第二十一章 深淵への布石―The BUG's Turn
いよいよ後半戦に入りました。
クロア達のお話にもう少しお付き合いくださいませm(__)m
さて、シロツバのやり場のないコメントコーナーです。むしろ前書きなんて只の飾り。あとがきはのっとられてるから未だに使えず…
梅雨入りしちゃいましたね…
僕はどうにも雷が苦手なので夕立とかは憂鬱です…。雷が落ちたら…とか考えちゃうので(^^;
稲光は平気なんですが…雷鳴だけは…orz
あ、雨といえば。
つい先日、朝から雨が降っていた日(小雨ですが)に窓の外を見たら…
謎の超高速生物が何匹も飛び回っていたんですよ。実際はただの燕でしたが。
でも、家のすぐ目の前は会社の倉庫。住宅街から家の前を飛び回る羽虫を狙いにやって来たんでしょう。
鋭く切り込み、艶やかに回る。
やっぱり燕はカッコイイです
鋭く切り込める小説を書きたいな…とか夢見る白燕でした。
では、本編へどうぞ!
ザワザワ…と普段から賑やかなエントランスに戻ってきた。前の試合の議論をしているもの、売店でカードやスナックを買っているもの、会場へと入っていくもの達でごったがえしていた。
「ガルト!」
野太い声が相棒を呼び止める。
ガルトはおう、と答えて声の主の方を向く
いたのは黒い革ジャンに派手な赤いシャツを着た、『いかにも』な大男だった。
「よう、さっき呼んだのに参加しなかったろ?あれなんでだ?」
あのとき、とはクロアが参加表明する前のことだろう。あの落胆していた時だ
「…すまねぇ、全員参加しないようにメールされてたんだ」
すまなさそうに言う男にガルトは誰からの指示かと聞く。
「…エアリアルだ」
ガルトは眉をひそめる。
「あいつがそんな小さいことを?」
わからねぇ…そう言った男はクロアを見る。誰だ?と指差してクロアはムッとする
「俺の相棒だ」
「ふん…強かったな、流石はお前の見立てだ」
男はクロアの肩に手を置く。
「なにかあったら力になるぜ」
「あぁ、なにかあったらな」
柔らかく拒絶するが、男には通じないらしい。親指を立ててからエントランスを颯爽と歩き去っていった
「…で、あいつ誰だっけ?」
「俺に聞くなよ…」
相棒は相手が誰かわからなかったらしい。まさかの展開にクロアは頭痛がしそうになったが…どうにか驚きだけで収まった人混みをかき分けて一人がズンズンと近寄ってくる。
「主、来い」
白衣を着た人物が現れ、声と口調からGだと判断する。
「G、何のようだ?」
ガルトは鋭い視線を送り、Gを威圧する
「なに、クロアに用があるだけじゃ。主には用はない」
見事にガルトの視線を弾き返して逆に威圧する視線を送る。
送られた人物は一瞬怯み、あっさり負けを認める。
「暫し借りるぞ」
「好きにしな」
Gはクロアの襟を掴み、スタッフエリアまで引きずっていく。ガシャンと重く閉じた扉の先で管理者はクロアに問うた
「主、どうやってアレイアを呼んだ?」
単刀直入に話が切り出される。
「…お見通しか」
「当然じゃ。会話も、行動も、全てログがある。主のデータ改変もな」
ふん、とつまらなさそうに折り畳まれた紙を取り出す。おそらくは中にズラズラと会話やパラメーターがかかれているのだろう
Gはそれを広げることなく懐に戻した。
「あまり表立ってあやつを呼ぶな。よいか?あやつは人ならざる者、知られれば世界がどうなるかすら危うい」
―つまり、警告か
クロアは最近多いこのパターンに飽々しつつ了解した旨を伝える。
「ならばよい。儂らもBUGが手元にいれば監視しやすいからの」
ちやっ、と小さく手を上げて話は終わりだと告げる。クロアはやっとか、と文句を言いながら踵を返して扉を開ける。
その先はエントランス端の空間、暇そうに待っていたガルトに声をかける
「何を言われた?」
「ガンバレってさ」
適当に答えて、会話を終わらせる。
コイツはアレイアの事を何と思っているのだろう…、あの存在を知らせたらコイツは何を思うのだろう
誰も答えられない疑問がふっと沸いて、消えた。その後は特に何事もなく過ごした。
試合を見たり、カードの調節をしたり、特に変わったことは何もなかった。
BUGも、何もない一日。
当たり前でなかなか無かった一日。
クロアは平和だな…と思いながらエントランスの椅子に座って自販機で買った缶ジュースを開ける。
ブドウ味の炭酸飲料を飲みながら自分のデッキを眺める。
直接攻撃の影閃斬、天剣斬、流影斬
防御用の防壁Lv.1
装符の長剣、白陰、黒陽
呪符の火の粉降る夜に、静電気、
大体使うのはこの程度。
ガルトはバランスが悪いなと笑っていたが…こちらもカードが無いのだから仕方ない。パックを買っても望んだものが手に入るとは限らない…
…こうなれば
「おっ、レアカードゲット!」
ペリリとカードパックを開封しながら戻ってきた相棒に聞く。
「ダブリ渡せや」
「ん?いいぞ?」
あれ?意外とok?
