第二十五章 オーディスタの知識の鴉
こんにちは、シロツバメです
最近冷房が強いですね…思わず冬眠しそうにな…Zzz…(o_ _)o
(ρ_―)o
(o_ _)oZzz…
(クロア注:おい、話が進まねぇぞ)
寒い…眠い…冷夏…
(意味不明なセリフを呟くな。実際冷夏だが…)
何現象だっけ?レオジーニョ?
(サントサ・ベラフォートじゃない。)
えっと…え【文字化けしている】?
(サイトだ。管理人に怒られるぞ)
なら、エルア【文字化け】?
(モバゲーのゲームだな。お前はアカ持ってないからできないやつだ)
ならなんだっけ?
(エルニーニョだ。馬鹿が)
オーディスタ化して言うなよ…そういえばうみねこアニメ化したね〜DVDで後追いします〜
(BGM:うみねこのなく頃に〜煉獄〜)
PC版の続きが気になるなぁ…
(…で、俺達の話と何の関係が?)
いやほら魔【文字(ry】だからさ、クロアの相手の【金色の蝶がとまっているので読めない】がさぁ…
(ネタバレ防止線長いな、読みにくい)
うむ、ネタバレ以外にも怒られそうなネタには入るからね、【こんな感じ】で
―今更かよと
(今更かよと)
さてっ、ようやく区切り(?)がついたので本編へどうぞ〜♪
(相変わらずカオスだな…)
いいじゃん、それも一興
(限度があるだろ…)
楼騎は、ふと顔を上げた。
ここは中央管理室。メインコンピューター近くの机とそこに散らばった大量の書類に埋もれていた体を起こす。どうやら眠ってしまったらしい
「…っ、頭が痛てぇな。」
こんな場所で寝ていれば当然か、と小さく笑う。そして同様に埋まっていたパソコン端末を発掘してキーを叩く。
ブゥン…という音と共にノートパソコンの画面が明るくなる。中身は作業途中のままだった。今回のロンドン支部のサーバーであった出来事の報告書なんて書こうとするだけで嫌気がさすが…仕方あるまい。楼騎は画面に向かって、妙な音に気付く
ゴゴゴゴゴ…とガガガガガ…とブブブブブ…という音を混ぜたかのような規則正しい異音がしていた
「なんだ?」
楼騎がメインコンピューターを見上げると職員の一人が叫んだ
「メインコンピューター、異常演算!発熱60%増加してます!」
さらにもう一人
「『ヴァルハラ』全体に処理遅延が発生しています!処理速度現在50%!」
管理室がにわかに騒然となる。管理者が一斉に立ち上がり、メインコンピューター前に集合して会議が始まる。
「…Dが見当たらぬ、どこじゃ」
Gが言う。確かにDの姿が見えない。そしてクロアとエアリアルの姿も。
楼騎はその身を翻して管理室の扉を目指して走り出した。何故だか今いない三人の力が必要な気がしたのだタタタ…と廊下を走る。金属の残響を聞きながら扉を抜けて舞台裏に出てくる。左右を見回してからエントランスへと進路を変える。
人がいない会場を走り抜けて、扉を手前に引いて会場とエントランスを一時的に一つにする。
「はやくー!」
エアリアルの声がして楼騎は窓の外を見る。ちょうどクロアが小さい黄色の車から降りてきたところだった。
「あいつら、どこ行ってたんだ?」
楼騎は見覚えのない車から出てきた三人に眉をひそめる。
そして、その後に出てきた少女を見て、頭の中で記憶が再生された
―――――
蒼い刀、自分の手、伸ばして…
見守る少年、栗色髪の少女、二人の師匠、
触れる指先、暗転する記憶…
―――――
「っく!ぁ…何だ?何で今ごろ…」
頭の中がガンガンと痛む。楼騎はあの少女を見ていた知っていた。まさか捨てた記憶の中にいた人物を見るとは…
「『幽月』…選定の儀か」
過去の出来事を思い出すとは…楼騎は頭を振って嫌な回想を振り払う
「もうあの家は関係無い。俺は俺だ。」
自分自身に言い聞かせて一度壁を殴り付ける。かなり痛かったがようやく目が覚めたような気分になる。
「クロア、がんばりなさいよ。私たちの力が欲しければ連絡しなさい。有料で手伝うわ」
「有料かよ」
少女とクロアはフッと笑うと手をあげて別れの挨拶とする。エントランスの自動ドアが開いて三人の人物が施設に入ってくる
「おい。どこ行ってた」
楼騎が話しかけると、D以外は驚いたようにこちらを見つめた
「はやく来い。嫌な予感がする」
楼騎は入ってきた扉を潜り、暗い会場へと入る。振り返って三人が来ていないのを見ると早くしろと急かした。
三人は顔を見合わせてから歩き始めた。ガチャリ、とクロアは扉を閉めて必要最低限の灯りしかついていない会場を抜ける。舞台裏の階段でつまずきかけたがたて直してなんとか昇りきる
薄緑色の塗装がされた廊下を抜けて四人は中央管理室へと足を踏み入れる…。
「…なんだいこれは?」
真っ先にDが異変に気付いた。クロアは何かと思うとTが駆け寄ってきた。
「大変よD!メインコンピューターがBUGに攻撃されてる…!プロテクト解除30%を超えたわ!」
つまりなんだ?クロアはTに説明を求める
「ハッキングよ!どうしよう…このままじゃ『ヴァルハラ』がのっとられちゃう…」
クロアとエアリアルが驚く。ここを出た時に異常はなかったのに帰ってそうそうメインコンピューターの乗っ取りだ。二人の驚きは想像に難くない。
「…丁度いい。T、メインコンピューターにこの三人をログインさせる。Gを呼んで来てくれないかい?」
「ちょっ、ログインは無理よ!だって…プロテクトが…」
「私とGなら解除できるんだな、これが」
ポカンとTはGを見つめる
「ヘラヘラ」
相変わらずの笑いに戻ったGを見て何コイツとか思っていたTはGを呼びに走る。
「さてと、君達は例の部屋に行っててくれないかい?Gと話をつけてから向かうよ」
