適当な三択
久しぶりの投稿になります。
誤字脱字が酷かったらごめんなさい。
俺は今、エマさんの店に向かって急いでいた。
開店前に訪ねたくて。
俺が手を加えつくり直し上書きされた各服の製作者名を隠すため用意していたタグの後付けをできていないことに気づいたのが、今朝。
運営から全プレイヤーへ送られた《SSO》のプレイ時間に関したルール改定を仄めかす通知を読んだ後。軽く再反省し昨日を振り返ってて。
完成後、時間が経ってからでもタグの効果が機能することは原野のコートで確認していた。
だからエマさんに視てもらった後で付けさせて貰おうと布製のタグは準備していたのに。
寝落ちして強制連行で生産ギルドへ帰されたからタイミングがなかった。
自己管理の甘さが生んだ結果の今だ。
ちなみに運営サイドもあまり縛りを設けたくないらしく、メールには、節度あるプレイをお願いしたい。無理ならルールで縛ります。みたいな内容だった。
今回の俺と同じようにムチャなプレイの仕方をした人の中にはログアウトから再ログインまでが秒だった人もいたと書かれていた。
カランッ……
「エマさん……はぁ、はっ…いるぅ?」
開店準備で鍵が開けられていたのを幸いに店の中へ駆け込む。
「何だい騒がし…ってタタ。アンタまさか、またムチャをしたんじゃないだろうね?」
「ちがう。昨日の服」
「仕立て直してくれたやつかい?」
「ん」
「ちょっと待ってな」
俺を見て厳しい顔を見せたエマさんに昨日渡した服をお願いすれば、不思議がりながらも快く引き受け奥へと戻っていく。
クエスト報酬はスキル「リメイク」、各服の適正買取り価格分のお金+ホップコットンの生地とビックスパイダーの糸。ただし素材は受け取る条件に、今度は一から俺がつくった服をエマさんに見せることが付いてきた。
それを了承した俺は、新たなクエスト「服職人からの試練」も同時に受理されていたのだ。
このことは依頼主であるエマさんは当然知ってる。加えてムチャした結果の寝落ちという前科がある俺が駆け込んで来たことで、余計な心配をさせてしまったようだ。
「持って来たよ。まだ店に並べる前だったから全部揃ってあるはずだけど、一応確認しておくれ」
「ん。ありがと」
両手に抱え運ばれて来た服を一着ずつ手に取り確認していく。
用意しておいた肉球スタンプのタグを隠すように取り付けたことで、間違いなく製作者欄に「タタ」と自分の名前が表示されなくなっていることを。
これでひと安心。
レベル一桁で今だ冒険者の上下を着ている俺なんかを相手にまずないとは思うが、中には探しだしリメイク装備に対するいちゃもんや新たな要望を言いに来る奇特で暇な誰かがいないとも限らない。
そのせいで自由な好モノづくりができなくなったら……そうならないためにも自意識過剰なくらいに俺へ繋がりそうな情報はできる限り隠していこう。
タグ付け完了した服を改めてエマさんに納品する。
「まったく。人騒がせな子だよ」
「ども、でした」
「おっと、ちょっと待ちな」
エマさんへ頭を下げ、これ以上邪魔にまる前に店を去ろうと180度回転したところを後ろ襟を掴まれ止めらる。
首が締まりかけ、浮かせた状態で踏みとどまった足を元の位置へ静かに下ろして半身を捻りエマさんの方に顔を向けた。
眉を下げ困り顔でいるエマさんの次の言葉を待つおれのきょとん顔に、何かを諦めたエマさんが盛大なため息を吐く。
「本来ならこんなこと必要ないししたくないんだけどねぇ。今、タタに出している服の製作依頼、あれの内容を一部変更することにした」
「変更」
「そうさ。見せるのはいつでもいいと伝えていたけど『7日以降』に変えさせてもらうよ」
「7日、以降?」
ため息の後解放されていたおれは、向かい合い直したエマさんから聞かされた内容に首を傾げる。
「そう7日以降。いいかいタタ、どんなにアンタが服を早く仕上げ来たとしても7日経たない内はあたしが受け取ることはない。後ろの期日は変わらずないからゆっくりじっくり考えてつくるんだよ。今度またあたしの目の前で倒れでもしてごらん、その時点で今回の依頼はなかったことにさせてもらう。いいね?」
「ん」
