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32.5 スレチガウココロ

「ふんっ!...はあはあ」


僕は日課の素振りを終え髪を触る。

その右側頭部に着けているアリアと子供の頃一緒に作った木製の髪飾りに手が触れ、それのピンを外し取り外す。

真ん中にはあの時たまたま拾った僕の目と同じ青色の宝石を砕いたものを嵌め込み、周りの装飾は手先の器用なガレトが作ってくれたものだ。

それを見ながら昔の事を思い出してしまい。


「はあ...昔は皆仲良かったのにな...どうしてガレトは...」


そう呟くが本当の所分かっている。

イオンさんの言う通り僕は逃げていただけだ。

ガレトは僕を苛めている訳でもなく、嫌ってる訳でもない。

ただアリアの為になにもしない僕が許せないだけ...それが分かってても自分ではなにもしない愚か者だ、僕は...


「はあ...」


一人勝手に落ち込んでいるとザザッと砂を擦る音が聞こえ人一倍臆病な僕は震える手で剣を取り構え。



「だ、だれ?誰か居るの?」


そう聞くのが精一杯だった...すると坂の下った先から聞き覚えのある笑い声がした。


「ははははは。...よおラケルタ、またこんな所で成果の見えない素振りしてんのか?」


「う...ガレト...」


かつての親友の姿を見て足が震え、声が出なくなる。

怖いのもあるが、それよりも後ろめたさからだろう。アリアの事をあれだけ色々してくれた親友を裏切ってしまった事への後悔で、身体が動かなくなる。


「お前は相変わらずだな。本当に腹が立つ...」


吐き捨てる言葉と睨み付けに足をすくませながらも何とか声を振り絞れた。


「な、何のよう?普段なら会いに来ないのに...」


「ふんっ!まあな。イオンちゃんからの言伝てにな。アリア討伐権をかけて俺とお前で4日後勝負しろだとよ。」


「しょ、勝負!?そんなの無理だよ。敵うわけっ...ごほごほっ!」


いつの間にか近づいてきていたガレトが僕の腹にパンチを一つめり込ませていた。

その痛さから膝をついて踞る。


「ごほっ!な、何で....急に殴るんだ...ぐあっ!」


問いかけようと顔を上げるとガレトは胸ぐらを掴んだまま、展望台にある坂の終端部の岩壁に叩きつけた。

その折に咳き込んでしまっていると。


「お前、いい加減にしろよ!イオンちゃん....イオンさんがお前みたいなバカの為にあそこまでしてくれてるんだぞ!?」


「え?」


「お前の為に俺達とお前の関係聞いてきてな、それでもお前の味方をしてるんだよ!イオンさんはな!俺との勝負の話でお前の事何て言ったと思う!?」


そこまで言い終わるとガレトは胸ぐらを離したので僕は地面にドサッと落ちてしまった。

だがイオンさんの言葉と今までの行動、僕が彼女にしてしまった事を思い出し、申し訳なくて、情けなくて、嬉しくて立ち上がれず、顔だけ上げていると。


「お前が化けるって言ったんだよ!あの人はお前に唯一期待してるんだ!お前の訓練までしてやりたいって思ってくれた人なんだよ!」


見下ろしていたガレトが僕の前にしゃがみ再度胸ぐらを掴んで引き寄せた。


「あんないい人裏切るんじゃねえよ!」


「...........」


僕はなにも言い返せなかった。

イオンさんまで裏切っては本当に人でなしだろう...

そう落ち込んでいると...ガレトの次の言葉に心臓の鼓動は早まり、心臓も音が聞こえるほどだった。


「そういえばお前が負けたときの条件だけどな...お前にみきりをつけて俺にアリアを殺させてくれるらしいぞ?」


「な、何でそんな嘘を!...あの人がそんな事言うはずない!」


今まで出したことの無い声量で叫ぶとガレトは驚いた顔をしたが嫌な笑みを浮かべて最低な言葉を並べた。


「はあ?なら本人に聞いてみろよ?本当だからよ?...それにしても惜しいよな、あの人。強いし、可愛いし、性格も完璧なのに恋人いなさそうだしな。服装はあれだが。まあアリアを討ったら俺が貰ってやっても良いけどな!」