待てよ。クロアは呼び止める。何故だか…Dに何者かと聞かないといけない気がしたのだ。彼は振り返り、笑う
「なに、私が作ったプログラムなだけだよ。『ヴァルハラ』もあのコンピューターもね」
人は見掛けによらない、居合わせた人はそう思ったという。
「ふむふむ、なるほどの」
TとGがこちらに歩いてくる。二人は軽く議論しながら本当にログインさせるかと言い合っていた。
「私は反対です!ログインして不具合が出たらどうするんですか!」
「大丈夫じゃ。儂らもそこまで阿呆ではない。しっかりとできるルートは確保しておる」
なかなか話はまとまらないようだ。
二人はDと話せる距離になると彼を強制的に議論に加えた。
「行こうぜ、俺らには関係無いことだ」
クロアが振り返ると、視界が暗転した。
無明の闇が帳のように全てを覆い包み隠してしまう…。誰も見えず何も聞こえない世界
全ての中心にクロアはいた
「…なんだこりゃ」
適当に手をかざす。闇を切り裂いた手は闇に飲まれてすぐに視認不能になる
「なんだ、なんなんだ?」
濃密な闇は不可思議な密度でベールのようにこの手を包む
不可視の闇の中に揺らめきが生じる…。揺らめきは波となり、見えないはずの視界に照らされたかのような明かりをもって明滅をする
明滅は次第に大きくなり波は音波に変わる。声が耳を介さずに頭の中に響く
―クロア
名を呼ばれた本人はその奇妙な感覚に鳥肌をたてる。とにかく気持ち悪い
―時間がない。私の声を聞いて
クロアは声に耳を傾ける…。アレイアのようだが…今はどこにいるかもわからない上にここは『ヴァルハラ』ですらない。懐疑的にクロアは声を聞く
―私はシステム奥にいるわ。三重のプロテクトが邪魔で…声が……持ち直して!よし、次に私のいる所への…
待て待て待て、意味が分からない。クロアは頭の中で言葉を紡ぐ。何故だがそれで通じるような気がしたのだ。
―…だよ、ね。でもごめんね時間が…御母様が感知しちゃう…だから、お願い!メインコンピューターへ来て!私を
ふつり。声が途絶えて闇が突然消えて世界の明るさに目が眩んだ。心配そうに見ているエアリアルと微妙に倒れている上体を支える楼騎、GとTは近くの職員に何か冷やすものを持ってくるように指示しており、Dは何かヘラヘラと笑っていた。「…大丈夫?」
「あ…あぁ…。なんだったんだ?」
クロアは体勢をたてなおしてまるで夢のように現れては消えた幻覚を再度頭の中で繰り返す…。白昼夢、と言いたいが生憎と夜…しかもそれなりに遅い時間になってしまっている。夢でも見たか…クロアは思うと
「馬鹿が、そんなわけないだろ」
自分自身が無意識に反論していた。
「ど…どうしたの?急にさぁ」
エアリアルが戸惑うようにクロアを見て、楼騎を見た。
「さぁな。」
明らかに興味がなさそうな楼騎にエアリアルは肩を落とす。はぁ…と一度ため息をついてからクロアを見つめる
「大丈夫…なんだよね?」
「あたりまえだ、さっさとあの部屋に行くぞ…。あいつを助け出す」
エアリアルはうん、と笑ってクロアから見えない方向を向いて小さく呟く
「私もあんなふうに言われたいなぁ…殺し文句だよ?」
誰も聞いていない。誰にも聞かれたくない言葉は空気に溶けて無くなった。エアリアルは歩き出したクロアの隣へと走り、追い抜いてはやくー!と急かして楽しそうに笑ったロックの外れた二重の扉を抜けて三人は管理者達のログイン端末のある部屋に足を踏み入れる
全ての小分けにされた端末は暗く、誰もログインしていないのがわかった。
「メインコンピューターで落ち合おう」
クロアの言葉に二人が承諾の言葉を返し、各々端末のある部屋に入る
…四つの端末が起動して、四つの明かりが点った。四台の端末はそれぞれ座った人物を固定してその意識を電子データへと変換する
―――――
…ん?四台?
クロア、
エアリアル、
楼騎と…?
あれ?
―――――
四人の意識は体を離れ、通常ログインから迂回する形でメインコンピューターにアクセスされ、キャラクターカードに記された姿で再構成される…
「こちら、エアリアル」
ぼんやりとした白い空間に赤いフリルが舞う。通信回線を開いたエアリアルはトークカードを出して同時に二人に話しかける
「メインコンピューターにアクセス完了…かな?クロア、楼騎、どこ〜?」
霞には濃く、濃霧には薄い微妙なこの領域は視界が悪いので目視に向かない…エアリアルはトークカードの反応を待つ
『…楼騎だ。お前の後ろにいるのを視認した。』
エアリアルが振り返ると楼騎が小さく手を上げるのが見えた。
彼女もまた返すと次の通信が入る
『クロアだ…。なんか人影が見えた。お前ら移動すんなよ』
合流した二人は顔を見合わせる
「クロア?今も移動してる?」
『はぁ?四・五メートル先歩いてるのに何言ってんだ?』
不機嫌そうなクロアがカード越しに睨む。エアリアルは戸惑うように隣にいる和装の人物を見る
「…クロア」
『カシャン。』
カードの先から何だよ、と何かを叩き込むような、例えば銃弾を装填するような音が重なって聞こえる
「逃げろクロア!そいつは敵だ!」
『はぁ?何言ってんだ?ん?振り返って…』
タン、タン、タン。短い発砲音とクロアが素早く反応したのがカードを通じて伝えられる
『撃って来やがった?!くそっ』
タンタン、と連続した音がしてクロアのトークカードからの通信が切断される。若干遅れてエアリアルと楼騎の耳にも発砲音が聞こえた
「近いぞ。散開!解放!」
二人は武器を解き放ち、三歩後退して周囲を伺う…。迷霧の先から光の明滅が見えて薄ぼんやりとした人影が駆けてくる。次第にはっきりとしてきた蒼碧のコートを翻して走るクロアと、白衣のルイエスが楼騎とエアリアルの間を走り抜ける…!
