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最終章 終端の記憶-Last of The Memory-

悲劇の終端、終わりの刻。

全ての始まりの深淵の記憶、終わりを向かえる終端の記憶。至る『解』ははたして…



はい、煽り文おしまい!

ようやく決着です。今まで長かった…


それでは皆様、最後のお話をご賞味下さいませm(__)mふかぶか

白い空間があった。

一時間ほど前ならば白亜の宮殿のようだったこの場所はもはや瓦礫の塊が転がるような破壊が行われていた…。

巨石を削り出して作った玉座、繊細な彫刻が施された無数の柱の大半がそれはもう見事なまでに破壊されていた。

そして、無限に広いこの部屋で金属同士の火花が散った

1、2、3…

点々と部屋の左右で明滅したかと思うと中央部でまるで大輪の花火のような苛烈な花が咲いた。剣戟の隙を見せない攻防戦を繰り広げていたのは二人の神…と言うべきキャラクター達。

―右腕が使えないのは辛いな

全ての『BUG』の産みの親にして神影プログラムの開発者、そしてこの『ヴァルハラ』の管理人とも言うべき、ヘル。

右腕の『∽』の紋様が血で隠されているが、左手一本で剣を巧みに操って戦いを続けていた。。

「流石は御母様、この程度ならばついて来れますか」

嬉しそうに言うのは『クロア・オーディスタ』。両腕にΔの紋様を刻み、右頬にΘの刻印を描いた彼の階級は『真影(しんえい)』。『神影』のさらなる高みに登った真なる神の影。

手にした白と黒に塗り分けられた剣が素早くヘルの剣を弾く、手甲を割る、引いた手に突き立てる!

―ぐっ…

「始点を刻め『白陰』」

突き刺した武器、混沌幻影を抜くとまるでリボンのような風合いの白い布がヘルの手に空いた穴からスルリと抜けてくる

彼の武器の唯一の能力『メビウスリング』の半分だ。白い刃と黒い刃、その二つで斬りつければ相手の脳に直接難題を叩き込む強制思考無限連鎖の能力が発揮される―白陰を刻まれたか…。だが、それで私に勝つことは不可能だ。

―なぜならば私が全ての難題を解くからだ!

左手一本しか使えない彼女は武器を水平に構えて走る。素早く背後に回り込み、体の回転を上乗せして一閃した

―!

「…無駄です」

黒い刃がヘルの背中から前面までを貫いた。ドス、グシャ、と体の中身が動く嫌な音がした

―カハッ!…貴様

「おや、血が」

思いっきりねじりあげてヘルの絶叫を聞いた。

「あはは、御母様。あなたはもうおしまいです。大人しく最後のプログラムを渡してください。渡していただければすぐにブレイクしてさしあげますから」

口元からこぼれた紅い血が白い床を汚す

小さく震えている彼女の唇を見てつまらなさそうに『クロア・オーディスタ』はため息をついた

「僕は知識を獲たいんです。人が神に対峙したときどんな反応をするのか、とてもとても気になるんですよ」

知識を欲する神の気質を奪ったBUGはとり憑かれたような眼で叫んだ。

「知らないことなんていらない、僕は…私は…俺は全てを知りたい!ワカラナイなんてあり得ない知識の神に!僕は全ての知識を渇望しているんだ」

なおも訴える堕落した偽物の神に憐れみの笑いを浮かべる…。地獄の門番の役を担う神の名を冠す彼女には哀れな模造品の戯言など取るに足りない言葉の羅列。

彼女は笑いながら言った

―馬鹿げた妄言を。全ての知識?そんなもの、何も知らぬ者が口にすることだ!

『クロア・オーディスタ』はその言葉に冷めた目を返す。つまらない、くだらない、そんな感情を得た彼もまた人工知能を超越した心で痛みを感じた

「…失望したぞ」

貫いていた剣が無理矢理引き抜かれてついに黒いリボンが並び漂う

「今のが最後に贈る言葉です。妹に吐いた言葉で死ねることを喜んでほしいものです」

ぐりん、と帯が絡み合いまるで無限を示す記号のように輪を描く。強制思考無限連鎖、『メビウスリング』が発動したのだ現実世界・中央管理室


巨大なモニターを前に職員が集結していた。緑色の制服の一般職員、白衣を着た管理者、そして私服のツバイン。三種の役職の人々の視線は化け物じみた戦いを映す画面に注がれていた。