クロアは意表を突かれたが、相棒がたった今買ったパックの中から不要なカードを抜き出した束を受け取る。
「感謝しろよ?」
あぁ、感謝するよ…。
クロアは小さく呟いた。
時刻は既に夜の8時を指していた。
楽しい時間ほど早く過ぎる。これが、きっと最後…チチチ…という鳥の鳴き声で目を覚ます。
「あれ…俺…なんで」
部屋の時計は朝の8時を指していた。
「思い出せない…」
何故かこの12時間の記憶がスッパリ抜け落ちている…。
「…そういや、やけに静かだな」
エアリアルやヨロワが起こしに来る気配もない。普段ならば誰か来ている頃なのだが…
クロアは自室を見回し、昨日とよく似た組み合わせの服に着替える。
「行くか」
ベルトを巻いて、部屋を出る。廊下には人の姿がなかった。
いや、それ以前にこの居住区画にあたる部分に人の気配すらなかったのだ。
「…何かあったな」
中央管理室を目指して走り出す。
すると
「うぉっ」
「てっ」
十字型の廊下でぶつかった。
「あいたたた…ごめん」
「気をつけろ」
白衣を着た人物は床に散乱した書類をかき集めるともう一度謝ってからどこかへと走り去っていった。
「…何だよ、アイツ」
カサリと手に何かが触れる。
クロアが倒れた床に視線を落とすと、どうやって挟まったのか書類が一枚だけクロアの手の下に入っていた。
「忘れていきやがったよ…」
クロアはその書類に視線を走らせる――――――――――――――
報 告 書 1 0 1 1 号
・報告書1010の通り、全世界の『ヴァルハラ』サーバーにほぼ同時に大型のノイズが発生。
・ほぼ全てのサーバーに大型BUG…以後『BUG-』と規格を統一したものが発生
・現在、BUGの出現したエリア以外は平常動作中…。だが、早急な対処を要する。
現在、アメリカ南部支部『BUG-Anna』
アメリカ北部支部『BUG-Lihit』
ロシア東部支部『BUG-Gendes,lwo』
日本近畿地方支部『BUG-Karen』
日本沖縄地方支部『BUG-Atel』
中国支部『BUG-RenRen』
イギリス支部『BUG-Arther』
イギリス・カンタベリー支部『BUG-Hope』
エジプト支部『BUG-Cermen』の出現を確認。
『ツバイン』投入し、現在浄化作業中
―――――――――――――「…なんだこれ」
見知らぬBUGの名がズラズラと書かれていた書類を握り潰す。一体、何がどうしたのか、全く理解できない!
クロアは倒れたままだった体を立ち上がらせ、手の中でクシャクシャに丸められた紙を強く握る。そして、先程よりも速い速度で中央管理室を目指して走り出した。金属質の廊下を慌ただしく走る音が聞こえる。常に薄暗い、中央に巨大な機械が立っている部屋の中で白衣を羽織った人物が走り回っていた。
「やれやれ、凄いね…ヘラヘラ」
昨夜から尽きることなく満たされる黒い液体を飲みながらDは各地の支部からの連絡を吟味する
「フランスのとこはサーバー落ちたな。ポーランドのとこには…たしかツバインがいたハズだよ」
メールを送ると、すぐにアルファベットだけで構成されたメールが届く。どうやらアメリカと連絡しているらしい。
「D、サボらない!」Tがマグカップにコーヒーを追加しながらピシャリと言う。言葉は元気そうだが、目はどこか遠くを見ていた。
「Tもお疲れだねぇ…ヘラヘラ」
「ツバインのみんなが頑張ってるんだから、私たちも頑張らないとね!」
ぐびーっ、とTはDのコーヒーを飲みほす。
さも当然そうにマグカップを元の位置に戻すと踵を返して他の管理者を激励に行く。
「キミキミ、ちょっと来な…」
近くにいた緑の制服の職員を呼び、マグカップを渡す。
「コーヒー、もらえないかい?ヘラヘラ」職員がマグカップを受け取った時、ほぼ同時に管理室の扉が開く。
「おい!D!どういうことだ!」
クロアが叫びながらDの元へと歩いてくる…
歩いてくる…
歩いて…
…
ようやく辿り着いた。
「遠いんだよ!」
無駄に広大な敷地への苛立ちを乗せて殴り付ける。Dはそれをメモを挟んだ板で受け止める。
「ヘラヘラ」
「ムカつくな」
Dは大袈裟に手を広げながら立ち上がる。
「クロア、君は帰れ」
「はぁ?ふざけんな!」
割と当然の反応を返す。いきなり帰れとは失礼にも程がある。「君は昨日の夜の出来事を覚えているか?」
…痛いところを突かれた。
クロア自身昨夜何があったか何も覚えていないのだ。嘘を言っても仕方がないだろう…
「何があったんだ?」
Dはやはりな、と小さく笑う。
「君、覚えてないのかい?」
職員が驚きながら振り返り、コーヒーくれないかい?と催促されて走り去って行く。
クロアは今職員が言った言葉により嫌な予想が浮かび上がる。
―俺が、何かしたのか?
いや、と否定する。
自分が何かしたというのはまだ言葉から推測しただけだ。覚えていないのかい?とは事象に対しての記憶を指しているだけ…。
自分が何かしたとは限らない…
―何でこんなに不安なんだ?
クロアは襲いかかってくる不安に疑問が浮かび上がる。まるでイタズラをした子供じゃないか。
「まぁ、君が覚えてないのも無理はない。
むしろ覚えていたら…君を殺していたかもな」
ヘラヘラと物騒な事を言われてしまってはこちらも黙っているわけにはいかない。直接的に聞いてみる。
「昨日、何があった?」
Dは一瞬躊躇う。だが、言った
「君は、突然エントランスにて言葉を紡いだ。『闇が訪れる。
闇の始まりは、アレイア。
闇の終わりは、ウィストレア。
現出するはワルキュレア。
対立するは、オーディスタ』。」
なんのことだかな、と苦笑していたDだったが、クロアの顔を見て真顔に戻る。
「…どうした?何か思い出したかい?」
「アレイア…だと?」
Dは何となく察する。
―コイツ
小さく思って、首を振る。
「今は人手が足りない。本来は帰れと言いたいが、特別だ。奥の端末からアクセスしな」
ニヤリと笑ったDはクロアが運ばれた部屋を指差す。当然、クロアはその部屋だとは知らない。どんな反応があるか期待しつつ運ばれてきたマグカップを受け取る
「死ぬなよ…ヘラヘラ」
「バーカ。誰が死ぬか」
クロアはやや速い速度で部屋を歩き抜け、二重ロックの部屋に入った…酷く見覚えのある部屋に辿り着いた。
クロアはめまいがしそうになりながらもなんとか耐える。なんてこった、こんな所に俺は閉じ込められていたのか!?
