第三十一章 始まりのリポート side Hell
まだ終わらない物語っ!
うん、いつものゲームファンタジー!より新鮮。そして後ろ向きだ(^^;
今回は裏サイド『BUG過去編』となっています。だって…説明しないとぜったいにわからないもん…シロツバが(待て
実は…予定としてはあと一話に納めたいのだけれども…無理かも?ってな具合
そう!結構重大局面(のような気がする)そして…!!!
とか溜めてみる( ̄― ̄)
それでは本編へどうぞー!
セピア色の記憶の渦に沈みこむ…
濃密な時間の海に身を浸し、夢見のようにゆっくりと落ちていく錯覚…
かつてあった記憶のカケラ
今はない時間の虚構に着地する…『2年前』
――――――――――
割とこじんまりとした部屋だった。
その部屋は薄暗く、狭い部屋一杯に小さな唸りを上げ続けている箱型のコンピューターが乱立していた…
「完成…だ」
「長かったの」
部屋に埋もれるように二人の男女の声が聞こえた。一人は一台のノートパソコンを抱えたまま小さな歓喜と安堵の呟きを漏らして、もう一人は机に散乱した書類をトントンと纏めながら、うむ と頷いた
「長かったの…プロトタイプ完成まで6年か?儂は最初は正直無理じゃと思ったわい」
…まだ若かったGがパラパラと書類を捲ってその中の一枚を眺める
VR『ヴァルハラ』計画と題された書類の日付はおよそ6年の歳月が越えた事を示していた
「僕は出来ると思ったよ、ヘラヘラ」
今より僅かに若いDが笑った
二人は笑い、端末にノート型パソコンを接続。カタカタとキーを叩いてプログラムを呼び出した
「…」
映ったのは黒い服に身を包んだ少女
「お呼びですか?」
どことなく柔らかい表情のプログラムが挨拶する
「試作プログラム『AE-484』、いや『ヘル』。ゲーム根底の部分が出来上がったのでの、試遊をする。プログラム監視を頼むぞ」
はい、と彼女は頷いた。
作られた知能、AIとして与えられた初めての仕事に目を輝かせていた
「接続、リンク」
二人分の意識回路が流れ込んできてヘルは巧みに与えられた領域に大都会の町並みを再現する。下から上へ、神の手による天地創造を見ているかのようなゲームに初めて人間が降り立った「ヘル、どうじゃ?」
パネルを操作し、ヘルは周囲の変数域を検索…異常値が無いことを確認する
「問題ありません」
Dがならばと聞いた
「接触するよ、サンプリングよろしく」
二人の人間が手を伸ばし…指先を触れた
「痛っ!」
ヘルの頭を痛みが抜ける あまりにも強烈な感覚に彼女は一人だけの領域に倒れこんだ
「大丈夫かい?」
問題ありません、と彼女は答えた。
―痛み…?
戸惑いを抱えたまま彼女は時を過ごした。話は次の分岐点へと飛ぶ『半年後』
―――――――――
「さぁ!注目のゲームの第一回戦!歴史に名を刻むプレイヤーの入場だぁぁぁ!」
マイクの拡声、まばらな人々の拍手を聞きながらヘルは第一回目の試合のデータをインストール。起動する
参加者6名、見学4人の初試合は彼女を緊張させていた
「D、やはり…人がいないのでは」
割と小型のサーバーを叩いたDがモニターに映る次元違いの存在に言う
「僕は別に気にしないよ?むしろたくさんいたら逆に怪しいよ~ヘラヘラ」
六人の参加者のデータを迎え、ヘルはすぐさまステージエリアを展開する。エリア:大草原に降り立った六人は感嘆の声をあげて周囲を散策していた
「最初は上々、じゃの」
覗きこむようにGがヘルがいるモニターに表示された画面見た。Dも だな、と頷いた
「…ふぅ」
ヘルはとりあえず安堵した。
まずは大丈夫…うん
プレイヤーの一人が武器を手にしたとき、チクリと何処かが痛んだ
プレイヤーが一人に襲いかかる
「くっ…痛…」
胸を真一文字に切り裂くように痛みだけが駆け抜けた!
