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第二十九章 終端への軌跡

ゲームファンタジー!


前書きって本当に何を書くべきなんでしょうねζ(^^;

さて、今回はやったら長くなりました…大体13500文字くらいの長さです。途中で切る場所を逃しましたorz

なんと書きはじめてから20日という期間が空いていて…大体1週間と少しで一話書くペースなのにうまく行きませんでした

最終回はもう少し、あと短い終端へ彼らは道を無視して走り続けます!


それでは、開幕です

金色の光がウィストレアの手に掴まれた。頭上には攻撃しようと待ち構える魔法陣、彼女の隣には名を返されたアレイアが鎖に縛られたまま静かにウィストレアを見つめている

―逃げて

「嫌です」

短い会話だが、二人にはそれだけで十分だった。なぜなら二人は本来は一つの存在『神』と『影』に分かたれたが二人揃えば『神影』となる。

「『神影』」

小さく呟いて彼女はアレイアに触れる。アレイアも軽く目を閉じてそれを受け入れる。本来の姿に…二人は望む


『神影』ワルキュレア。その解放を頭上の魔法陣から極彩色の『ブレイク』が放たれる。まるで雷撃のような凄まじい光は手甲をつけた片手を上げるだけで防ぎきる。

純白の翼をその背に纏い、武装した姿は気高く美しく、この地『ヴァルハラ』を居城とする聖騎士…ワルキュレア。

「御母様…私たちはあなたに従えません。クロアとお姉様に手をあげた罪…この槍にて貫きます」

甲冑がカチャリと鳴る。青と白を基調にした波を連想させる紋をスカート状の衣類に描いていかな敵おも敵としない戦場の女神の名を語る。

ワルキュレア、彼女は槍を空間から取り出して名を呼ぶ。

「第二解放『勝利を呼ぶ天空の槍(ヘヴンズニール)』」

呼ばれた槍は神々しく光り輝いて彼女の手で姿を変える。先端は矛のように、石突きは馬上槍のように、そしてフォルムはより軽く細く…。全体的に先端に重量の集まった形状になった槍は主人の革と金の手甲の下で静かに待機する

「教えて下さい御母様…この恨みはどのように晴らせばいいのでしょう?」

此方からは正面を見れない王座から声が聞こえる。

―データの羅列に変われば分からなくなる、あまり手を煩わせるな

一瞬後、王座が上下に二分される

岩のような王座を一撃で破壊したワルキュレアはその先にいる筈の人物が攻撃を回避したのを理解して周囲の全てのキャラクター座標を読み込む…。上空にアンノウン…。素早く舞い上がり彼女は展開された魔法陣を突き破り槍の一撃を放つ!クロア達は白い床から上空に鋭く舞い上がったワルキュレアを見上げていた。とてもじゃないが人間技ではない飛翔と、細腕から放たれた致死の一撃はまともな人間では勝てないものだと強制的に理解させる

「カッコイイ…」

ヨロワが目を輝かせて天で青い光の魔法陣を突き破るBUG…いや神影を見つめる

…。さすがのクロアもその姿に見とれるばかり…

「すげぇな…」

小さく鳴る自分の鼓動を感じつつクロアは素早く槍を操る天空のワルキュレアを見つめ続けるワルキュレアは槍を操り、魔法陣の中心に立つ人物を貫く


…槍の穂先が触れた瞬間、目の前にいた人物がかすれるようにして消える

幻影(フェイク)だと気付いても伸ばした槍を手に戻す前に背後に気配を感じる。

底知れない威圧と膨大な魔力の波動。カチリと頭の中で危険だと警鐘が響く

―天鳴り響く九音の雷鳴。我が名の元に集いて殺せ

「隔壁展開」

間一髪、(いかずち)の攻撃から身を守る。球体に張られた強固な防壁がどうにか攻撃を受け流して難を逃れる…。安堵したいが気を抜いてる時間はカケラほどもない!

「固有スキル、『戦乙女の流儀』」

一対の翼をはばたかせる。羽が舞い、周囲に数枚が散らばる…一枚一枚が仄かな光を発していて、それはワルキュレアの力の一端を担っていた。

「『白翼(はくよく)の天蓋』!」

全ての羽が対峙する人物の頭上に集結して逃げ道を塞ぐ。手にしたヘブンズニールを叩き込むための一瞬には長すぎるほどの時間を稼いだ…。

神速の一撃を叩き込んだ羽に包まれた人物が落下してくる!

