10 知りたいこと
さて、女性にドレスを贈る為にはどうすればいいのか。詳細は仕立て屋に任せるとして、服の寸法を知る必要がある。『寸法』――これが問題だ。
彼女は幽閉されているのだ。
鍵はおそらく伯父さんが持っているが、決して開けてはくれないだろう。この部屋の中には誰も入れないし、彼女もここから出ることは出来ない。では、どうしようか。
巻き尺を渡して自分で測ってもらうか……いや駄目だ。「ドレスを贈りたいから測って」なんて言えるわけがない。そんなの断られるに決まってる。なによりとてもかっこ悪いじゃないか! ここはさりげなく渡して驚かせるんだ。
女性は贈り物をされると喜ぶものだと、以前ジーナが言っていた。リザが一度も着たことのないような素敵なドレスを贈るんだ。その為には、気付かれずに自分で測ってもらう方法を考えないと!
きっとリザなら、「なんだか悪いわ」なんて言いながらも、「ありがとう」って笑ってくれる。そう考えるだけでわくわくする。
リザは一体どんな女性なのだろう。どんな顔で笑うのだろう。早く知りたい。早く、早くリザの笑顔を見たい。
僕はもう一度扉に近づいて尋ねた。
「ねぇ、リザってどんな顔?」
「え? んー、どんな顔と言われても……」
リザは言葉を続けることなく沈黙してしまった。
「ごめんね。困らせるつもりはなかったんだ。なんとなく思っただけで。深い意味は本当に、全然なくってさ」
嘘だ。下心しかない。僕はリザの心を知りたい。ドレスを贈ってあげたい。笑顔が見たい。それから、それから――
「知りたいんだ。瞳の色とか、髪の色とか、好きな物のことでもなんでもいいんだ。リザのことが、少しでも知りたいんだ……」
そこまで言って、僕は顔を伏せた。顔が熱い。知りたい気持ちが強すぎて、我慢が出来ない。感情をコントロール出来ないなんて王族としても貴族としても未熟な証だ。けれど、それでいいと思っている。
二人の兄はとても優秀で、教育係達からは僕が何をしても兄達と比べられて、褒められたことがない。このまま王族として生きていても永遠にあの兄達と比べられるのなら、いっそ平民となって手に職を付けて暮らしたいとさえ思う。
嫌なことを思い出していると、小さな声が聞こえた。それは、これまで聞いたことのない静かな声だった。
「瞳が……晴れた空のように澄んでいるって、言われたことがあるわ……それから、透き通るような髪をしているって……彼に……」
「彼?」
「……ううん、なんでもない。……随分昔のことを思い出して懐かしくなっちゃったの。気にしないで、ね?」
「う、うん……」
リザは辛い気持ちを振り払うかのようにいつもの調子を取り戻した。
僕はそれ以上聞けなかった。リザの口から聞きたくない言葉が出てきそうで、怖かった。
「リザの瞳は空の色なんだね!」
僕はあえて明るく言った。
「カミル君は? 何色をしているの?」
「僕は薄茶色だよ。でも明るいところだと緑もって入ってる言われる」
「複雑な色合いなのね。色が変わる瞳なんて素敵だわ」
リザに素敵だなんて言われると、自分ではなんとも思っていなかった瞳の色がとても誇らしく感じる。
「僕の髪はね。太陽みたいだって言われるんだよ。透き通るようなプラチナブロンドなんだ。リザは?」
リザの笑い声が聞こえる。口元を押さえているのだろう、くぐもった弾む声だ。
「えっと、そうね……真っ白よ。もうお婆さんなの、私」
リザが、白髪のお婆さん?
思いがけない答えに言葉が出なくなった。さっきの空気を気にして和ませようとしてくれているのかと思ったが、その間にも、彼女は先の大戦を経験して大変だったと、自分が本当に年寄りのように語る。
どうにか「今、何歳なの?」と聞くと、リザは軽く笑って答えた。
「もう……女性に年齢を聞くのはマナー違反よ」
え、何それ。
聞きたくなるような言い方をしたのはリザなのに。僕はやんわりと叱られたことに納得いかなかった。
こんな若々しい声の老人を僕は知らない。もしイリヤが僕の立場でも、同じ質問をするだろう。それに、一瞬触れた白い手からは老いなんて微塵も感じなかった。
からかわれたんだ――僕はそう結論づけた。
「じゃあ、もう一回手を見せてよ。お婆さんなら皺くちゃの節くれ立った手なんでしょ?」
口を尖らせて指摘すると、一拍置いて、今度は大きな声が聞こえてきた。初めて会った時と同じ、腹の底から空気を吐き切るような長い笑いだ。
「あはは、あはははは。はぁー……全く君は面白い子だわ。まぁ、そうよね……ふふ、髪が白いのは本当よ」
どうも含みのある言い方なのが気になるけれど、年齢に関することはもう何も聞けそうにない。