いろいろ言われたが結局は「無茶して無理するな」、「自分の体を大切にしろ」と。
おれが頷いてもその場限りにしそうだと判断したエマさんは2つの追加条件付けという一種の強行手段に出たのだろう。
昨日に続き心配かけたエマさんへ感謝の気持ちをきちんと言葉にして伝えれば、用が済んだなら開店の邪魔だと、犬猫を追い払うかのように手がしっしっと振られた。
三毛猫のおれはそれに従いおとなしく店を出た。後ろに「7日後以降だよ!」と念押しする声を聞いて。
邪魔にならない通りの端で進行中のクエスト「服屋の興味」の内容を確認する。
『クエスト「服屋の興味」
クリア条件:エマから貰ったホップコットンの布を使用したオリジナルの服をつくりエマに見せる。
失敗条件:クエスト進行中に昏倒する(戦闘時は除く)。
制限期日:7日以降(あと7日)
報酬:服職人の証』
すでに反映され本来なかったはずの失敗条件と制限期日が増えてた。
運営の仕事がはやい。
つくる予定の服の内容はまだ白紙。
決まっているのはシャツをつくることだけ。
とりあえずギルドに戻って素材の整理。あとシシィにヒントになりそうな素材や資料がないか聞こう。
ギルドに向かい、まだ人がまばらな商店街を駆けそうになった足をいつもより少しゆっくりな歩みに変えて戻る。
部屋に戻ったおれは早速アイテムリストを開いた。
初級ポーション×3、薬茶(極)×10、薬茶×20、薬茶クッキー×3
牛乳×1、小麦粉×2、キイチゴ×6、オレンジ×1、オリドリの卵×3、オリドリの肉×2、ハニービーの蜜玉×5、ハニーベアの蜜壷×1
オシドリの羽根×5、ホーンラビの毛皮×2、ホーンラビの角×1、ウィードウルフの毛皮×1、ウィードウルフの牙×3、ハニービーの針×3、ビッグスパイダーの糸×1、頑蔓草×6
冒険者の服(上)×3、冒険者の服(下)×4、裁縫道具セット、細工道具セット、調理道具セット、調味料セット(タタ専用)
以前と内容は変わっても圧迫率が変わらない。
やっぱり数を制限されるのがつらい。早めに何か解決策を見つけないと。
後でシシィにマジックバッグか似たものがないかも聞いてみようかな。
今は加工できる素材は加工しちゃって、すぐ必要にならなそうなアイテムは部屋に置いとく。無理ならまだ預かってもらってる小麦粉と一緒に保管してもらおう。小麦粉ができて他ができないはないはず。
まずはオシドリの肉を一口唐揚げに。
一口大に切ったオシドリの肉にハニービーの蜜玉を塗り、よく揉んで馴染ませる。小麦粉を纏わせ揚げれば完成。
次は残りの小麦粉と牛乳、オシドリの卵でのタネにハニービーの蜜玉も加えてつくるのはマフィンかスコーンか。両方つくればいいだけなんだけど空き枠確保のために今回はスコーンのみ。
残りの食材はキイチゴが6個にオレンジ1個。そしてハニーベアの蜜壷。
スキル「食薬」を得てから一部の食材アイテムの説明内容に簡単な効能が追記された。残した3つがそれだ。
キイチゴは「視力向上」でオレンジが「精神安定」、ハニーベアの蜜壷が「全疲労回復」。
直接的な言い方がないうえ、効果ではなく効能表記なのは手を加えて初めて効果が付くらしい。だからそのままでは美味しくてもポーション系アイテムと同等の扱いはできない。あくまでも食材アイテムだ。
そこで今回は素材を生かしスコーンに合うジャムをつくろう。
まずキイチゴとオレンジを丁寧に水洗い。
そのままだと少し大きいのでキイチゴ6個を二等分にして鍋に入れ火にかける。
少し水分が出たところでハニーベアの蜜壷からハチミツを加え焦がさないようにやさしく混ぜつつアクも取っていく。
水分がとび過ぎないところで火から下ろし瓶に詰め、あら熱を冷ます。
次に半分に切ったオレンジから果汁を搾り、果肉を丁寧に掻き出す。皮は白い部分を切り取り千切りに。
皮特有の苦味をなくすために3度お湯に潜らせ軽く絞るをくり返す。
果汁、果肉、皮の全部とハチミツの残りを鍋に入れ同じように煮詰めアクをとり瓶詰めに。
とりあえず終わった。しかし、ハニーベアの蜜壷が分割使用できてよかった。やっぱり特殊な入手法のアイテムだから?アイテム自体が特殊だとか?