下にいた楼騎は着落地点にいたエアリアルとノピアを下がらせる

羽の輝きが地面に激突して床にひびが入る。内部にいた人物は羽を払い除けながらゆっくりと立ち上がり…その姿を晒す

長身に腰まである黒髪、それをやはり腰の辺りで黄色い布で軽く結わえてありどことなく不思議な雰囲気をかもしている。服装は…アレイアやウィストレアをさらに強化…いや、豪華な装飾をつけたようだ。

灰色の装衣、両腕に刻んだ『∽』を引き延ばしたような紋様、そして頬の小文字の『χ』のような印章…紺色のオーラを纏う彼女が何より異様だったのはそれらではなく、眼。

紺色の眼は瞳孔が小さく、また彼女は常にどこかを見つめているようだった…。

今、目の前で武器を構える者たちなど見てすらいないように感じた

―なるほど、少しはやれるか…。

声が響く。それは口は動いてはいたが口からの発音ではないような不思議な声だった。まるで彼女の周囲から四方へ向けて拡散しているような響きなのだ

「ちびっこ!やれ!」

クロアが叫んで二人の子供はいつの間にか手にしていた縄を引く

白い床にばらまかれていた白い縄があちこちで結び目をつくりながら目の前の人物の足を縄で縛り付ける

「罠符『フォールホール』!」

ボコン。と足元が陥没して彼女を支えていた地面がなくなる。支えを失った彼女は重力に従って落下していく

しばらく落ちると張り巡らせていた縄が伸びきりノピアとヨロワは必死に縄を手元に引き寄せる

今頃アイツは逆さ釣り…クロアは白陰と黒陽を手に穴を覗く…―死を巡る輪廻の狭間、闇の底より這いずる手がこの地をうごめき埋め尽くさん。

そう聞こえた詠唱の直後クロアと女の眼が合う。闇の底を見るかのような底無しの暗い紺の眼…。思わず気を失いかけて頭を振る。

(落ち着け、アイツは逆さ釣りになるようなやつ、何も出来ない)

目を開けると本当に目の前に紺色の眼があった。

―貴様、クロアか?

「失せろ!」

黒陽を一閃して切り裂こうとして…体が動かないのに気づく…。黒陽を一閃して切り裂こうとして…体が動かないのに気づく

手足にズシリと重い何かがまとわりついてギリギリと締め付けている!水底で冷えたような感覚に戸惑い、首まで這い上がられてそれが手だとようやく認識する

「氷剣技『ブリザードフラワー』」

クロアを中心に腕が凍り付く。まるで蓮の花のように凍り付いた花弁の端に御簾がちょこんと腰かけていた

「雑魚は私たちが引き受けるわ。…好きなだけやりなさい?」

「ハッ、言われなくてもやってやるさ。行くぞ、白陰・黒陽」

トクンと鳴動して応える。クロアは手にした双剣で凍てついた腕を払い目の前の女に突き立てる!氷が砕けてくるくると破片が舞う。一瞬のスローモーション、その時に相手はのけぞりながら穴の壁面を蹴り、脱出するという芸当を見せた。攻撃を回避し、不利な地形から脱出する二重の逃走…。絶対に当てたと思ったクロアは唖然とフォールホールの反対側に着地した人物を見つめる…。人間技じゃねぇ…

「いくよ!ヘブンズニール!」

天空から槍が岩盤を砕いて落ちてきた。白い翼が地面近くで向きを変えて遥か後ろに転移した人物へと猛烈な速度で小さくなっていく…

ワルキュレアの高速戦法には今はついていけそうもない…。クロアは手持ちの呪符を確認して走り出す槍の重い一撃が遠くを見つめたままの女を捉える。心臓向けて放たれた攻撃はしかし彼女の胸の手前で停止する…

―どうした?届いておらぬぞ?

「くっ!」

後ろに逃げて、針先ほどの小さな盾があったのを目ざとく見つける。極小の一点防御、腕に自信があるのか…実力が測り知れない相手にワルキュレアは少しだけ不安になる

(御母様…やっぱり強い。けど時間もかけられない…。クロア達はとっくに限界を超えてるから私がなんとかしないと…)

彼女の胸中でウィストレアが話しかける

(お姉様、私に考えが…)

ワルキュレアは頷き、その案をとりあえず採用する。

「変わるわよ、ウィストレア。第一解放『戦乙女の戦槍』!」

槍が形を変える…。穂先が長くなり柄がさらに長くなる。全体的に細長い形状になった槍は先端部に炎の輪を生み出して一気にその存在感を増す…

「今度は私が…。お姉様は少しお休みください」

(休んでられないわよ、さぁ、行きましょう!)

