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18 対面

 カミルは目を開けた。身体がだるい。けれど、


「生きてる……」


 胸に衝撃を受けた。視線を向けると、ジーナが覆いかぶさって、ぼろぼろと涙を流している。その隣には鼻を赤らめたイリヤもいる。


「良かった……良かった。カミル様……貴方に謝れないまま貴方がいなくなるかと思ったら、とても怖かった。あんな酷いこと言って……ごめんなさい」


 いつも強気で上から目線のジーナが、か弱い女の子のように肩を揺らして泣いている。あの喧嘩の時も顔を青くして震えていたっけ……

 小言が多いけれど、いつも僕のことを気にかけてくれている。そんなジーナに罪悪感を抱かせたまま死ぬところだったのかと、僕はぞっとした。それと同時に助かった実感が込み上げてきて、ぽろぽろと泣いた。


「僕も……ごめんね。ジーナっ……」


 涙で枕が濡れる。生きていることの喜びを噛み締めた。それからはっと思い出した。


「そうだリザ……リザの処刑は? あっ……」


 勢いよく身体を起こすと、めまいがしてよろけてしまった。ジーナが慌ててカミルを寝かせる。


「無理はなさらないでくださいな。そんな物騒なことありえませんわ。ねぇ、お兄様」


 カミルとジーナを気遣うように、イリヤがそっと二人の頭を撫でた。

 

「ええ。そんなことはしませんよ。誤解もあったようですし……詳しい話はまた今度にしましょう。そうだ、元気になったらアントンを労ってあげてください。湖から引き上げてくれたのはあの男です。それと、もう一人……適切な処置をしてくれた命の恩人がいるんです」


 イリヤとジーナが示し合わせてベッドから離れた。するとそこには一人の女性が立っていた。

 青味がかった銀の髪。夏の空のような青い瞳。あどけなさが残る顔。透き通った白い肌。それに対照的な暗い赤色の大人びたドレス。

 落ち着かなそうに両手の指を何度も組み直す姿は、イリヤと同じ年齢と言われても疑わないほどだった。


「リザ……なの?」

「はい、カミル殿下」

「カミルでいいよ」

「でも……」


 リザは言いづらそうに口をもごもごさせながら、イリヤとジーナを横目で確認する。


「リザ……僕に敬語は必要ないよ。普段通りにして、ね?」

「……いいのかしら。イリヤ君、私また伯爵に怒られたりしない?」

「父上のいないところなら問題ないだろう」


 自分は伯父さんがいない時でも敬語のくせに……とカミルはぼそっと呟いた。


「ねぇリザ、伯父さんに酷いことされなかった? 僕のせいで迷惑をかけて、ごめんね……」

「優しい子ね……大丈夫。何もされていないわ。貴方を助けるのに必死だったもの」

「どうして外に出られたの?」

「特例としてね。また塔に戻るわ」

「自由になりたいとは思わないの?」


 リザは困ったように笑う。


「私は……自由になる資格がないの」

「……資格?」

「私はずっと神に()()()を求めているの。でも、まだ神は()()()を授けてくれない……」

「ゆるしって?」


 リザは曖昧な笑みを浮かべるだけだった。


 『神のゆるし』が何なのか、僕にはその言葉の意味がわからない。けれど、リザにとって大切なものなのだろう。


「ねぇ、もっとこっちに来てよ」

「何?」


 言われるがままにリザはベッドの傍にかがんで顔を近づける。カミルはベッドの上に垂れた銀髪に触れた。


「珍しい髪……銀色の髪なんて初めて見たよ。不思議だなぁ。僕が小さい頃に見た月も、こんな青っぽい銀色をしていたよ」


 寝付けなくてふと見上げた夜空に、青い満月が輝いていたことを思い出す。あの時も僕は泣いていたな……


「それがすごくきれいで、特別な気がして、初めて神様以外にお祈りしたんだ。いつか誰かの役に立てる人になれますようにって」


 勉強があまりできなくても、王族らしい振る舞いができなくても、誰かの役に立てる日がきますように。その満月はあれ以来、一度も見ていないーー


「リザの髪もキラキラしてきれいだね」


 カミルが微笑むと、開いていた窓から一陣の風が吹き込んできた。木々の間から降り注いだ光がベッドの上で揺れる。


「あ……」


 リザが小さく声をあげた。光を浴びたカミルを凝視して動かなくなった。


「どうしたの?」


 我に返ったリザは「なんでもないの」と首を横に振った。


「話しすぎちゃったわね。そろそろ休んで。まだ身体の調子が戻ってないんだから」

「リザ、聞いて。僕の真面目な話」


 立ち去ろうとするリザの手を握って引きとめる。


「何?」

「僕、将来の夢を決めたよ。リザが外で暮らせるようにすること。これを目標に頑張ろうと思う」

「……もっと他の人の役に立つことを夢にした方がいいわ。私はこのままでいい」


 リザはうつむいて素っ気なく言った。

 カミルにはそれが本心の言葉とはとても思えなかった。


「僕がリザの役に立ちたいんだ。もしかしたら王子だからこそできることもあるかもしれないでしょ? ーーだから、自由を諦めないで」

 

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