クロアは何人かが既に曇りガラスの内側で端末に座っているのを見ながら誰も座っていない、部屋の中心に一台だけ設置された端末を見る
「…」
酷く昔のような、つい最近のような変な感覚に襲われる。
あそこでログインした時、処刑と称して殺されそうになり、アレイアに助けられたのだった
「闇の訪れ…か」
アレイアの名が出たのは偶然ではあるまい。クロアは誰もいないブースに入ると、静かに端末に腰かけて自分自身の身体と、意識を委ねる。
スッ…と薄れる意識の中で何か小さな声を聞いた気がした。ザザザッ、とノイズが走る。
いつものエリアではなく広大な白い空間に着地して、どうすればいいか虚空に聞く。
不思議な効果音と共に目の前に四角い画面が現れ、Dの顔が投影される。ヘラヘラ笑いながら映る姿に何故だか無性に殴りたくなった。
「君のセンチメンタルな表情が見れるとはね…ヘラヘラ」
「無銘『長剣』!」
素早く解放、それを画面に投げつける。
剣はDの顔を透過して数メートル先にカランカランと転がる
「無駄無駄。さて、君にはイギリス・ロンドン支部のサーバーに転送する」
「おい、待て。俺は英語話せねぇぞ」
「安心したまえよ」
フュン、と足元に複雑な模様を描いた蛍光黄緑色の転送印章が現れる。
「こういうのはお約束で話は通じる。んじゃ頑張りたまえ…ヘラヘラ」
後で絶対殴ってやる…。クロアはそう心に決めて無理矢理転送を促す印章に身を任せ、フッと消えた着地する。
目の前には巨大な時計塔があり、その左側には長い橋がかけられている。
人の姿はないが…ここはかの有名なビック・ベンなる場所だろう
「お待ちしておりました。」
振り替えると、売店の入っている建物の前に一人の女がいた。
「私はリゼ。貴方のサポートを頼まれました。短い間、よろしくお願いします。」
頭を下げた、リゼと名乗る女はどこからみてもメイド服にしか見えない服を着て、どこからみてもメイドのような立ち振る舞いをしていた。
―流石は本場…か?
そんなことを頭の隅で考えていると、町の風景が激しいノイズで醜く歪んだ。実世界を模した世界が内包した歪みを吐き出す!
「ジジ…ジジジ…」
「『BUG-Aether』です。厄介ですので、ご注意を。Mr.クロア」
灰色の生命体は大きく吠哮を上げ、半透明の体をこちらに向ける。クロアは手にした長剣を地面に突き立てると、自らの愛刀を虚空より呼び出して解放する
「巡れ『光剣『白陰』闇剣『黒陽』』」BUG-Aether…面倒だからアーサーと呼ぼう。そいつは人の形をとりながらスライムのような半固体の体をしていた。
顔はないが、頭はある。それが真っ直ぐクロアを睨み付けている。
アーサーの体長はおよそ五メートル。ビック・ベンの時計塔よりは小さいが、人間相手にはあまりにも巨大だった。
クロアは走り出し、アスファルトから跳び上がる。一気に飛翔し、頭上を取る
「はあっ!」
気合いと共に封印の白陰を叩きつける。
グニャリとした触感が腕まで飲み込み、悪寒が背中を走り抜ける
「召喚『リビングフェアリー』」
リゼが地上で呪符を解放する。
ズルリ…とアーサーの体が動き、クロアと共に奇妙な生命体を見上げた。
「οαιχ?」
理解不能な言葉を紡ぎ、目の前をパタパタと飛ぶ体長三十センチ以下の生命体はそっとクロアの頬を撫でる
「妖精?か」
「αιχ」
何か頷く仕草をして、妖精はアーサーに小さな手を向ける。
手の前に光が収束し、それを放つ。
ずどんという鈍い衝撃がBUGを震えさせ、クロアは吐き出される。
「Ψιαχ?」
落下中、妖精が同じ速度で降下しながらクロアに手を伸ばす。クロアはその手を取ろうとして、出した妖精に弾かれる
「ωχΨο!」
あぁ、そういえば妖精はイタズラ好きだったなとか思いつつ、クロアは笑えない落下にため息を漏らす
「『天鎖・六花の網』」
ジャラジャラとクロアが解き放った鎖がうるさく絡み付く。ガルトから受け取った新しい呪符の力はクロアを受け止め、静かに着地させて消滅した。
「Ψο…」
「リビングフェアリー。イタズラはやめなさい」
妖精はシュンと肩を落として、すぐに上機嫌に飛び上がる。薄い羽を羽ばたかせて天高く飛翔するアーサーが目の前をヒラヒラと飛んでいる妖精をうっとうしそうに見つめて、その手をゆっくりと持ち上げる。
「αχ」
小さく唱えた妖精を身長に比例して巨大な手が殴り付ける。
妖精は攻撃を受けきれずに空中で金の粒子に変化して、死んだ。
「生還『リバースソウル』」
リゼの呪符が使用され、粒子が妖精の形に収束し、復活した。
「ωαΨα?」
愉快そうに笑った妖精は光の球を作り、放った。物凄い破壊力をもったその一撃でアーサーは地面に倒れる
「強ぇ…」
「私は、この場所で最強のプレイヤーですから」