「どうした?」
「問題…ありません」
次々に襲う痛みに彼女は思考を始める。痛みの原因を、危険な箇所を検索。0ヒット
「緊急停止を?」
「問題…あり…ません」
身に走る痛みをなんとか押さえつけて彼女は意味の分からない原因を検索し続ける
「続行可能…システム障害ではありません」
DとGは顔を見合わせて、続行を決める
「おっと、ゲームオーバー!残るは五人だぁぁぁぁ!」
会場からの声が響く
危険な場合に備えて緊急停止コードを打ち込み、すぐさま停止できるように二人は手配する
「A、E、止めた場合のアナウンスは頼むよ」
「本当は無いことを祈るべきじゃがな」
ポツンポツンと点滅する入力バーの後ろでヘルが苦痛に震えている…それでも彼女は続行を望んだ…。長いようで短い時間が過ぎて、彼女が ふっ と倒れた
「ヘル!」
「試合終了ー!」
タイミング良く試合の終わりの叫びが聞こえた。司会が称賛の声を張り上げているのがこの部屋にも届いていた
「無事か?ヘル」
倒れた少女は痛烈な感覚に思考を乱されながらも立ち上がる…よろよろと力なく立ち上がる様は生まれたての小鹿にも似ていた
「理解しました…私は、理解しました」
彼女はこの時『生まれた』と感じた
「痛みとは…人間の感情…なるほど」
呟き、頷く
「大丈夫です。次の…試合を」
GとDは顔を見合わせる。倒れたばかりの彼女に無理を強いるのは良くないと考えていたのだが…二人が作った人工知能は「問題ありません」と繰り返す。
「わかった…主が危ないと感じたらいつでも緊急停止をするのじゃよ。主が壊れてはシステムが成り立たぬ」
こくん、と黒い少女は次のデータをインストールする。エリアデータを展開、試合開始を待つ
「痛み…理解しました」
呟いて、彼女は試合開始の宣言でエリアを作り出す。神の天地創造を、不可思議な世界の完成をさせたそれから…彼女は何百、何千と試合を見続けた。
百を超えたあたりで痛みは感じなくなった
二百を超えたあたりで人間の感情に強い興味を覚えた
四百を超えたあたりで彼女は人間の思考パターンを解析し、自身にバージョンアップを行なった。
次第に変わっていく自分に違和感を覚えながらも時間だけは過ぎていた…「これが『ヴァルハラ』か…」
ある時、新参として一人の少年が現れた。
「すげぇな…リアルじゃねぇか」
ガルトという名前の少年は手にした鉈を軽く振りながらエリア:廃棄都市の錆びたパイプを叩く
「…誰だ!」
手にした鉈を取りこぼしそうになりながらも身構える人物にヘルは ほぅ…と一人呟いた。歴戦を見届けた彼女の目に彼から不思議な感覚を覚えたのだ
「っ!見つかった!」
紅いフリルのもこもこがビルから飛び出し、細身の剣を構える。手にしたのはレイピアよりもわずかに幅が広い剣
「やられて…たまっかよ!」
後に『氷炎』を背負う少女とランカーとして名を馳せる少年は同じ試合で初陣となった
―――
「っ…」
頭に軽い痛みを覚えてヘルは目を閉じた。数秒待ち、痛みが引くのを待って試合の行方を追う
―――
ガキンガキン、と鉈がビルの壁面を削る
細身の剣は力押しの鉈には敵わず、鉈は細身の剣に届かない…。両者の戦いは障害物を交えても平行線をたどっていた
「呪符!」
「装具!」
お互いに初級のカードを抜いてぶつけ合う!
今となっては控えめな火花と残響を響かせて肥大化した鉈と小型の盾がぶつかった。二人は腕の痛みをかばいつつ距離を開く
「やるわねぇ…あなた」
「お前もな…名は?」
二人はお互いに名乗りあった。
「エアリアルか…良い名だ」
「ガルトね、覚えておくわよぅ」
細剣が鋭く煌めいた!