すれ違い様にあった視線が何故だか開戦の合図に思えた。
「焼き尽くせ『フランメリーゼ』!亜式解放『炎刺赫染・フランメリーゼ』!」
解放、同時に行なった追加解放によりフランメリーゼは長大な細剣として炎を纏う。その姿はまるで槍、馬上槍にも似たその細剣はエアリアルの肩の位置まで引き上げられて構えられる
「炎舞『フレイムスパイラル』」
振るわれたフランメリーゼから炎の塊が発射され、返した斬撃から追撃弾が放たれた
「解放『幽月』」
抜かれた蒼い刀が低く構えられて空気を切り裂いて移動を始める。楼騎は姿勢を低く保ったまま両手で握った刀に力を込める
炎の塊が両脇をよぎりルイエスの周囲で軌道を変えて螺旋を描くように火柱と共に天を焼く
「いくぞ。剣技『新月』」
ズッ…と楼騎の姿が火柱の直前で空間に溶けるように消える。次に姿が現れたのは火柱の内部、ルイエスの目の前だった。
「…ルイエス。どういうつもりだ?」
銃を片手に空を見上げていた人物に声をかける。当然、刀を構えた臨戦態勢で、だ。
「なんだ楼騎か…僕はクロアを狙ってたんだけどねぇ……。まぁいいや、とりあえず死んでよ」
引き金に指がかけられたのを見て楼騎は横に跳ぶ。後を追うように短い火薬の破裂音が響いて鉛玉が赤い光の軌跡を描く…。
「お前の我が侭に付き合ってられるほど、俺達も暇じゃねぇ。悪いが、一刀に伏してもらう!」三枚のカードを抜いて走り出す。素早く射撃圏内から身をそらしつつ猛烈な速度で遠距離、中距離、近接圏、クロスレンジへと距離を詰める
「『眉月』、『下弦』!」
下方斬撃符二連。足下から頭までを優美な奇跡が蒼い線を描く。ルイエスは銃で軌跡を反らす。銃身を短くしつつ、二回。
「終りだ!」
闇を生み出し、二人の全てを黒く塗り潰す。断固たる力は光となって幽月を鮮やかな黄色で染め上げる…。
「『望月狂乱の御剣』!」
黒く塗り潰した世界を切り裂くほどに眩い光が放たれた。それはまるで雲を切り裂いて現れた月光、月明かりの色の光が炎の壁も貫いてクロアのすぐ隣を切り裂いた。
「…やったか。」
楼騎は壁の外から聞こえる抗議の声を無視して消えていく闇を見透かすように目を細める…。
刀を振るった先には何もいない。地面を抉った光の爪痕があるだけだった。だから気付くのに遅れてしまった
「ようこそ、楼騎様」
カチャリ、と炎を内包した杖が背後から右肩の上にのせられる…。それはBUGの武器『メディカラゴラ』
「じゃあね、楼騎…、ハハハ」
カチャリ、と今度は左後方から銃が突きつけられる…。楼騎は一度舌打ちして刀を下ろす…
「水面に映せ、鏡像の月」
素早く、それこそまばたきすら追い付かない早さで二本目の刀を抜く。
『水映月』。『幽月』の動きを多少の制約はあれどノーコストで同時に発動する能力を持つ楼騎の切り札だ
『新月』『眉月』『下弦』『望月狂乱の御剣』。この四枚分の力が同時に発動されて暗闇の帳が降りた世界に鮮やかな軌跡が駆け巡る!
「危ないですよ」
「平気だよ」
闇の煙の中からルイエスとエイドが並んで飛び出して来た。クロアとエアリアルは共にその異様な光景を見つめて武器を手に炎の壁へと飛び込んだ。
「悪い。仕止め損ねた。」
紅と蒼の刀を手にした楼騎は息を荒くしながら二人に謝罪する
「気にするな」
「やられなかっただけ凄いわよっ」
二人は楼騎を守るように前面に並んで武器を構える。目の前にいるのは
「やっと出てきたね、クロア」
「炎の術で私に挑みますか?人間ごときが恐れ知らずですね」
人間とBUGが並んで武器を構えていた。
「ルイエス…お前どうしてここに!」
クロアの言葉に少年は笑う。どこか壊れたような笑い方で
「ハハハ!どうやって?馬鹿だね…管理者たちが勝手に入れたんじゃないか」
クロアはそういえば…と思い至る。コイツDにあの部屋に閉じ込められてたんだ、と
―まさかアイツ入れたまま忘れてたのか?