人格を交代したアレイア・ウィストレアは翼を広げてもう一度自分達の母親に挑みかかる。

「罪の清算、軽くすむと思わぬよう。私は…あなたを(ゆる)しません!」

槍を掲げ、彼女は炎で絵を描く。『リング・オブ・ケルベロス』。世界を焼く業火の絵画を…

「焼き尽くせ…私と…お姉様と…あとついでの憎しみを!恨みの獄炎『フレイム・オブ・ケルベロス』!」

焼き付いた世界樹の絵から咆哮があがり、引き裂いて巨大な炎の獣が現れる。

体長はゆうにビルの三階…七メートルは超えているであろう巨体から耳を引き裂くような咆哮が世界を滅茶苦茶に揺さぶる

―ケルベロス。異界の者が何用か…。(いで)よ『世界を飲み込む狼(フェンリル)

目の前の人物の目の前に展開した魔法陣からも巨大な咆哮が響き、世界を揺らして巨大な狼が姿を現す

「嘘…そんな…」

巨大な狼と巨大な三頭の犬が吠える!

ビリビリと鼓膜を激しく叩く咆哮にツバインは耳を塞ぐ

「くっ…行きなさい!ケルベロス!」

―飲み込め、フェンリル

二頭の獣が互いの喉元に牙をたてる

二匹の獣は互いの牙で他方に噛みつき、逃がすまいとさらに深く突き刺す!

巨大な…小さな家すらも噛み砕きそうなフェンリルと、鋭い牙を三つも備えるケルベロスは一歩も譲らずに互いを引き裂き合う…

絶叫と咆哮、互角の攻防戦は厄介な方向に移ろいつつあった…。

「ウィストレア、この場を頼む!」

クロアは走り出す

「なっ!馬鹿!何を」

―止まって!クロア!

二人分の制止を振り切ってクロアは暴れる獣の足下を縫うように駆け抜ける。一歩動く度に地面が揺れてバランスを崩しそうになるが…なんとか持ち直して走り続ける

目の前で巨大な肉球が地面を砕いてケルベロスが叫びをあげる!喉笛を噛みきられた頭の一つがぐったりとしているが残りの二つがギラギラと目を怒りに輝かせて咆哮する

床が弾け飛び、破片から目を庇う

足を止めた一瞬に巨大なフェンリルの尾がクロアを吹き飛ばす

―人間が敵う相手ではないぞ

「うるせぇ!知った事か!」

倒れた体を起こして再び走り出す!

エイドに殴られた傷が鈍く痛んだ…。飛ばされた拍子に頭をぶつけたのが原因で傷が開いたらしい…、一筋の血の嫌な感触が降りてくる…

「そこを…退きやがれぇぇぇ!」

二振りの剣を重ねて叫ぶ

「亜式解放『混沌幻影』!」

捻れて重なる螺旋剣、トゲトゲとしたその外見は当たれば痛そうに見えて、実際あたるとかなり痛い。

「失せろ犬コロが!」

跳び上がり、両手持ちの大剣をフェンリルの側頭部に叩きつける

ギャオン、と鳴いたフェンリルは怯みはしたがそのままクロアを一口で飲み込む。一瞬の早業に気付いたワルキュレアは自身の召喚した獣に指示する

「クロアを助けなさい!」

グルゥと短く答えた二つ頭のケルベロスはフェンリルの喉を噛み砕こうとして…退避する

「なに?」

―なにを…

二人の術者が驚くなかで呪符が発動する

「剣技『天斬剣』」

フェンリルの頭蓋を吹き飛ばしてクロアが飛び出してくる…いや、少しだけ違う

「まさかラグナロク前に喰われるとはな…俺もまだまだだな…。そう思わないか?ワルキュレア」

オーディスタは手にした長剣をもてあそびながらフェンリルの死骸の上で浮遊する。二色に塗り分けられた剣が白い空間に不気味な黒をもたらす

―オーディスタ…。

憎々しげに見つめられたクロアは自分の中で名を呼ばれたのを感じて内包存在『クロア』に話しかける

(…少し、変わって欲しい。)

ふざけんな、と言いたかったが『クロア』はジッと見つめるだけで後は何も言わない。まるで

(わかるよね?)

