27 リザの真実
「彼と出会ったのは、戦場で怪我の手当をしたのがきっかけだったわ……それから――」
そんな話は聞きたくない!
そう叫びそうになるほど、カミルは胸が苦しくなった。リザには恋人がいた――その事実だけで頭の中がぐちゃぐちゃになっておかしくなりそうだ。
リザのことが知りたくて、色々と質問した時のことを思い出した。リザは静かな声でこう言っていた。
『瞳が……晴れた空のように澄んでいるって、言われたことがあるわ……それから、透き通るような髪をしているって……彼に……』
あれは、やっぱり恋人のことだったのか。
過去に何があったのか知りたいとは思っていた。けれど、実際にリザの口から恋人の話を聞いていると、ドロドロとした感情が溢れ出しそうになる。
カミルは怖くなって腕を硬く握りしめ、座り込んだ。
リザの告白は続く。
「彼は貴族で、私は、王国から見れば異教徒の魔女。このままじゃ一緒にはいられない……だから、私は彼と一緒に不老不死になろうと思ったの。そうすれば、ずっと一緒にいられる……その時の私はそう信じて疑わなかった」
けれど男は儀式の途中で逃げ出し、そして死んでしまった。リザは貴族殺しの罪で処刑されたが、リザはすでに不老不死の身体になっていて、死ぬことはなかった。
イリヤが見せてくれた魔女の資料と違う。貴族の男は生贄にされたんじゃないんだ。
カミルの目から涙が溢れる。ぎゅっと唇を噛んで声を出さないように静かに泣いた。
どうして男が逃げ出したのかはわからない。けれど、ずっと側にいたいと思っていた相手に裏切られたリザの心は、どれほど傷ついたのだろう。
「あ、ごめんなさい。また私ばかり話してしまって……こんな話、君にするつもりじゃなかったのに……」
動揺しているリザに気づかれないように、カミルは涙を拭って明るく言った。
「いいんだよ! 僕はリザのことをたくさん知りたいんだから。……確かにびっくりしたけどさ。リザが人を殺したわけじゃないってわかって……こんな言い方変だけど、その……良かったよ!」
「ううん。私が殺したも同然なの。あの儀式は失敗すると命を失う――その危険性がちゃんと伝えられていなかった私の責任。私の罪よ。だから私はここにいるの。大勢の魂と一人の命を奪った罰なのよ。それを忘れて外で生きることはできないわ」
リザの強い決意を感じる。リザを助けたいというカミルの夢を真っ向から否定する言葉だ。カミルは不機嫌さを隠さずに言った。
「じゃあ、どうして僕が初めてここに来た時、笑ったのさ」
「笑った? 私が?」
「うん。大きな声で笑っていたよ。こんな所で閉じ込められているのに、どうしてこんなに楽しそうに笑えるんだろうって思っていたんだ」
だから気になって――気づけば好きになっていたんだ。
「ああ、そうだったわね。……だって、先に人懐っこい可愛い声で話しかけてくれたのは君よ。カミル君」
「僕?」
「ええ、無邪気な声で自己紹介してくれたじゃない。ふふ、王子とは、教えてくれなかったけれど」
「あ、うん、そうだったかな……」
警戒心を解くために、極端に幼い子供のふりをして話しかけたのを思い出したカミルは顔が熱くなった。
「事情を知らないとはいえ、怖がらずに話しかけてくれたのが本当に嬉しかった。嬉しすぎて……あの時も私ばかり話してしまったわね。私の長話は、やっぱりつまらなかったでしょう?」
「そんなことないよ!」
「ふふ、優しいわね。君は本当に……あ、そうだわ。思い出した。牢屋に閉じ込められていた時、世話をしてくれた男の子がいたの。彼は最初はびくびくと怯えていたわ。だって処刑されたのに生きている魔女なんですもの。怖くて誰も私の世話なんてしたくないわよね。でも時間が経つと、本当の彼は明るくて人懐っこい子で……」
リザの声から苦しみは消えた。けれど、思い出を語るたびに悲しみが見え隠れする。
これまでも、リザの言葉から時折感じる物悲しさは気になっていた。それでも今日のように露骨に取り乱すのは初めてだ。何かきっかけがあったのだろうか。
「今日はいっぱい昔の話をしてくれるね。……何があったの?」
カミルの率直な問いに、リザは一呼吸置いて答えた。
「私ね、思い出したの。君の瞳が、外の光に照らされて緑色に輝くのを見て……彼と同じ瞳だって。前にカミル君と瞳の色の話をした時は気づかなかった。彼も太陽のような髪で、普段は薄茶色の瞳だった。私はそんなことも忘れていたの。だっていつも思い出す彼は、儀式から逃げ出す時の恐怖に染まった顔で、儀式の炎に照らされた瞳が緑色だったから」
リザの恋人と同じ、か……
太陽のような髪は王族に多い。そしてカミルと同じ、光によって緑色に変化する薄茶色の瞳を持つというのなら、カミルと血縁者であってもおかしくはない。
リザの処刑の後、魔女の一族全員が処刑されたのは、貴族どころか王族を殺したからかもしれない。
「私はね、怖いの……君と話して、昔を思い出して、こんなことも忘れていたのかと気付くことが怖い。不老不死でも記憶はずっとは残らないのね。どんどん忘れていく。もう……彼の笑った顔が思い出せない……」
リザのすすり泣く声が聞こえた。