そんな考えが浮かんだがすぐに消す。たとえ扱いが空気並みでもBUGと共に目の前にいる。その事実だけである種の驚異なのだから
「ならエイド!お前は何故ここにいる!」
クロアの問いに彼はくだらないと笑う。
「我が主、ウィストレア・アレイア様のクロアを滅せよとの御命令に従ったまで!」
メディカラゴラを三回まわしてクロアに先端を向ける…。そこにはいつの間にか現れた魔法陣が展開されていた「『我が手にあるのは魔杖。ヤドリギを焼き、月桂樹を灰へと変える争乱の杖、今ここにその力の一端を。我らの前に立ちはだかる者を白灰に変える炎をあらわせ!』」
燃え上がった杖を見てエアリアルは
「やばいかも…」
そう呟きながらもフランメリーゼを構える
「お願い…耐えて!炎刺赫染『火龍の炎壁吐息』っ!」
フランメリーゼの炎が左右に展開し、燃え盛る盾となって三人の前に立ちはだかる。
「『インフェルノボルテージ』」
エイドの杖から凄まじい火力で火柱が放たれる
触れてもいないのに熱が灰を焼きそうなくらい鋭く襲いかかる!
「うっそ…この子強い!今までなめてたかもっ!」
―マジかよ
生み出された壁が吹き飛ばされる瞬間、そんな呟きが聞こえたという…
「っだぁ!…っ」
衝撃で大きく飛ばされたエアリアルは十メートルほど後ろに落着する。どさり、と落ちて二・三回転がってようやく止まる
「脆いですね、防壁としてはランク『B−』でしょうか」
くるくると回された杖が再びエアリアルに向けられる。
「エアリアル!逃げろ!」
クロアの叫びに体を起こしたエアリアルはエイドを見て逃げようと立ち上がろうとしているが…間に合いそうもない
「『インフェルノボルテージ』」
二発目の火柱はより大きく、より強い火力でエアリアルを狙う。クロアは剣を手に走った。また、失いたくはないから!
―鍵と箱
カチリと頭の中で何かが開く音がした火柱がエアリアルを飲み込んだ。
足下に緊急用の簡易防壁を発動してはみたが…正直まだ持ちこたえていることが驚きだ。エアリアルは呪符を抜いて炎を見る…。すると赤いドーム状の防壁の前にある四角い防壁が炎を遮っていた。エアリアルははて?と首をかしげる
「こんな強い防壁、私発動してないけど…」
「あたりまえだ」
エアリアルの肩を両手が掴まえる
「俺が張った防壁だ…そう簡単には破らせない。」
クロアは…いや、クロアだった人物が手を離す。エアリアルはまだ耐えている防壁と目の前の人物を見比べる
「オーディスタ?」
「いや、クロアだ。俺はな」
帽子を被ったクロアは笑い、防壁に指を向ける
「『クロア』。お前がいなくても俺が使いこなしてやるよ。この力をな」
防壁が水面のように揺らいでその中にエイドの炎を吸い込み始める。白かった壁は吸い込み続けるうちに赤く染まっていった
「…吸収系、珍しい能力ですね?」
赤くなり相当な熱を発している防壁を見てエイドは険しい表情で言う。吸収系とは文字通り相手の力を取り込むタイプの術式でタイプは大きく分けて三種類。
力や衝撃を奪う、防御型
能力や防衛能力を奪う、特殊型
一定量溜め込むと発動する、反撃型
どれも魔法系を無効化する場合が多いために魔法系術者には絶対的優位に立つ能力だ
「…ルイエス様。お願い致します」
エイドは杖を仲間の人間に向ける
―御母様はこの事態を予期していたのですね
最初は人間と組むなんて何を考えているのかと思っていたが、エイドは考え方を改める事にする
―人間は上手く扱えば便利ですね
と。クロアは…今はクロア・オーディスタである人物は向けられた銃口を眺めていた。
「撃ち抜け」
左目のすぐ前に添えられた銃口の中に銀色の弾丸を確認して、やれやれと呟く
「『レベッカ』」
名を呼ばれた銃はその黒い身からカチリと音をたてる
「この目を失うことは構わないが…こんな事で失っては本物に顔向け出来ないな」
隔壁。と小さく呟く。
弾丸はレベッカ内部で動きを止めて出現した壁に本体もろとも吹っ飛ばされる。ルイエスの手から銃が抜けたのを見てクロアは長剣を空間から取り出して、突き刺す。
「現虚入り交じりて彼方へと繋げ。『混沌幻影』」
剣を握る右手から光と闇の小球が浮かび、剣に宿る。ぼぅ…と二色の剣に二色の光が輝きを与える
「刻む始点『黒陽』」
剣を突き刺した地点から斜めに斬り上げる
血と黒い帯がルイエスから剣の軌跡を追いながら抜き出される
「なん…だ?」
黒い帯は白い幾何学模様が描かれておりその両端はルイエスの体とクロアの混沌幻影の黒い半分と繋がっていた
「しばらく思考の海に沈め。刻む終点『白陰』」