「え?コレどういうこと?今どっちが敵なの?」

誰かが言った。

「ヘルか?やっちまえ!クロア!」

「馬鹿!ヘルは悪くないでしょう!」

「どっちもサーバー過負荷の原因なんだから消えれば良いのに」

次々と声が上がる中、DとGが話しているのにツバインの一人が気付いた。黒いハイネック姿のエアリアルだった

「…そうだ…ルが、いや…」

「儂としても…ロ…が…」

聞き取れない…。断片的に聞こえた言葉から察するに今の二人の事のようだが…

「エア。ちょっといいかい?」

いきなり指名されて驚く

「…?まぁいいや。君のキャラクターデータの修復が終わったはずだ。行ってきて欲しい」

「儂からも頼む。ヘルを…儂達の娘と言うべきあいつを助けて欲しい」

Gが頭を下げてきた。

「Gさん…」

エアリアルが呟いてもその頭は上がらなかった…。エアリアルは小さく頷いて答える

「いいわ。私に任せなさぁーい!」

ドン、と胸を叩いて彼女は胸を張る。

彼女だって大切な人を助けに行きたいのだ。そのついでに一人分対象が増えようが大した差はない。キャラクターカードを手に管理者のログインルームに走る

「待っててね、クロア…ついでにヘルも!」

二重の扉を跳ね開けて彼女は手近な端末に飛び込んだ。カードを読み込ませて機械を起動させる。

カコン、とアームが滑らかに滑り出して彼女の手足と頭を固定する

すぅ…と意識が薄くなり、彼女は『ヴァルハラ』に降り立った→side A→


巨大なモニター越しにヘルの戦いを見つめる。今まで彼女が訴えた痛み、彼女の変化と成長。確かにプログラムの領域を超えて成熟した思考に彼は喜んでいた。


いたのだが…


「何で…今まで見抜けなかったんだろうね…ヤレヤレ」

座った椅子に身を預けて肩を落とす。

彼女が、完全に人間以上の知識と思考を手に入れ、何を考え何を望んだのか、それを不完全にしか推測できなかった自分が恨めしい

「死ぬなよ、ヘル」

Dは小さく祈った→side B→


ほんの数メートル先で火花を炸裂する剣に目を細める。

取り残されてはや数十分…。彼女は退屈と孤独で泣きたい気分だった。

「…Very very cryです。忘れられたのでしょうか」

小さな手が頭にのせられてくしゃくしゃと髪を乱す。

「リビングフェアリー…。そうですね、私たちも動きましょう」

ゆっくりと壊れた柱の影から立ち上がる。砂ぼこりをはらい、塵一つないほど完璧なメイド服をパサリとはたいた

呪符を解放、黒衣の人形部隊を使役する

「私はリゼ。リーゼロッテ・ワイゼン。私は…Mr.クロア。あなたを救済します」瓦礫が舞う。

柱の一部分、正確には大理石の石柱のおよそ一メートル五十センチの瓦礫が飛んできた。

―くっ

左手を頭から引き剥がして剣で三分割してすき間に逃げ込んだ。

「『メビウスリング』発動中でも動けるとは…驚嘆に値します」

余裕たっぷりに言って『クロア・オーディスタ』は混沌幻影を投げた。一直線に飛び抜けた剣は柱の一つを砕いてそのまま隣の柱に突き刺さった。

重心の狂った柱はかしげて自分の重さで崩れた

真下にいたヘルは隔壁を呼び出して防御、はしたがノイズが混ざって本来の力の半分程度でしか衝撃に耐えられない

―ふん…論証不能な事象などないが…骨が折れる、嫌な問題ばかりだな

彼女が今挑ませられているのは『バビロニアの空中庭園』が存在可能かという難問。遥か太古に存在したと言われる 空に浮いた巨大な建造物 だ

それの論述に苦戦していた。

―太古の技術を用いては存在不能。以上をもって証明を終了する。

長い長い存在不可の理由を説明終了した。数百行の答案は白紙化されて次の問題が矢継ぎばやに出題された。

―攻撃さえなければ…回答に専念できるのだがな

ぼやいて、苦笑する。

気を失った娘しか頼りがない状況で何を言っているのか…馬鹿馬鹿しいにも程がある。

剣を手に戻ってきた偽物の神はヘルに小さく笑いかける

「本当に邪魔です」

彼の剣に極彩色の光が宿る…。『ブレイク』の力を剣に乗せて殴られれば今の彼女に止める手だてはない

