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私の大切な読者

作者: 麻生弘樹

その女の子は夢中になってケータイをいじっていた。

メールのやり取りなのか、何かは分からないがとにかく必至になって文字を入力していた。

彼女の名前は、長瀬ながせ のぞみ

周りからは特に目立つ要素もなく、どちらかと言えば地味な生徒と見られていた。

そんな彼女をクラスメイトの長谷川はせかわ 達巳たつみは少し気にしていた。


ある日の放課後、職員室への用事を済まし教室へ戻ってきた達巳は教室で望がひたすら文字を入力しているのを見た。

何やら楽しそうである。

思わずジーっと見つめる達巳。

と、ふと視線を感じ、達巳の方を見た望。

お互いに視線が合った。

次の瞬間、みるみる望の顔が真っ赤になっていく。

そして、慌ててケータイを隠す。

それはもう大慌てだった。

「えーと.....?」

達巳はあまりの早さに唖然としていた。

「べ、別にこれは......その......!!」

必死に誤魔化そうとしている望。

しかし、どうしても気になった達巳は

「何してたの?」

と尋ねた。

「ううん!

何でもない!

本当に何でもないの!!」

と、聞かれた望は激しく首を横に振った。

「て、言われても......、別に笑ったりしないから教えてよ?

長瀬っていつも一人でケータイいじってるからずっと気になってるんだ。」

とにかく否定しようとした望だが不思議と

「本当に......笑わない?」

と確認していた。

頷く達巳。

すると観念したのか望は

「......小説、書いてたの......。」

「......小説?」

頷く望。

「実はね、私小さい頃から本が大好きで......、それでいつかは自分でも物語を書いてみたいと思って、それで......。」

なるほど。と、達巳は納得していた。

ずっとケータイをいじってたのはそういう事だったのか......。

「恥ずかしいから、本当にこの事、誰にも言わないでね......?」

「言う訳ないよ!」

更に達巳は

「凄いよ!

自分で小説書いてるなんて!」

「凄くなんかないよ......、全然上手く書けないし......」

「上手いとか下手なんてのはいいんだよ!

自分が書きたいって思った物語を書けばいいんだよ!」

「長谷川君......。」

「実は俺も本とかよく読むんだ。

だから小説を書ける人は凄いなあって、ずっと思ってたんだ。」

そして達巳は

「頑張れよ!」

と笑顔で望を応援した。

それじゃと、帰ろうとした達巳。

すると、

「あの!」

ん?と振り返る達巳。

何か言いたげな表情だった。

「あの......、良かったら、私の書いた小説、読んでほしいの......。」

顔を真っ赤にさせながら望は言った。

「いいのか!?」

驚きながらも達巳は顔を喜ばせた。

ゆっくりと頷く望。

もう少しで完成するからと、望は言った。

こうして二人はお互いのラインを交換し、完成したら送ってもらうことにした。

そしてとある日の夜

達巳のケータイに望からラインが届く。

見てみると、何やらURLが載っていた。

小説、書き終えました。と、追加のラインも来ていた。

達巳は返事を返し、早速読んでみる事にした。

「ふう......。」

達巳はしばらくの間、望の書いた小説に夢中になっていた。

内容はいわゆる恋愛ストーリーだった。

か弱い女の子を男の子が守る。

そんな感じの内容だった。

しかし文章はよく書けており、読者を飽きさせない内容に達巳は魅了された。

こんなにも凄い小説を書けるなんて...!


翌日、学校にて達巳は望に感想を伝えた。

「すごく面白かったよ!

長瀬って文章書くの上手なんだね。」

それを聞いた望は

「ほ、本当に......?」

と半信半疑だった。

「本当だって!

こんなに面白い小説、久々だよ!」

「長谷川君......!」

望は顔を少し赤らませ、

「ありがとう......!

正直言うとね、私、ほとんど自己満足で書いてただけなの......。

だから、あんまり人に見せる勇気なくて.......、

でも、こんなに褒めてくれたの長谷川君が初めて!」

と笑顔を見せる。

達巳も微笑む。

そして達巳はある事を口にした。

「どうせならさ、賞に応募してみれば?」

「え......?」

「せっかくこんなに面白いの書けるんだからさ!