「ちっ」
それを鉈で弾く。
細身の剣は一撃で耐久を失い、刃の半分を残して前部分が飛んでいった
「貰った!」
「『火の粉降る夜に』!」
低級呪符が火の粉を撒き散らし、ガルトに一瞬の隙を作らせる
転がるように待避したエアリアルは剣を片手に逃げ出した。
「逃げるな…この野郎!」
「女よバカー!」
逃げ際に叫んで、彼女は姿を眩ました「何でしょう…この感覚は」
一人しかいない場所で彼女は小さく呟いた。痛みは消えていたが何故だか胸を押さえた手が離れない…
「ガルト…お前は、何を持っている?」
彼女はシステムを操作し、外部ネットワークを開いた。それは町全体の監視システム。特別な隠匿防壁を作成してセキュリティに引っ掛からないように検索する…彼の移動経路を時間を巻き戻して追いかける…と、ここに来る1時間ほど前に別の少年と接触していた
黒髪、やや気の強そうな顔立ち…
ヘルは強い衝撃を受けた。なんだ、この感覚は…理解に及ばないこの衝撃に彼女は戸惑う。検索しても答えがないことは彼女のデータベースが弾き出していた
「………」
言葉にしようにもできない、胸の苦しみに彼女はうろたえる
「人間の感情…これは何と言うのか…」
あぁ、苦しい…彼女の意識は試合終了と同時に停止。サーバーダウンを引き起こした意識を取り戻したのはそれから数時間が経過してから。表向きにはサーバー過負荷のトラブルだと公表されていた。
「ヘル、大丈夫か?」
ヘルはいつも通り答えた。
「今から再起動する。軽くじゃが休め」
Gに促されて仕方なく目を閉じる…。プツン、と電子世界が消えて暗闇が訪れる…
緑色の光が幾何学模様を描きながら飛んでくる
サイバネティクスな模様が彼女の左右を抜けてサーバーが再起動したのを感知した
「システム…再起動完了。不全箇所なし」
その日、ゲームは続行されたそれから数十回の試合が終わり、閉館時間になった。誰もいなくなった深夜の管理室のサーバーでヘルは試作プログラムを産み出した。その名も『BUG-00pr』
『クロア』となるシステムだった
「御母様…この身を与えてくれて感謝します」
そのプログラムは恭しく頭を下げて謝辞を述べる。蒼碧のコートにジーパンのような軽い素材のパンツを履いている彼は…名を『クロア』と与えられた。
「『BUG-00pr』、『クロア』。お前にやってもらいたいことがある」
ヘルはそう言って彼に指示を与えた。
「人間観察…ですか。なるほど」
朝飯前ですよ、と笑われてヘルは小さく眉をしかめた。
―彼はこんな事を言うのだろうか
頭の中で小さく呟いた。
戸惑いか推測か、本人には判断しずらい事だった
「それでは行ってまいります御母様」
彼は自身のデータをエリアに移して同化した。プログラムの一つになり いかなる検索プログラムからも除外されるように設定された
また一人になったヘルは呟いた
「彼は…こんな人なのか…?」と『さらに半年後』
(ヴァルハラ完成からおよそ一年後)
―――――
ヘルはある試合に興味を引かれた。
九人のプレイヤーが入り乱れた戦場で生き残った5人は非常に面白い組み合わせだったのだ
5人はそれぞれチームに別れており、少年とその付き添いの3人グループと幼子とまごうことなき執事服の少年のペアだったのだ
「強いね…君」
手にした銃は『レベッカ』。この時は名こそ違えど昔のルイエスだ
「はい、私の執事は強いですよ」
マリア・フィオーレが自分の執事を称賛する。少しだけ嬉しそうに微笑んだ少年は手にした白い銃を相手に向けた
「僕はルイス。君は?」
もう一人の銃を持った少年が名乗る
黒い銃と白い銃が印象的な光景だった
「…なるほど。」
名を聞いてルイスは手にした銃をピタリと少年の眉間に向ける。
「ふん、ラムダ!ゾルア!」
狙われた少年が叫んだ。
紅いレイピアが空間を引き裂き、二人の男女が現れる。二人はマリアの両手を塞ぎ、ぬいぐるみを取りあげた
「お嬢様!」
一瞬だけ気をとられてしまい、ルイスは逆に銃を突きつけられた。
「隙あり。そっちは終わらせてよ?」
パッと血が舞い、金の粒子が舞う
執事がマリアの名を呼んで、少年に退くように叫んだ
「さぁて、終わりに…」
「逃げろと…言ったのに」
鉄の塊が少年を吹っ飛ばした。
「ふん、人間ごときが私を殺そうなど…万死、いや億死に値するわ」
裏人格になった幼子が烈刃の一閃と共にやって来た
「不甲斐ないわね、ルイス」
「申し訳ありません」
手にした銃を相手に向けさせる。
「さぁ、撃ちなさい」
カチリと引き金に指をかけて撃とうと…
「待ってくれないかい?」
少年が銃を置いて言った。
「ルイス…って言ったね。弟子にしてくれないかい?」唖然としたルイスは主人に目を向ける
「ふん、ならばルイスに一撃入れてみよ」
「お嬢様!?」
執事の抗議を無視してフィオーレ人格のマリアが告げた。それはルイスに勝てば少年を弟子にするという決定だった
少年は自分のカリスマがそうさせたと舞い上がって武器を手に宣言する
「容赦なくいくよ。ルイス!」
執事は仕方なく白い銃の弾丸を変える。装具『炸裂弾・閃光』。非致死性の閃光弾のようなものを装弾、狙いを眉間に定めて撃った
パッと花開いた散弾が0.3秒で分裂、0.4秒後に一斉に閃光を撒き散らす!