まさに八方塞がり。BUGはBUGに壊されて終わる運命らしかった「『ランサ・ドール』『ナイト・ドール』行きなさい」

光を宿した剣が違う方向に振るわれた。

壮絶な早さで六体もの人形を破壊して返す剣で二体を切断する

「どういうつもりです?リゼ」

彼はメイド服の少女に問いかける。苛立ちを含んだ口調にも臆せずにリゼは人形を増援する

「…BUG-クロア・オーディスタ。Mr.クロアに何をしました?彼を解放しなさい」

『クロア・オーディスタ』がリゼの言葉に呆気にとられた隙にヘルは距離をひらいて難題の終端を目指す。

「…僕は何も。少し人格が変わっているだけですよ」

「デタラメを。彼は口と態度とマナーと空気読みと態度と性格は悪いですがこんなことはしません!」

真顔でリゼが叫んだ。

「酷い言われようですね…」

苦笑いしつつ極彩色に輝く剣をゆっくりと背中に回す…。一刀両断の斬撃の構えにリゼは怯むことなく『ナイト・ドール』を呼び出す。九体のドールを呼び出して前面に3×3の壁とする。

「みんな、頑張ってね」

こくん、と同時に答えられた。

全ての人形は頑張ると意思を表明した。

「…やれやれ『ブレイク』」

剣から三日月状に放たれた光が人形達が構えた盾にあたる。ジリジリと焼くように確実に防具を疲弊させる破壊の光に一体の人形が一歩後退する…

ガシッ、とその下の人形が足を掴み、左右の人形が肩を掴む。仲間が負けないように、飛ばないようにしっかりと

「そう。頑張って」

磨耗していく盾に不安を抱いた人形は誰もいない。主人がなんとかしてくれるから壁として頑張れる。攻撃を防いでくれるから安心して使える、リゼの魔法

「『風は地を駆け、地は木を生み、木は火に焼かれ、火は風を生む。風地木火の四霊よ私に、我が身に宿れ!』」

リゼの能力は『媒体操作』。

人形に魂を宿し、妖精の抜け殻に命を宿し、自身に霊を宿す高等呪法。悪用すればゾンビの群れさえも生み出す能力を用いて彼女は自分自身を変質させる

「『四霊術師』。私に従え風地木火(ふうちもっか)のお人形!」ボコン、と床から人形が頭だけ出している。床板一つを帽子のようにのせて手足を亜空間から抜き出して、立つ。

大地の精霊人形(ガイア・ドール)『アウス』。ここに」

床板の下、ノイズの空間に直結していた場所から風が吹き込んでつむじ風になる。小型の竜巻のように渦巻いた中から薄黄色の髪の人形が現れる。

清風の精霊人形(ウィン・ドール)『ツイス』。契約の元に」

二体の人形が手を合わせると、小さな木の実が生まれた。どんぐりのような木の実が落ちると とてつもない速度で実が木へと成長する。

…高さ五十センチ程度のミニマムサイズだが、そこに三十センチほどの巨大な木の実が成り、割れる

樹木の精霊人形(ツリー・ドール)『シイノ』。お呼びですか?」

木を炎が包む。

一瞬にして灰に変えた炎は舞い上がり、姿を変えてシイノの隣に静止する。

紅蓮の精霊人形(バーン・ドール)『フレイ』。呼んだか?マスター」

四体の精霊人形…自然の化身はアウス、ツイス、シイノ、フレイの順に整列して今にも吹き飛ばされそうな九体の人形達に歩み寄る

「お疲れさま」

「もう終わりましたよ」

「次は…」

「アタシらの番だ」

人形が喋った。

「『ナイト・ドール』。『ランサ・ドール』スタンバイ!精霊人形は補強を!」

四色の魔法陣が広がり、美しい光で人形達を包み込んだ。

「「「「四重奏『Reinforce』」」」」

高らかに紡がれた四つの旋律。強化の魔法は以前のものとは比べ物にならないほどの力を盾に宿した。

バリン!と崩壊しかけた盾が割れて白銀の盾が握られる。『ナイト・ドール』達の最強の盾…名を『アイアス』

九つ並んだ無敗の盾に極彩色の光が押し返され、反射された反射され、帰ってきた光に『クロア』は一瞬呆然とする…。

(馬鹿な…そんな馬鹿な…。私の…僕の『ブレイク』を跳ね返すなんて!)

思って、自分の状況を思い出す

剣に再び力を与え、全てのデータを解きほぐす光を満たす!

高らかに吼え、力の限り奮い立たせて剣を大きく振った!

