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パートナーだから

おはようございます! 一本目です! どうぞ!



 アリシアの家にお世話になり始めてから、三日目。昨日と同じく今日も早く起きることができた。順調にこちらの世界に慣れてきている証拠だ。


 いよいよ明日は義賊の仕事の日だ。不安な気持ちもあるが、楽観的に捉えていよう。


 アリシアはなにやら用事があったらしく、朝からどこかへ行ってしまった。俺も俺で午前中は朱音の情報について探っていた。盲目の可愛らしい女の子を知りませんかと聞いても、聖女に関する話しか出てこなかった。


「結局、手に入ったのは聖女は雪のように白い髪色、ってことくらいか……朱音は赤毛のはずだし、やっぱり人違いか?」

 

 振り出しに戻ってしまったと肩を落としていると、教会の日没を知らせる鐘の音が響いてきた。アリシアは、まだ帰ってきていない。


「アリシア、遅えな……」


 コンコン。コンコン。


 そう呟くと同時に、家にノックの音が響く。俺は武器を磨いていた布をテーブルに放り、重い腰を持ち上げた。


「はいはい、今出ますよっと」


 扉を開けると、そこには見知らぬ長身の男が立っていた。身なりがよく、一眼で上流階級の人間だと分かる。


「あなたは……? ここはアリシア・ハードラント様の家であるとお聞きしたのですが」

「ええ、そうですけどアリシアは今留守にしてまして。そうだ、アリシアに用があるなら、戻ってくるまで家で待ちます?」


 俺がそう言うと、男は首を静かに横に振った。


「いえ、私がいてもアリシア様は快く思わないでしょう。それに、私はこれを渡しに来ただけですので」

「これは……手紙、ですか」

「では、失礼します」


 俺に手紙を押し付けるように渡すと、男は足早にその場を去って行ったのだった。




 * * *


 アリシアへ。


 エルスクリアの街で義賊なんてものをやっていると耳にしたので、急ぎこの手紙をしたためている。


 我がハードラント家が没落したのは、確かにその街の領主セイル・キーツベルグの仕業だ。おそらく、お前は奴への復讐心でその街で義賊をやっているのだろう。


 だが、そんなことをしてなんになる? エルスクリアの領主が女好きで有名なのはお前も知っているだろう。女一人で領主に歯向かって、未来は見えているはずだ。実際、もう目をつけられ始めていると聞いた。


 合同馬車のチケットを一緒に封入している。王都行きの馬車だ。悪いことは言わない、これに乗って、屋敷に戻って来い。


 お前の父、ベンゲン・ハードラント


 * * *





「……」


 これ、見ちゃいけないヤツじゃね? 俺の背中を、冷や汗が伝う。


 つまり、アリシアは貴族かなんかの娘で、それがこの街の領主によって没落。その恨みでアリシアはこの街で義賊をやっている、ということか?

 

 がちゃりと扉の開く音がして、俺は肩を跳ねさせる。


「お、おおアリシア。遅かったな」

「どうしたの? そんな慌てて」

「そ、それより! 夜になるまでどこに行ってたんだ?」


 俺は話をそらそうと、アリシアに問いかける。


「ああ、侵入ルートの下見。ついに決行が明日でしょ? 道を忘れたんじゃ盗るものも盗れないからね」


 下水道か何かから侵入でもするのか、アリシアの格好は汚れている。その場で服を脱ぎ始めたので、俺は慌てて後ろを向いた。


「なんか……すげえな」


 素直にそんな感想が口の端から零れおちた。


「え? なにが?」

「いや、本職の盗賊っぽいなって思って」

「盗賊じゃなくて義賊!」

「義賊っぽいなって思ってさ」


 後ろを向いたまま、衣ずれの音の隙間に俺は言葉を挟んでいく。


「アリシアは」

「んー?」


 俺は冷や汗が噴き出るのを承知で、それでも聞くのをやめられなかった。




「なんで義賊をやってるんだ?」




「へ、変なこと聞くね」

「気になっただけだ。無理に答える必要は……」

「いいよ」


 俺が疑問を取り消す前に、彼女は首を縦に振ってしまった。質問を受けた彼女は了承した以上、俺にそれを拒む道理はなかった。


 アリシアは、一度大きく息を吸って話し始める。


「あることがきっかけで、私たち家族はどん底に落ちちゃったんだ。この街の領主のせいでね。最初はぶっ殺してやる! ってこの街に来たんだけど、そんな場合じゃないなって気づいたんだよね」


 あること、というのは先ほどの手紙の内容のことだろうか。


 アリシアは、自分の間違いを自分で晒すことに抵抗を持っているのだろうか、少し恥ずかしげな声音だ。


「カリンはこの街に来たばっかりで知らないと思うけど、この街、孤児が異常に多いんだ。領主が闇奴隷商を横行させてるせいでね。領主がそれに関する会話をすることを禁じたから表向きはみんな気にしてないように見えるけど、実際はみんな、辟易してる。私はそれで思ったんだ。「この街の子供たち、全員助けてやろう」って」


 俺なんかにはない、崇高な理念のもとにアリシアは行動しているようだ。まあ、三日同じ家で過ごして、この子が心優しい子だというのはもうすでに分かっている。


 アリシアなら、そうするのだろう。きっと、朱音もそう思うはずだ。


 やっぱりどこか似てるんだよな。


「でも、私の力だけじゃ街を変えるなんてできないから、義賊をやってそれで得たお金を食料に変えて配ってるの。だから、私結構有名なんだよ? まあ、『無力の義賊』って悪評がほとんどだけど」

 

 照れながら、アリシアはそう笑う。


「だから、最初に謝っとくよ。ごめんね。仕事は今回だけだから、私の身勝手に付き合ってください」


『ごめんね』

 


 その、申し訳なさそうな笑い方も、ソックリだ。その笑顔を見るたびに、俺は胸が締め付けられるように痛くなる。


 だから。


 俺は彼女の手を取った。幸い着替えはもう終わっていたようで、タイミング的にはバッチリだ。


「身勝手上等だ。ここまで良くしてもらって、相手が下から来てたら逆に落ち着かねえ。少しひっぱりまわしてくれるくらいがちょうどいい。だけど、今の話を聞いて気が変わった」

「え?」



「作戦変更だ。お前には俺がいるだろ。領主ぶっ倒して、この街変えてやろうぜ」

「で、でも」

「一人で無理なら、二人なら行けるかもってことだろ? やってやろうぜ。とことん付き合ってやるからよ」


 アリシアの瞳に涙がたまっていく。潤んだ瞳で、アリシアは俺を真っ直ぐに見つめた。



「どうして、そこまで言ってくれるの?」



「どうしてって、そりゃあ……」


 その諦めたような笑顔を見たくない一心で、俺は言葉を紡いでいた。




「――パートナーだから、かな」



 

 彼女は驚いたように目を見開き、大粒の涙を零した。そして最後には、出会ったばかりのような笑みで、頷いてくれたのだった。




 

 作戦決行は、明日だ。さあ、ぶっ壊してやろうぜ。






どうでしたでしょうか……! 

よければブクマ、評価の方よろしくお願いします!

カリンも、少しは破壊神ぽくなってきたかな……? いや、まだまだですね!

それではいってらっしゃい!

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