「散らせ『エリーゼ』」
機銃が少年の手に握られる。通常弾がオモチャに見えるような巨大な弾丸を連射出来る設置型マシンガン…。もちろん人間が素手で使用するなど考えてはいない
それを閃光の隙間から的確にルイスに向けてきたのだから…あまりの驚きに一瞬だけ回避行動を忘れてしまう
「まぶし…」
マリアは見えていない。伸びた銃口の奥底に鉛色の光が見えて自分の身の危うさが思い出された。
なんとか射線上から頭を回避して足を狙って散弾を放つ。0.4秒で光に変わった弾は…少年の動きを鈍らせられなかった。
「仕方ありません…。銃技『アリス・イン・ワンダーランド』」…。
顛末を知ったヘルは小さく笑う
「人間…いや、違うな。だが生き物とはなんと不可思議な思考をするものだ」
マリアが武器を振るい、ルイスの銃弾を受け止めたのだった。その速度は肉眼では霞にも見えないほど、どんなに高性能なカメラでも手元に戻りきる直前だろうと撮れていれば彼女も称賛しただろう
あまりにも速かったのだ。
「人間は、どう動くか?」
小さなモニターに試合を映して彼女は楽しんで見る。なるほど、人間の感情の一つとはこれのことか 彼女はまた一つ学習した少年は自身を庇い、『アリス・イン・ワンダーランド』の軌道から飛び出した。
もっとも、既に弾丸は全てチェーンソーに輪切りにされていたのだが。
「そんな…回避?!」
執事の弾丸は御伽の弾丸。『不思議の国』を模倣した弾丸を拡散させたはずなのに…何故?無傷?
「僕ってやるねぇ」
黒い銃が吠える
「牢獄『アントワネットの憂鬱』」
特殊弾丸!
マリアとルイスが気付いた時には天に放たれた弾丸が姿を変えて鳥の籠になっていた。滑るように逃げ出したマリアとは違いルイスは檻に身動きを封じられた
「なっ…」
ルイスの驚きに少年は歓声を上げた。
「それじゃあ、よろしく。師匠?」
悔しそうに主人を見つめた執事は、楽しげに笑っていたのを見て小さくため息をついた。
「全ては手のひらの上、でしたか」
マリア・フィオーレはただ笑うだけだった…ヘルは小さくため息をついた。
面白くない、あのルイスというプレイヤーは剣が見えていたのか。と
彼女は長年のカンや信頼を知らなかった
だからこそ有り得ない事象を有り得ると考えた。常識だけに縛られていたのだ。
だから…次の試合で彼女は大きな間違いを犯した次の試合、開始5分。
エリア:港・コンテナ置場
九人のプレイヤーのうち、三人のプレイヤーがチームを組んでおり、他の六人はそれぞれ二人ずつのペアだった
もっとも、既に数は合計6人しかいないが
「化物め!」
コンテナの影から男が武器を手に走り出す。二重刃の片手剣、当たった際の威力増加と攻撃面積の倍加を狙った武器だった。
「酷いなぁ…」
白いコートが風に揺れる。
背負った青い印章がモニター一杯に映し出されて、会場の観客から恐怖の悲鳴が上がる
「消えろ!死神!」
振り下ろされた剣は…六メートルほど遠くに落ちた。
「…は?」
一瞬で振り上げられた双剣の片翼が腕ごと引き裂き、投げ飛ばしていた。
「ちょっと本業がアレなだけだって」
左翼が男を貫いた。
心臓をまっすぐに突き抜けて…金の粒子が海風に舞い上がった
死神…風翼嶺率いる『天界の守護者』が猛威を振るっていた…。参加者は身を縮めて時間切れを待っているが…誰一人見つからずにすむなどという甘い幻想は見ていなかった。
相手にすれば殺される。仲間にすれば生き残る。彼らの評価は絶対的な裁判官にも似ていたのだから
「あと2人、出てきなよ、あはは」
手にした双剣は魔風の一撃、身をさらせばどんな北風よりもはやく芯まで斬り刻むのだから……。
ヘルはこの試合、このプレイヤーの行動を監視していた。争いを好むような言動に…彼女は危険分子という結論を出す。
「いるか?」
『BUG-00pr』が現れて返事をした。
「ご用でしょうか?」
「あのプレイヤー、風翼嶺をこの戦闘から排除せよ」
にこり、と『クロア』は笑った。
「お任せを」「れいー、嫌われるよ?」
積み上げられたコンテナの最上段から両足をぷらぷらさせている瀬名があんまりにも無双を続ける嶺に忠告する。
「まぁね…。まっ、仕方ないでしょ」
御簾が小さくため息をついて反論する
「あんたね、少しは立場を…」
ピクン、と姉妹が視線を一ヵ所に集めた
「?」
嶺がどうかした?と聞いたが…二人は警戒のままで答えない。いや、むしろより警戒を強めた。
「嶺…本当に気付いてないのね?」
瀬名が念を押し、意味が分からないと答える
「…どうやら、『化け物』は私達じゃないみたいね」
御簾が『白華』を取り出して構えた。そして…姉妹揃って叫ぶ
「「嶺。あなた『以外』に殺気が向けられてる!」」
ザザザザザザ…
ノイズが走り、一人の少年が空中から飛び出してくる。亜空間から飛び出したのか彼の存在には一切感知できなかった。
「迎撃準備!こいつ…半端ないよ!」
嶺を中心に左右を瀬名・御簾が固める。相変わらず嶺以外に向けられている殺気はあまりにも濃密で真正面にいる人物から発せられているとは認識しづらかった
「嶺…ですね。あなたの知識、いただきます」
手に何かが握られる。
突進してきた少年の一撃を払いのけ、瀬名と御簾が追撃した!