「『ラウンドブレイク』!」

極彩の閃光が激突し、反射し、飛び散った。フレイが感心したように手を叩いて笑い、ツイスがたしなめる

「『ランサ・ドール』。構えよ!」

リゼの猛攻は止まらない。

今度は小さな槍を持つ人形の部隊を巧みに操りながら騎士人形と精霊人形に指示を出す。

「化物ですか。あなたは」

総数十九体。それを操作するのはたった一人の人間…。化物と言われても仕方ない光景だった

「シイノ、ツイスはMs.ヘルの回復を。他は全て攻撃に参加させます。

『ナイト・ドール』。全員に一人ずつ」

九体の人形は六体の槍兵人形、攻撃参加のフレイ、アウス、そして術者のリゼの前で無敵の盾を構える。華奢な体駆でとても小さな盾で、絶対の防御を誓う騎士のドール…。

―お前達は…私は…

「しゃべらないで下さい」

「治療が私たちの任。少しご協力を」

精霊人形が神を黙らせ、腕に小さな渦巻きをつくる。エメラルドグリーンに似た光、痛みが消えていき…血が止まる…。壊れかけた思考をまとめて最後の難題を破壊した!

―…すまない。礼を言う

「「動くなぁ!」」

ゲシッ、と小さな足と手が頬にめり込んだ。ズキズキと痛むそれに唖然としてヘルは ぱちぱちとまばたきする

「傷、開きますよ」

「フレイ~アウス~。私たちの分もやっちゃいなYo☆」

陽気な人形に…小さく吹き出す

―馬鹿馬鹿しいな…ククク…ははは!

小さな人形は誇らしげに笑う

「「人も、捨てたものじゃないでしょ」」

あぁ本当に…

「馬鹿げてる!馬鹿げてる!馬鹿げてる!なんだこの茶番!ありえないありえないありえない!ふざけるな!あぁ馬鹿げてる!馬鹿げてる!馬鹿げてる!人間ごときが神に刃向かう?違う!馬鹿げてる!違う違う違う!俺は…僕は…神を超えた!それは間違いない『知識』なくともわかるのに…何故何故何故!あぁ馬鹿げてる!馬鹿げてる!なんでだぁぁぁぁ人間…ごとき…知識を乱す…不確定乱数…!くそっ!人間なんて…必要ない!人間ごとき…消えちまえ!」

『クロア』が…神が自身の感情を吐き出す。不様な叫び。自身の居場所さえ見失った哀れな人形…

「Mr.クロア。私はあなたを救済します。こんな馬鹿げた舞台から…神を引きずり下ろし、幕を引きます。あなたが…あなたであるうちに」

カシャンカシャンと槍が構えられた。

取り巻く槍と盾の布陣。火と地の精霊人形。操るのは『イギリス支部』最強のプレイヤー。手はまだ残されたまま。相手はもはや暴走中…余裕はある…余裕?いや、違うか

「マスター。やっていいのか?」

「フレイ~、契約者への口の聞き方気を付けなって何度言えば…」

「うるっさいな…。アタシはアタシ。あんたは地震でもおこしてな!」

「ムカッ。言うなぁ~!」

パンパン!手を叩き、火と地の喧嘩を止める。今はそんな場合じゃない。

「行きますよ。Lady…」

二人の精霊人形が自身の属性を武器化する。


―余裕?いや、違う…


火は全てを灰に変える死の鎌に


―これは…信頼


地は全てを倒す万能の剣に


―繋がり…か。


ヘルは理解した。

知識を重ねただけではわからなかった、不可視の信頼に、管理者DとTとGが願った事が、人の管理などまったくの間違いだと理解する


―導きが必要だったか…。我々に…


人形が頷いた気がした「はぁはぁ…馬鹿げてる…あぁそうだよ…御母様のプログラムが…エラー吐いてる…くっそ…検索が…『404 Not Found』…見つからないってどういうことだぁぁぁぁ!俺は…完璧なプログラム組んだんだよォ!何なんダ!フザケんな!オれハ、チシキのカミ、オーディンナンダヨォ!」

狂った叫びに静かに笑う。

「哀れね、本当に。見ているだけでも心が痛む…。まるで狂ったアナタなど私の敵にもなりはしない」

「そんな知識(データ)無えんだヨォ!このオレに知らないことはネェ!そんなこと、あるわけがないんだヨォ!」

もう…見なくてもヘルには理解できた。

壊れた…プログラムの末路が

どうしようもない結末が、わかったわかってしまった。息子が死ぬ光景が…■した人の死ぬ光景が…

あれ?■ってなんだ?■…?人間がよく使う…妙な言葉。検索する…答えは見つかった

これが『恋』でしたかノイズが走る



「間に合え…私ぃ!」床板が外れた場所から頭が生えた。金髪の少女が生えてきた。

「あれ?修羅場かしら…?」

エアリアルが気まずそうに口を開く。

急いで走って来たのだが…お邪魔とか…あれ…なんだろ?涙が…

「予測通り!アハハ!知識ハ間違ってナイ!オレは…真なる影!絶対に…絶対に…あれ?ナンダッケ?」

見ていられない。叫びが聞こえた

―『クロア・オーディスタ』を…殺してくれ!!!!!!!

