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封印とすれ違い

本日三本目です。今日はこれで終わりかな?


「どういうことだ……?」


 目の前の惨状を受け入れられず、そんな情けない疑問が口の端から零れおちた。


 思わず目をこすってみても、なにも変わらない。それが、これが現実だということを俺に教えてくれていた。



 見渡す限りの赤褐色の大地。先程まで道しるべとなっていた小川も、ただの細い亀裂に変わり果てていた。


 これが、『大殺戮』。俺のスキルのせいで、これが。


「マジかよ……」


 膝の力が抜けてしまい、ぺたんと崩れ落ちてしまう。今まで感じていた生命の輝きはいずこへ、今は生命が生活できる環境ではなくなってしまっている。


 異世界転移するよりも、非現実的な出来事だった。


「街だ……。街がある」


 皮肉なことに、木々が薙ぎ払われたおかげであたりを一望できるようになっていた。そのおかげで俺は町らしきものを発見することができた。


 俺は立ち上がり、よろよろとした足取りで街に向かって歩き始めた。


「ステータスオープン」


 自然とそんな言葉が漏れ出た。あまりにもむごい現状から少しでも目を反らしたい一心での現実逃避だったのかもしれない。



 アキナシ カリン Lv17

 スキル:大殺戮 覚醒 殴打

 称号:同族殺し 無慈悲 殺戮者


 

 スキルと称号が一つずつ追加されていた。狼を倒したときには新しいスキルと称号は手に入らなかったので、今の『大殺戮』で手に入ったと考えられる。

 

 称号の『殺戮者』は分かるが、スキル『殴打』はなんだろうか。今の破壊にはなんら関係ないように思うえるが。


「ふっ!」

 

 試しに一度、虚空に向けてパンチを放ってみる。鋭い拳がヒュッと風を切った。三連続で打ち込む。狙いは正確で、速い。確かに殴打は強力になっているようだ。


 『大殺戮』よりは使い勝手が明らかにいいので、これからはこれを使っていこう。


 ふと、後ろを見る。破壊は前方だけでなく、後方にも及んでいて、どうやら三百六十度に破壊はおこるようだ。


「……」


 先ほどの大破壊を思い出す。あれは無差別的で、俺をも飲み込もうとしていたようにも思える。よほど切羽詰まったとき以外は使わない方がいいだろう。


 俺は自分の体に巡る強力すぎる力に怯えながら、歩みを進めた。


 


 * * *




 俺が街にたどりついたのは、日が半分程沈んだころだった。


「はぁ……」


 到着したはいいものの、なにやら物々しい雰囲気だ。門の近くに馬に乗った兵士たちとみられる人々が厳しい表情を浮かべている。


 俺は自然体を装って、検問の列に並ぶ商人らしき人に声をかける。


「なにかあったんですか?」

「あん? なんだ兄ちゃん、知らんのかい。俺もさっき兵士さんに聞いたんだが、レイヘレスの森の封印がついに解けちまったってよ!」

「レイヘレスの森の封印?」


 俺はオウム返しにそう問い返した。すると、商人はいぶかしげな表情になる。


「レイヘレスの森の封印も知らんのか? 常識知らずだな……。その身なりを見る限り、どっかの農村から出てきたのかい?」

「ええ、まあそんなところです」


 俺は苦笑を浮かべてそう答えた。ここにきて初めて防御力ゼロの初期装備が仕事をしてくれた。


「いいか、レイヘレスの森ってのはな。百年前に『破壊神ヴェナゲイト・レイヘレス』が聖女『エルスフリート・セルセイン』に封印された場所なんだ」

「はぁ」

「それで、破壊神が聖女に封印される直前、予言を残したんだよ。『今から百年後、再びこの地に舞い戻り、世界を漆黒に染め上げよう』ってな」

「はぁ」

「それが今年だったんだが……。たまげたことにその通りになっちまった。あの破壊の惨状が一番の証拠さ。だから今から駐屯所の兵士たちが現場検証に行くらしいぞ」

「そうなんですか」


 いきなり饒舌になり始めた商人は聞いてもいない伝説について語り始めてしまった。恐らく、俺がもたらした破壊は破壊神とやらのせいになっているらしい。俺の仕業だとばれなかったのは運が良かったな。


 俺は商人の話を熱心に聞いているふりをしながら、これからのことを考えていた。


「だが安心だ。聖女も『百年の誓い』っつって、百年後に再来することを民衆の前で誓ったからな。昨日のことなんだが、実際にこのエルスクリアの街の教会に聖女が召喚されたらしいからな。お披露目はまだらしいが……ここだけの話、すごいべっぴんさんらしいぞ」

