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しーく・せるふ・おんらいん  作者: 士月十旭
12/13

お得な買い物

誤字脱字が酷かったらごめんなさい。

「できた」


縫い上げてから不備がないかひと通りのチェックを済ませようやく新しい装備品がひとつ完成した。

はじめのころはいびつなところがあった縫い目も均等になり、縫い上げ速度も上がって、イメージ通りに仕上がったひざ下丈のカーゴパンツに満足する。


特に、頑張って出した深い緑色がいい。

まる一日色出しで潰したかいが十分にある。



きっかけは一昨日のシシィとの会話。


俺がエマさんの店に駆け込んで小言をもらい、森に素材探しに出かけ、手前の方の森のセーフティエリアで一泊し朝帰りした日の朝。


ギルドに戻り、出かけにはいなかったシシィを見つけ報告をしに受付けへ向かう。

近づく俺に気づかないシシィは片頬に手を当て小さくため息をついては何かを思案し唸るをくり返していた。


「シシィ…?」

「え?あぁ、タタちゃん出かけたの?お帰りなさい」

「何か、あった?」

「薬草の在庫が増えちゃってねぇ。最近また街に来訪者の人たちが増えてその分、ギルドに薬草を売りに来る人も量も増えたの。断るわけにもいかないからすべて買い取りはするんだけど、中には傷がある薬草も多くて、でも欲しがられるのはやっぱり状態の良い方なのよね。このままじゃ大量の薬草が廃棄なっちゃいそうで……ほんと、どうしようかしら」


最後にまた小さなため息をひとつ。

続いて唸り出す前にシシィの袖を軽く二度引く。


「買う」

「え?」

「傷があるの、全部買う」

「タタちゃん!?全部って…本当に大量よ。気持ちは嬉しいけど、いくらタタちゃんでもすぐに使い切れる量じゃないわ。話を聞いてくれただけで十分よ」

「大丈夫」


やろうと考えていたことへの事前実験に使えそうでちょうどいい。

うまくいけば大量消費が可能。

俺は面倒な材料集めがなくなり、ギルドは邪魔な在庫がなくなる。

唯一気がかりな薬草代も、今までの売り上げにほぼ手をつけてこなかったから問題ない。はず。


「大丈夫」しか言わない俺に安心も納得もできていないことをシシィの下げられた眉が俺に訴えてくる。それでも説明するのが億劫で、詳しい内容も告げないまま何も言わず目を合わせ続けるかたちで強引に押し切る。

シシィとの見つめ合いで勝利した俺は代金は預けてある中から引いてもらう形をとり、量が量なだけにシシィの勧めで部屋まで薬草をギルド職員に運んでもらうことにした。いろいろ任せるばかりで申し訳ないが、最後にギルドにある一番大きな鍋を借りたいこととそれを薬草と一緒に運び入れて欲しいことをお願いして自室へ向かった。




部屋に戻った俺を丸く膨れた大きめの麻袋が2つ。とコンロの上に寸胴に近い型の鍋が1つ鎮座して待っていた。


俺を先回りして届けられた方法を探るよりも、早く試験したい気持ちが強く、早速1つ分の麻袋の中身をぶちまける。

床に広げられた傷がある薬草の中でも変色したり、傷みが進行してたりするものを外していく。

使える薬草をいったん麻袋に戻し、もう1つも同様の作業を行う。

選別だけで結構な時間がかかり、すぐにでも始めたい気持ちを抑え作業を翌日に持ち越す。



作業に集中したかった俺は朝一で顔見せ挨拶だけは済ませ、この日一日部屋に引きこもった。


昨日選別した薬草を鍋にまずは1袋分。

薬草がすべて浸るくらいの水を注ぎ、火にかけ沸騰を待つ。

待っている間に「冒険者の服(下)」を取り出し少しでも染まり易くするために軽く水に浸しておく。

本当は豆乳でやるべきことだけど、今は用意がないし使わなくて済むなら今後のためにもその方が、楽な方がいい。


鍋の中の薬草の体積が減ったら残りも入れてしまう。

沸騰してからは20分程煮詰めて色を引き出していく。

透明だった水が緑色を通り越してパッと見は真っ黒の熱湯に変わる。


十分に色が出たら火を弱め邪魔な薬草をざるで掬う。以前、現実世界(あちら)で作業したときにはもう1つ鍋を用意してきちんと煮汁を濾した工程も簡略化させる。


細かい欠片には目をつむり、白地のズボンをゆっくりと鍋に沈めていく。

そのまま弱火で10~15分。

菜箸やトング等の在るものでズボンを鍋から頑張って取り出す。次に本来なら「媒染液」という色を定着させるための液に浸けるところも今は用意がないので省き、火傷に気をつけて流しに桶や(たらい)の代わりに大きめのボウルを置き流水で濯ぐ。