―私が…私が償う!クロアを…助けて…









あらゆる武器が一斉に彼を貫いた―――――――おい


暗い世界に声が響いた。

「おい、起きろよ。体返せ」

ゲシゲシと頭を蹴られている。

…お前、誰だっけ?

「俺だよ、俺」

…詐欺ですか。

「バカ違げぇよ」

わかってるよ。わかってる…

思い出せないだけ…なんだ。

「…お前、何がしたかった?」

さぁね

「ヘルを利用し、騙し、アレイアを傷付けてウィストレアをズタズタにしてエイドまで巻き込んで…お前、あいつら弟妹じゃないのかよ」

さぁ…知らない

「…。知識、か。」

知らない

「そんなに魅力的か?」

さぁね

「…」

ようやく黙ったか…

「俺、どこで間違えた?」

はぁ?

「俺は…なんでこうなった!」

…最初から、だよ。

最初から。君が始めたその時から。

僕は君に入り込み、内人格として補佐してきた。フギン・ムニンもそう、武器の名もそう、キャラクターの名前でさえもそう!

全部僕の計画通り!そうさ、本当の黒幕は僕。そして…君さ「何だと?」


クロアは『クロア』に聞いた。

理解ができなかった


あぁそうだよ…君こそが黒幕!

君が防犯カメラに映ったから御母様は僕を産み出した。だから…君さえなければ…こうはならなかったのに…

「論点のすり替えだな。俺はお前を否定していない。存在を否定していないのに生まれた理由にしないでくれよ…クックック」


そう、クロアは存在の否定をしていない。むしろ反面とも言える彼の存在が心地よくもあった。自分の知らない自分…まさにそんな感じの彼に知識欲が首をもちあげたのだ


「少し、変われ。このままだと俺達は死ぬ。だから…変われ」


すぅ…と意識が入れ替わるのを感じた。滑るようになめらかに二人のクロアが人格を交換するパキパキと槍が、剣が、鎌が突き刺さったクロアが動いた。全身からのびたようにも見える武器の数々は見るだけで痛みを幻想する