そう言いたげな視線は…あまりにも真剣で見ていられなかった。

「仕方ない…少しだけだぞ」

(ありがとう、クロア)

すっ…と体のコントロールが変わるのを感じる。まるで別人に変わるような…丁度ケンカして我を忘れたときのような感覚でクロアと『クロア』が入れ換わる軽く閉じていた目を開く…。ほんの少しだけ柔らかな目付きの『クロア』が呟く

「お久しぶりです。御母様…いえ、『BUG-00』ヘル」

―『BUG-00pr』。何故ここにいる

御母様…ヘルと呼ばれた人物は『クロア』に問う。

「ヘルって…人違いよ?だって私の中にいるのが…」

ワルキュレアが言うが、『クロア』は無言で否定する

「プログラムは『新しい物』を生み出せない。絶対の制約だよワルキュレア。

『ヘル』はエイドが断片データを元につけた名前。彼は御母様の名前を知らなかった…いや知りえなかった。

本来役割の無いBUGだ。使い捨ての駒だったんでしょ?」

遠くを見つめる女は静かにうつむき…そして

―いかにも!流石と言うべきか?『知識の探求者』のオーディンの名を与えた神の駒よ。

―それとも愚かと?貴様を殺した私の前にのうのうと現れる滑稽な道化師よ

笑い始めた『ヘル』はオーディスタを指差して叫ぶ

―私はヘル。地獄の深淵を知るものよ!

初めて何も見ていないようだった目と視線がかち合う。どこまでも深い紺色の瞳の奥底まで引きずりこまれそうになり…オーディスタは軽く目を閉じて剣を放る遥か天空に飛んだ剣にヘルは目が釘付けになる。その一瞬の隙にオーディスタは距離を詰めて無手の手を広げて突き出す

手応え無し。後ろに下がられた

(変われ!)

クロアが体のコントロールを取り戻してヘルを睨み付ける。怒りか憐れみかどちらともつかない目をしていたがすぐにいつもの光を取り戻す

右手を振るように回転して鋭く裏拳を放つ。突き出された手がかすりはするがダメージにはならない

次いで左足払い、そのまま軸足にして右足に回転の力を乗せて後ろ向きに蹴り上げる

―無骨だな、オーディスタ

「避けてるのが優雅か?ヘル!」

風を切り、大気を斬り、天空から混沌幻影が落ちてくる。それを掴み、叫ぶ

「刻む始点『黒陽』!」

黒い刃が斬りつける。

薄く切れたのは彼女の鋼鉄よりも硬い服だけ…あまりの硬さに正直驚いた。

―『創造(クリエイト)

魔法の印章がヘルの指先に現れて仄かに光り輝く…。『知識』を持つオーディスタはその印章を読み解き舌打ちした。

―打ち据えよ『雷神の鉄槌(ミョルニル)

彼女の手に握られたのは小振りのハンマー…。やけに柄が短いがそれは気にするに値しない。

振るわれた一撃が混沌幻影を弾いてお互いに行動不能の時間が出来る。その刹那的な時間の中でオーディスタは自分の物ではない知識をかき集めて確固たるイメージを作り上げる

―『必中の神の鎚(ミョルニル)

投げられたミョルニルはくるくると回りながら猛烈な速度と質量で迫って来る。これこそ優雅さの欠片もないと思うのだが…構わないのだろうか

必中の神の槍(グングニル)

偽物の槍はオーディスタの手が触れた瞬間に本物のグングニルへと昇華する

軽く放るとミョルニルめがけて疾走してその柄に命中。鎚はバランスを崩して落下…しかけたが地上付近で回復して再びオーディスタめがけて乱暴な力で迫ってくる

「阻め、グングニル」

小さく命じて向かい来る鎚を槍が弾き飛ばす。どうやら…それでもミョルニルの進撃は止まらないらしい。弾き飛ばされた場所から弧を描きつつオーディスタを狙いに定めている

「流石は巨人族の武器、か。しつけぇな」

グングニルを手元に戻して混沌幻影を右手一つで構える。この世界では確固たるイメージが物を言う…。自分の知識を用いてミョルニルの軌道を演算、そして迎撃の太刀筋をいくつも描き出す

「『光の奔流』」

残り少ないデッキから一枚の呪符が弾き出されて無数の光線を放つ。それらは全てミョルニルを貫く軌跡を描いていた

「『闇の追走』」

さらにもう一枚。こんどは黒い刃が一振りにして思考された全ての軌道を切り裂いた!砕けた破片の隙間からヘルを捉えてグングニルを投げる

「『主神の自贄槍』!」

破片の隙間を縫いながら飛び抜けた槍はヘルの心臓を狙って飛来する。ヘルは小さく呟いて針先ほどの小さな盾を作り出してピタリとグングニルの穂先に合わせる

槍が衝突し、派手に衝撃波をぶちまける!

―甘い。

「しゃらくせぇ!ぶち破れ!」

パキリ、と盾と槍が同時にひび割れる。最硬度の盾と伝説の槍の間で矛盾が生まれかけているのか二つの力が均衡している

―『創造(クリエイト)

呟いてヘルは

―『フレイアの胸飾り(ブリージング)

盾よりも自身の防壁を増加させて槍を弾こうとする。オーディスタも押し返される槍に意識を集めて次なる名を解放する

「『縫い付ける百万余の光』」

金色の糸を空間に引き始めた針が一度隔壁から離れて滅茶苦茶に糸を張り巡らせるように飛ぶ

(ワルキュレア。行けるか?)