思ったよりも薄まった色味に、火を点けたまま温度を保っておいた鍋へもう一度漬け込み、煮込んで濯ぐを好みの濃さになるまで何度もくり返した。



染める素材、大きさを変えて試した結果。それらに関係なく色出しした液、「染料液」さえ用意できれば現実世界よりも楽に草木染めができることがわかった。

媒染液はお酢に鉄錆、もしくは銅を漬け込めば簡単につくれはする。けど、使える状態になるまでに約3日は必要だから手間が省けて助かる。


これで1つ問題が解決した。

今は単純に染めただけだけど、絞りをつくったり木板で挟んだりして柄や模様をつけてもいいし、多色染めにしてもいいな。

ただあの花が使えるかは不明だけど可能性は高いと思えてきた。


まだ完成しない内から次回の構想を立てつつも、俺の手は休まず動く。

水筒用の素材で確保している竹を物干し竿代わりに染めたものたちをピンと張って干す。後は乾くまで待つのみ。



翌日、乾くことで多少薄まる色が想定の範囲内にあることを確かめて次に控えた、ある意味俺にはこれからがメインとなる工程へ移る。

作業台の上には、深い緑色に染まったズボンとウィードウルフの毛皮、ビッグスパイダーの糸に裁縫道具セット。


まずズボンの裾をひざ下丈に合わせて余分な部分を切る。

手を伸ばし易い位置を確かめズボンの両外側の脇に印を付ける。印の位置を覆うかたちで足したい外付けポケットに必要なパーツをウィードウルフの毛皮から確保。

あとは待ち針でズレないように各所固定させたらミシンで一気に縫って仕上げる。

形や素材が違っても何着と手掛けてきた俺は慣れた手つきで、昨日までシンプルで素っ気なかったズボンを好みのかたちへリメイクしていった。


そして冒頭に戻る。





新しいアイテムをつくった後の恒例になった鑑定を行う。


緑快(ろくかい)のカーゴパンツ:薬草で深くまで染まった素材のみでつくられたカーゴパンツ。わずかに抗菌、消臭作用あり。

 効果:VIT+2、一日6回戦闘後にHPの6%が回復

 作者:タタ』


また予想外……というか微妙で、ネタっぽい効果がついた。

大量の薬草を使って何度も染めを重ねたから?覚えてないけどそれが6回だった。ってことはないと思う。たぶん。

三毛猫のラッキー効果の影響もあったり?


まあそのへんの検証は追々。


効果の内容や発生条件よりも今は履き心地や使い勝手の良さを重視したいおれは早速装備を変更して試着する。

ポケットに手を出し入れしてみたりその場で屈伸してみたり、いろんな動きをして確認がてらズボンを身体に馴染ませていく。


うん。問題なし。


仕上がり具合に満足していたらメール着信のアナウンスが届いた。連続で。


『アカツキ>今から噴水前に来い!ダッシュで』

『ユヅ>やっと戻って来れたから会お!広場の噴水で待ち合わせね♪駆け足だよ、タタ兄』


俺の弟妹(きょうだい)は相変わらずのようだ。

こっちの都合や状況はお構いなし。アカツキは完全な命令だし、ユヅはニュアンスが柔らかいだけで内容はアカツキとほぼ変わらない。


どうするか。


いつ連絡が来てもいいようにまとめて避けて置いておいた回復アイテムセットがあるのて渡せはする。

でも今のいいテンションからの流れでエマさん依頼の服をつくりたくもある。


さて、どうするか。


今から二、三日かけて服をつくったとしてもエマさんに見せるのを一日待たなくちゃいけない。

できたらすぐに見せたくなるだろうし……。仕方ない。


『タタ>りょーかい。先、合流よろ』


同じ場所にいるようだし、おれに慣れてるふたりにはこれでも十分通じる。

ユヅの姿をまだ見たことがないから赤く目立つアカツキに目印になってもらおう。


アカツキたちのときと同じでユヅにもステータスをせがまれそうだ……なあ!


一度森の中で確認してからステータスを開いていなかったことに今さらながら気づく。

攻略メインでプレイしてないから特に気にしてなかった。

このまま会ってれば確実にふたりから突っ込まれ小言を言われる。


ちゃっちゃとポイントをふっとこ。

まず今のステータスを確認して。


タタ LV.9

HP:229     MP:212

STR:9(+3)  VIT:9(+3)

INT:8     MND:8

AGI:26     DEX:36

LUK:48(+1)


BP:30      SP:56


さすがに一桁はなくなるように。特性は活かしたまま。外していた黒夜のコートも装備させ改めて更新したステータスの確認。


タタ LV.9

HP:229→249     MP:212

STR:9→15(+3)  VIT:9→15(+8)