自信に満ちた彼女の言葉にクロアはなるほどと頷く。リゼはその腕前を買われて今ここにいるのだ。自分よりも確かな腕前…小さく心が痛んだがクロアは双剣を握り直して倒れたアーサーを睨み付ける…
「ジジ…ジジ…」
まるで壊れた機械のような音を出しながら奴は立ち上がり、両手を振るった。
その瞬間に腕が変形して二本の剣となり二人と一体を襲った。
「進化か?」
「いえ、フォームチェンジの一つです。意外と攻撃範囲が大きいので、見切って下さい」
二人して上空へ逃げる。
アスファルトが砕かれ粉砕され、近くにあった聖堂までも破壊されてしまった。確かに攻撃範囲は半端ではなさそうだ
「二撃目、回避します」
リゼは盾符と書かれたカードを構えて左腕の斬撃に合わせて解き放つ
「盾符『強撃の狭撃』」
同質、同量の力がカードから放たれてアーサーの腕が力を相殺される。その力は六角形の盾を描いて霧散する
「リビングフェアリー!」
「Ψω」
ずどん、と三度光球がアーサーを撃ち抜く。もう既にダメージはかなり蓄積されている筈だが奴はまだ立ち上がる
「哀れね、眠りにつけば楽になれましたのに」
少女の前面を三重の魔法陣が展開して最も彼女の近くにある陣にはリビングフェアリーの光球が玩具に見えるほどに光々と輝いていた。
「滅光『ライト・イレイズ』」
敵を完全に消し飛ばす光の波動が放たれた。
陣を通過するごとに光線となった球が威力を増し、光を増し、アーサーを貫いた。
「伏せて、消えなさい」
金色の光が舞い上がり、BUGがその命が尽きた事を知らせる。
リゼの圧倒的なまでの力を前にしてクロアは何も感想が浮かばなかった。それほどにあの力は強かった。
「終わりました。Mr.クロア」
笑った彼女の後ろでビビビ…と巨体が揺れる
「伏せろ!」
思わず走り出したクロアはリゼを守るように立ちはだかる
「まだ…立ち上がれるの?」
驚きと畏怖で彼女が麻痺するのを感じ、クロアも同様に思考が麻痺するのを感じる
「俺は、何もできないのか…?!」
クロアは最も強い少女の名を叫ぶ。
「奴を倒せ!アレイアぁぁぁ!」
極彩色の光が放たれたザザザッ、ザザザ…
ノイズが走る部屋の中で小さな声だけが生まれた。
「…見つけましたよ」
ノイズが一層激しさを増した後、その部屋で声が生まれることはなかったザザザッ、と激しいノイズと共に一人の少女が空間をも超えてクロアの目の前に現れる。
小さく呟いた語は、隔壁。全ての干渉を否定するBUGの絶対防壁…
光が四つ八つと分解されて球体の前に四散する。アーサーが最後の力を振り絞って繰り出した剣の断殺を
「クロアを相手にして頑張ったわね」
アレイアは右手を剣に向けて続けた
「でも、私に触れていいのはクロアだけ。アナタなんて願い下げよ」
剣となっていた腕が弾かれ、先程よりも鮮やかな極彩色の光がアーサーを飲み込んだ。体内を蝕む光によって巨大なBUGは倒れ、滅する。
「クロアっ、大丈夫?」
「あぁ。とりあえず抱きつくな」
相変わらず…というよりも徐々に馴れ馴れしくなってきたアレイアを引き離してクロアは何となくだが彼女の頭に手を置いた。
「ビクッ」
「うおっ」
目を丸くして驚いたアレイアに驚く。
「ぇ…あ…今の、なに?」
今の、というとやはり今のだろうな
「いや、撫でてみただけだ。何となくだから気にすんな」
アレイアは撫でる?と小首をかしげる
まさか、知らないのか?
「撫でる、とは一般的に幼子を褒める際に用いられるコミュニケーションの一つです。Ms.アレイア」
きょとん、としていたアレイアは次第にリゼの堅苦しい説明の内容を理解してゆっくりと赤くなる
「クロア…ロリコ」
「何 故 そ う な る」
一語一語強調しながら全力で否定する。
とりあえず俺に幼児趣味はない。断じてだ
「でもね、ちっちゃいころの私からベタ惚れだったよね?」
「…Mr.クロア。只今より敬称表現を外したいと思います」
あぁ、これだから堅苦しいのは嫌なんだ。遠回しに軽蔑しただけだろうが「あれは…」
違う、と言おうとして場の空気に不穏なものが混ざったのを鋭敏に感知する。
半拍おいて二人も警戒体制に入る。自然と武器を手に背中合わせになる
「…来る。」
アレイアはいち早くBUGの出現を察知、警戒を促す。
ノイズが町を汚して、不快な雑音を発生させる。BUGが現れる度にノイズが走るので出現が近いのを感じる
先程破壊された道の、橋へと進んだ交差点の真ん中に空間の波紋が現れ、中から人が現れる
「お迎えに上がりました。アレイア様」
膝をつき、頭を下げて一人の少年がまるで騎士のように礼をする。
「…『ブレイク』」
躊躇いなく光を放つ。アレイアの顔にやや不安の影が現れた気がするのは気のせいだろうか?