ヘルの背後に回ったワルキュレアに目で伝える。ほんの小さな頷きが帰ってきてオーディスタはグングニルを掴み

「止めだ!BUG!」

「『ヘヴンズニール』!行くわ!」

二本の槍が前後から襲いかかる

一つは必中の槍

一つは絶対の槍

回避はさせない。終わらせる!

「貫け!」

針先ほどに密度を高めた隔壁が二つの槍の先端部に押し付けられる。だが、所詮は先程までの密度の半分。ひび割れたグングニルが、輝くヘヴンズニールが盾を貫いた!―不様ね

青い光の魔法陣がヘルの左右の手の前に現れて槍を受け止める

隔壁よりも硬い、ブリージングの力を得た堅牢な防御陣…。しかも悪いことに反撃印章が組み込まれていた

魔法陣が炸裂して二人は吹っ飛ばされ、御簾が凍らせた氷を砕いて停止する

「痛てぇ…」

不気味な腕が地面から生えていて、それらが全て巨大な氷に内包されていた。ずいぶん派手に暴れたのか白いこの部屋のほとんどが氷に閉ざされていた

(交代して、君も気付いてるでしょ?)

内包存在が叫んでいるがうるさいと一蹴する。気付いてるさ…とっくに

「ヘル!俺はこの世界の全ての『知識』を持っている。だから一つ聞かせろ、お前の力を!『それは本当にお前の力なのか』を!?」

ヘルは口元を微妙に三角にして、ワルキュレアは少し首をかしげた。

その時、タンタンタタン!とクロアの隣をエアリアルがステップを踏んで吹っ飛んだ衝撃を殺しながら飛んできた

「クロア、手早くお願い!」

わかった、と小さく頷いてみせる。視線は絶対にヘルからそらさないが周囲の状況を把握する

『BUG-01』が大量に押し寄せてきていて、いくらあのチームでも削り負けるのは時間の問題に見えた

―答える義務は無いぞ?私はただ時間切れを待てば良いのだからな

嘘だ。オーディスタは何故かそう思う

あいつは絶対に答える。そんな確信めいたカンは的中する

―『創造』だ

オーディスタはしめたと内心笑う

「物を作り出す能力…だな?」

いかにも、とヘルが答える。

…やはり腑に落ちない

「俺はさっき言ったな…『プログラムに新しく生み出す能力はない。それは絶対の制約だ』と」

ワルキュレアは気付いたのか、はっとする

「お前はミョルニルを、ブリージングを、俺を、ワルキュレアを、エイドを、BUGを生み出した。それは…プログラムを超えている

何者だ…お前は」黒い手甲が空を掴む。

ヘルが愉快そうにその手を揺らして人差し指でオーディスタとワルキュレアを順に指す

―『創造』した事実。それこそが私の存在理由、人工(アーティフィシャル)でない唯一(オリジン)のAI。私がお前達を作ったのは人間の為!人の愚かしさを私は嘆く!


創造(クリエイト)』と呟いたヘルの手に暗い光が集い、剣の形を成す。細身の剣は名を呼ばれてその光を弾いて銀色の刀身を晒す

―終焉を『ダーレンスレイブ』

オーディスタは自身の『知識』を駆け巡りその名を持つ武具を検索、即座に特定する。

「抜かれれば血を見るまで鞘に戻らない呪剣…か。厄介…いや迷惑だな」

細身の一メートルと少しの剣が走る

混沌幻影を操り初撃の防御を選択する。オーディスタの様子見を見てヘルは軌道を変える叩きつけるように放たれた一撃はオーディスタの予想とは違う線を引いて混沌幻影を砕く。刃がほんの少し欠けただけだがただ一撃でこの威力、オーディスタは認識を改める

手にしたグングニルを突き出し、必中の名を呼ぶ

「右腕を貫け。グングニル!」

物理法則を完全に無視した静止状態からの飛翔の後に神の槍は狙いを精確に捉える。その狙いはミクロン単位ですらずれることなく厳密に設定された

飛来する槍の前にヘルは呟く

―ブリージング

パキン、と槍に触れた瞬間に砕けた胸飾りが破片を撒き散らして周囲に散らばる。それらが散ったときほんの少しだけグングニルの軌道がずれたのをオーディスタは見逃さなかった