まぁ、できたからいいや。
これで食材アイテムは使いきった。
まず回復アイテム以外を全部出してみる。並べたアイテムの中でとりあえず調理道具セットと調味料セット(タタ専用)は戻す。
置いてくものの中から、もし採取中に枠が埋まった時用にアカツキたちから貰った冒険者の服を鞄へリメイクしてもいいけど、布は他にも使える。ので、頑蔓草全部を使ってできるだけ大きな背負える籠を編む。
部屋を出る前のアイテムリストの再確認。
初級ポーション×3、薬茶(極)×10、薬茶×20、薬茶クッキー×3
オシドリの唐揚げ×10、スコーン(ハニー)×6、蜂蜜キイチゴジャム×1、蜂蜜オレンジジャム×1
背負籠×1、調理道具セット、調味料セット(タタ専用)
半分以上は空けれたかな。
しかし、ジャム2種類についた蜂蜜キイチゴの「命中率上昇」と蜂蜜オレンジの「MP3%回復」の効果には驚いた。
ハニーベアの蜜壷のハチミツが大きく影響してるかもしれないけどMP回復のアイテムができてしまった。これから食材の効能に精神関係があったら試して確認していこう。
タイミング悪く席を外していてシシィに素材の相談ができなかったおれはとりあえず森の奥を目指す。新しい素材を探しに。
森まではアイテムをなるべく増やしたくないから草原では薬草類とオシドリは無視し、襲ってきたホーンラビやウィードウルフを仕方なく倒していく。
何匹目かの戦闘の後。前から少し気になっていた倒してから光る粒子になって消えるまでのタイムラグ、そのわずかな間になんとなく触れてみる。
すると倒したホーンラビは消えることなくそのまま存在し続けた。
周りが安全なことを確認してナイフを入れる。
出血表現がないとはいえ、あまり抵抗がないことをどこか他人事のように感じながら入れたナイフを動かしていく。うろ覚えの知識で角を切り取り、皮を剥ぐ。
作業を終えた手元には切り口の悪い角と所々ボロボロな毛皮。そして丸々一匹分の肉。
そう。肉がブロック肉じゃないのだ。毛皮だってボロボロとはいえ一匹分。四角い毛皮じゃない。
衝撃の新発見!
ドロップでは加工しやすくても量が不釣り合いな素材アイテムが手間が増えても一匹相応の量が手に入るのだから。
そこから戦闘になれば自力の解体をくり返しやっと毛皮を傷付けずに剥げた瞬間アナウンスが届く。
《新しいスキル「解体」を覚えました》
森のセーフティエリアにたどり着き小休憩。
薬茶を飲み、草原で試したドロップと解体スキルと自力解体での獲得アイテムを振り返り違いを考える。
ドロップ素材を例えるなら加工済みの素材。使いやすいけど量が少ない。
解体スキルを使うと一匹分の素材が一定レベルで手に入る。
自力解体は自分の手でやるから当然質や状態にバラつきが出る。が、代わりに腕を上げれば高品質の素材が高確率で手に入るようになる。
ただ、ドロップでしか手に入らないアイテムもあった。オシドリの卵だ。
そのときの目的と欲しいアイテムに合った適当な方法を三択から選ぶしかない。
今までにあまり出たことがないけど装備アイテムなどは当然ドロップ限定アイテムになるんだから。
たぶんハニービーの蜜玉やビッグスパイダーの糸とかもドロップアイテムだろうな。
唐揚げを1つ食べて薬茶を飲み干しセーフティエリアを出た。
森の奥へ。周りに生える植物に注意を向けこまめに鑑定をかけ使えそうな素材を探しながら。
キイチゴ、オレンジを始め、新たにレモン、コモモとブルーベリーのフルーツ系は確保。
糸を求めてビッグスパイダーは積極的に倒していく。
20匹目のビッグスパイダーを倒し終わると前方に細い脇道を見つけた。
糸が無事ドロップされていることを確認して、気になる脇道に足を向けゆっくりと進む。
着いた先は……花畑?
目の前に赤、青、橙色の花と白に綿毛が隙間なく広がっている。
この小さな花畑もセーフティエリアのようだ。モンスターに襲われる心配がないのでじっくりと観察し鑑定をかけて視ていく。
『紅染花:別名「好戦花」とも呼ばれ、花弁から出る汁には攻撃的にさせる成分が含まれている。
効果:狂暴化』
『青染花:別名「静戦花」とも呼ばれ、花弁から出る汁には攻撃性を抑え、頭が冴える成分が含まれている。
効果:沈静化』
『橙染花:別名「逃戦花」とも呼ばれ、花弁から出る汁には認識を鈍らせる成分が含まれている。
効果:認識阻害』
『ホップコットン:綿に弾力性を持つ綿花。綿を摘まれそうになると一歩大きく避ける。』
花弁から汁が出て、染花ということは染料に使えそう。服のバリエーションが広がる。
摘めるだけ花弁を傷つけないよう丁寧に採取していった。
一部取り扱いに注意が必要な花はより慎重に。
それにしてもホップコットンが逃げる素材。植物なのに?モンスターじゃないのに?
軽い綿の意味だと思っていた「ホップ」って、もしかしてホップ・ステップ・ジャンプの「ホップ」……じゃないよね!?