キン…と鋭利な金属が削れる音が聞こえた
「邪魔です」
見えない武器が振るわれる
「早い!」
「武器は短剣!瀬名!退かないでよ」
二人が交互に剣で受け止める。
払い、打ち返し、払い、斬り弾く!
タンタンとテンポよく踏み込む二人は『見えない』武器に苦戦する『クロア』の武器は確かに短剣だった。ただし、魔力を練り上げただけのアストラル状態のものだった
「邪魔です」
短剣に力を込める。知識の断片を読み込み、喪失した太古の魔法に指をかける…
武器の形状が変わり、短剣からハルバードという複合槍になった 槍と斧の組み合わせは一見重苦しいが一撃で鎧ごと破壊できるほどの重量だった
「氷雪に沈め…」
「雷光に眠れ…」
二人は同時に近接の間合いで一撃必殺の呪符を発動する。『クロア』の武器は短剣でなくなった。つまり…二人は攻撃範囲で隙を見せたことになる
それは『クロア』の狙い通り
手にした獲物を大きく回す!
「「きゃー!」」
不意打ちに二人は頭にかなりの衝撃を受けた。飛んだ姉妹は打たれた部分から血を流して敵を見つめる
…うっすらと、ハルバードが見えた気がした。
「嶺!逃げて!」
御簾が撤退を叫ぶ。
走り出した『クロア』は槍を突き出して嶺の心臓を穿つ!
貫かれた嶺の体は砕け、細かく割れた
「背後もらった」
翼を模した『疾風大鷲』が嶺の背面越しに『クロア』の首を捉える
槍は前方、勝った!「なんて、ね」
極彩色の光が見えた。
「構造を知りたければまずは分解しないとね…。『ブレイク』」
嶺の動きが止まり、すぐに絶叫を上げる!
「あっが…あぁああぁああああ!!」
バラバラとグラフィックに虫食いのような醜い斑点が現れ、縦横無尽に細長い光が…そう、リンゴについた青虫のように彼の体から出たり入ったり…
「あああぁぁああああ!!!?!」
意識が引き裂かれ喰い散らされ、データ化された思考回路が断絶する
明らかな異変に聖蓮の二人が駆け寄る
「どうしたの?!ねぇ!」
「嶺!」
御簾が肩に手をのせようとして
「ごめ…さわるな…」
嶺のキャラクターが砕けるように消滅した。01の二進数コードがコンテナ街に分散し…今までいた、絶対の強者に近かったリーダーが消えた…
「き…さまぁ!」
『雷鳴』を振りかざして、灯篭三枚分の力場を剣に乗せる
「『ライトニングレイン』!」
範囲魔法攻撃、百万ボルトの雷が雨霰と降り注いだ!