撹乱兵装(チャフ)か!」

―博識だな

隔壁を破壊されては神の槍を止める手立てはない。彼女は回避を諦めて自身で受け止める決断をしたのだ

ミクロン単位の照準をブリージングを破壊して生み出したグングニルの『ぶれ』を利用して彼女は右腕を貫かせる!狙いは一ミリ以下のズレで命中した。だが、そのわずかな差は武器を持てなくするために筋肉の中心を狙ったものとは違えてしまった

「ちっ…」

グングニルを手元に戻しながら次の攻撃を模索する…

―『緋色に染める呪殺剣(ダーレンスレイブ)

第一解放の名が呼ばれる。ヘルの剣が本来の力を宿して禍禍しい灰暗色の光を照り返す…。オーディスタは急いでその場から飛び退いて混沌幻影を修復させる

リカバリーに時間はかからない。ヘルの手にかからなければ、だが…

血を求めた大斬撃が放たれた灰暗色の光が隔壁を展開した二人の神影を飲み込む。防御をしてもわかるこの理不尽なまでの強さにオーディスタは不快に顔をしかめる

「楼騎!聞こえるか?!ここから全員引き離せ!」

叫んで両手の武器の状態を確認する。

混沌幻影はリカバリー中、あと数秒で回復できる。なんとかなりそうだ

グングニルは細かくひびが入っていてこれ以上の酷使は危険だろう…。リカバリーは間に合いそうもない

小さく舌打ちして灰暗色の晴れた景色を見る

―打つ手無し、か?

オーディスタは答えずにグングニルを握りしめる。悪い、許せ

「『武器砕く神の槍』」

最後の名を叫ぶ。

オーディスタが呼べるグングニルの最後の名前は『武器砕く神の槍』。かつて人間を英霊にするために使われた神剣を破壊する力!

「砕けた装具によるチャフ。いい発想をもらったな…知識を感謝しよう御母様」

オーディスタ…。いや『クロア』の言葉なのか最後だけは口をついて出てきた

振るわれた灰暗色の一閃によりグングニルが無残に砕け散る…

破片が散らばり、それらが小さな金の光を放ち消滅を知らせる

「貫け!」

無茶は承知。神の槍ならば俺の命令を聞き届けろ!

そう半ば祈るような心の叫びに反応したのかバラバラだった槍が破片を集めて黄金色の武器となる。揺らめくような光を纏った槍は最後の力を振り絞るように一際輝きを増した

―やるな、武器を昇華したか

正面から受けるように剣を構えた女に槍の穂先がピタリと定まる。絶対命中の槍は今度は外さないとナノ単位での補正を行い、一秒以内に全ての行程を終える!

「『必中の神の槍』」

本来の、そして最もシンプルな名を叫んだ!槍は舞い上がりあたりを高速で動いてヘルに補足させずに死角に入り込む

背後から貫いた槍は心臓の位置を射抜き、完全な命中で胸部を貫通。ヘルが槍に手を添えてその場に崩れるように座り込んだ

―くっ…

抜こうとする槍はびくともしない。だが消滅直前の槍が抑えられるのはあまり長い時間ではない。オーディスタはリカバリー終了直前の剣を手に走る

『リカバリー』

補修完了。黒い刃で袈裟に斬りつける!ヘルの体から黒いリボンのような帯が抜け出してくる…『強制思考無限連鎖』の半分でもう一つの白いリボンのような帯を生み出せば、決着!

「刻む終点『白陰』!」

伸びた二色の帯…。刻んだ始点と終点、『メビウスリング』が起動する!

「思考の海に沈め」

白と黒の輪の中に残された女はその無限思考連鎖を頭に直接叩き込まれてどこも見ていない目を見開く

「御母様…お許しを」

小さく呟いたワルキュレアはオーディスタの隣へとやって来る。小さく一礼して彼女は二人のキャラクターに変わる

全身が細かく割れて鏡を裏返すように二人の、アレイアとウィストレアに戻る

クロアも神影化を解いて知識の道化師からキャラクターに戻る。小さく安堵しながら二人のよく似た少女を見た「クロアーっ!」

飛びつかれ、なんとか受け止める

「やっと逢えた!やっと話せた!ぐすっ…うわーん」

よしよし、と小さく撫でてやる。助けるまでに随分かかった、そう心の中で呟きながら、絶対に顔に出ないようにしながら…

「あぁ。やっとだ…」

泣き声がより大きくなり、クロアは優しく抱きしめてやる。ほんの少しの気まぐれだ

「お姉様、クロア、迷惑をかけました」

ウィストレアは告げてクロアを見る。アレイアは会話できないくらい泣いているので仕方ないのかクロアに意見を求めているようにも見えた

「あぁ、そうだな」

素っ気なく答える

実際迷惑したし、『ブレイク』もされた。断らずともいいんじゃないか?

