22 異常成長
ラケルタの叫び声が聞こえないほど轟音で灼熱な炎のブレスに晒され私は...
「あれ、全然熱くない...」
全く微動だにせず、立ち尽くしていた。
不思議に思いながら両手を開いたり閉じたりしながら身体中見渡すが火傷一つ負っていない。
スカートの裾が少し焦げたくらいだ。
今だ続く炎を掻き消すように右手を水平に外側に振るとその風圧でブレスが消し飛んだ。
そして私の無事を確認した彼らが信じられない物を見たような表情で叫び始めた。
「あ、あんた無事だったのか!?いや、そもそも何で無事なんだ!?」
「何者なんだ、お前!」
(そう言えば何でだろ?あ...確か耐性スキルがあった気が...)
思い当たる事があり、ステータス画面を開くと妙な事に気がついた。
「え...なに?...セカンドフォーム?何これ?あれ...スキルも何か変わってるし。」
ゴーレムと戦ってからと言うもの街から余り出てもいなく、クエストを受けても近場の薬草採集クエストしかやっていないのにこんなに上がる筈はない。
「ガアアオオオッ!」
「あ、あぶねえ!よけ....えぇ?」
ブレスが効かないことに余計腹を立てた怪物が助走をつけて食らいつこうとするがその下顎に手を添え押さえ付けスキルを見てみるとそこには〈スキルマスタリー〉と載っており、どうやらこれのせいで変身能力が進化してスキルがアップデートされていたらしい。
目を瞑り、指を顎に置いて考え込んでいたのだがいつまで経っても止める気配の無い怪物に嫌気が差し。
「あーもう鬱陶しいな!今大事な所なんだからあっち行ってろよっ!ていっ!」
怪物を抑えていた左手を平手のまま押し込んでその巨体を吹っ飛ばした。
約1キロ程飛んでいき地面に横這いの状態で落ちるとズズンと鈍い音が響き土煙が宙を舞い、次第に晴れてくると怪物が立ち上がり、唸りながら私を見ていた。
「グルルルル...」
「...........」
私もステータス画面を閉じてある魔法を放とうとすると、危険を察知した恐竜の様な生物は睨みながら踵を返し家々を破壊しながら村の入り口に当たる谷に向かって地面を揺らす程の足音と共に去っていき、入り組んだ地形に姿を眩ました。
すると、背後からドサッと重いものが落ちたような音に私は左足を下げ、身体を捻る形で後ろに振り向く。
「はあ~!死ぬかと思ったぜ~。」
「ふう。すまねえな。助かった...」
地面に座り込んだ部族のような服装の男二人が安堵の表情をしていたが、ラケルタと言われた私より二つほど若い少年は相当怖かったのか体育座りで踞っている。
見かねた私は彼の前にしゃがみ。
「大丈夫?あれはもう居ないから安心しなよ。」
と、優しく微笑んで目を合わせるとラケルタが妙な事を口走った。
「か、彼女は行ったのかな?」
「え?...誰?」
女性など見ていないのでなんの事が分からず、背後にいる二人に振り向き、アイコンタクトを取るが。
「.........」
無言で目を逸らされてしまった。
どうもまたしても嫌な予感がする。
その内の一人がラケルタに近づき腕を掴むと引っ張り上げ立たせると。
「悪いけど族長に会ってくれ。わざわざこんな所に来たんだからギルドから来たんだろ?」
「あ、うん。これが証拠だよ。それで何処に居るのかな?」
私はスカートの隙間に突っ込んだ依頼書を引き出すと、晒されたへそと素肌を見た戦士二人がじっと見てくるので手早く戻し、依頼書を手渡す。
「はい。....早く受け取ってほしいんだけど。」
「...こ、こほん!あ、ああ!ええと...間違いないな...なっ!」
「お、おう!じゃあ行こうか!ほらっ!ラケルタ行くゾッ!」
「あ...」
これだから男は...
「はあ...じゃあ行こうよ。ちょっとちらちら見ないで。」
「すいません....」
その視線に不快感を覚えた私は冷たく言い放ちすたすたと早歩きしていると、迷路の様な入り組んだ地形に躍り出た。
「イオンちゃん、こっち来てくれ。」
「あ、イオンちゃん足元気を付けてね?」
「はあ...どうも。」
先程から二人が私に距離を詰め、一人は前方に危険がないか確認し、もう一人は私の通る道にある小石をどけていく。
「私はオタサーの姫か。」
「おた...さーとは何ですか?」
口を衝いて出た言葉に気弱な青髪の少年がおずおずと話しかけてきた。
「何でもないよ。君も戦うの?向いてなさそうだけど。」
「..はは。僕戦うの苦手で...それに殺しちゃうのは可哀想だから...」
何だろう...抱き締めたい。
母性をくすぐられていると他二人がラケルタの肩に腕を回す。
「ラケルタ、お前イオンちゃんと何話してんだ?」
「そうだぞ。恋人が居る様なやつがあの子と仲良くすんなよ。俺らにイオンちゃんは任せとけよ。だから先に行ってろ。」
「う、うん。じゃあ先に...」
聞こえてるんだけど。
まさか私が囲まれる側になるとは思わなかった。
話を聞くとどうやら彼らは強い女に目がないらしく私の容姿がぴったり好みに合っているせいで、イオンクラスタとはまた異質な好意を向けられげんなりしてしまう。
「まっ、お前にはどうせ無理だろうけどな。」
私に聞かれないように小声で話しているが聞き取りスキルのせいでハッキリと聞こえてくる。
その内容は高校の時の自分に重ね合わせてしまい、つい口を出してしまった。
「ちょっとそう言うのは...」
「僕はルエッタだけしか見てないから。イオンさんの事はその...興味ないですから。それじゃあ...」
「あっ!ちょっと、ラケルタくんっ!」
俯いていた彼は通りすぎ様にそう告げ、走り去ってしまった。
私も彼を引き留めようと数歩前に出て腕を伸ばすが思いの外、足の早いラケルタの手を掴めずに右手が宙に浮いていた。
「ラケルタくん...」
昔のいじめられっ子だった自分と似ている彼を心配し、去っていった方角をみていると、キノコみたいな形で中が空洞になっている、蜂の巣みたいな穴ぼこの岸壁を見つけると。
「彼処が目的地の竜神の村だ。」
「なかなか面白いだろ?ほら、案内するよ。」
「変わった形だね。...それはそうと離してくれるかな?私、べたべたされるの嫌いなんだよね。」
肩に手を置かれ、先程のラケルタへの仕打ちに嫌悪感を感じ、その手を払いのけてそう言い放った。
そしてキノコ型の隠れ家の前まで続いている坂を登らずにジャンプして彼らから距離を取る。
「待ってくれよ!イオンちゃん!」
「折角だからゆっくり行かない?ほら、外から来た人にとっては珍しい物もあるから案内でも...」
「結構です。」
先に行ってしまった私を追いかける彼らを無視して岩壁の中に通じる狭い入り口に足を掛けた。