「『隔壁』」
球体の防壁が極彩色の光を四散させ、何事もなかったかのように彼は顔を上げる。
幼い彼は小学生になるか、なろうとしているかくらいの年で不釣り合いなほどに端整で落ち着いた雰囲気と顔をもっていた。
「私は『BUG-エイド』。貴女の従者として仕えるために御母様の命にて参りました。」
クロアも、リゼも無視して少年…BUGのエイドは立ち上がり手を差し出した。
栗色…というには濃い髪はやや長く、ふんわりと丸く弧を描いていた。冷静な青い瞳は黒いフレームの眼鏡で曇りなくアレイアを見つめていた。
「おい、お前。俺達を無視して話をしてるなよ…。リゼ、アレイア、援護を」
静かに構えたクロアの腕をアレイアが掴む。そして、ほんの少しだけ力を込めてから彼女は口を開く。
「御母様はなんと?」
エイドはソプラノで答える。
「『帰らぬならば、帰る気にさせよ。』と」
握られた手がより強く締め付けられる…。心なしか彼女の手が震えている…
「仕掛けませんのですか?」
リビングフェアリーを手元に寄せ、いつでも攻撃の体制に入れるように構えていたリゼが見つめている
クロアは少し躊躇い、アレイアの手を払う
「いくぞ」
「了解しました」
リビングフェアリーを飛ばし、自身の前に大口径の魔砲陣を展開した瞬間に二人の体が動きを止める
細い極彩色の網が二人の身体を拘束していたのだ。
「ごめんなさい」
アレイアが謝る。何を?
「もう、時間切れ…楽しかったよ」
クロアは網をほどこうとしてもつれて倒れる。
「おい!どういう…」
意味だ!と聞こうとして空から降る雫に気付く。雲はあれど雨はない、超局地的な雫はアレイアに合わせて動きながら突然降り止む。
「さようなら。」
ザザザッ、と視界が歪む。
ふとマリアに言われた言葉が頭をよぎった。
―彼女を失わないようにね―
気付いてたのか?この状況を、誰もいない交差点にクロアは叫ぶ。
「一体、何なんだよ!答えろ、アレイアぁぁぁぁ!」
答えるものなどいはしないガコン、と体が解放されてクロアは現実に帰ってきたのかとぼんやりと考える
閉鎖的な空間に一人座りながら彼はアレイアの事を考える。
―何であんなことを言ったのか。
―エイドと名乗るガキは何なのか。
―時間切れとは何なのか。
考え出したらキリがない。しかも答えは得られないのだから質が悪い。クロアは網に囚われ続けているような錯覚を感じながら立ち上がる。
ライトが天井からスポットのように光を降り注がせる。その光に何故だか心が痛んだ。
「俺は、一体どうしたんだ?」
今まで感じたこともないような感情の高ぶりと落胆。まるで粗悪品のクスリでも使ったかのような気分の悪さにクロアは頭をガシガシと掻いた。…こうしていても埒があかない。クロアは小部屋を出る
「やぁ、クロア君」
…おそらく、この世で最もムカつく奴と遭遇してしまった。
「ルイエスか」
「君みたいな奴でも僕の名を覚えていたか」
感心感心、と笑うコイツに一発殴りたいのを堪えつつ何のようかと問う。もちろん用がなければ失せろと言い添えて
「いや、どちらでもないよ」
―なんだそりゃ?
「君を笑いに来たのさ。君の最大の力であるBUGを他の男に盗られ、無様に泣く…」
もう限界だ。クロアはさっきから握っていた拳を思いっきり叩きつける
鈍い音がして、意外と小柄な体が吹っ飛ぶ。クロアはルイエスが転がる場所まで歩いていき、蹴る。
「あはは、やってくれたね、いいのかい?君が消えても」
「消えねぇよ」
地面に倒れるルイエスを見下しながらクロアは全ての冷静さを振り絞ってコイツが何を言っているか考える。君が消えても?
まさか、コイツがエイドを呼んだのだろうか?馬鹿馬鹿しい妄想を頭を振って霧散させる。そんな訳があるか、奴にそんな事が出来るはずがない
クロアは立ち上がるルイエスを睨む
「D、コイツを今すぐアカウント削除しろ!これは僕の命令だ!」
扉が開き、Dがひょっこり顔を出す。
「無理だよ、生憎と君のお父さんから君の言うことは無視しろと言われているんだ。前にテストを延長させた罰だね…ヘラヘラ」
パタンと扉が閉じ、何とも言えない気まずさが取り残される。
「おい、僕はこのゲームの社長の息子だぞ!そんなバカなことが…」
「あるんだよねぇ…ヘラヘラ」
今度は館内放送で言葉を返している。とりあえずバカにでもしているのだろう、クロアは茶番には付き合えないと飽きれ気味に部屋を出る
「待て!」
「クロア、会議だ。急ぎなよ」
ヘラヘラ笑う声が何故だか許せたような気がする…。数秒だけだがパタンパタンと二つの扉を開いてクロアは中央管理室に戻ってくる。白衣の人々と何人かの私服姿のツバインが部屋に聳える機械の大画面モニターの前に集まっていた。
「来たね、まずは『BUG-アーサー』の退治成功おめでとう」
クロアの浮かない顔を見て、Dはやれやれと笑う。
「いいんじゃない?BUGが減ったんだしさぁ」
そう言ったのは、エアリアル。
クロアは驚きと敵意で睨み付けるような目になる
「だって…そうでしょ?」
怖々と彼女が言い、賛同はなかった。
「ふざけるな」
冷たく放ったその一言はかなり深くエアリアルの心に突き刺さる。
「…そんなに、あの子が好きなの?」
逆に今度はクロアに言葉の矢が突き刺さる
「違う!そんなのじゃねぇ!」
「なら、なんなの?」
「…アイツは」
少し、途切れてクロアは叫ぶ
「アイツは、とりあえず訳が分からない奴だ!ほっといたら世界滅亡とかやりかねない、それに、訳分かんねぇセリフ吐かれて黙ってられるか!」
Dは小さく笑い、Tは意地っ張り、と呟いた。
「大切な人なのね?」
エアリアルの質問に、違ぇ、と否定するが何もかもを見透かしたように微笑んで彼女は呟く