「…でもま、悪くなかった」

口をついて言葉が出る。『クロア』め余計な…

「なら…良かった」

え?と思わずウィストレアを見る


…笑っている。


「共闘して少しだけ見直しました。人間も悪くはないですね…あなたに限って、ですが」

言って、ついと顔を背けられる…。なるほど、少しは見直したか

クロアは嬉しくもあり、なんとなく態度が変わった事に違和感を感じながらも答える

「あぁ、俺もだ。少しはお前らへの価値観が変わったさ

まぁヘル…御母様だっけか?アイツは訳分かんねぇがなんだったんだ?」

ウィストレアは小さく首をかしげる

どうやら彼女ですら把握できないような相手だったらしい。ならば直接聞いてやろうと振り返ると異変に気付いたメビウスリングがボロボロになっていた。

何故だかはわからないが、とにかく穴が空いて擦りきれて今にも千切れそうになっていたのだ

「まさか…解いたのか?!無限の問題を!」

ギチッ…と帯が軋んで、張り裂けるように千切れた。

無限連鎖の消滅したヘルは立ち上がり、右手を前に、そして詠う。「『愚者の選択、世界の輪廻。表と裏の顔を覗き我は世界の意思を汲む!』」

抜かれたのは一枚の黄金の呪符。目映い光は他の金属を抜きん出た不死と栄光の光!

「選べ『アルカナフォーチュン』!」

黄金のカードに絵柄が宿る。現れたのは円環の絵、『運命の輪ホイールオブフォーチュン』輪がぐるりと周囲を取り囲む。ちょうど死闘場の真ん中にいるような変化にクロア達は危機を察する

「おにいちゃん!」

ヨロワが輪の外で叫んでいる。たまたま近くにいたようだ

「ヨロワ、全員動けるか?」

彼は周囲を見渡して

「がんばればいけるよ!」

思わず苦笑いする…。余裕はないって暗に言われたようなものだ

仕方がないと双剣を呼び出して対峙する

「この輪を壊してくれ。…無理ならば逃げる策を頼む」

こくん、と頷かれる

この先はヘルだけに集中出来そうだ…

「御母様…」

アレイアのかすれた呟きに怒号のようなノイズが上書きされた

―この私にあの程度の問題など無意味。愚者は世界を探訪した果てに果てよ!

黄金のカードが黄金の銃に変わる。

そして…ふわりと幾枚ものカードがヘルの眼前に現れてゆっくりと回転を始める…

「…そんな、嘘!」

「お止めください!御母様!」

二人が駆け出した途端、カチリと狙いがカードに合わせられる。

『アルカナジャッジメント』

パン。と乾いた破裂音と共に一枚のカードに穴が空く

「あっ…かっ…」

エアリアルが急に苦しみだし、倒れた。クロアは何が起きたのか理解できなかったが楼騎が輪の外から力の限り叫んだ

「そのカードを止めろ!」

クロアは頷き、双剣を手に走り出す

あっという間にヘルを攻撃圏にとらえ、二本の剣を振るい…

動きを止める。今目の前にあるカードが何かわかったから…攻撃、できない…

―やはり、人間はそんなものか

カチリと黄金の銃口がクロアを狙う

退避してミスを呪う。射程にカードが入ってしまった…

パン。と穴の空いたカードが二回目の衝撃に二枚に千切れて無惨に舞い散る

「あっ…あぁぁ…」

エアリアルを見ると、金色の粒子に変わっていくところだった…クロアは千切れたカードの絵柄を見ていた。だから…この結末はわかっていたキャラクターカード『エアリアル』。ヘルが撃ち抜いたのはそれだった。まだあどけなかった彼女の面影が無残に破られて…金の粒子に変化する

