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44 終わりは突然に

「イオンさん...ありがとうございます。一人でやらせて貰えて。」


「構わないよ。ただ危ないと思ったら助けるからね?」


「分かりました。なんとか自分の力だけでやって見せます。」


もう本番前...アリアを殺そうという時になっても彼は堂々と前を向いている。


彼にとって最も辛い選択の筈なのに乗り越えようとその瞳には強い意思を感じられた。


私も谷の入り口からアリアが隠れて居ると思われる森を眺めているとしおんが右隣に並ぶ。


「必要ないと思いますけどいざという時は私も協力しますから~。」


「うん。後ろは任せたよ...それじゃあラケルタくん。行くかな?」


「はい....しおんさん、通っても?」


しおんが頷き指をぱちんと鳴らすと小さい穴が谷を覆う膜...フォトンフィールドに開いた。


「これで魔者でも通れますよ。それではー。」


「はい!行ってきます!」


「私も行くよ。じゃあね、しおん。」


「はい...」


私とラケルタは振り向かず穴を潜り抜ける。


すると背後から声援が響き渡った。


「ラケ!気合い入れろよ!」


「イオンっちー!ラケルタが死なないようによろしくねー!」


当然声は届いていたが私達は振り返らず森に向かっていたがラケルタが腰から剣を鞘ごと取り出し鞘だけ私に渡してきた。


「持っていて貰えませんか?」


「預かるよ。それじゃあ準備はいい?呼ぶよ?」


「はい...いつでも...」


私は自分の背丈程ある鞘の先端を地面につけゆっくり目を閉じる。


「アナライズ」


そしてゆっくりと目を開きそのスキルを使った事で金色になった瞳で森を見渡していく。


するとそう離れていない場所で小山のような熱源体を発見するやいなやアナライズを解除し深呼吸して神経を集中させる。


「.........覇気!」


その熱源体に向かいアクティブスキル覇気を使うと...


「来るよ、ラケルタくん。」


「はい...見えています。」


森の暗がりからドスンドスンと地鳴りのような足音を響かせながらその巨体が現れた。


恐竜と同じ巨躯と大きな角を頭部に生やしたアリアが閉じた口から歯を時折覗かせながら唸っている。


「アリア...待たせちゃったね。ごめん、僕が弱いばっかりに君を苦しめた...」


ラケルタはもの悲しそうに語りかけながら右手に携えた剣を力強く握り直す。


「グルルルル...」


「半月程かな...時間はかかったけど此処まで来れた...君の前まで...」


彼は左手を竜化、犬歯を竜の牙に変異させアリアに優しく微笑む。


「望んでやる訳じゃない...けど僕を後押ししてくれた人達を裏切る訳にはいかない。...だから君がした約束を果たすよ。」


剣を外側に水平に、腰を落とし今すぐに走り出せる体勢にし。


「僕は今から君を殺す!」


まるで自分自身に言うように声を張り上げると駆け出した。


アリアもそれに呼応しラケルタに食いかかろうとその巨体を揺らしながら猛スピードで突っ込んでくる。


だがそこで違和感を感じ、私は....


「待って!ラケルタくん!何かおかしい!!」


「ぐっ...い、イオンさん!?」


ラケルタの服の襟首を掴み彼を引きずり込んだ。


その直後...


「やっぱりおかしいと思ったんだよね...」


「そ、そんなっ!アリア!!」


太陽の向きからして不自然に延びているアリアの影から黒い蔓のような物が飛び出したと思ったらそれがアリアの首を切り落とした。


「なんで...」


「それは彼処にいる奴のせいだよ。...隠れてないで出てきなよ。」


「え?.....!?」


アリアから延びていた影は一塊の水溜まりになっており、そこからゆっくりと姿を現した。


「やっぱり君か...」


「お、お前はっ!?」


「あらあら、やっぱりイオンは気付いていたわね?もう少しで特異点だけじゃなく、継承者の魂も食べられたというのに...」


深く被ったフードから覗く紫色の唇を歪に形を変えながらこちらに怪しく微笑むと、アリアに手をかざした。


するとアリアの身体から球体の発光体を取り出しそれを飲み込んだ。


「ん...ふふ...愛する人を殺させられる感情を灯した魂...本当に美味しいわ?ああ...なんて美味なのかしら?絶望、後悔...時間かけた甲斐があったわ?」


「魂?...何を言ってるのか分からないけどお姉さん、拘束させて貰うよ。数年前から発生してる魔獣化...先祖返り、関係あるでしょ?」


「.........」


答えないか...なら力づくで聞き出すまでだ。


「イオンさん!私もお手伝いさせて貰いますね」


近づいていたしおんも剣を抜き、能力を使用して自分の周囲にフィールドを作っている。


「うん。ラケルタくん...殺さないようにね。」


「それは約束出来ません...この女は絶対に殺します。」


気持ちは分かるがそれは困る...なんとか上手くやるしかないか、と私も二人と同じく戦闘態勢をとると。


「まだ少し早いけれどたまにはつまみ食いもいいものかしらね?」


フードの下から恐怖心を煽る瞳を輝かせていた。


「アリア...殺してあげれなくてごめん。...この女だけは僕が殺すから見ててくれ!」


「聖女として力あるものとしての責務を果たさせて貰います!貴女の様な悪意ある存在は放置出来ませんっ!」


「やるよ、二人とも...イッツパフォーマンス。」


私達は各々の言葉を口にし駆け出した。


「ふふふふ...はははははっ!」


不気味に笑うその存在に。




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