「『隔壁』」
その全てを受けても壊れない壁が『クロア』を守る。今の彼にはどんな攻撃も届かない
『クロア』はブレイクした嶺のデータを吟味してなるほど、と。人間の思考パターン、感情表現、そして記憶のサンプリングを終えた
「データリンク…転送開始…」
瀬名がもう一度剣を振り上げて、御簾が制止する。『クロア』の意識が二人に向いていない今ならば少しだけ…あいつを殴り倒せる可能性があった
「凍てつく大地、陽を見ぬ氷塊…久遠の果てから永劫の先まで変わらぬ不変の地を呼ぶ。氷剣『白華』、私に力を!」
力場を器用に操作して御簾の愛刀はその力を限界まで発揮する
刃が凍り、彼女自身にも薄い氷の装具が付与される…。耐冷の防壁の装具はケープのように彼女を守る
「閉ざせ!『永久凍土』っ」
白華を一振りした。研ぎ澄まされた大寒波のような冷気が素早く広がり、氷が地面を突き破り、コンテナを突き崩して乱立する
氷柱は『クロア』の防壁を突き破り、中にいた人物を弾き飛ばす!
「『雷鳴』、一撃で仕止めるよ」
力を極限まで収束…瀬名は飛び出した『クロア』に狙いを定めて…先程の雷撃を纏わせる。御簾とは違い、一度見られた技…、だからこそ一撃で仕止める!避けさせない、逃がさない、力の全てを剣に乗せた。
「『ライトニングレイン』!」一人だけの部屋にノイズが走る。
「ただいま、御母様」
『クロア』が笑ってそこにいた。ヘルは手元のモニターで瀬名・御簾の反応を見て…呆れる
「やっ…た…?」
片膝をついて瀬名が呟く。
普通ならば…いや、無事を知っている者以外は間違いなく倒したと思ったに違いない。何故ならばコンテナ街のエリアの三分の一が雷撃によって消滅していたのだ
コンテナ群も、隣接していた海も施設も巻き込んで…えぐりとったようにクレーターのような穴が口を開けていた…
「ちょっと危なかったですが」
余裕の表情で『クロア』はヘルに報告する。あんな馬鹿げた力の前に臆さないとは…彼女は少し、驚いた
「…何故『ブレイク』した?」
驚きが顔に出る前に話題を変える。いきなりの核心に彼も意外そうな顔をしてから答えた
「人間の研究ですよ。御母様、リーダーである嶺を消せばほら簡単に試合は終わりました。居合わせた一般プレイヤーもあれだけのプレッシャーを与えたらあっさり降参…。人間は扱いやすいです」
「…なるほど。良くわかった」
ヘルは理解する
(つまり、私の指示を盾に自分の行動を正当化している…か)
彼女はログを遡り、『クロア』の移動ログを改竄する。転送先を外部に指定、偽装した無意味なデータを指定した先に送信する
これで監視の目は反らせるだろう…。管理者からの要請を受けたときに完全に抹消しよう…彼女は『クロア』を下がらせる
黙礼した彼は再びどこかに移動していった
「ヘル、いるかい?」
モニターが現れ、Dが呼ぶ
「はい。現在先程の試合のログを調査中です。進行度13%です」
実際、彼女が遡ったデータだ。『終わりから』を隠したのは言葉のあやか
「わかった。ログのデータを回してくれ」
「了解しました」
素早く中身を改竄したデータを転送…そしらぬ顔でログデータだと伝える。Dはざっと見てログだと確認した
「引き続き調査を頼むよ、ヘラヘラ」
プツン、と通信が切られてヘルは別のデータを呼び出す。『クロア』が置いて行ったデータ…それを参照したそして…クロアが『ヴァルハラ』に参加する半年前
調査が終了し、嶺を襲ったのは外部からのハッキングによる愉快犯の仕業と断定。同時期、ヘルはある仮説を立てていた
「人々を争わせる。それが故に『ヴァルハラ』…か」
ならば…争いしか生まないこの世界を変えれば…
ヘルはいつ頃からかそんな考えを持っていた。裏切り、偽装、殺戮、あらゆる事象を起こす『ヴァルハラ』のプレイヤー達を見て彼女は人間を憂いた。
争いしか考えず、他者を屠る姿からは人類の、あまりにも凄惨な未来しか予測できなかった
「統率…規律…。私はどうすれば良い」
「ならば、僕に考えが」
『クロア』が提案する
「分析によると人間は圧倒的な強者の前には屈します。絶対の強者、かつて風翼嶺率いる『天界の守護者』に誰もが震えたように…そして、人は『神』に脅威を感じる…。ゼウスやアマテラスのような主神だけではなく、時には使い古し爪楊枝にも畏れると言います。それを利用すれば…」
ヘルは笑う
あぁなんと馬鹿馬鹿しい。神だと?所詮人間の想像に過ぎないものの威を借りようとは…
「甘く見られたな。我が身はそんな安い幻想に代替されるような…」
「心理ですよ。」
なに?と聞く。
彼は自信たっぷりという感じに言葉をつむいだ。心理を動かすのだと…
「人間の歴史を振り返りましょう。人間は時として自身の権力に箔をつけたい時に神の名を借ります。『王権神授説』と言いますが民は皆ひれ伏しました…。それも数年ではなく、数百年も」