「ヘル…貴様!」

「次来る!クロア」

カチリ、カチン。と流れるように野戦ライフルのような銃が操られ、引き金をひかれる

バツン、とカードが穴空きになり誰かのカードが飛んでくる…。その名前は『ヨロワ』

「いたい!おなかが…くっ!」

金の光が目の端に映る

―消滅だ

「うるせぇ!その銃を降ろしやがれ!」

カチン。パン。次の犠牲者は、『瀬名』

カチン。パン。次の犠牲者は、『御簾』

カチン。パン。次の犠牲者は、『嶺』

「そんな…」

「絶対即死…?バカにしてるわ」

「嘘だ…よな…」

相次いで三人が金の粒子に変わって消滅する。元上級ランカーの三人がなすすべもなく…クロアは膝に力が入らなくなり、地につける

「なんだよ…これ…なんなんだよォ!」

立ち上がり、止まろうとする足が言うことを聞かずにもつれて転んだ

無様に倒れてカチン。パン。と次元が違う武器の能力が放たれる

「うっ!…ごめん、むり…耐えられな…」

ノピアが粒子に変わり、楼騎がその光を掴もうとして倒れる

「チッ、この輪さえなんとかなれば…」

楼騎の刀ではこの輪に傷一つつけられなかったが…カシャリともう一つの刀に触れる。

賭けてみてもいいかもしれない

「クロア、輪から離れろ。こいつを斬り壊す…。」

地面に倒れたままのクロアは無言で立ち上がる…バタンとまた倒れた。

「楼騎さん、これは人間には斬れません」

ウィストレアが言って、楼騎は頷く

「『人でなければ』斬れるな。…妖姫(ようき)様、俺は掟を破ります。想騎には言わないで下さい…。って今はいないんだっけか」

呟いて刀に手をそえる

「『流浪の月、禁章之壱(きんしょうのいち)』」

一息止めて、あらん限りの力で叫んだ

「『月下の守人(げっかのもりびと)』」ゆらり…と幽月が蒼い光の跡を残しながら『ホイールオブフォーチュン』に触れる

ガギンと物凄い音と共に三回の斬撃が叩きつけられたのをヘルだけが見ていた。

―運の良い奴め。この世界で禁章を発動するとは

楼騎は手にかけた水映月を抜いた。

無数の斬撃、呪符の模倣が荒れ狂うように輪を痛めつけるガリガリと削る猛攻にヘルが警戒をしている

―禁章、人間の愚かな産物。私が破棄します

手にしたダーレンスレイブを輪の外の楼騎に向けて呟く。クロアは剣を床に突き刺して杖がわりにしてようやく立ち上がり、禁章?と聞く

「…知らなくていい。俺の家の術ってだけだ」

楼騎が珍しくはぐらかし、歯切れの悪い言葉を口にする。嶺たちがいたのなら聞きたかったが生憎つい先ほど消滅してしまった

「知らせろ」

「断る。」

がんとして聞かない楼騎はクロアの説明要求をさらに二回断り、ヘルを見る

―終わったか?

「待たせたな。」

女はしなやかにとびあがり、ホイールオブフォーチュンを突き抜けて外の楼騎とぶつかる。灰暗色と紅と青の色が物凄い速さで駆け巡り苛烈に斬り刻もうと振るわれる

ヘルの周囲に回るカードは残り七枚…。クロアはこの場に五人しかいないのに存在するカードが誰のものかを考える

『神影』はカードによるものではない。だから除外。俺ら以外には他にログインした人間にはいない。除外。そうなると…あの二人か?

行き着いて、クロアはニヤリと笑う

「どうやら、まだ詰んでなかったな…」

剣を握る手に力が入る。そうだな、小さく呟いて床に両足を叩きつける!

「『クロア』。もう一度、いけるか?」

(もちろん、余裕だよ)

クロアは神影の力を剣に込めて再びオーディスタに変化する。知識と主神の模倣が長剣になった武器を手にして神影と打ち合う楼騎を見上げる

「行くぞ、手加減はしない」

床を踏み砕いて跳んだ。

手にした剣が風を斬り、ヘルを射程に捉える

―来たか、愚息よ

「俺は…人間だ」

灰暗色と白黒の明暗がぶつかりあった

―――――

あとがき

―――――


あとがき書き忘れたー( ̄□ ̄;)!!

危ない危ない…キャンセル間に合ったかな?


さて、少し補足とキャラ紹介のページです。まずは背景キャラだった二人


―――――


想騎そうき


楼騎の弟にして彼の実家離縁の原因の一つ。この話では登場予定はなし。

彼は旧作リバイバル、だけど今作では登場しません。させたいけど出来ません…

名前だけです…

実家離縁の原因ではありますが想騎は悪くありません。彼もまた被害者詳しくはまたいつか…


―――――


妖姫ようき


楼騎の上司(?)にあたる人物。旧作リバイバル。

今作では様々な都合で妖姫は登場出来ず…。でもマリアは出てたので無理矢理は出せますが…やっぱし無理です

伏線の一人、でも登場出来ず


―――――


以上、楼騎にまつわる人々でした

ルイエス関連もあるんだけど…彼の出番が…(-_-;

次は補足

―――――

『禁章』


楼騎の禁術。ゲーム内では使用禁止を妖姫に定められていた

が…彼の意思により発動、結果的に『人間よりも上位の武器同調』を得ている

―――――


複雑なカード。彼の切り札を切るための札で切れない札。リミティ・ブラスティカの完全上位の呪符でありながら使用者の精神磨耗

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