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大殺戮

本日二本目です。

 

 チュンチュンと小鳥たちのさえずりが聞こえる。これが本当の朝チュンか。そんな冗談を飛ばしながら、俺は洞窟を出た。


「よく寝た……」


 強い光が俺の体を照らす。目をこすりながら、俺は太陽の光を浴びて伸びをした。


 すっかり夜は明け、太陽は俺の真上に昇っていた。どうやら随分と疲れていたようだ。


 だがまあ、よく寝たおかげで頭も体もすっきりとしている。やはり一日の活力の源は睡眠だな。


 小川で顔を洗って喉をうるおしていると、俺の腹から大きな、そして情けない音が腹から鳴った。


「……」

 

 誰も見ていないとはいえ、少し恥ずかしい。俺は赤くなった顔を冷ますように、もうひと掬い水を顔にかけた。


「確かに、腹が減ったな……」


 都合よく獣の類でも現れてくれないものか。そんな都合のいい話は存在しない。それが実現するなら朱音もこの場にいるだろう。


 それにしても、獣か。モンスターみたいなのもいそうだし、襲われたら嫌だな。


「まさかな……」


 未だ鳴り続ける腹をさすりながら、俺はまた小川に沿って歩き始めた。




 * * *




「マジか……」


 後はどうなったかおわかりだろう。


「グルルルル……」


 汚いサイレンのような低いうなり声。野生の狼さんがこんにちはしていた。剥き出しの牙からはよだれが垂れていて、あちらさんもどうやら腹がすいているようだ。


 特筆すべきは、そのサイズ。博物館とかで見たことのある狼の二倍以上はある。


「これがモンスターか」


 食い応えありそうだなと思ったが、そもそもどうやったら勝てるのか分からない。


 なので。


「っ!」


 俺は逃げ出した。腹減っていたとか関係なく、命の危機を感じた。当然狼は追ってくる。


「グルァッ!」

「ちょっと、速過ぎない?」


 ひ弱な人間(レベル1)が狼と競走して勝てるはずもなく、一瞬のうちに回り込まれてしまった。


 狼は今すぐにでも俺に飛びかかってきそうだ。


 体中をいやに冷たい汗が伝う。やらなきゃやられるのは、俺だ。


「やる、しかねえ……!」


 体にぐっと力をこめ、俺は懐からこぶし大の石を取り出した。それを狼に気取られないように、慎重にだ。


「来るなら来い……!」


 狼と俺は睨みあう。一秒、二秒と時間は過ぎていく。数十秒たって、冷や汗も緊張も最高潮になった頃だ。


「アゥッッ!」


 我慢しきれなくなった狼が俺に飛びかかってきた。


 俺はタイミングを見逃さないように目を一杯に開き、ぶつかろうとした瞬間、真横に跳んだ。


「フゥッ」


 狼が俺の真横を通り過ぎていく。


 息が荒くなる。だが、何とかかわせた。俺は、間髪入れず後ろ姿を晒した狼の頭頂部めがけて渾身の力で石を振り下ろした。


「グャァッ!」


 何かを押しつぶすような感触。嫌な感覚だった。どくどくと血があふれ出し、狼の頭と俺の手を汚していく。

 

 それから、同じように数回殴打した。


「はぁっ、はぁっ……っし」

「クゥゥゥン……」


 最後は子犬のような鳴き声をあげて、狼は目を閉じた。


 殺しに対する忌避感はあまりなかった。まあ、()()()ので慣れてるしな。


 まあ、何はともあれ脅威は去った。俺は狼の皮を鋭い石で削いで、中の肉を取り出した。石優秀すぎかよ。


「おお……」



 思わず感嘆の声を漏らしてしまうほど、見事な肉だった。赤くて、つやつやと脂が乗っている。


 一応小川で肉を洗ってから、俺は狼肉を食すことにした。調味料もないが、すぐにでも食べたかったのだ。


「それにしてもウマそうだな……」


 もう生肉とか味がないとか関係なかった。というか腹減った状態でこんな肉我慢するのなんて無理。


「いただきます」

 

 俺は一気に肉にかぶりつく。味がなくても空腹は最大の塩というか、とても美味しく頂けた。


「うめえ、うめえよ……」


 そのまま数分の内に俺は切り落とした分の肉を食べ切り、食後の休憩を嗜むのであった。




 * * *




「あ、そうだ。ステータスオープン」



 アキナシ カリン Lv2

 

 スキル:大殺戮 覚醒

 称号:同族殺し 無慈悲



 モンスターを倒したのだからレベルが上がっていないかと思ったが、案の定上がっていたようだ。



 だが、体には何も変化がない。飛んだり跳ねたりしても、いまいちピンとこない。



 あまりレベルアップしても恩恵は少ないのか、はたまた別の意味があるのか。それは分からないが、まあとりあえず異世界最初の戦闘は俺の完勝ということで。


 狼肉をズボンに数枚ぶら下げながら、俺はまた小川に沿って歩き始める。


 保存は利かないだろうが、いつまた食料にありつけるとも知れない。持っていて損はないだろう。


 昨日は新鮮に感じたこの景色と音も、もう飽きがきて退屈になっている。あれだけ心を癒されたはずの鳥の鳴き声すら今は鬱陶しく感じてしまう。


 何か面白いことがないかと考えてみて、俺は一つ思いつく。

 

「スキル、試してみるか……」


 状況に翻弄されていて中々試す機会がなかったが、戦う力を持たない俺にとってスキルは自分の身を守る手段になるかもしれない。早めに試しておいた方がいいだろう。


 まずは、安全そうな方から。


 俺はとりあえずスキル名を叫んでみた。


「『覚醒』!」


 ……。


 何も起こる気配はない。


「何も起こらない、か……」


 少し期待外れだ。名前が格好いいので何か起こるかとワクワクしていたんだが。俺は下がったテンションを持ち直すように、わざと明るい声を上げた。


「はい、次だ次」


 気を取り直して、俺はすごく危険な香りがするスキル『大殺戮』を試してみることにした。名前からして、結構強そうなスキルだが、どうだろうか。


 

 何が起こるか分からないし、俺は周りの安全を確保してから、スキル名を叫んだ。




「『大殺戮』!」



 


 唐突に、辺り一帯を強風が薙いだ。次いで、辺りを大きな揺れが襲った。


「っ!」


 その勢いが強すぎて、立っていられず俺は倒れこんでしまう。地面に伏せ、目をつむって風と揺れが止むのを待つ。


 今一ミリでも動いたら一瞬で死ぬ。狼と対峙した時よりも圧倒的に濃厚な死の気配が俺を撫で上げる。


 思わず、全身を鳥肌が包み、震えが止まらなくなってしまう。


 震えながら俺は早く風と揺れが収まることを願った。


 すると、徐々に風の勢いがやみ、揺れも少しずつ落ち着いてくる。


 完全にそれが収まり、何とか助かったと俺は安堵する。


「ふぅ……」


 俺は息を吐きながら、ゆっくりと立ち上がった。



 そこで。



 あたり一面に広がっていた鬱蒼と生い茂る森は見る影もなく、地割れがところどころに広がり、赤土が露出している荒々しい大地が広がっていた。




「え……」


 すっかり変わり果てた風景を目の当たりにして、俺はこのスキルの恐ろしさを思い知ったのだった。




 二本目の投稿でしたが、どうでしたでしょうか……! いやほんと一話一話短くてすみません。

 今日中に三本目行ける、かなぁ……?

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