刃を返し、白い方で斬りつける。
剣で斬られた場所から今度は白い帯が抜け出してきて半回転分捻れながら黒い帯と繋がる
「なんだ…こんな帯!撃ち抜け!レベッカ!」
パンパン、と乾いた破裂音が響くが帯は悠然と漂うまま。
「なぁルイエス。『メビウスの輪』って知ってるか?」
循環する一つの帯、メビウスの輪。表を通れば裏を通り、裏を通れば表を通る不可思議なリング…それがメビウスの輪
「まさか、メビウスの輪なのか?!くっ…」
「『メビウスリング』。無限循環の思考の海に沈め!愚かなる人間よ!」
ルイエスの体を挟んだ輪が一度輝く。
「ぐ…ぁ…」
突然目を見開いたルイエスはその場に頭を抱えて倒れこんだ。
「へっ?今何があったの?クロア?」
「能力…というか『メビウスリング』を発動した。」
クロアは倒れたままうめいているルイエスに剣を向ける。そのまま目の前を軽くはらっていつの間にか霧の消えた白い空間をどこでもなく見つめる
「こいつの能力は『強制無限思考連鎖』…むりやり頭の中に問題を叩き込んでそれをひたすら解答させ続ける…。まぁ分かりやすく言うと1+1=2を答えた後即座に2+1=の問題が、その次に3+1=が本人の意識と関係無しに出てきてそれを強制的に解答させる。
ちなみに全てを答えつくすと最初からランダムで出現される。まぁ人間ならば一生かけても1000分の1も答えられないがな」
「随分…ふざけた能力ですね。たとえ人間でも『ヴァルハラ』においては戦いが常。思考の能力とは…やはり神の道化。オーディンの模倣ですね」
エイドの言葉にクロアは笑う。
確かにそうだな、と自嘲してからエイドに剣を向ける
「だが、お前の主もまた道化。ワルキューレの名をかたる影にしか過ぎない…。だろ?」
「…そうですね。オーディスタ」
すぅ…と空間から現れたのは槍を手にしたワルキュレア。槍は炎を円環状に纏っており彼女は既に臨戦態勢であるように見えた
「ですが…この世界に二人も『神影』は不要です。御母様はそうお考えです」
二人の神影の間に不気味な静けさを運ぶ風が吹き抜けた
「そうか…。なら、お前が消えりゃ丸く収まる訳だな」
「あなたさえいなければ、お姉様は自由になれる。だから…消えなさい!」
二人の姿がエアリアルの視界から消えたガキン、と硬質金属のぶつかる音が派手に響いた
音がしたのは遥か上空。一瞬にして跳び上がった二人は武器を振るって火花を散らしていた
「楼騎、クロアが」
「あぁ。ワルキュレアは任せよう」
蒼と紅の刀を手にした楼騎がエアリアルと合流する。楼騎の手は微妙に赤くなっていた
「大丈夫?『望月狂乱の御剣』の水映月は無茶だからね…無理しないで」
「気にするな。元は背後を取られた俺の責任だ。それに、少し休んだからな…。充分動かせるさ」
二人は武器をエイドに向ける
「…いいでしょう。半流魔術師に手負いの犬…、私にとって敗因には小さすぎますね」
スゥ…と軽く目を閉じてエイドは呟く
「『空間転移』。0011/2245/2412/Field/shiftChenge/3-24-51。エリア:廃工場」
三人の体がノイズに包まれて別座標に転移する。三人はまったく別のエリアに場所を移した。
「…舞台は整った、ってか?」
上空から見ていたクロアはウィストレアの一撃を払いながら呟く
「独壇場…。それも悪くない!」
強烈な踏み込みを含んだ突きがクロアの首を狙う
そこに上手く合わせてクロアは穂先を止める
「それもそうだな。混沌幻影の全力も試してみたいし…な!」
槍そのものを弾き返してクロアは剣を振り上げる。白い刃がウィストレアの目に映り、周囲と同化した剣が降り下ろされた
「くっ…」
上手く槍を操り柄で受け止めたウィストレアはその体勢のままクロアを見上げる。若干とはいえ高地に立てたのなら自然と優位が生まれてしまう
「火符『火の粉降る夜に』」
剣から吹き出した火の粉がウィストレアの視界を狭める
「隔壁!」
四角い盾がウィストレアを守る。火の粉とその後に続いた黒い斬撃を振り払い彼女は槍の名を叫ぶ
「『戦乙女の戦槍』!」
炎をより大きく纏った槍が主人の叫びに答えて大きく炎を吹き上げる。
「ふん…また炎系か」
BUGは本当に炎ばかりだな、とクロア・オーディスタは笑う
「昔から炎は神の所有物、別に不思議じゃないわ!」
先程よりも鋭い突きがクロアの剣を弾く
高く放られた剣はどんなに急いでも手が届かない位置にまで垂直に飛んで行ってしまった
「貫け!戦槍!」
クロアはウィストレアに左手を向ける。
スッ…と滑るようにして間に割り込んだのは赤く燃える盾…!
