遠の手が緩む。


「げほげほっ!!...何なんだ...」

                  ・・

何なんだこいつは...いや、目の前にいるこれは何だ?

同じ人間なのか?そうは思えない...俺には化け物にしか見えない。


恐怖が身体を貫き、嫌悪感が心を縛る。


「あ...そっか....そうだったんだ。...そうだったのね!なんだ!簡単だったんじゃない!はははははっ!!」


立ち上がった永遠の隙をつき何とか逃げ出し壁にもたれ掛かる。

だがその異様な光景に身体が強張り動けない。


「そうよ、そうすればずっと彼は私の物...はははははっ!ふひひひひひっ!ひゃははははっ!そうだ、殺そう!!伊織くんの大事な人も大事な物は全て!!そしたら彼は私だけしか見れ無くなるわっ!!」


余りの恐ろしさで肩の震えが止まらない。

言っている意味も分からず、ただ聞いている事しか出来なかったが、永遠が次起こした行動の意味にはっとし毛が逆立ち悪寒が走る。


「か、カッターなんて取り出してどうするつもり...だ?」


「........ねえ、伊織くん...もし大切な人が誰も居なくなったら私を愛してくれる?」


「がっ!?」


身体全身に強烈な痺れを感じ彼女の手の中にある物を目にした。

そこにはスタンガンが握りしめられ先端は俺の腹部に押し込められていた。


もう立ち上がれない。こいつが何をしようとしてるのか判るのに起き上がれない...恐怖に声が出ない...何なんだ...。


何なんだ俺は!!何でこんな時に動けないんだ!動けよ!ちょっとで良いから!!動けよっ!くそったれがっ!!


目の前が虚ろになりながらも眠らないように意識を保とうと必死に抗う。


そして永遠の顔が目に写る。邪悪な笑みを浮かべた悪魔の顔を。


「ただいまー。お兄ちゃん生きてるー?」


「そ...んな...逃げ...ろ...逃げろ...!衣音...母さん!」


だがか細くしか出せない声で幾ら叫ぼうとも届きはしない。

そんな俺を一瞥し永遠が部屋から立ち去ろうとしていたので、何とか止めようと這いずり足を掴もうとしたがするりと避けられてしまった。


「安心して?これから起こることは全部伊織くんの為だから。大丈夫、誰も居なくなっても私だけは君の事を愛し続けてあげるから。」


微笑みながらそう告げ部屋から立ち去った。


止めろ...


「あれ、御姉様来てたんですか?....?それ何持ってるんですか?」


「丁度良かったわ!今からご飯に...あれ?...ごぷっ....」


下階からどしゃっと肉が崩れ落ちる音が聞こえた。


止めろ...止めてくれ...


「お...母さん...え...意味分かんない...お母さん...お母さん...起きて...起きてよ、お母さん!!うあああ!相澤永遠...!どうして!」


逃げろ....逃げてくれ....衣音...


「止めろ...止めろ...止めろ....逃げろよ!衣音!!」


「お兄ちゃん助け...が...あが...お...兄ちゃん...」


「うああああああああっ!!ああああああっ!!」


助けを求める妹を救えず、身体も心も限界になり意識が途絶えてしまう刹那、永遠の酷く醜い笑い声が家中に木霊する。


気が付くとくーが飛び出していった。


「きゃははははっ!...があっ!!こ、このくそウサギ!!離せ!離せよ!」


「ぷぎぃ...」


どしゃっとくーの叩きつけられぐしゃりと踏みつけられた音がした。


涙が止まらない...憎しみが俺の心を満たしていく。


ふと先程までくーが触っていたタブレットが目に入りそれを何とか手繰り寄せるなり涙が更に溢れた。


「う...うぅ...うああああ!」


そこにはこう書かれていた。


『ご主人はここに居るっす!僕が守るっすから!だってご主人は僕の命の恩人で大好きな飼い主様っすっから!僕が死んでも泣かないでくださいっす。さよなら伊織さん。』


「くーーーーっ!!...殺してやる...殺してやる!相澤永遠ーーーーっ!!あああああっ!!」


その叫びを最後に意識が途絶えてしまった。


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