「…!」

「クロア?」

彼は答えずに短い言葉を呟いた

「『フギン』『ムニン』」

黒い羽が舞い、旋風のように渦巻いて槍に貫かれた体が消える。

「よぅ、ムニン。決着はやっぱり俺らだよな。クックック」

「ふん…僕のシステムは崩壊しています。あと数分で消えるのだから放って置いて下さいよ」

黒と白の剣が生み出された。

空間から吐き出された二対の剣は初めてお互いを敵と認識して震える。


雌雄を決める。喜びに


「ふん、神なんて大仰な事を言っときながらえらく俗物なもんなんだな…ヘル」

腕の傷が癒えた女神は自嘲気味に笑った

―確かにな。今ならば分かるさ。私が作ったのは神の化身などではなくただの道化だったのだと…な

「あぁ。神の道化オーディスタ。一番真実に近かった訳だ。ハハハ、笑えねぇ」

剣をくるりと回して左手で受け止める。腕を引いて、クッと息を止めた。

「行くぞ、内包存在、『クロア』!」

床を蹴り、走ったヘルの時の余裕はどこへやら、今の『クロア』は立つのだけがまともで他は既にボロボロだった。剣は遅いし払えば落としそうになる。

そして何より、目が死んでいた。

「…っ!…くるな!」

一撃一撃に必死になり、すぐに来る腕と足の追撃に追い付けない。

「まじめにやれよ、俺はこんなんつまんねぇぜ?」

ヤレヤレと張り詰めていた高揚感が薄れていくのを感じる。もうダメだな、戦意のカケラすら残っていない

「終いだ。俺が…人間が神を地に()とす」

「勝手に…しなヨ。」

パキン、と『クロア』の体が割れた。どうやら、先程の崩壊が影響しているようだ。壊れかけたこいつになど…もう用はない。

走馬灯じみた記憶が流れて小さく笑う。なるほど、滑稽な事だ

「剣技『影閃斬』」



………半年後………



「さぁ!今日も盛り上がってるな!第一試合、選手入場だぁぁぁぁ!」

相変わらずのテンションで叫ぶ司会に、会場にいた観戦者が沸き立つ。興奮の叫びと何人かの指笛、半年でまた人数が増えた気がする。

「懲りないな…まったく」

クロアは、黒いベストにメタリックなアクセをつけて眺めていた。さっき自販機で買ったオレンジジュースを一口飲み込む。

「いいじゃねぇか。俺なんて理解する前に白蛇と仲良く退場だぜ?カッコワリィ」

半年前の…ヘルの事件。あれは今では通称『ヴァルハラ』事件と呼ばれていて大量の体調不良者を続出した悲劇的な事件として片付けられた。

理由は特定エフェクトに含まれる赤と青の強烈な明滅によるものだとワイドショーでも取り上げられていた。

まったく、世間と言うのは悪いことは叩きたがるくせに時間が経つとすぐに忘れる…。たった半年で風化しているこの事件、完全に忘れ去られるまで後何ヶ月だろうか…

カコン、と半分ほどになった缶を休憩スペースの机に置いた。

「ったく、呼んでおいておせぇな」

エアリアルが来ない事に小さく不満を漏らす。

「アレだ、きっとお持ち帰られる為の準備を…」

「誰が?」

背筋が凍るような鋭く言葉が呟かれた

「うおっ!」

「ガルト…相変わらずな事で」

それにはクロアも苦笑いしかない

「…久しぶり、クロア。半年ぶりね」

「そうだな」

素っ気なく答えた。

実は時折ここに顔を出してはいたのだがエアリアルと時間が合わずに顔を会わせることはなかった。もっとも、試合にも出ていないので厳密にはほとんどの知り合いと出会っていない事になるのだが。

