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52 王都襲撃

草木を掻き分け枝を掻い潜ったその先の広場の様に開け放たれた場所に躍り出た。


そしてその思いもよらない光景に身体が強ばる。


「なにこれ...?どうしたの、この人達?」


オーク数人の他に王都から逃げてきたと思われる身なりの整った人間族がその空間を埋め尽くしていた。


「大変!今すぐ治療しますっ!」


「あ、あんたなにを...」


傷だらけの人達ばかりの凄惨な光景を見たしおんは近くに居た頭から血を流している男性の前に跪くと両手を胸の前で繋ぎ合わせ祈り始めると...


「傷が...あんた一体...」


「ふふ!神様が癒してくれているんですよー?」


男の身体から出ていた血が止まり、徐々に傷跡が塞がっていく。


....あの神様がそんな事するか?人間...というか自分以外全く気にも止めないようなギャル神だぞ?


きっと聖女としての能力だと思うが一応アナライズしてみる。


やはり思った通り聖女の何かしらの力で男性の細胞が活性化されてるらしく、結果的に自己修復している感じだ。


だがいかんせん回復が遅すぎる。


このままやらせてもいいが時間がかかりそうだ...と、見かねてその男性以外を治そうと近寄ったのだが。


「.....ん?あっあんた!何でここに!来るなっ!」


「はあ?」


なんだこいつ、ぶっとばすぞ。


私の顔をみて怖がるだなんて酷くは無いだろうか...仕方ない。


たまにはアイドルらしくしてやろう。


「もお~!ひっどいよぉ!イオンちゃん...」


「おい、この人はあいつと全然違うだろうが。髪も黒だったし、顔つきだってこの子の方が柔らかいしな。まあ服はちょっと似てたが。」


遮んなよ...恥ずかしいだろうが...普通アイドルの前口上潰す?


それはともかく気になる内容が聞こえてきた。


「こほんっ!えーと、私の服と似てた人が居たの?」


「まあな。あんたもあいつが言ってた魔法少女ってやつなのか?」


「は?」


意味が分からないのだが...魔法少女はそもそも私しか居ないはずだ。


「なあ嬢ちゃんも人間を化け物に変えちまえるのか?」


「出来るわけ無いじゃん。なにそれ?」


「いや、だってあんたと同じ服のあの女...人間を殺したと思ったらその場で化け物に変えちまってさ。」


私達3人は顔を見合わせ頭を傾げる。

そんな事が出来る奴が居て、しかも私と同じ様な服装の人間がいるなら耳に入ってきてもおかしくない筈だ。


「はあー、王都はどうなるのかね...。魔法少女は王城に攻め込むし、街はその化け物が暴れまわるし...」


「ああ...俺達もあのエルフや踊り子の女の子達が誘導してくれなかったらどうなっていたか...」


なんだと?今何て言った?

どうにも嫌な予感が...嫌な予感しかしない。


「ね、ねえ...その人達ってどんな人達だった?」


私は震えた声で問いかけた。


「一人はエルフでもう一人は...」


「カンシェル一座の踊り子のシャンテと後は...ほらあの...ルーミアの街の....何て名前だっけ?」


「スフィア様だろ。お前打ち首にされても知らねえぞ。」


「いっけね。」


場が笑い声に包まれる最中私の頬に冷や汗が伝わり、歯軋りをするが喧騒に掻き消されてしまった。


こんなに焦りと悪寒を感じたのは転移してきてから...いや、生まれて初めてだ。


そして同時に笑いこけている彼らに苛立ちを覚え地面に座り込んでいる男の肩を掴み。


「どうして...」


「え?」


「どうして置いてきたんだっ!」


「な、なんだよ、急に。」


先程とは違い余裕の無い表情で詰め寄る。


「なんだじゃない!その人達は私の友達なんだよっ!」


「......俺達だって逃げるのに必死で...な、なあ?」


「そ、そうだ。あのままじゃあ俺達まで死ぬところで...」


その言葉を聞いた瞬間余計に怒りがこみ上げ手に力が入ってしまった。


「がっ!?...あんた...何すんだ...」


男の苦悶の声にはっとし、手を離す。


その騒ぎを聞きつけガーブとオーク達がこちらに気付き駆け寄ってきた。


「おい、どうしたイオン。」


「あの時の女の子ブヒ。どうしたブヒ?」


「別に...何でもないよ。こんな薄情な奴ら知るもんか...悪いけど急ぐからもう行く。ラケルタは私と来て。ガーブさんとオークさん...しおんは置いてくからよろしく。」


「ん...ああ、そりゃいいけどよ。」


私は助けに行きたいのもあったが、ここから今すぐ出ていきたい気持ちもあり、木々の合間から見える王都パスカルを見つめる。


「私はここで祈りを捧げています~。どうぞお気をつけて~。」


「うん。ここは任せたよ。ラケルタくん、行くよっ!」


「はいっ!!」


私達は王都に向かうため下山しようと木々を潜り抜ける。


ーーーー同時刻中央都市パスカルーーーーーー


「きゃあああああっ!!死ぬううううっ!!イオーーン!!さっさと来なさいよおおおおっ!!」


「いやあああああっ!!イオーーンさーーんっ!!たーすーけーてーーっ!!」


「グオオオッ!!」


「「ぎゃああああっ!!!」」


シャンテとスフィア、リンスはライカンの魔獣から民間人を救うため囮になっているのだが。


「そういえばリンスさんは何処にいるんですかっ!?」


「え?居ないの?いつの間に....あっ!あそこっ!」


「嘘ですよね?リンスさん、嘘ですよね!?」


リンスが2人を囮の囮にして城下町の頑丈な門を押していた。


それがズズズっと音を立てている最中。


「イオンさんなら貴方達のピンチには駆けつけるでしょうから頑張ってください。それでは。」


と、言葉を残して門を閉めた。


「「あんのあまーーーーっ!!...はっ!!いやあああああっ!!」」




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