「なっ…!」
「誰がこの盾を消したと言った?…砕けろ!」
パキン!と一瞬でひびが全体に広がった防壁が内部の炎を撒き散らしながら砕け散った
クロアは爆風に乗って一気に後退。天より落ちてきた剣を掴む
「生きてるか?…いや、死んでくれてもいいがな」
クロアが笑いながら剣を向ける。空中で未だに渦を巻いている炎を見て化物じみた火力だな、と思う
「お前の従者の力、受けてみた感想はどうだ?」
渦巻く炎を槍が切り裂いて内部からきらびやかな光が溢れ出す…
「『ブレイク』」
極彩色の光が吹き出して炎を食らいつくして金の粒子に変える。それでも食い足りないと先端をクロアの方向に向けて光は四つの細い光に分裂して弧を描きながら飛来する。
「ふん…言葉は無しか」
クロアは剣をやってくる極彩色の光達が描く正円の中央部分に剣を向けた
「『ブレイク』」
剣先から無数の細い光がほとばしりそれらが滅茶苦茶に動き回る。
光はやってくる極彩色の光に触れると動きを止めてピタリと狙いを定める。その様子はまるでレーザーサイトの一斉照準にも似ていた。
「『データ・ブレイク』」
四つに収束した光の束がより強い、より強力な光となってウィストレアの『ブレイク』を飲み込む
光はそのまま突き進み、ウィストレアの光の軌跡を逆になぞりながら彼女の光の根本、左腕を飲み込む。
ゾリッ…と食い込んだ光がウィストレアの腕に深く食らい付く
その直後、この世のものとは思えない程の絶叫が世界を揺さぶった。光に蝕まれたウィストレアは空中で光を振り払おうと不格好なダンスを踊る
その動きは次第に遅くなり、十秒程度で動きを止めて彼女はその場から崩れ落ちるように地上に落下していった。
彼女の体は無数にひび割れて、それらが裏返るようにして本来のウィストレアの姿に戻る。神影化の証であり、解除の証明も兼ねた特殊なエフェクトが一瞬で完了する。
「さて…エアリアルと楼騎は…負けちゃいないだろうが…な」
クロアは剣を空中に溶かして地表まで飛び降りたほこりっぽい随分横長の建物の中でエアリアルは倒れていた。
すぐ目の前には軽そうな靴と明るく照らす火の灯った杖が見えていた
「意外とやるわねぇ…いたた…」
エアリアルは振り上げられた杖を紙一重で回避する。うつ伏せの状態から腕だけで上体を起こし、その勢いに任せて足で地面を蹴りあげての宙返り。エイドと逆さのエアリアルの視線が並ぶ
「炎舞『ブレイジングインフェルノ』!」
空中から取り出した炎刺赫染のフランメリーゼを素早く一閃!炎が横長に広がる
「…。」
無言でしゃがんで回避したエイドのだいぶ後ろから別の叫びが聞こえる
「剣技『三日月』!」
エイドは足を空中に投げ出して足下を飛び抜ける光を回避する
「炎舞『ノックダウンインパクト』!」
高らかに宣言された呪符がフランメリーゼの火力を増大させて空中にいる状態で降り下ろす。両手で叩き付けたフランメリーゼの一撃がエイドを床に叩きつけて巨大なクレーターのようなヘコミを作り出す
「縛せ『天鎖・六花の網』!」
天空より屋根を貫いて六本の鎖がクレーターの中央に降り注ぐ。ジャラジャラと鳴る鎖がエイドの手足を押さえつけて自由を奪う鎖が縛った先から小さなうめきが聞こえた。
「…痛いですね、もう少し器用にやって頂きたいものです」
地面に鎖でぐるぐる巻きにされたエイドは鎖を鳴らしながら文句を言う
「いいじゃないのよぅ…ほらっ笑って」
「誰が笑いますか」
エイドは自分を縛る鎖を値踏みするように見つめる。この鎖は割と高いランクにあり解除は意外と難しい…。いくらBUGといえど脱出には時間がかかるだろう
「クロア、大丈夫かなぁ…」
エアリアルは穴の空いた天井から別空間にいるクロアを思う
「平気だろう。今のあいつは強い。」
楼騎はエイドの近くにまで行き鎖の緩みを確かめる
「そーなんだよねぇ…。強いのよ、クロアは…はぁ…新人クンに追い抜かれちゃうとは上級ランカーの名が泣くわぁ〜」
うがー!と両手を上げて不満を叫ぶエアリアルを完全無視して楼騎は呟く
「強すぎるんだ。…力は思いで破壊も想像も出来るが、強すぎると何も生み出せない。あれは…」
身に過ぎた力じゃないのか?誰にとでもなく聞いた言葉に答えたのは縛られたままのBUG、カサリと布地が音を立てて少しだけ首をもたげる
「そうですよ…『神影』は本来は我々の…システム側の特異能力です。何故人間如きがその力を持ったのかは分かりませんが、所詮は身に過ぎた力。御母様は存在をお許しになりません」
楼騎はエイドの襟を掴む
「今何て言った?」
エイドは離して下さいと冷たく言う
楼騎が手を離すとエイドは小さく笑って繰り返す
「過ぎた存在など御母様は存在をお許しになりません。せっかくウィストレア様が助けて差し上げようとなさったのに…本当に、愚かな人間はダメですね」
ザザザッ!と強烈なノイズが視界を乱す
「ウィストレア様、戦闘不能。妨害プログラム、ダウン確認」
エイドの呟きの後、再び強烈なノイズが耳に雑音を運んできたクロアのいる場所にもノイズが砂嵐のように広がっていた。
「何だ?回線不良か?」
クロアは目の前で腕を押さえつけている少女を見ながら呟く。BUG-ウィストレアは破壊されたデータの復旧をしつつ周囲を窺う
そして悲しげにうつ向いて、終わりか…と呟いた
「間に合わなかった…ごめんなさい、お姉様」
何のことだ?そう聞こうとしてふと足を止める。
誰か…見ている!