「.......何だって....ふざけんな!」


「ああ?てめえ何だ、その目は?もう一回言ってみろよ?」


僕は多分生まれて始めて誰かに対して怒りが沸き起こっている。

自分は心の機微が薄いと思っていたが違ったらしい。


アリアが魔獣になった時も悲しかったけど怒りは沸いてこなかった。皆が討伐に思い至った時だってそうだ。


でも今思えば僕が怒りを露にしたのはイオンさん絡みだった気がする。


「何度だって言ってやる!あの人を軽くみるなっ!」


ゆっくり立ち上がりながら始めて向けられた敵意にガレトは少し立ち竦んでいる。


そうだ...僕は今怒っている。

アリアの事はもういいのかとか、そんな嘘を言うなだとか、らしくもない演技をするなだとかそんな事じゃない。


イオンさんを軽くみられた事、イオンさんを傷つけるかもしれない目の前の男に腹が立って仕方がない。


いつの間にか右手を握り拳に変え、僕はガレトに向かって拳を振りかぶりながら走っていた。


「うああああっ!」


「そんなにムカついたかよ!?なら来いよ!ラケルタ!」


「ああああ!...クソッ!もう一回...ぐあっ!」


殴りかかるも避けられてしまい立ち止まったのがいけなかったのかもう一発殴ろうと向きを変えた瞬間、顔面にガレトの拳が飛んできた。


ガレトと違い避けれず直撃し、地面に突っ伏してしまう。


「....つう...があっ!?」


「そんなもんかよラケルタ!?もっと根性みせろやっ!!」


倒れていた僕はガレトの放った蹴りをまともに受け吹っ飛ばされてしまった。


全身が今まで感じたことが無いくらい鈍い痛みに挫けそうになるが、イオンさんの笑顔や僕を怒ってくれたときの怖い顔、哀愁漂う表情を思い出すと不思議と身体に力が入る。


「う...あ..はあはあ...ああああっ!!」


ふらつきながらも立ち上がり、ガレトを睨み手に力を込める。


覚束無い足取りで走っていき殴り付けるもまたしても避けられてしまった。


「パターンが同じ何だよ!バカがっ!」


そう叱咤されながら蹴りを腹に入れられたが。


「ちっ!離しやがれ!...ぐっ!てめえ!」


「うおおおっ!」


両手で受けきりいなしてガレトの腹部に潜り込みタックルすることが出来た。

少し押し込むことに成功したが上から放たれた肘打ちに怯んでしまい手を離してしまい服を引っ張られ引き剥がされてしまい...


「鬱陶しいんだよ!」


「がっ!?」


もう一度胴体を蹴られまたしても蹴り飛ばされてしまった。


背中から落ち、背中全体が焼けるように痛む。その度にイオンさんの顔を思い出し奮い立たせる。


「うああっ!!」


「ラケルタ、てめえ何で今までそれが出来なかった!それが出来てれば俺は!」


「うるさい...そんな事よりも謝れよ...」


「ああ!?」


僕はまたふらついた足で近づいていき大して体力も力も残っていないのに向かっていく。


「謝れよ!!イオンさんの事!腹が立つんだよ!あの人の事何も知らないのに!!」


僕だって何も知らない...だけど止まらなくなってしまう。


「あの人を甘くみるなっ!傷つけるなよっ!」


傷つけたのは僕だ...あの人に悲しい顔をさせたのは...僕だ。

そんな事分かってる...だけどここで諦めたら今までと同じになってしまう...そうしたら余計優しくて厳しくて誰よりも笑顔が似合うあの人はきっと悲しんでしまう。


「嫌なんだっ!もうあの人の悲しむ顔を見るのはっ!僕のせいで苦しませるのはっ!だから僕はガレト!君に勝たなくちゃならないんだあっ!」


そして目の前まで到達し右腕をガレトの顔めがけて放つが...


「勝手な事ばっかいってんじゃねえっ!お前がそんな言葉口にすんじゃねえよっ!このバカ野郎がっ!」


「がっ...うあ...あ...」


僕のパンチは届かず彼の左拳が僕の腹に当たり、其所で力尽き地面に倒れ込んだ。


「ようやく、くたばったか...ったくしつけえんだよ。ぺっ...うおっ!お前まだっ!」


唾を吐きかけられたがそんな物は気にせずガレトの立ち去ろうとする足を掴んで。


「まだだ......」


「お前...ちっ...つまんねえ真似してんじゃねえよ。」


朦朧としている僕から顔を背けたガレトは足を引っ張り手から離れると。


「4日後だ。4日後まで強くなって見せろ。それまでは待っててやる。俺に謝らせたいんだろ?じゃあ頑張れや。」


そう言い残し去っていった。

倒れている目の前にはあの髪飾りが転がっておりそれを力なく拾い上げ。


「ごめん...ごめんアリア。きっと君を殺しに行くから...それまで待っててくれ...」


其所で僕は涙を流しながら意識が途切れた。

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