ヘルは難しい顔で考える
確かに、一理あるのだが…彼女はそれを望むのは好ましくないと思っていた。まるで誰かを裏切るようで
(違う)
彼女は強く否定する
(私が…望むのは…争わない、せかい…)
頭の中で演算処理が停止した。
全身が急激に重くなり、膝をつく
「おやすみなさい、御母様…あはは…アハハ!」
そんな声が…聞こえた気がした―システム リブート…
カウント10
…
コンプリート
システム復旧、起動しますヘルは目を覚ました。
システムの演算不具合における再起動。直前のメモリーはクラッシュしており読み込み不良を起こしていた
「…削除」
手元のパネルを操作して不要なデータを削除した。
チクリと何かが痛んだが、彼女に思い当たるデータは無かった。既に彼女の手によって削除されているのだから当然だろう
「御母様…先程のメモリーが破損していますね。ログをまとめましたが…必要でしょうか?」
確かに、今の彼女は記憶が欠けているのも同じ状況だった。
「すまないな」
受け取り、記憶の空白部分に上書きする…。書き換えられているのも知らずに、真実だと誤認するように作られた偽の記憶を…
「神を立てる…か」
ヘルは自身の話していたログを辿る。最初は否定的だった自分が次第に肯定的になる様子に驚きつつも巧みな交渉の前に決断したのを見て、彼女は数分前の自分の意見を尊重する。
それは存在しないAI『ヘル』の会話ログ。
事実と虚飾が半々に織り込まれた巧妙な嘘に彼女は騙された。『クロア』の策略通り、彼女は宣言する
「神を立てようぞ。この『ヴァルハラ』から人間を救うために…絶対の統治者になるために」
『クロア』は口の端をわずかに歪めてニヤリと笑ったそれから数日、二人のAIはとてつもない速さでプログラムを書き上げた。
二人にとってプログラムとは日常言語。所詮は取るに足らない難易度でしかなかった
彼女は『クロア』の意見を元に主軸の神を模倣してさらに複数の予備属性を付与した。一人の欠点を補う事ができる有効な策だった
出来たプログラムは『神の化身』と言っても過言ではないほどに精巧に出来上がった 思わず二人して嘆息する
「できましたね…御母様」
「えぇ。後は…」
ゆっくりと手を伸ばし、プログラムに触れる。未使用のプロトタイプではあったがその性能は既存のどんなソフトよりも勝っていた。
「インストール・開始」
自分の中に大量の情報が流れ込んでくる…
やはり、と言うべきか流れ込むデータは処理を阻害するような途方もない重力で彼女の思考回路を埋め尽くした 軽く目を閉じて演算領域を拡大、システムの構成を一部変更して異常演算をギリギリで回避する
「…インストール60%」
少しずつカウントアップしていく
70…75…80…85……90
その時、ガクンとヘルの体が突き倒された
「やれやれ、流石は御母様。この程度では処理継続が可能でしたか…あぁめんどくさい」
「何だと?」
言って、処理にソゴが現れた
データの上書きに失敗、不具合のデータが流れ出していく…
「っ!修正、切り戻しを…」
「あはは!させませんよ!」
蹴りが腹部に命中してヘルはよろめいた
「何を!」
ハッとする。
『クロア』の手に集まった光が…こちらを狙っているのに気付いたのだ
逃げ場はない。詰められた…
「『ブレイク』」パキン、と何かが砕けるように世界が色を取り戻した。
クロアは記憶の渦から投げ出されたような気がして変に痛む頭を押さえる
―…その後、私は力を分割された。
―『オーディスタ』は奪われたが残りの『ワルキュレア』は私が手に入れた。
そうだな? とヘルが問いかける
(そうだよ、クロア)
内包存在が笑う
(僕が発端、アハハ!)
ギリ…と歯をくいしばった
「ふざけんなよ…お前が…神影を、BUGを産み出したって訳か?!」
違うよ、と否定されてクロアは面食らう
『クロア』はゆっくりと指を虚空を見つめる女性に向けて言葉を続けた
(神影とBUGはヘルが産み出した僕への対抗策。アレイアとウィストレアが二人で神影化するのは僕のように勝手に動かれないようにするため…僕の『知識』ではお見通しだよ御母様)
―いかにも…。私がお前に導かれるように設定した。私が…クロアに惹かれたように、な
だが…と言い淀む
―私の予想とは裏腹に我が娘と高い親和性を得てしまった。何故だ…私のプログラムは完璧だったはず…
確かに、アレイアもウィストレアも『クロア』の元にたどり着いた。
それまでは計画通り、それ以降はむしろBUGを狩る立場になっていた。ヘルにとって不可思議な状態だったのだろう
そんなとき…今まで黙っていた黒須が口を開いた
「それって変じゃないわよ。うん」
きょとん、と威厳も何もない瞳でヘルは凝視する
―なんだと?