応募してみなよ!」

「で、でも......。」

望は困惑しているようだった。

しかし、ゆっくりと頷き

「そこまで言ってくれるなら、応募してみようかな......。」

達巳は大きく頷いた。

その日の放課後、二人はスマフォで小説のコンクールについて調べていた。

そして二人はとある応募小説のサイトを見つける。

「このコンクールなんかどう?」

「うん......!」

その後、達巳に背中を押され望は意を決してコンクールに応募を済ませた。


一ヶ月後

望のスマフォの画面を2人は緊張しながら見ていた。

「見てみよう。」

「う、うん......。」

望は震える指先で画面をタッチした。

結果は......


2人は状況が飲み込めなかった。

画面には誠に残念がらというお決まりの文と落選の文字が表示されていた。

「そんな...!!」

達巳はショックを隠し切れなかった。

「そう.....だよね、やっぱりこうなるよ......。」

え?と、望を見る。

「やっぱり、私なんかダメだったんだよ......。」

それを聞いた達巳は

「ごめん......!

元はと言えば俺が勢いに乗ってあんな事言ったから.....!」

「いいの!」

望は笑顔だった。

「長瀬.....?」

「元々ダメ元でやってみたんだし、何より長谷川君のおかげでここまで出来たんだもん!」

そして、望は

「ありがとね。」

と微笑んだ。

それでも達巳は複雑だった。


帰り道、2人は無言だった。

やがて大した会話も無く2人はそれぞれの帰路に着いた。


しかし、翌日

望は学校を休んだ。

達巳は放課後、先生から住所を教えてもらい、望の家へと走った。


インターホンを鳴らすと、望の母親が迎えてくれた。

望の部屋へと案内してくれる。


ドアをノックし、部屋の中へと入る。

中には望がベッドで横になっていた。

「長谷川君!?」

達巳の姿を見た瞬間、望は慌てた。

「そんな、いきなり、来るなんて思ってもなかったから......!!」

「ごめん、でもすぐ帰るから......。」

望の母親がジュースを持ってきてくれてどうぞ、ごゆっくりと部屋を去って行った。

「えと......、大丈夫?」

気まずい空気の中、達巳は尋ねた。

「う、うん......。

ちょっと、体調崩しちゃっただけだから......。」

「やっぱり、昨日の事......?」

申し訳無さそうに達巳は聞いた。

「......本当の事言うと、少しショックだったかな......。」

それを聞いた達巳は

「ごめん!」

と頭を下げた。

「だから、長谷川君のせいじゃないって!

謝ることないよ!」

と、望は言った。

「でも、もう小説は書かないかも。」

と言った。

「え?」

驚く達巳。

「今回の事で、私には才能が無いんだって分かったし......、もう傷付くのは嫌なんだ......。」

「長瀬.....!」

「だから、長谷川君が初めてで最後の読者だね。

ありがとね、読んでくれて。」

それを聞いた達巳は

「ダメだ!!」

大声で言った。

「え?」

「俺、長瀬の小説読んで、本当に面白いと思ったんだ!

今回はダメだったかもしれないけど、いつかきっとチャンスは来るはずだよ!

あんなに面白い小説書けるの、長瀬しかいないよ!

だから、諦めないでほしいんだ!」

「長谷川君......!」

「それに、俺の為にも小説を書いてほしいんだ。」

「......え?」

「あ、いや、その......、深い意味とかじゃ無いんだけど......、」

「俺が長瀬の大切な読者になる!

それで、俺が長瀬を応援し続ける!

だから、もう一度小説を書いてほしいんだ!」

それを聞いた望は

「......ありがとう、長谷川君。」

そして

「うん。

もう一度書いてみる!」

と笑顔で言った。

お互いに微笑み合う。

「にしても今の、告白みたいだったよ?」

と望は言った。

それを聞いた達巳は顔を赤面させた。

それがおかしかったのか、望は笑った。

それにつられて、達巳も笑う。


その夜、望は新しい小説を書いていた。

自分を支えてくれた一人の男の子とのストーリーを。


翌日、望は自分の大切な読者に声をかけた。

「出来たよ!

新しい物語!」





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