「あなたにとって大切な人は私にとっても特別な人。探すの、協力するわよぅ」
ぴしっ、と人差し指を突きつける。
「…昨日の敵は今日の友、かぁ」
何か聞こえたがクロアは深く追求しなかった。コイツ、今までそう思っていたのかとは思っていたのだが…。
「…ふむ、どうやら丸く納めたようじゃの。では命ずる。BUG-アレイアを欠いたままでは我らにとって不利だということにに変わりはない。ならば儂らであやつを奪還する」
Gが声高らかに告げる。アレイアを素早く見つけ、取り戻すことを皆に告げたのだ
「指揮は儂とDでとる。奪還部隊員はクロア・エアリアル、志願者はおるか?」手を挙げたのは、三人。
「二人だけだと危なっかしいからな。」
楼騎がGの承認の元にメンバーに加わる。
「クロアおにいちゃんがいくなら、ぼくもいくよー!」
「ヨロワが狙われないように見張らないとね」
ちっこい双子が共に承認を受け、クロアの足元に移動してくる
「がんばるよ!」
ぱあっと笑うヨロワの隣でノピアが親指の爪を噛みながら明らかな不満を示していた。
まるで今にも
「妬ましい」とか言いそうな勢いだった。
「…ふむ、予想通りじゃの」
「元気な子達ね」
GとTが笑い、Dもヘラヘラ笑う。
半拍あけてGは真顔に戻り、集まった全員に話し始める。一つ目の議題は終わった、と言って次の話題に移る
「各所、各サーバーに現れたBUGがアレイア消失とほぼ同時刻に消失した。その件についてじゃ」モニターにいくつもの地図が表示される。その全てに小さく『イギリス・ロンドン・イベントエリア』のように『国・支部・エリア名』が表示されていた。
「BUGの現れた全支部、十のマップじゃ」
そう言って全てのマップに時間を表示させる。時間は日本時間『9:15:00s』から
「この後、ツバインが9:23にかけてログインする」
カラフルな矢印がポツポツ現れ、その中に『クロア』の名を見つける。
「9:45:24、アレイアがログインする」
『アレイア』と表示された矢印が『アーサー』と書かれた矢印と触れ合う。
「9:58:42、『BUG-アーサー』消滅」
矢印が不自然なノイズに呑まれて消える。おそらくは『ブレイク』の影響なのだろう、二秒ほどかけてゆっくりと矢印が消えた。
「9:59:31、BUG-エイド出現」
十字型の交差点の真ん中に『エイド』とついた矢印が表示される。それ以降矢印は動きを見せずに時間だけが経過していった。
「10:05:24、アレイア消失。前後二秒で世界各地のBUGが消失」
全てのマップから矢印が消える。
残されたのはプレイヤー達の矢印だけだった「…と、言う訳じゃ。奴等にとってアレイアとは何らかの価値…もしくは必要性がある可能性もある」
確かに、一斉に引き揚げたのだから少なからず何らかの用途があるのだろう
…何なのかは謎でしかないが
「なぁなぁGサン」
「じーさんいうな」
ポクッと書類を挟んでいた板がDにあたって音を立てる。
「あいつらの居場所、わかってるのかい?わかってなければこの集まりも意味をなさないよ?」
集まった全員が
「そういえば」といった具合に賛同の呟きを漏らす。BUGの大発生とアレイア消失、そちらに気を取られ過ぎていたようで意外と重要なことを忘れていたようだ。
「調査中じゃ」
「なら、どうする?」
Dは詰め寄り、Gはそうじゃの、と顎に手を添える
「少々時間はかかるが、逆探知といこうかの?あれならば今から流せば半日ほどで大まかな概要くらいは掴めよう」
「逆探知用のウィルスを流す気か?」
ザワザワ…と白衣を着た人物達がざわめく。何なのかとクロアが聞く前にTがDに聞いていた
「逆探知用のウィルスって?」
Dはヘラヘラ笑いながら親切に答える
「システムに感染し、そこの情報をこのバカデカイコンピューターで解析してBUGの居場所を探っちゃおう…ってコトさ」
「ちょ、それは不味いわ!」
何人かも賛同した。
楼騎も一言、駄目だ。と否定する
「だってさ…ヘラヘラ」
「やれよ」
感情的に口を突いた言葉が全員の視線を集め、クロアはもう一度同じ言葉を吐き出す。
反対の輪を断ち切る肯定の呟きはまっすぐにDを捉えた。
「…なるほど、だが、いくつか言わなければいけないかな…」
Dはポリポリと頭をかきながら一歩前に出て、クロアに話しかける
「問題点その一、ウィルスであること。プレイヤーデータに感染したら後で訴訟ものだ。
問題点その二、万が一ネットワークに拡散した場合、やっぱり訴訟ものだ。
問題点その三、何らかの方法でバレた場合、最悪『ヴァルハラ』の閉鎖の可能性がある。そうなればアレイアどころの話ではなくなる。焦るとどうなるか分からないからね…」ぐっ…とクロアは押し黙る。『ヴァルハラ』消滅となればアレイアを助けるどころか逆に失うことになる…。手は無いのか?考えども答えは見つからない
「はいはーい!」
「『K』、なんだい?」
栗色の長髪を緩やかに巻いた三編みにした少女が手を上げて発言権を求める。頭につけた先端が緑色の羽根が揺れていた
「そこのクロアを囮にしてみれば?ひょっとしたら何かリアクションがあるかもよ?」
意外とシンプル、かつクロアの同意なしの発言にJが鼻で笑う
「コイツに縁があるのはアレイアだけだ。他のBUGを呼べるとは思えないな」
Kが反論する
「想いは、どんな壁も乗り越えていきます!」
タンッ、と叩かれた机にDは小さく笑う。GもTも何となくニヤリと笑いながらクロアを見つめる
「…何だよ?」
Dは声高らかに叫ぶ。
「『クロアを餌に愛の力で釣っちゃおう』作戦会議を始める。責任はもちろんクロア君が持つよ?…ヘラヘラ」
―俺かよ!