クロアは剣を取り出して空を見上げる
『…危険因子確認。メインコンピューター防衛プログラム起動』
風になびく服を着た女性が上空から見下ろしていた。
「何者だ!」
黒い髪を髪留めの櫛で結い上げた女性はクロアの事など眼中にないと言わんばかりに無視する
『ノス・レイディ・ヒドゥン』
足下に巨大な魔法陣が展開し、空の半分を覆い隠す。水色の光が描く円の中央から光が明るさを増していく
「…答えないか。行くぞ『混沌幻影』」
白と黒の剣に二色の光が宿る。
白には『始点』を刻む力が、黒には『終点』を刻む能力が宿る
『愚かな』
ただ一言聞こえただけだった。
怯えるように叫んだウィストレアの姿が消える。その直後に雷撃。幅二・三メートルはあろうかという蒼雷が白い床に穴を開けるパラパラ…と抉れた床の一部がクロアの服にぶつかって落ちる。あまりの一撃の強さに一瞬頭が真っ白になってしまう
「隔壁!」
気付いたのは直前。『絶対防御』の隔壁を出現させて襲いかかる雷を弾き返す。
『…消えよ』
威厳に満ちた声が終わりだと言わんばかりに呟く。まるで耳元でささやかれたように聞こえて思わず耳をかばう
蒼い光が隔壁にぶつかった。
幾つもの雷撃が同時に盾に襲い来る。クロアはなんとか両手を突きだして弾き飛ばされそうになる盾をコントロールする。
「コイツ…プレイヤーじゃないな」
攻撃に無駄撃ちがないうえに、何というか無機質な殺意…だろうか、言い知れぬ感情が…感情というのも間違いのようなものが伝わってくる。
人ならば余程でなければカケラ程の感情は伝わってくるはずなのだが…それがあまりにも希薄だった。
クロアは隔壁に全意識を集中して破壊されないように努める。濁流のように潰そうとくる雷は次第に押さえつけるのも辛いくらいに強烈になってきた。
途切れることなく続く攻撃に半歩分押される
「ちっ…いつまで続くんだ、コイツは」
今度は一歩分押される。
更に一歩、ゆっくりとだが確実に押し負けている。このままだとじきに破られてしまうだろう…
―どうするか
そう考えていると、何かが足に触れた。
「なんだ?」
足元を見ると、白と黒のリボンのようなものが巻き付いたルイエスがいた。
(…まだ生きてたのか)
なんとも運が強いというか…なんというか…クロアはやる気をなくしそうになりながらも『メビウスリング』を解除する。
「あ…ぐっ…クロアぁぁぁ!」
突きつけられた銃口を蹴り飛ばす。
元から引き金を引く余力などありはしないが、抵抗されると会話すら困難になる。ここは適度に力の差を示せば相手の抵抗も消し飛ぶ。
クロアはそれを知っていた。
「っ…!」
随分あっさりと手から飛んでいった銃は隔壁から飛び出した直後に雷に触れて消滅する。武器を失ったルイエスはその場でうめきながら両手をただ握り締めた手から飛んでいった銃は隔壁から飛び出した直後に雷に触れて消滅する。武器を失ったルイエスはその場でうめきながら両手をただ握り締めた
「…おい、ルイエス。そんなことしてないで少し手伝え」
ルイエスが顔を上げて、何故?と聞いてきた
「ここから強制終了する。お前も死にたくはないだろう」
二歩分ほど地面が滑る。いい加減隔壁も限界だと訴えている。
…もう少し、耐えてくれ
そうなだめながらクロアはルイエスの返答を待つ
「嫌だね。なんで僕が君の言うことなんて聞かないといけないんだ?
君なんてどうせ『あの人』にやられるんだからね!」
「…あの人?ウィストレアのことか?」
「ハッ!あんな程度じゃない、この僕に協力を求めてきたもっと賢い奴だよ」
クロアはなんとなく理解する。
(こいつは捨て駒か)
そして今、それをしそうな人物を検索する。
エイド…あり得る。だが、あいつは違う気がする
ウィストレア…多分違う。こんなことするよりもあいつは直接殴りに来る
…となると
「お前に声をかけたのは、あいつか」
クロアは巨大な魔法陣の上にいる人物を指差す。集中が乱れて防壁にわずかな亀裂が走った。
「ならどうしたんだい?彼女と僕、二人に挟まれて君は生き残れると?
撃ち狂え!『ヴァネッサ』!」
―もう駄目だ。
頭の中で諦めた。仕方がない。こうするか。
「少し防壁頼むぜ『フギン』『ムニン』」
バサリ、とクロアの足元から翼が広がる。黒い羽が巻き起こりクロアの視界を黒く変える
風が止んだとき、クロアは剣を振り下ろした。
黒一色の長剣。『黒陽』をルイエスに突き立てる
「能力付与『地縛』」
床の一部がルイエスの手足に絡むように動きを禁じる。地縛の能力は初めて使ったが…いまいち微妙だ
「おーい、はやくして。こっちもたないぞ!」
クロアは『白陰』を手にした自分に振り返る。自分とそっくりな、でも実際はまったく同じ存在『クロア』の概念
「悪い。すぐ離脱の術式を準備する」
「もって二分!急げ!」
「ったく、わかってるよ」
完全に一人二役。ルイエスどころか魔法陣の上にいる人物すらも不思議そうにこちらを見ている
「「なんだよ」」
二人分の不機嫌な声が重なった。
「なん…だ、その姿は」
一応刺されたままのルイエスが苦しそうに言う。やはり説明は必要か
「神影固有スキル『フギン』『ムニン』。
俺と『クロア』の概念存在を具現化する能力。」
「ちなみに意識は共有、クロアは二人分の操作を一人でやらないといけない…っと」
「意外と疲れるな…ちょっと黙ってろよ『クロア』」
「だが断る」
ビキッ、と隔壁が割れて二人は頭上を見上げる。どうやら言い争いをしている暇はないらしい
「聞いてるか?D。今から俺を強制終了させる。」
返事はない。通信が通っていないのか
「『電子の海、泳ぐ大魚、波の反乱巻き起こし全てを巻き込む争乱となれ』」
メキッ、と嫌な音を立てて頭上が窪む
「急いで…!」
「『荒ぶる波よ、全てを乱せ!』」
叫んだ。
最初の数秒はただ時が過ぎるだけだったが…やがてノイズが走った。
「もっとだ!もっと乱れろ!」
クロアが叫び、『クロア』も同様に叫ぶ。
ノイズが数本走り、その数は次第に増していく
『これは…』
女性も気付いたらしい。
『データが崩壊値にまで変動?まさか…全乱数の強制操作ですか?』
呆れた、と言わんばかりにため息をつく
『これだから人間は…。もう少し機械を大切に扱いなさい』
その声は荒れ狂うノイズに半分ほど掻き消された。常に走り続けるノイズは遂に画面全てを覆いつくし、終いには
『システムエラー!!不正操作が実行されました。システムシャットダウン。』
その表示すらもノイズの嵐の中に放り込んで飲み込んでしまった
クロアとルイエスのブツリと途切れた意識は現実世界の肉体へと回帰する…。ガコン!と体が機械から投げ出される
いつもよりやや手荒な気がするのは気のせいだろうか?