「ほぉ」


 これから街に入った後は、酒場にでも行って朱音についての情報を集めるところから始めよう。あと、定番といえば冒険者ギルドだが……。


「あ、そうそう。兄ちゃんこんな話知ってるか。ゲルバレン地下収容所の巨人の話。実はよ……」

「あ、もういいです。それと、ギルドみたいなのってどこにありますかね?」

「ギルド……? 集会所のことか? それなら門を抜けて真っ直ぐに進めばあるぞ」


 聞きたいことは聞けたので、俺は話し続ける商人から離れた。 


「おい、もういいのか?」

「十分です」


 俺は喋り足りなそうな商人をいなしながら、検問の質問に当たり障りなく答えて無事街に入ることに成功したのだった。


「おお……!」


 たった二日ぶりに人の営みを目にしただけなのに、ずいぶんと感傷的になってしまう。俺は西洋風の街並みを物珍しげに眺めながら、目的地へ足を進めた。




 * * *




「ここが、集会所……?」


 たどりついた目的地は、予想とは大きく異なった場所だった。地域の人々が集まってさまざまなイベントを行う場所とでもいえばいいのだろうか。空き地に申し訳程度の小屋がついていて、コルクボードらしきものには紙が数枚貼られている。。


「本当に集会所じゃん……」


 教えてくれた商人は悪くないのだが、当てが外れて俺のテンションは下降気味だ。


「ん?」

 

 集会所のコルクボードに目を向けると、気になる張り紙があることに気づいた。


「『盲目の聖女、エルスクリアに降り立つ!』か……。気になるな」


 特に、盲目ってあたりが。朱音と何か関係があるかもしれない。この紙に書かれている教会の場所は、書いてある地図を見る限りここからほど近い場所にあるらしい。


 まあ、ダメでもともとだ。


「行ってみるか」


 夕暮れの街を、俺は少し小走りになりながら教会を目指した。


 日が沈みかけている時間の教会は、少し古びていることも手伝って不気味に感じた。それでも重い扉を叩いて人を呼ぶ。


「ごめんくださーい」

「もう日も暮れますが……何の用でしょう」


 シスターらしき人が出てきて、俺に応対してくれる。目的を誤魔化しても仕方ないので、俺は正直に伝えることにした。


「この盲目の聖女様? に会いたくて来たんですけど」

 

 すると、シスターは表情を曇らせる。


「申し訳ございません。聖女様とは今何人たりとも面会できません」

「いや、たぶん俺聖女様と知り合いだと思うんですよね」

「聖女様とはエルスフリート・セルセイン様ですよ?」

「そう、そのエルスフリートさん。俺知り合いなんですよ」


 自分でも苦しい言い分だなと思いながら俺は言葉を紡いでいた。その証拠にどんどんとシスターの表情が不審者を見るものに変わっている。


「百年前の人物の知り合いが今生きていて、しかも訪ねてくるとは思えませんが」

「ですよねー」

 

 俺は肩を落とすが、諦めない。最後の望みをかけて、シスターに懇願した。


「どうか聖女様に取り次ぐことだけでもできませんかね?」


 シスターは迷っていたようだが、俺の土下座でもしそうな勢いに押されたのか、ついには首を縦に振ってくれた。


「聖女様にお聞きするだけですよ?」

「ありがとうございます!」


~五分後~


「ダメです」

「え、でも」

「聖女様にはそんな知り合いはいないとのことでした。お引き取りください」

「……」


 そう言われてしまえば仕方無い。俺は踵を返し、とぼとぼともと来た道を戻るのだった。

 








 * * *








 side:アカネ


「はぁ……」


 与えられた自室で、私は椅子に座りながら考え事をしていた。夕食は大変美味しかったが、毒が盛られていないかとびくびくする私はとても臆病だ。


 あれから一日が経過したが、特に状況に進展はない。いまだ私が聖女ではないことはばれていないが、夏林が訪ねてくることもない。


 唐突に、ノックが部屋に響く。


「どうぞ」


 すると、扉がためらいがちに開かれる。足音から推察するに、アイラさんのようだ。


「アイラさん、どうされたんですか?」

「……驚きました。目が見えないのに、どうして私が分かったんですか?」

「私は目が見えない代わりに聴覚には自信があるので。足音で分かりました」

「流石聖女様ですね……!」

「う……」


 一点の曇りもないその賛美が、騙していることを責めているかのように聞こえる。だって仕方無い。ばれたら殺されるんだから。


「それにしても、こんな夜更けに何の用でしょう」

「ええ、それなんですが」


 アイラさんは困ったような声音で、私に用件を伝えてくる。


「聖女に会いたいと言っている人がいる?」

「はい。中々強情な方でして、絶対エルスフリート様を知っていると……」

「……その人は、エルスフリートを知っていると言ったんですね?」

「はい」


 背中を冷や汗が流れ落ちる。その人と面会したら、私が聖女エルスフリートではないとばれてしまう。ここはなんとしても追い払わなくては。


「即刻追い返してください。私はそんな人を知りません」

「わ、分かりました」


 私の剣幕に押されたのか、アイラさんが焦ったように了承する。


 アイラさんが部屋を出て行った。再び独りになった私は、ため息をつく。


「夏林……」


 見えない世界の、たった一つの道しるべ。それが彼だった。それがなくなった今、私は何をすればいいのか、どこに行けばいいのかすら分からない。


「はぁ……」


 幾度目かのため息は、どこまでも遠く伸びていった。





 このときの私は知らない。自分から再会のチャンスを投げ捨てていたことを。





 お楽しみいただけたでしょうか……! 明日からも毎日投稿は続けていこうと思います。どこまでいけるかは分かりませんが。

 ぜひブクマ、評価の方よろしくお願いします!

 それではおやすみなさい。

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