43 討伐チーム『イオルタ』
「ほんっとーにごめん!許して貰えないかな!」
「い、イオンさん!止めて下さいよ!頭を上げて下さい!」
私は床におでこを擦り付け土下座をしている。
まさか落石で気絶中にアリアが襲撃に来ているとは思いもよらなかった。
「母さんと村長さんも良いですよね?」
「ええ。ラケルタが戦えるようになったのも強くなったのもイオンさんのお手柄ですから。」
「ほっほっほっ。そうじゃな。じゃからいい加減頭を上げなさい。」
どうやら私の看病の為、私の家に運び入れ看ていてくれたらしい。
たんこぶ一つ程度なので問題は特にないのだが心苦しさで押し潰されそうだ。
「わ、分かりました...それにしても話を聞いた時は驚きました。まさかラケルタくんが一人で撃退するなんて。」
「僕もですよ。....イオンさん...一つお願いがうります。」
「なにかな?」
ラケルタはそう言うと正座に足を組み直した。
「僕と真剣勝負をして下さい。」
「........何でかな?」
彼は少し考えた末...
「僕の力があなたにどれだけ通用するか試してみたいので。」
そう答えていた。
ーーーーーーー広場中央ーーーーーー
「今度はラケルタとイオンさんがやるらしいぞ。」
「どっちが強いのか見物だな!」
何処かで聞き付けたらしく既に周りには人で埋め尽くされている。
それにしてもラケルタがこれだけ称賛を浴びているのには驚きだ。
昨日までとは大違いで皆ラケルタに尊敬の眼差しを向けている。
「それではこれよりイオンさんとラケルタの一本勝負を始めます。勝敗はどちらかが降参するか、気絶するまで...ではっ...」
「頑張れよラケっ!イオンさんに見せつけてやれっ!」
一番意外なのはその中でもガレトが熱の籠った声援を送っている事に尽きる。
やはり元々は仲が良かったのが伺える。
「いおちゃんファイトー!」
「イオンさん、頑張って~くださ~い」
「イオンっち、女の度胸見せてやんなさい!」
女性陣は私の応援を買って出てくれた。
その声援に力が入り、彼もそうなのか嬉しそうな表情だ。
そして...
「始めっ!」
開始の合図と共に一足早く飛び出す。
「先手は貰うよっ!はっ!」
地面を割るほどの走力で接近し拳を放つ。
「見えた!」
「なっ!?」
だが鞘でいなされ背後をとられたがすかさず回し蹴りを打ち込もうとしたが。
「くっ!早い!」
即座にしゃがんだラケルタには一歩及ばず、抜刀し。
「居合の螺旋!暴龍激!」
「ぐうっ!」
何とか防いだが刃から弾き出された魔力が空間の空気を振動させ私の体を真横に吹き飛ばした。
「ラケルタが最初にやったぞ!」
「すげえっ!」
強い...今まで戦ってきた誰よりも強い。
ようやく現れた強敵に思わず気持ちが昂ってくる。
「じゃあちょっとは本気だすからね?」
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「くっ!...がはっ!」
「てやてやてやてやっ!」
イオンが瞬時に詰めよりラケルタの攻撃は全て潰されていく。
その怒涛の連撃に既に防戦一方となりつつある。
「はあはあ...これがイオンさんの本気...強すぎる。攻撃する隙がない!」
「来ないならいくよー。」
「!...飛ぶ剣戟!真空閃!」
ラケルタが居合切りを高速で行うと刃先から真空の刃が襲いかかる。
だがイオンはそれにものともせず。
「よっと。」
「そ、そんな...くっ...2連!3連!」
握りつぶし、続く第2、第3射も片手で虫でも払うように打ち落とした。
この技ではイオンに届かないのを理解したラケルタは突きの姿勢を取り。
「燦先竜訝!」
高速の六連の刺突技を繰り出した。
「一回見たからね!その技はもう効かないよ!」
と、最初の突きを剣の腹に拳を当て弾き飛ばす。
「ぐっ...腕が...」
イオンの腕力で弾かれた事で右腕が痺れ一瞬動きが鈍る。
その隙をイオンが逃すわけもなく。
「止まってるよ!当ててくれって言ってるようなものだよね!せいっ!」
「がっ!?」
体を反転させその遠心力と共に放たれた掌底がラケルタのあばら骨を軋ませる。
そしてイオンの手が離れる瞬間衝撃がラケルタの身体を襲い吹き飛ばされたが何とか立て直そうと剣を地面に突き刺し、離されるのを何とか阻止したが既に身体に力が入らず片足を地面に着かせてしまった。
「はあはあ...僕じゃまだ敵わないですね...」
「君も十分強いけどね。自信もっていいと思うよ。」
そう告げたイオンだったがラケルタと違い息も乱れてはいなかった。
イオンの底知れぬ実力を目の当たりにして村全体が固唾を飲んで見守るなかラケルタが剣を杖代わりにしながら立ち上がる。
「イオンさん...次が僕の出せる最高の技です。受けて貰えますか?」
「うん、勿論。」
「では...行きますっ!はあっ!」
相変わらず爽やかな表情のまま構えるイオンに駆け出し渾身の技を放つ。
左腕を竜化させ、その手から魔力を元にした炎を纏わせる。
そしてその炎を魔力でコーティングした刀身になぞると剣は赤く焔のように燃えたぎる色に変化させた。
両手で上段に構えたそれをラケルタが踏み出しながら真っ直ぐに振り下ろすと。
「ふむ!」
「なっ!?何て威力!」
「ラケの奴!何て技を隠してやがったんだ!」
イオンがガードした刹那、刀身から放たれる焔と魔力が接続されイオンのいる地点から遥か後方まで爆炎が襲いかかった。
「いおちゃん、大丈夫なの!?」
「いおっち...」
