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29 恐竜やらドラゴンやら複数名称のあいつの正体

「お前今なんつった?」


「あっあのそれはそのっ...」


私の強めの語気と村長の命令無視、それとお姉さんの睨み付けにラケルタは上手く喋れずしどろもどろに、慌てすぎてあたふたしている。


瞳孔の開いた目で半笑いしながら見つめていると。


「ごふっ...」


「えええええっ!?」


いきなりお姉さんがラケルタの下顎を蹴りあげ、更に丸まっている彼を何度も足蹴にし始めた。


「ラケルタ!貴方はいつもいつも!何度言えば分かるのっ!」


「ごめんなさい!ごめんなさい、お母さん!」


「お母さん!?!?」


驚愕の事実に身体が固まってしまった。

でも確かに言われてみれば似てる様な気はする...同じ青髪青眼だし。


「外ではお母さんと呼ばないように言ったでしょう!?」


「ごめんなさい!」


「ちょちょちょ!」


いつもの事なのか村長は止めようとしないが、流石に私は焦り、ラケルタの母親を羽交い締めにする。

しかし以外と膂力のあるこの人は、三つ編みの長い頭髪を振り乱しながら一心不乱に怒りを露にして手のつけようがない。


仕方なく引摺りながら説得するが。


「待って待って、お母さん!ラケルタくんだって悪気があった訳じゃ....」


その言葉に反応しピタリとお姉さんの動きが止まったが、此方を向き血管が浮き出るほど怒りが沸いているらしく。


「貴女にお母さんと呼ばれる筋合いは無いわ。」


「す、すいません......あっ!もう止めてくださいよ!」


彼女から放たれた冷たい視線と言葉が怖すぎて手を離しそうになった。


私に掴まれているのに構わずずんずん前に進んでいく。

多分この人、一族最強だと思う。


ーーーーーーーーー。


「ほほ...落ち着いたかの?フォルテや。」


「申し訳ありません。少々取り乱しました。」


フォルテと呼ばれたラケルタの母親が眼を伏せて謝罪を口にしている。


その様子を私は恨みがましく見つめ、ラケルタは蹴られた箇所を擦っている。


話を聞くと怒るとすぐ手が出てしまう性分だそうだが、ちゃんと手加減しているらしい...そうは見えんが...


「あれで少々...」


目を合わせないように呟くとまたキッと睨まれたが、村長が助け船をくれた。


「ほほ。そう目くじら立てるでない。そなたもやりすぎな所直さんと子供にまで逃げられてしまうぞよ?ほほほ。」


「うっ...気を付けます...」


旦那に逃げられたのか...仕方ない気もする。


「あのー、いい加減話を聞かせて貰っても...」


「何度も言いますが教えられる事はありません。」


頑として教えるつもりは無いのかピシャリと言い捨てられたが、以外にも村長はそうでもないらしい。


「ふむ...イオン殿や...そなたはどう思うとる?それを聞かせて貰えんかの?そなたは中々頭もきれるみたいだからの...恐らく気づいておるじゃろう?」


淡々と話すその言葉を聞いたラケルタとフォルテは村長を見ると。


「よろしいのですか?...分かりました。私はもう何も言いません。イオンさん、貴女の考えを述べてください。」


フォルテが真っ直ぐ私を見据えそう告げ、ラケルタは聞かれたくないのか俯いて顔が見えないようにしている。


取り敢えず頭の中を整理して顎に指を置いて最初から少しずつ話す。


「そうですね...まずおかしいと感じたのは、ラケルタくん達を助けた際にラケルタくん本人がボソッと「彼女はもう行ったのか?」という言葉ですね。」


心当たりがあるのか顔を上げたが気まずそうな表情をしている。

母親の方もラケルタを見るなり困り果てた顔を晒していた。


「そうですか。それが?」


「此処で気になったのは何故彼処で彼女...という単語が出たのか...それは先程分かりました。」


「そういえばアリアの事を知っておったのう?どこで聞いたんじゃ?」


村長が不思議そうに私を見つめているとラケルタが...