つーか、センスないな…本当に…
クロアが天を仰ぐと、モニターに一度だけノイズが走った。
妙だな…と思いつつ、もう乱れることのない画面から視線を反らした。時間は戻り、一時間程前になる。
針は左回りに、人は後ろ向きに、別の世界の話だ
「…」
二人、暗い空間を歩いていた。
「…エイド、だったわね?」
アレイアは目の前を歩く少年に声をかける。少年は幼い双貌をアレイアに向け、何でしょうか?と聞く
「何故あなたは人の姿を?」
エイドは小さく笑う
「あはは、簡単です」
笑い、目を開け、あまりにも鋭利な瞳に変えてアレイアを凝視する
「アナタがノゾんだかラ」
ピシッ、とひびの入った顔を彼は傷をなぞって綺麗に消した。
「む…まだ安定してませんね、見苦しいものをお見せしてしまい、申し訳ございません」
ちょこんと頭を下げて彼は謝罪する。
アレイアは鋭かった目付きに優しさが戻ってきたのを確認し、内心胸を撫で下ろす
まだ子供とはいえ、あんな目付きは恐い。彼女は自分が人間みたいだなと自嘲気味に笑う
『本当、人間のよう』
頭に叩きつけられるような声がした。
まるで王のような女王の声、聞くものに服従を強いる絶対の力…アレイアはその声に聞き覚えがあった。
「御母様…!」
苦しい。なぜだか胸が潰されそうな苦しさが彼女をさいなむ。何?なんなの?!世界が一転する。
白い、広大な空間…。どこか気品が高い無限遠の部屋に一つだけ、玉座のような背もたれの高い椅子が背を向けて存在していた。
『アレイア…失望しました』
チャリ、という微かな金属音、アレイアは胸の痛みでコンマ数秒反応が遅れた。
地面から、天井から、鎖が彼女に巻き付き縛り上げる
「っ…、御母様!」
『ウィストレア』
ザザザッ、ノイズで世界が乱れて一人の少女を虚空から吐き出した。
その姿はアレイアの幼少期と瓜二つ…違うのはただ三つ。
銀の髪、紅い目、そして、黒い服。
「…お呼びですか?」
少女は幼い声で冷淡な目をしていた。
『神影の儀を行なう』
エイドとウィストレアは深く頭を下げ、その手をゆっくりとアレイアに向ける
ジジジ…と不安定な光球が生じ、アレイアは恐れと鎖で動けないことに叫ぶ
「「『ブレイク』」」
極彩色の光がアレイアを飲み込み、この世のものとは思えない絶叫が無限の部屋にこだました。アレイアにとって、果てしなく長かった一瞬は二人のレベルアップによって終わりを告げる。
「…あー、っ」
「…」
エイドは首を回しながら自分の新しい服を上書きする。
三重のローブ、赤、黒、薄黄の三枚を羽織り、かけた眼鏡をゆっくりと押し上げる…。見た目は十代後半、肩にかかりそうな髪は綺麗に切り揃えられておりなかなかさまになっていた。
「…帰るわ」
銀の長髪を流したウィストレアはノイズと共に消え去る。残されたのは、アレイア、エイド、そして
『儀は終わった。アレイアのBUGとしての…【神影】としての権利の全てをウィストレアに移行させる』
気を失ってぐったりとしているアレイアの隣で先程まで小さかったエイドが了解の意を伝える。
「では、コレは?」
『ウィストレアに一任する。鍵は箱に成り上がり、箱が鍵に成り下がるとは…な』
「…かしこまりました。」
エイドは恭しく頭を下げるとノイズと共に姿を消す。アレイアも鎖ごとノイズに呑まれるように消えた
『…感付いたか』
玉座に座る女性は自らを見上げる少年を見る。彼は見上げた気はないだろう、おそらくはこちらの存在すら気付いてはいないのだろう…。だが、空間も飛び越えるほどに鋭い眼光に彼女は好感を覚え、敵意を覚える。
『オーディスタ』
神の道化が、と呟き…彼女は部屋全体をノイズで覆いつくす。そのノイズが消えたとき、部屋には誰もいなくなっていた…。「クロア、聞いてるかい?」
Dの声にハッとする。今までモニターを見つめていて話を全く聞いていなかった…
「いや、聞いてない」
「…ハッキリ言うな」
Dがあんまりにも簡単に聞いてないと言われてやや困惑気味に呟く。クロアは悪びれもせずに、何だ?と聞く
「…君達の最初の調査地点だよ。ロンドン支部のサーバーだ。ひょっとしたら何かしらの手がかりがあるかもしれないだろう?」
まぁ、そうだろう。クロアはわかったと頷く。
「ならば解散じゃ。」
Gが告げ、そうしゃ、と呼び止める。
「エアリアル、こっちへ」
少女は一人だけGに手招きされて
「うんGさん。…それじゃみんなは先に準備しててね」
ポクッ、と殴られてエアリアルは機械の反対側に連れて行かれる…
「俺らは準備だ。行くぞ」
楼騎が部屋を後にし、双子が続く。クロアも最後に続き、ボソボソ聞こえる会話が気にかかったが…クロアはヨロワが開けている扉をくぐり、中央管理室を後にした中央管理室の機械の後ろでは、GとTとKがアレイアと話していた。
「らしくなかったの?エア」
