表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/36

16 カミルの作戦

 カミルが落ち着いてきたのを見計らって、医師がイリヤの肩に触れた。イリヤは頷いて場所を入れ替わった。医師は膝を折ってカミルと顔の高さを合わせる。


「失礼いたします、カミル様。どこか具合が悪いところはありませんか?」

「別に……ないよ」


 医師はカミルの下瞼の裏を確認した。その後も問診をしながら触診を行う。


「ふむ。大丈夫なようですね。少しでも違和感が出ましたら、すぐに知らせてください。よろしいですね?」


 カミルが頷くと、カミルの頭をぽんと軽く叩いて、腰を庇うようにゆっくりと立ち上がった。

 今度はイリヤに近づいて耳打ちをした。イリヤは少し暗い顔になったが、すぐにカミルに向き直り、手を差し伸べた。


「父上に話しましょう。ここまで騒ぎになったからには、もう隠し通せません」

「そんな――」

「私がどうかしたか?」


 再び空気が張り詰めた。バロー伯爵が騒ぎを聞きつけてきたのだ。上から下まで黒ずくめの伯爵が扉の前に立っていた。


「殿下、ここは病人の部屋です。お静かに願います。イリヤも場所を弁えろ」

「ご、ごめんなさい」

「申し訳ありません」

「ん? それは?」


 伯爵の視線が絨毯に注がれる。そこには丸薬が転がったままだった。弁解しようとカミルが口を開くが、イリヤがそれを遮って答えた。


「毒薬です」


 伯爵は眉間に深い皴を寄せ、声を低くして聞き返した。


「毒だと? 詳しく聞かせろ」


 イリヤは正直にこれまでの事を話した。塔に忍び込んだ事、リザと会話した事、カミルが一人で会いに行って薬をもらった事、王妃が服用して症状が悪化した事、それらを全て聞き終えて、伯爵は口を開いた。


「つまり、お前は約束を破り、それに殿下を付き合わせて危険に晒したあげく、王妃陛下まで被害に遭ったのだな。お前の処分は後ほど決める。まずは魔女の処分だ。王妃暗殺となれば即刻処刑だが……」

「処刑!?」


 カミルは思わず叫んでしまった。怖い顔がこちらに向くと、びくっと心臓が飛び跳ねた。慌てて廊下に飛び出す。


 リザに知らせなきゃ! リザが不老不死だとか魔女だとか、今は関係ない。僕のせいでリザが酷い目にあうのは絶対に嫌だ!


 急いで湖に向かうが、船着場にはアントンが待ち受けていた。


「カミル様、お戻りくだせぇ。ここを通したら坊ちゃんにどやされるんで」

「どいて! せめてこの小舟を壊さないと!」


 カミルは苦し紛れに、足元にあった両手ほどの大きさの石を小舟に向かって投げた。走る勢いのまま投げた石は鋭利な角度で飛んでいく。


 ドボンと鈍い音を立てたが、小舟には当たらず、水面に水柱を作っただけだった。


「あっ……ぶねぇな。ったく、やんちゃが過ぎまさぁ。よいしょっと」


 ひょいっとカミルを持ち上げて肩に担ぎ、そのまま屋敷へ歩き出す。


「ちょっと待って! 下ろして!」

「痛てて! 無理でさぁ。部屋まで大人しく担がれてくだせぇ」


 カミルはアントンの背中を力一杯叩いたが無駄だった。細長い身体なのにどんなに暴れてもびくともしない。カミルの抵抗もむなしく、来た道を戻る羽目になった。

 リザのいる塔がどんどん遠のいていく。


 リザ……早くなんとかしないと、伯父さんが来てしまうのに……


 カミルにはどうする事も出来なかった。

 部屋に着くと、アントンはノックもせずに扉を開けた。中から「キャ」と女性の悲鳴がした。後ろ向きのカミルには見えないが、侍女が驚いたようだ。


「部屋で大人しくしててくだせぇ。ほい」


 アントンはカミルを肩から下ろして侍女に押しつけた。


「見張ってますからね。逃げようだなんて思わないでくだせぇ」


 扉が閉まった。侍女は「なんて荒っぽいの!」と甲高い声で怒りながらカミルの服を整える。ここからどうやって抜け出すか考えなくてはいけない。

 廊下はアントンが見張っている。室内で見張られないのは王族に対する配慮だろうか。とにかくまだ可能性はある。

 脱出経路は窓しかない。けれど、ただ出ていくだけではすぐに追いつかれるだろう。


「ねえ、ちょっと僕のお願い、聞いてくれる? あのね……」


 アントンの事が気に食わない侍女は、満面の笑みで了承した。作戦開始だ。


「窓、お開けしますね」


 侍女が窓を開けるとすぐにアントンが中へ入ってきた。侍女が毅然とした態度でアントンと向き合う。


「なんです? あなた、ノックも了承もなしに入るなんて無礼にも程があります! 王子殿下のお部屋ですよ! さっさと立ち去りなさい!」

「これが俺の仕事なんでね。窓が開く音がしたんで確認をだな――」

「なんだよ。そんな事しなくたって僕はここにいるよ。もうアントンなんて大っ嫌い! 今は顔も見たくない! 早く出ていってよ!」


 カミルはベッドに潜り込み、高い声でわっと泣きだす。


「私は空気の入れ替えに開けただけです。カミル様はこの通り落ち込んでいらっしゃいます。……しばらくそっとしておいてください。お願いします」


 侍女はさっきとは打って変わって、落ち着いた口調で頼んだ。アントンは疑っているのか少し様子を見ていたが、何も言わずに部屋を出ていった。扉が閉まる音を確認して、カミルはベッドから静かに下りる。


「……じゃ、お願いね」


 侍女は笑顔で頷くと、ベッドにの横に椅子を寄せて座り、ハンカチで口を覆いながらカミルの泣き真似を始めた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