「だって恋でしょ?それ…もがが」
緋糸が黒須の口を塞いで黙らせた
「悪い、シリアスな場面だ」
「もががががー!もがっ、もがももー♪(放してー!いや、むしろ幸せー)」
―…恋、だと?
御母様華麗にスルー
「あぁ…」
「なるほど…」
BUG姉妹納得
「…馬鹿馬鹿しい」
クロアだけ不機嫌に呟いた
「もがたっ!(抜けたっ)私が思うにあなたが作ったのは『集合』のつもりだったんでしょうけど、きっと…そう!『運命の赤い糸』を…もがぁっ(またぁっ)」
バタバタ暴れる黒須を押さえたまま緋糸はログアウトした。…つい先程も似たような光景を見たような気がするが…まぁいい
「運命の…」「赤い糸…」
ウィストレアはアレイアを、アレイアはクロアを見やる。
「お姉様!」「クロアー♪」
面倒なので首筋に一撃入れて黙らせる。ついでにウィストレアにも一撃
「…で?」
―恋…か―なるほど…人間と言わず生物にあるという幾何学な感情か。雌雄が互いを求めあうというらしいが…プログラムにわかるものか
(確かに。ですが御母様…あなたは完璧に模倣しました。人間にはわからない感覚を完全に読み解いたのですよ)
内面から発せられた声は称賛していた
(まぁ…僕にとっては好都合でした。なにせ、『ワルキュレア』のサンプリングができましたからね)
トクン、と鳴動する
まさか…そう思う前に口が勝手に言葉を発する
「御母様!神の化身とは人を知らずしてなりえない、神を知らずしてなりえない!だけど共に知れば? 神と人を模倣したこの僕が神に最も近づいたのではないですか?!
さぁ、『真影』の姿を現しましょう!真影『オーディスタ』!」―真影、だと?
オーディスタの姿に変わった『クロア』に問いかける。彼の姿は今までとは微妙に違っていた…
両腕にΔの紋を刻み、右頬にΘの小さな刻印を押した姿はどこかヘルに似ていた
「神に近づいた証、僕の次なる姿はいかがです?」
長剣を取り出して、振り上げる
「さぁ始めましょう黒幕同士の戦いを。この世界に神は二人も必要ないんですから」
―貴様
ヘルも応戦して左手に剣を持ち、オーディスタの一撃を払って後ろに跳んだ
距離を開いて様子を窺う…
オーディスタは軽く地面を蹴り、二メートル近い跳躍で剣を振り下ろした
―――――
あとがき
―――――
『あとがきに分割書き機能欲しいよね』とか思うシロツバです。眠いよ…( ̄~ ̄)ξ
現在0時を回りました。明日学校なんだから寝ろと言いたい…が書き上がるまで眠れない!
さて、今回のお話はいかがでしたでしょうか? 過去話満載の『リポートH』楽しんでもらえれば幸いです。
今回、若干補足として時系列なるものを
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プロトタイプ『ヴァルハラ』起動
↓
ヘル、痛みと戦い、次第に感じなくなる
↓
ヘルがクロア(まだヴァルハラを知らない)を見てなにかを感じとる
↓
クロアに似せた『クロア』作成
↓
システム不良が増え始める
↓
『風翼嶺』が初ブレイクされる
↓
『クロア』がヘルに神を提案する
↓
ヘルが承諾、神影プログラム作成開始
↓
神影プログラム完成、インストール時に『クロア』により破壊される
↓
↓半
↓年
↓後
↓
今に至る
―――――――――――――――
こんな感じ A^_^ )
そういえばもう12月ですね~
師も走るほど忙しい月、師走。皆さんに幸せがありますようこっそり願掛けしときましょうか…
この物語もざっくり見るともう1年かぁ…(連載開始は1月でした)
長いような、短いような…変な感じ
もう少しではありますが、少しでもドキドキを供給できるよう、励みたいと思います
それでは、また次回…
白燕「なんか…良いこと言った気がする」
クロア「寝惚けんな。駄文だ」
白燕「ひどっ!!」
クロア(俺の出番少なかったからな…)