「あははっ!、懐かしいわぁ~」

嬉しそうに笑い、彼女は口をつぐむ。

再会を喜びあう時間は…なさそうだった

「…行きましょ、Gが呼んでる」

クロアとガルトは立ち上がり、スタッフエリアの扉を開いた……中央管理室にたどり着いた。

中央に聳えた巨大なコンピューターが懐かしい、世界中の『ヴァルハラ』サーバーを管理する場所。

「…遅い。」

いきなり不機嫌なGにお叱りを受けた。

「気にすんなって、皺が増えるぜ?Gさんとやら」

ガルトが地雷を踏んだ。

「ひでぶっ!?」

鮮やかなメモ板捌きが何故だか懐かしい。クロアは苦笑いしながら倒れかけた友人の肩を掴んで引き戻す

「ふぇんひゅ(サンキュ)」

礼を聞いて、半分残っていたジュースを飲み干し、缶を押し付ける。捨てて来い、とさりげなく、それでいて苛烈なアプローチ

「チッ、覚えてろ!」

走れ走れ、このあたりには缶の捨て場はないぞ。っと、意地悪な心の声を黙らせてクロアはGに話しかけた

「俺らは何で呼ばれた?」

彼女は満足そうに頷く。どうやら聞いて欲しい話題らしかった。…ということは悪い話ではないなと考える

「詳しくはまだ話せん。とりあえず楼騎と客人の所へ行こうかの」

楼騎きてたんだ、と言う声の後に

「客人?!えっと……キャク・ジンさん?」

スパーン!と二人分のツッコミがエアリアルを吹っ飛ばした

「客じゃ」

「考えろ」

スタスタスタスタ

かなり辛辣に言い放った二人は歩き去った。エアリアルはヨロヨロ立ち上がり、

「泣くぞこらぁー!」

走り出した。クロアとGはメインコンピューターの前で何やら険悪なムードの楼騎に合流する。ピリピリと針で刺すような空気が痛い。

「クロアか。」

………

……

会話、終わりかよ

内心ツッコミを入れてクロアは簡単に挨拶を済ませて何の用で呼ばれたのか聞いてみる

「知らん。」

だ、そうだ

クロアは会話を諦めてGに聞いた。

「何で呼んだのか、そろそろ教えろよ」

「…よかろう。エア、主も聞け」

走ってきたエアリアルが息を切らせながら了解の返事をする。

「…まずは、再会を祝し挨拶を」

「いらねぇ。話せ」

スパッと会話を切る。クロアの鋭利な口調に楼騎も若干の同意を示した

「…むぅ、仕方ないのう…では、まずは『ツバイン』部隊の解散を伝えなければならぬ

もう、BUGに対抗する必要が無くなったからの…寂しいものじゃ」

誰も何も言わない。

Gは意外そうにエアリアルを見つめる

「?、悪い知らせに何を言えばいいのかしらねぇ?G」

「…なるほどな。ならばガルトを待とう、それのために奴も呼ばせたのじゃからな」

ぷしゅう、と気の抜けた扉が開いてあまりにもタイミング良くガルトが帰ってきた。片道は短くとも往復は想像以上に長い。油断して走るとガルトのようになる。

「ぜー、ぜー…。畜生、クロアの野郎…いつか…覚えてろ…」

悪態と息を全力で吐きながら油断して前半で飛ばしすぎた自分を呪っていた。適当な部分で呼び止めてGが話を始めることを伝える「…主らに、いや、クロアにこれを渡す」

Gが差し出したのは、強化プラスチックのケースに厳重に保管された三枚のカード。

見るも鮮やかなイラストには見慣れた三人の姿…

「…これ、どうして」

戸惑いを含んだクロアの言葉に嬉しそうに、それはもう嬉しそうにGは答えた

「『ヘル』『アレイア』『ウィストレア』の召喚呪符。こいつらはもう敵ではない。むしろ、儂の孫みたいなものじゃ。Dと話してな…これが最良じゃと即判断した訳じゃ」

「いきなりだなオイ」

「主ならば受け取らぬ訳はないと踏んだんじゃが?ほれほれ」

ひらひらと三枚のカードが入ったケースを弄ばれる。ムッとして、奪う

「…もらっとく」

ニヤリ、とGが笑う。

「では、それについて『彼女』から全員に話がある。」

あぁ…さっきからチラチラチラチラ目に入ってはいた人物が背面に位置した椅子から立ち上がり、歩いてくるのがわかった。

鮮やかな…紺色のショートカットに若草色の着物を緩めに着こなした18、9歳ほどの美女が前に立ち、一礼する

………コイツ、誰だ?

「ふふふ、皆様『こちら』ではお初にお目にかかります。私は若草の中の人です」クロアとエアリアル、ガルトはポカンとして目の前の女性を見つめる…。

(え?若草?アレが?)

(あいつ男だったろ?どう見ても女じゃねぇか)

(…そもそも、誰だ?)

ヒソヒソと会話する三人を見て楽しそうに笑う。

「みんなそう言います。まぁネカマとか呼ばれる分野ですのですが割と皆さんやられてますよ?私はネナベですが」

ネカマ、ネナベ。ネット上で自分の性別と真逆のキャラクターを演じること。日本のゲーム界では実に半数の人がそのようなキャラクターを持つという(男女両方使いも含まれる)

「んなこた知ってるぞ」

余計な一言を加えたガルトに蹴りを入れる

「いってぇ!懐かしいなおい!」

もいちど蹴り、深いため息をついた。

「まぁいい、続けてくれ」

「はい、くすくす」

そんなにこのやり取りが面白いのか彼女、若草は口元を覆いながら笑っていた。

いろいろと浮き世離れした人物だが案外普通に会話が通じる。もっとも、この日本で着崩した着物で生活するのが普通かと言われれば違うとしか言えないのだが

「この三枚はご承知の通りBUGを呼び出す呪符です。今は浅い眠りについた二人の少女とその母体。彼女達の眠りを覚ますカードです。

故に、使い方を誤ればネットワーク全体に壊滅的な打撃を与える可能性があります。クロア、あなたに使いこなせる自信はおありですか?」

意地悪く笑う若草に小さく鼻で笑う

「それを聞かせるためにわざわざこいつらを呼んだのか、ご苦労なこった」

嫌味を言って反応を見る…。

…何もない。まるで感情の変化がないように彼女は表情を変えなかった。

(本当にそれだけかよ…)

呆れて天を仰ぐ

天井しかないのだが、高い天井はなぜだかメインコンピューターの神殿のような部屋を思い出させた

「…ちゃんと使えるか、だったな」

若草とGを交互に見て、

エアリアルが片目を閉じたのを見て、ほんの少しだが背中を押された気がした。

「はい、使用法を誤りませんか?」

クロアは答える。心の底からただただまっすぐに思いを伝える

「当たり前だ。あいつらは…俺に親切にしてくれた。恩を仇で返すのは俺のスタンスに反するからな。間違えようもないさ」

ガシッ、と若草とGに左右の腕を掴まれた。何だ?

「ならば使用法を説明する。来い来い」

「私が手取り足取りしますよ|(切断的な意味で)」

「若草ぁぁぁ!今、妙な心の声が聞こえたぞ!てめぇ!放せっ!なんでこんな握力つえぇんだよ!」

ズルズルズルズル…。

管理者のログインルームに引きずり込まれて行った。

「待ってよぉ!私たち立ち合いだけ?!ふっざけんなー!」

「俺らにもやらせろよ!」

「…。」置いて行かれた三人は追いかける!