INT:8→12     MND:8→12

AGI:26→28(+2)  DEX:36→40

LUK:48→50(+1)


BP:30→0      SP:56


スピード特化の生産重視。強運は継続で……うん!問題なし。


SPの貯まり具合からLV上がっていることはわかっているスキルも上がり方の偏りに驚きはなく、ひとり納得していた。


「速歩LV.4」「採取LV.5」「鑑定LV.5」「解体LV.1」「料理LV.6」「裁縫LV.4」「細工LV.2」「食薬LV.2」「リメイクLV.1」「短剣術LV.2」「火魔法LV.1」「水魔法LV.1」


上位をしめるのはは生産関連のスキルばかり。

基本的にスキルサポートを使わないから余計上がりやすいんだと思う。


あとはアイテムを整理しないと。

これから渡しにいく回復アイテムだけでリストの約3分の1が占領される。

誤って、話に出していないジャム、特にMP回復効果のある蜂蜜オレンジジャムをふたりの前に出してしまわないように離しておく必要がある。


アイテムリストを開きアイテムの入れ換えるためスクロールしていく。


!!?


いつ、どこで、どうして入手できたのかわからないアイテムがひとつ。

増えていた。

いや。いつ、どこでは何となくわかるのだ。ただ、どうしてがわからないけど。


食べようと用意していた蜂蜜キイチゴジャムのせハチミツたっぷりのスコーンがいつの間にか消えていたことと関係ありそうだけど。


とりあえず考えは後回しにして部屋を出た。






広場に続く通りの脇でいくつも虫かごを重ねて並べる露店商の男がひとり。特に周りに声をかけ呼び込みをすることもなく目を閉じ静かに座っていた。

足元に置かれた立て札には「テンチュウ売ります」の文字。


近づき虫かごを覗けば大きくてカラフルな繭玉が1つずつ入っている。

この繭玉がテンチュウ?


首を傾げ眺めるおれの存在に気づいた男が簡単に説明してくれる。


「これはイモムシ型のノンアクティブモンスターでな。個体によって体の色が異なり、体色と同じ色の繭玉をつくるのよ。繭から紡がれた糸は丈夫なうえ、いつでも安全に採取できる。場所もとらずエサは草なら何でもいい。手軽に飼えることも含め戦闘スキルを持たない職人からは重宝されている。どうだ?坊主も1つ買うか?」


なんと。便利モンスター。

(かいこ)さんだ。


試しに値段を聞くと、ピンからキリまであり需要が高く人気色の個体ほど値が張るそうだ。

今需要が高いのは白で、人気色で希少なのが黒らしい。


1つずつかごの中を眺めているなかで1つだけ離されて置かれたかごを見つける。

中には、なぜか繭玉になっていない白と黒でダルメシアンっぽい斑模様をした明らかに他よりも小さいテンチュウが入っていた。


「これは?」

「あー……それな。珍しいから捕まえたんだが、見目が悪いわ繭玉にならないわで売れ残ってるでき損ないだ」


何となく気になってバレないようにこっそり鑑定をかける。


『ミクステンチュウ(♂) LV.1

テンチュウの変種体。希少種。

食べた植物の色を体内で混ぜ合わせ、多色の繭玉を生成できる。

繭玉1つに通常個体の3倍の植物を必要とする』


希少種でした。

小さいのも繭玉つくれないのも単純なエサ不足なだけなだけですな。


「いる」

「マジか。買ってくれるならこっちとしては助かるが、いいのか坊主。あとから文句はなしだぜ?」

「んっ!」

「なら300でいい。おまけで専用の糸巻きも付けてやる」


力強く頷いたおれに、引かないと理解した男はばつが悪そうに頭を掻きながら代金を受け取り糸巻きとセットにして渡してくれた。

通常のテンチュウは一番安くて500Gだったからはるかに安い。


虫かごを受け取ったおれにアナウンスが届く。


《新しいスキル「テイム」を覚えました》


ミクステンチュウは危険性がほぼ皆無とはいえモンスターだから今のスキル獲得は強制的なものなのだろう。

テイムしたなら名前を付けなくては。

ミクステンチュウの「ミック」で。よろしくミッくん。



露店を離れるときに別売りされていた糸巻きの値段をちらりと見たら300Gになっていた。

ミクステンチュウの方がおまけ扱いだったみたいだ。

もし露店の男に鑑定スキルがあったら。満足できる分の多くのエサをあげていれば。

今さらで、ありもしないたらればな話を考えてもしょうがない。




小さなお供と一緒に、アカツキとユヅが待つ広場へ向かった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] とっても面白いです!! 登場人物のキャラがたっててわかりやすく、主人公とのやりとりが面白いです!! [一言] 4月頃に読ませていただいたんですが、奇跡的に再会できて良かったです!!お体にお…
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