「あっ、そういえばさっきアーミンさんとルルエナさんが...」


「うん。確かアーミンさんだったかな?アリアが言ってた...いつかそうなるなら...されるのはラケルタが良いだったかな。」


「そうですか。あの二人が...アーミンとルルエナとアリアは親友でしたからね。」


なるほど...それで合点がいった。恐らくラケルタに厳しく当たっていたのはラケルタがいつまでも立ち止まっているからだろう。

そうなるとあの濁した言葉は...


「そうなんですか?それは知りませんでした...えーと、それで...ここでアリアさんの事を知ったわけ何ですが...されるのはラケルタがっていうの何ですけど。」


その言葉を聞いたラケルタの顔がひきつった...やはりそういう事か...


私は心苦しいながらも続きを話していく。


「多分ですけど、ラケルタに殺してほしいって事だと思うんです。」


「ふむ。...して何故アリアが殺してほしいと思うのじゃ?」


「ええ、何故ですか?」


この話題になった途端ラケルタの身体は震え目が泳ぎ始めた。

確かに好きな子...もしかしたら恋人だったのかも知れないがその子がそうなったのだとしたら決断するのは難しいだろうな。


そんなラケルタの様子を心配しながらも...


「アリアがあの恐竜...じゃないやドラゴン?あっ、竜種かな?あれになったのでは?」


皆其処に気づくとは思っていないのか肩を少し震わせた。

だが否定するように村長が口を開いて。


「人があのような存在になるものかの?甚だ疑問じゃ。」


そう問いかけるがそれに対しては確信じみた考えがある。


私は村長の目をしっかりと見ながらそれを伝えていく。


「それが普通の人間種、亜人種ならそりゃあそうでしょうね。ですがこれが先祖返りなら話は別です。」


先祖返りのワードが出た途端、フォルテが目を見開いた。


そして興奮気味に捲し立ててくる。


「先祖返り?そんなものあり得ません!あれは魔者だけがなる...」


「はい。ですから思ったんです。貴方達竜神族は...魔者ですね?それも一番最古の...」


その言葉にラケルタ、村長、フォルテ全員が喉を鳴らし息を飲んだ。

きっとそこまで掴んでいるとは思わなかったのだろう...誰も何一つ言えないでいると、ここでようやくラケルタが声を上げた。


「何で分かるんですか?証拠はなにかあるんですか?」


「ええ、納得出来るだけの理由があるんですか?」


「勿論です。とは言っても予想ですけど。」


自信満々な表情で告げられ言葉を失ったような様子を見届けると淡々と話していく。


「ある人が言っていました。竜神族は最古の人類だって。この竜神という名前に私は違和感を持ちました。」


「違和感...どんなじゃ?」


「この神という言葉は殆どの場合は空想上の対象ですが、今回は違います。これは恐らく最古の人類を後から生まれた人間種や亜人種が崇め始めたからでは?」


まあ実際には神様がいるみたいだが...あれを崇めたくはないな。

私をこの世界に送ったあんちくしょうを半笑いしながら思い出していると村長がうなり声を上げた。


「ふむう...」


「そうなのですか?そんな話聞いたことも...」


「確かに遥か昔そんな事もあったと聞くのう...この種族名はその時の名残じゃとも。」


どうやら正解らしく胸を撫で下ろす事が出来た。

だが此処からが本題だと、気を取り直し正座していた足を組み直す。


「いたたたたっ!」


「イオンさん、大丈夫ですか!?」


「足が痺れた!あーーー!」


ずっと正座していた弊害が現れてしまった。

だがそんな状況はどうでも良いようでフォルテが咳払いをし、続きを催促してきた。


「こほん。では竜の方は何ですか?早く答えなさい。」


ラケルタの母親とは思えないせっかちぶりである。


「わ、分かりました!えーと、竜の文字はただ単に魔者になる前の古代種?かなんかがあの竜種だったんじゃないですか?」


「なるほど。良く知り得ましたね。それであれがアリアだとしてそれが貴女に関係ありますか?」