『おっ、クロア強制終了確認!
…あなたも無茶するわね』
Tがガラスに映されたモニター越しにうんうんと一人頷く
どうやら…なんとかメインコンピューターのダウンに成功したらしい…。クロアは安堵の大きなため息をつく
『クロア君〜。Gが怒ってるわよ?』
「わかったよ」
やれやれと呟いて扉に手をかける。押し戸の曇りガラス越しに誰かの人影が見えた。
―このパターンは…
ガチャリ!と開けられた扉からエアリアルが飛び込んできた。やっぱりこういうパターンか…
「おっかえりー!心配したよぉ!」
「うっとうしい、離れろ」
飛び込んで来たエアリアルを後ろへと流す。勢い余った少女はガラスにぶつかって
「あいたっ!?」
そう言って崩れ落ちた。
「ったく…先行くぞ」
鼻をおさえているエアリアルに素っ気なく言って小部屋を出る。
「ふぁ、まっふぇー!(あっ、まってー!)」
クロアは後ろ手で扉を閉める。
ガツン!あいたっ!?という音がまた聞こえてズルズルとエアリアルが倒れていくのがわかった
「それくらいにしとけ」
静観していた楼騎が隣のブースに寄りかかったまま言う。
「あぁ、そうだな」
ヒラヒラと手を振ってクロアはわかったよ、と意を伝える。青年はどうだかな…と首を振る
「…まぁいい。行くぞ」
楼騎が歩き出すとブースの内部から扉が開けられる。白い服を着た少年が這うように扉から出てくる
「クロア…お前、なんなんだ?この…!」
げしっ、とその頭を誰かが踏みつけて黙らせる
「ヘラヘラ、ごたくはいいよ。彼は人間離れしてるだけだから」
Dが明らかに楽しそうにルイエスの髪の毛をちょいちょいと引っ張ってから改めて踏みなおす
ルイエスは手で足を掴もうとしていたがそれをうまく避けて管理者は一つしかない出口を指差す
「行くよ、鬼のGさんがお待ちかねだ。ヘラヘラ」部屋を出て、中央管理室に入った瞬間頭に衝撃が走った。まるで板で殴られたような痛みだった
「この馬鹿者が!メインコンピューターをダウンさせる者がおるか!儂はそんな奴は知らんがとにかくそこになおれぃ!!」
耳をつんざくような勢いで意味不明のお叱りを受けた。
「GさんGさん、落ち着いて」
「落ち着いていられるか!
こ奴のせいで復旧作業を強いられる儂らの身にもなれ!このうつけがぁ!」
手に持ったメモ板による第二撃をしゃがんで避ける。
「まぁまぁ、おかげでデカイ獲物が釣れた訳だし、帳消しにしてやろうよ、Gさん」
「…ふん!儂はそんなに甘くない。じゃが…海老で鯛…いや、イルカを釣ったのもまた事実…」
むむむむむ…と考え込むGの隣でクロアはイルカ?と呟いた。
「イルカってのはね、あなたが対峙した相手の事よ。まぁ別にイルカって名前じゃないから」
「T、お前いたのか」
クロアが何気に酷いセリフを言った直後、Gは仕方ないのぅ…。とため息をつく
「今回はこれ以上追求しないでおいてやろう…。あとD、儂の事をじーさんと何回呼んだぁ!」
すぱーん!といい音がしてDが飛ばされる
Gはその後を追いかけて手にした板の角でビシビシ叩いていた。本当に呼ばれるのが嫌なんだな…としみじみ思う
「でねー、私の愚痴聞いてよ」
―アレイア、無事なんだろうか…
勝手に話すTを無視してクロアは思考の海に潜る。アレイアの安否と、ウィストレアのその後がとても気になったのだ…
―――――
あとがき
―――――
エア「やっほぅ〜!本編ではあまり語られないカリスマランカー・エアリアルだよ」
クロア「…」
エア「一話から読み返すと私の扱い変わったよね〜、最初は黄色い悲鳴が包んだのに今はクロアに弄ばれるとは…」
クロア「撤回要求。悪人みたいに言うなよ」
エア「ひどぃー」
クロア「うるせぇ」
楼騎「…、俺も影が薄くなったな。」
エア「大丈夫!私ほどじゃない!」
ガルト「あぁ、俺なんてもう何話も…」
………
ガルト「何だよ?全員凝視して」
三人『誰?』
ガルト「ガルトだ!!忘れたのか?なぁ!」
クロア「…登場フライング?」
ガルト「ずっと出番待ちだっっっ!」
楼騎「そんなに頭を抱え込むな、邪魔だ」
ガルト「ひでぇ!クロア!覚えてろ!」
クロア「…おぉ、ガルトだったか!」
エア「もう部屋から走り去ったよぅ」
黒燕「ケッ、情けねぇ」
クロア「後二百字で黒燕だと?!」
エア「やばっ!エンドコールが間に合わない!」
黒燕「ふん。黒燕様はこの世界の神!字数制限なんか無視してやるぜ!」
エア「エンドコール!クロアから!」
クロア「そろそろ俺の主人公補正が発揮されるよな!?」
楼騎「知るか。俺の記憶フラグ、たぶんこの話じゃ回収無理だ」
黒燕「なら次の話でやっちまおうぜー」
エア「うぅ…えっと、私は次の話で頑張るよ!うん!」
黒燕「仕方ない…伸ばしてやるか…『延びろ!』」無理