6 妨害
僕はイリヤが何を言っているのか分からなかった。
「危険? 鉄の扉の向こうに閉じ込められているのに、どうやって僕を傷つけるっていうの?」
「物理的には無理だとしても、彼女には巧みな話術があります。言葉を聞いてはいけません。あれは猛毒なのです」
リザが言葉で僕に毒を盛る? さっぱり分からない。僕が傷つくとすれば、告白して振られることくらいだ。あ、あれ……もしかして、一目惚れしたことをイリヤに気付かれた? えっ、すごく恥ずかしい!
しかし、子供扱いしている相手に告白されても困るのは僕でも分かる。本気とは受け取られないだろうから急いで玉砕するつもりはない。イリヤも、僕のことをそこまで馬鹿だと思っていないだろうし。
それなら、僕がもっとリザと親しくなる前に諦めさせることが目的なのだろうか。どちらにしろ大人しくしているつもりはない。
「よくわからないけれど、わかったよ。イリヤの言う通りにする」
従う素振りだけ見せて逃げてしまおう。
しかし、それは上手くいかなかった。それはそうだ。元々、悪い遊びは全部イリヤが教えてくれたのだから。二人で一緒に厨房に忍び込んでお菓子を盗み食いしたり、庭師のふりをして植え込みを切ったり、使用人の真似をして紅茶を入れて飲んでみたりもした。悪戯の師匠には思考が完全に読まれている。
けれど、それでも諦める気はない。夜を待って行動に移すことにした。いつもより少し早めに眠りに着いて真夜中に起きる。自分で着替えをすませて外套を羽織り、扉を少し開いたところで声をかけられた。
「どちらへ?」
「イ、イリヤ? 何してるの?」
「夜の見張りです。カミル様には昼も夜も交代で護衛が付いているのですよ」
心臓が止まるかと思った。これじゃあ夜も抜け出せない。すごすごと引き下がるしかなかった。どうしよう。
翌日のイリヤとの遊びの時間は腹の探り合いと化していた。湖には近づかせてくれない。ウサギを追う振りをして抜け出そうとしてもイリヤは先回りしている。木登りで怪我をしたふりをしてもさっさと医師の所へ連れていかれて監視される。
次第にイリヤを出し抜く方法を考えることが楽しくなってきた。
違う違う。目的からどんどん外れている。僕はリザに会いたいんだ。
「イリヤを撒くのは無理だ」
ベッドの上で寝転がりながら呟く。本気を出したイリヤは隙がない。いや、植え込みを刈る時も準備に抜かりはなかった。庭師の服装と道具の調達、剪定の方法、見回りのタイミング等を確認した上で実行していた。イリヤが無理なら護衛を交代したタイミングを狙うか。
部屋の外を覗いてみる。イリヤではない。長身の男が壁に寄りかかりながらうとうとしていた。やる気がなさそうだ。足音を立てないように部屋を抜け出した。成功したと思いきや、ひょいっと襟首を掴まれた。
「どこへ行くんですかぃ?」
眠そうに欠伸を噛み殺しながらも僕を離さそうとはしない。
「アントン……見逃してくれないかな? 僕どうしても行きたい所があるんだ」
「そいつは無理ですなぁ。そんなことしたら家族が飯食えなくなっちまう」
「イリヤや伯父さんにはバレないようにするから。ね? 駄目?」
「カミル様。信用ってのはちょっとしたことで失くしちまうんですぜ。旦那様と坊ちゃんを裏切るわけにはいかねぇんで。すんませんねぇ」
僕の護衛担当の中で一番弱そうで逃げられるかな?と思っていたのに、当てが外れたようだ。この調子では他の護衛も無理だろう。
そもそも王子の護衛にいい加減な者を配置するはずないよね。この作戦も失敗か。
とうとう作戦が暗礁に乗り上げてしまった。