仏頂面の楼騎はさておいてガルトとエアリアルは楽しそう

平和な一時、半年前のあの長い夜が嘘のような展開。

エアリアルは端末に座らせられたクロアに追いつき、急いで隣の端末に飛び込んだ。一歩遅れてガルト、楼騎の順に着席。全ての端末が稼動して手足を軽く押さえつけた

「…では行くぞ。主らに神の加護があらんことを!」…。

薄れた意識が戻ったとき、俺は全身がざわめくのを感じた。全ての細胞が反応するような感覚。あるべき場所に戻った感覚。俺は『クロア』の声を聞いた気がした。

(妹たちを、御母様をお願いします)

気にすんな。俺がなんとかしてやるよ

答えて、回りの景色が見慣れた大草原なのに気付いた。

「久遠に眠る三神よ、我が呼び掛けの元に夢を払いて舞い戻れ!サモン!『ヘル』『アレイア』『ウィストレア』!」

三人の女が空間を歪めて飛び出してきた。半年前まで敵だったヘルまでがこうして手を貸してくれるとは…ひょっとすると因果というのも悪くないのかもしれない。

「くっろあー!」

―待ち焦がれたぞ

「お姉様の為だからね!勘違いしないでよ!馬鹿クロア」

ウィストレア、テメェは帰れと言いたい。

「よっ…と。準備はいいか?エアリアルよ」

「バカにしないで。私も上級ランカーよ?地味ガルト」

青龍、フランメリーゼが解放された。

こちらも武器を解き放ち、構える

「「行くぜ!」」

俺はガルトと同時に叫び、剣をぶつけあった。


『ヴァルハラ』に来てから色んな出来事があった。

情報屋に会った。上級ランカーとも戦った。BUG達と戦った。ノピアとヨロワに出会った。ビック・ベンの模倣エリアで戦った。リゼに出会った。嶺たちに出会った。


そして何より…仲間の大切さを知った気がする。

こんなことは誰にも言わねぇ。墓場まで持って行く。だが…少しだけ言いたい。言葉は言わなくては伝わらないんだから…な









みんな…ありがとう…ってな

全てが終わった。

ようやく…終わったー!ヽ(´ー`)ノ

長かった~軽く一年はかかったネ

「黙りやがれ!」

あいたっ!何だこの鳥は…焼き鳥にしてくれるわ

「やめろっての!黒燕様を忘れたのかっ!尾羽根むしるな!」

…あぁ…

「ったくよ、この黒燕様をおまけキャラにして早半年…出番はまだかまだかと待ち続け…届く知らせは『最終章』!こんな馬鹿げた話があるかよォ!」

まぁ…悪かった。出番あるだけいいじゃん。最初の情報屋なんて一回の登場でタイミングを逃したんだからさ

「…まぁ、それなら…って言うと思ったか!」

痛い痛い!つつくな!えい!

「いてぇー!黒燕様の羽根を…黒艶燕尾をよくも…!奥義『亜空飛翔す黒燕』」

「銃は人に勝ち、剣は銃に勝ち、紙は破れれども負けは永劫に無し。『ペンは何よりも強き盾』」

「作者シールドだと?!」

ガツーン!お、突っ込んだ

「クラクラするぜ…あ、黒燕様のモノクロ写真が見える…男|(?)前だぜ」

遺影ですねわかります。

さて、と ではお知らせタイム

なんと!アヴィス・メモリアルの総合PVが61000を突破しました!

わーい\(≧▽≦)/


そして…何やら変化があったようで、中央管理室がバタバタしてるらしいですよ?二人くらいが

一体なんでしょうね?


それじゃ、全ての物語は終わり…

「エアキック」

ぐはっ

「俺らにも最終回なんだから一言言わせろよ」

「クロアの言う通り!って言うかなんで楼騎は機嫌が悪いの?」

「…聖蓮、風翼、切風、フィオーレ…流浪の月…なんで。こんな事が。」

「お姉様ぁ、ぶつぶつ言ってる人がいますよ?近づいちゃダメですからね~」

「クロアー!会いたかった~♪(ウィストレア無視)」

―ま、ままままた会ったな、クロア。

―クッキーなるものを焼いてみたのだが食わぬか?初めて作ったのだが

「わー!おいしそう!おねえちゃん!」

「ダメ!それはイロイロ入ってるかもしれないわ!ヨロワにイタズラする気ね!この死んだ目の黒女っ!」

「ませガキは黙ってな、相棒の甘酸っぱい二次元の恋を生暖かい目で見つめてやりてぇんだよ」

「Mr.ガルト。二次元とは非現実の事ではないのですか?」

「違うのよ、リーゼロッテ・ワイゼン」

「二次元ってのはぺったんこなのよ」

「Ms.瀬名、御簾…なるほど、あなたたちの胸のような…ハッ」

「okok、御簾、やっちゃうわよ」

「えぇ。失言は辛いわね」

「応援サンキューな。あとがき短けぇし」

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