確かに私には関係ないだろう...この仕事を引き受けたのもルーミアの街の為だ。決して竜神族の為じゃない。

がそれを知ってしまった以上、アリアさんの想いに気づいた以上無視は出来ない...と、反論する。


「あります。まあ私では無く、ラケルタくんにですけど。」


私がそう告げて見つめているのに気付いたラケルタは唇を噛んで何を言おうとしているのか分かっているかの様だ。


「ラケルタが?どういう意味ですか?」


「どういう意味も何も、アリアさんはラケルタくんに魔獣になってしまったら殺されたいらしいので、それを汲んで私はラケルタくんが討伐するべきだと思います。」


横目で彼を見ながら言った言葉に反応し、ラケルタは膝に置いている手を力の限り握っている。

そして私の方に向き直して抗議してきた。


「ぼ、僕には無理です!彼女を...アリアを殺すなんて!」


「それじゃあ他の人に殺されるのを黙ってみてる?彼女が...感情が残ってるか分からないけど苦しみながら多くの人を殺してしまうかもしれない。君はそれでいいの?もし本当に好きなら君の手で殺してあげるべきだと思う。」


彼もそれを理解しているのだろう...だからこそ討伐を待ってくれと相談しに来たんだと予想出来る。


自分で殺そうと...そして力が無い自分に憤りを感じている筈だ。


だがやはり覚悟が決まらないのか立ち上がり。


「イオンさんには分からないですよ!好きな人が化け物になって、それで僕が殺さないといけない気持ちなんて分かるわけ無い!僕は...僕には無理です!すいません...失礼します...」


「ラケルタ!何処に行くの!」


私は去っていく背中を見送り、止めることはしなかった。

それはきっと彼のためにもアリアの為にもならないからだと感じたからだ。


目を閉じて精神を落ち着かせていると村長が問いかけてきた。


「まだ聞きたいことが有るのでは無いかの?」


「はい...どうして村長...族長があなた何ですか?魔者の風習では一番強い人が族長になると聞いています。」


フォルテさんが腕組みをし目を瞑り答えてくれたが意外な答えだった。


「そうね...でもそれは無理だったの...確かに彼女は歴代と比べても遜色ないぐらい強い女の子だったわ...だけど...」


「あの娘はのう...余命が20歳までだと言われておったんじゃ。幾ら強かろうとも病気で死にかけているものを族長には出来んのでの...」


「..........そうでしたか...すいません。知らなくて不躾な質問をしてしまって...」


私はうつむき謝ると優しい目で宥めるように慰められてしまった。

そしてあることを母親と村長にお願いされてしまった。


「いいのじゃよ。誰しも何もかも分かるなんて事ありはせんて...こっちこそ試してしまって済まんの...そなたがどういう人物か知りたくての...フォルテあれを...」


「はい。これを...」


「はあ...」


手渡されたのは追加の依頼書で、開いてみてそれを読み終わるなり。


「任せてください!頼まれなくてもやるつもりでしたからっ!」


磨いてきたアイドル式笑顔を振り撒き快諾した。

その返事に二人は安堵し、表情が柔らかくなり、感情の籠った声で...


「よろしくお願いね。なるべくやり易い様に此方もサポートするわ。」


「ありがとうの...そなたが来てくれて本当に良かった...ありがとう。」


「いえ、それでは私はこれで...ラケルタくんの事は任せてください。ちょっとスパルタ気味になるかもしれませんけどね!」


立ち上がりもう一度開いた依頼書にもう一度目を通す。

そこにはこう書かれている。


『ラケルタの為、アリアの為にラケルタに彼女を討てるよう指導をお願いします。彼を救ってあげてください。母としてお願いします。』


私は依頼書を力強くクシャっと握りやる気の満ちた表情で部屋を後にした。

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