「いえ...勝負ありましたねー。あれでもイオンさんには遠く及びませんからー。」
しおんが語るようにその爆炎が晴れていくと。
「........!?」
なにも起きていないかの様に堂々とラケルタを見据え、右手の人差し指と中指で剣を挟み止めていた。
その圧倒的な存在に皆が唖然とする中しおんが口を開いた。
「私は今まで色んな方を見てきましたけど~。イオンさんはそんな人達とは違いますよ~?ラケルタさんが竜神族最強ならー、イオンさんは世界最強でしょうねー。」
「世界...最強...」
誰かがそう呟くと誰もが認めざるをえないように押し黙り始めた。
その空気を掻き消す様にイオンがラケルタに語りかける。
「ラケルタくん。君は私が戦った中で一番強かったよ。」
「やっぱりイオンさんは強いですね...はは...待ってて貰えますか?絶対貴女を守れるぐらい強くなりますから。」
「うん。待ってるよ。」
イオンは左手を拳に変え、右手で抑えている剣を引っ張りラケルタの身体を引き寄せ。
アンドヴァラナウト
「魔法少女式体術!『暗弩茨鳴羽徒』!!」
身体を捻りながら、肩から腕まであるリボンが分解され腕輪に形成され嵌められた左腕を振り抜き、ラケルタの割れた腹筋に見事命中すると。
「がっ!」
ラケルタの背後にある大地は粉々に砕かれ、その数コンマ後にラケルタが土煙をあげながら吹き飛ばされた。
「ふうふう....!うああっ!」
それだけの攻撃を受けたにも関わらず震えた足で立ち上がろうとするが。
「...ぐう...!」
片膝を大地につく形で崩れ落ちた。
「お疲れ様...よく頑張ったね。」
疲労困憊のラケルタに駆け寄ったイオンは優しく微笑み手を差し出すと、最初に会った時とはまるで違い力強くイオンの手を握った。
「君は何でそんなに私の事を必死に...」
「.......それは....」
そういう事には疎いイオンは何故ラケルタが自分を守りたいのか理由が良く分かっておらず、一先ず立たせようと腕を引っ張った。
ラケルタは俯きながら...だが、少し顔を赤らめさせ立ち上がる。
もう大丈夫そうかなと判断し、イオンは手を離そうとしたのだがラケルタは逆に力強く握り返していた。
「な、なに?」
「僕は多分...アリアかそれ以上に...イオンさんを好き...なんだと思います...」
「......へ?」
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それからと言うもの私は何も頭に入らない状態にあった。
今までだってエリーやセシルに告白されたりもしてきたがだからといって好意を寄せる事は無かった。
「では、今更ながらですが討伐はイオンさんとラケルタに...」
だが今回は全く違う。
ラケルタに告白紛いな事を言われてからと言うもの彼の顔や彼との思い出が走馬灯の様に頭の中を駆け巡り、身体は浮わつき心は乱れる。
「俺は構わない。イオンさんとラケなら問題ないだろう。」
「だよねー。」
「私も賛成よ。」
「姉御なら大丈夫っしょ。ラケルタも姉御とあんだけ戦えたんだし。」
皆がなにかを話し合っているようだが全く頭に入ってこない。
私は彼に惹かれているのだろうか?
さっきから彼の顔から目線を外せない。
「あの...イオンさんどうかしましたか?僕の顔に何か?」
「え!?べ、べべべ別に何でもないよ!?」
「はあ...所で部隊名とか折角だからどうかと母さんが言ってるんですが...」
ぼーっとしていた私を心配していたらしく顔を近づけてきていた。
たったそれだけの事なのに異様に嬉しくて仕方がない。
というか部隊名ってなんだ。ふざけてんのか。
明日戦うのは魔獣とはいえ、ラケルタの元恋人...ガールフレンドのアリアなのだから彼からしたらそんな物どうでもいい話だ。
彼は優しいから何も言わないだろうが心中を思うと腹が立ってくる...竜神族がお祭り好きなのは理解しているがそれとこれとは別。
「では『イオルタ』で決定ということで。」
「えっ!?」
それを聞いた瞬間先程までの怒りは綺麗さっぱり消え去っていた。
「何でそんな名前に!?」
「い、イオンさん?どうかしましたか?」
「だ、だって...二人の名前混じっちゃって...なんか夫婦みたいじゃん!」
「なななななっ、何言ってるんですかっ!夫婦って...そういうのはちゃんと段階踏んでから....!」
まるで初々しいカップルみたいな喧騒に周囲の人達が笑い声を上げ始めた。
中には「も、もうそんなとこまで...う~ん...」と倒れる片思い女子や「姉御~...なんでそんな二股野郎と~...」と泣き始める男子、果ては「あらあら...色々捗りますね~」と不穏なことを言い出す村娘等収拾がつきそうに無くなっていた。
特に私とラケルタはお互い照れ隠しで言い合っていたのだが。
「そもそもイオンさんは僕の事どう思ってるんですかっ!?」
「そ、そんなの私だって分かんないしっ!」
「こほん!」
ラケルタの母、フォルテが咳払いし場が静かになると眉間に皺を寄せて私に冷たく言いはなった。
「小娘...誰が息子をやると言ったかしら?」
「はひっ!」
叱責を受けながらもラケルタへの仄かな想いに私は自分が男なのか...女なのか...その境界線が曖昧になりつつあるのを心の奥底で感じ始めていた。
心が身体に引っ張られているのか、元々の性癖なのか...それとも相手がラケルタだからなのか...もう私は...俺は自分の心の有り様が分からなくなっていた。