「そうね…まさかとは思うけど」
「ツンドラですか?キャー」
割と盛り上がる管理者と
「そんなんじゃないわよぅ!…ただ、アイツが意地っ張りだから後押ししてあげただけ」
「ツンデレ」
「うっ…うるさーい!」
Kの鋭いコメントにエアリアルは顔を紅くしながら否定する。
それをからかうTとKはより賑やかに黄色い悲鳴を上げながらエアリアルの反応を楽しんでいた。
「むー」
ついにふてくされたエアリアルはツーンとソッポを向いて二人に顔を合わせない
「あっ無視したわね?」
「エアちゃんひどーい」
やっぱり茶化され、エアリアルはなんか失敗かも…と肩を落とす
「ふむ、私もまだまだ若いが、若さとは良いな」
Gの呟きに三人が固まる。
「…なんじゃ?」
理解できぬ、と三人を見つめるGに
「どこが?」
蛮勇、Kが最大の禁句を口にする。
Gは口元の小じわを引き上げて笑い、
「K、ちょっと来い」
白衣の襟首を持って引き摺っていった。
「わっ…T、助け」
助けを求めた先は
「解散かしらね?」
「皆が待ってるから私は先に行くわよぉ」
手を振ってお別れモードの二人がいた。
「この薄情者ー!」
ズルズルと拉致られながらKが最後に叫んだ言葉はそれであった。
奥の二重扉の部屋につれていかれ、重苦しい音と共に閉じた。一方、クロア達はエントランスで買い物をしていた。
「クロアおにいちゃん!新しいパックが出てるよ!すごい!」
「…『光暗の円舞曲』?変な名前だな」
そんな会話をしながらポイポイとカゴに放りこんでいくヨロワを見ながら最近の子供の財力に内心舌を巻く。
―俺がこれくらいの時は缶ジュースすら買いたくても買えなかったのに…
ほんの少しだけ、羨ましい。
「おにいちゃん」
手を振り、自分を呼ぶヨロワの元へ行く。
紙幣を渡して商品と引き換えた少年はその中の一つを抜き出し、差し出す
「いつもありがとう、あげる!」
物凄い笑顔で、元気よく言った少年の手に握られていたのはカードのパック。一つ150円。
「…いやだった?」
受け取らないクロアを見て、ヨロワはシュンと目を伏せる…。嫌われたとでも思ったのか一度だけ手にしたものを恨めしげに見つめる
―まったく、これだから
クロアはその手から受け取る。
「あー、ありがと…な」
不器用に撫でる。少年は一度だけ嬉しそうに笑った
「…何よ、あれ」
ゴゴゴゴゴ…と燃え盛る嫉妬をその身に宿してノピアはクロアを見つめる
「ヨロワ!離れなさい!病気がうつる…っ!?」
ひょい、と楼騎が持ち上げてノピアをちょっとだけ離れた場所に降ろす
「なにすんの!」
「弟の邪魔してやるな。おまえも弟から離れろ」
ぷう…とふくれた少女に楼騎はやれやれと肩をすくめる。どうやらこの姉の弟離れはまだ先のようだ
楼騎は一度ため息をつく
「お前はいつまでも変わらないな…」
「私たちは二人で一人!ヨロワが傷つけば…私も辛いから…」
楼騎は聞く。
「いつ傷つくんだ?」
「あの子、どう考えても総受けじゃない!」
ひょい、とまた持ち上げる。
「な…何!離しなさい!」
「そういうのは、無しだ。」
ふと、楼騎は廊下を走ってくる音に気付いた。どうやら、最後のメンバーが来たようだ。
「お待たせっ、ごめんね」
エアリアルは四人を見て…何かあったわね、と笑う。
「気にするな。親睦が深まっただけだ。」
楼騎はノピアを放し、楽しげに遊ぶヨロワと、遊ばれているクロアを呼ぶ
「準備はいいか?」
集まった全員が、一斉に手を突き上げ、そして叫んだ。
「「「おーっ!」」」
「あぁ」
…クロアだけ、小さく拳を上げただけだった。
―――――
あとがき
―――――
エア「字数が足りねぇ!(`□´)」
クロア「…もう突っ込まねぇぞ」
エア「ねぇ…足りないよぉ…600字なんかじゃ伝えきれないよぅ…」
クロア「何か知らせることがあったか?」
エア「いや…私の『愚痴』とかねぇ…」
クロア「不許可。」
エア「まったく…汚れ役までしてあげたのにぃ…あなたをそんな人に育てた覚えはないわ!」
クロア「奇遇だな、俺もそんな覚えはない」
エア「アレイアもいなくなって…ようやく『私フラグ』が立つと思ったのに…くすん」
クロア「何だそれ…つーか、アレイアは!」
エア「クロアの嘘つき。ばぁーか!」
―椅子を弾いて、どこかに走り去った
クロア「…なんなんだ?一体」
ノピア「それだから女心のわからないやつは…はぁ」
クロア「ほぅ、お前に女心がわかったのか?意外だな」
ノピア「私は、ちゃんと『女』です!」
クロア「どこがだよ…」
ノピア「昼ドラっぽいところとか!」
クロア「あぁ…それくらいか」
ノピア「な、何よ!変態!」
クロア「違げぇよ」
ノピア「なら何よ…馬鹿、ゴミ、間抜け」
クロア「表出ろ」
ノピア「死ねばいいのよ」
クロア「…」
ノピア「…」
クロア「巡れ」
ノピア「煌めけ