第二十章 たまにはふつうに
PV18049人達成しました!
皆さん、読んでくれて本当にありがとうございますm(__)m嬉しいです。本当に!
18049人ってあれですよ?日本の人口一割よりも遥かに多いんですよ!?(クロア注:おちつけシロツバ)
…うん、おちつく
(18049…めんどいから一万八千の画面の向こうのお前、よくついてきてるな)
本当に…こんな、わかりにくい作品を…(感涙)
(だな…。さて、そういうわけだ。謝辞は昔やったから終りだ)
そんなっ( ̄□ ̄;)!!
(さっさと本編書きやがれ、スズメが)
白燕だぁぁぁぁ!
(書けない鳥はただの鳥だ)
それ以外あんのかよ
(…)
…
(本編、長くないか?)
気合い入れて休みなしの20000over書いてみました(・ω・)
(…本編、いくか)
では、お楽しみください〜
やっぱ長かったかなぁ?
(知るか!)
塗り潰されたような闇の中に暫し漂う。全員指一つ動かさないで数秒…ひょっとしたら数分かもしれない時間を過ごす…
暗闇の中に次第にポウッと光が現れはじめて何も見えなかった世界が照らし出される。全員の顔が見えてきて数秒程待つと空間の、閉じたのとは反対側の亀裂が口を開ける
「もうちょっとまちます」
一番ちまい少年が一向に伝える。そういえばコイツは一度これを経験してたな、と未だにアレイアの下敷きになっているクロアは思った。
光は徐々に内部に満ちていき、やや眩しさを感じてきたとき、ヨロワが言う
「でます」
「そこのクロア拾っておいてね」
やや生意気な姉がそう付け加えて、ぴょん、と亀裂から飛び出す
「あらあら、仕方ないですね」
「運ぶか。起きれるか?クロア」
「悪い、無理だ。どかしてくれ」
「女の敵…」
ギリッ…と爪を噛む音が聞こえたような気がする。
だが、エアリアルと若草がアレイアを持ち上げて楼騎がクロアを立ち上がらせる。軽く服の埃を払ってからアレイアを背負った若草を見る
「…お気になさらず。私を『ヴァルハラ』に連れてきたのですからそれなりには叱られるでしょうが、ひどくはないと思いますよ」
「…そうか」
どうぞ、と亀裂を指差されてクロアは先頭に立つ。次いで楼騎とエアリアル。最後に若草。
「行くぞ」
「あぁ。」
「おかえり!」
「久々ですね」
「すぴー」
五人は光が漏れ出す穴に飛び込んだ。光が消えて、世界が色付いて見える。青い空、白い雲、赤茶けた大地は様相を変えてクロア達を迎えた。
「おそいよー」
「まったく、遅いと嫌われるわよ」
―何にだよ。そうツッコミを入れたいところだが
「ヘラヘラ、生きて帰ってきたよ」
「ちょっとD!たまには笑わないで話せないの?」
「ふん、帰って来やがったか」
D、T、Jの三人と
「本部の者も良く働いた。今日は休むと良い」
亀裂から現れたGが声を揃える
「ヘラヘラ、おかえり」
「おかえりなさい!」
「ふん。」
「よくぞ帰った」
…割と揃っていなかった
だが、今帰って来たクロア、エアリアル、楼騎、ノピア、ヨロワの面々は小さく笑う。
そして
「ただいまっ!」
「ただいま」
「帰ったぞ」
「たっだいま〜」
後ろから順に叫び、視線が何も言わないクロアに集中する。
「…ったく、ガキかよ」
そんな事を言ったあと、自分を見つめるキラキラとした目が訴えているのを感じる。
―ただいまは?
クロアは思わず後ずさる。なんでこうにも子供は直球で目で語るのだろうか…。
クロアは自身の中で葛藤しながらも少しだけ、優しすぎる人格が勝つ
「た…ただい…ま」
ニヤッ、と全員が笑う
「おかえりなさい」
「おかえり!」
「フッ…素直だな。」
「おかえりなさい!」
「おかえり…だな。ヘラヘラ」
「おかえり!クロア!みんなも!」
「帰って来なければよかったんだがな」
「無事帰還、後で一杯やるかの」
七人七色の歓迎が帰って来た。
たまにはこんなことも悪くないか、クロアは心の片隅でそう思った。いつの間にか閉じた亀裂の前で若干の雑談が生じたところで職員と思われるキャラクターが現れて、Gに耳打ちする
「…承知した。」
軽く一礼してログアウトしたキャラクターを一同は不審に見つめる
「準備が終わったようじゃ。皆、ログアウトするのじゃ」
その言葉にうなずいてから、幼い双子、エアリアルの順で世界から離脱していく。
「先に行く。またな」
簡単にそう言ってから楼騎もまたログアウトする。
クロアはログアウトしようとして、今はイリーガルな存在となった若草とアレイアを見る
「心配ありません。いざとなれば逃げおおせますから」
ニコリ、と微笑んだ若草はただでさえ細い目をさらに細くして
「行きなさい」、とメッセージを送る
「安心せい。儂とて優秀な人材を消すような愚行はせんよ。そして、あんなに幸せそうな女子にも…な」
クロアは少しだけ言葉の真意を探ったが、確かにそれ以上の意味はないと判断して、久々に自分の体に帰るとする。自分の体から離れてから色々なことがあったな…と思いつつ、すうっ…と遠退く意識に全てを委ねたガコン!という聞き慣れた音と共に光が視界を満たす。人工的な証明に照らされた部屋の中に設置された椅子のような端末に、何人もの人が座っていた。
ガコガコガコン!というやや耳障りな音を聞きながら全員がログアウトするのを待つ
「ふぅ…っ。疲れたぁ〜」
「それより、俺らの体はどうしてこんなところにあるんだ?」
黒いハイネックのニットシャツを着た少女と、紺色の―現実世界でも大差ない―和装を纏った青年が目を覚まして呟く
「うむ。嶺が届けてくれたそうじゃ。あやつは稀に見るお人好しじゃな」
クックックと笑う、最近小じわが目立つGはピョコン、と飛び出した双子に話しかける
「気分はどうじゃ?」
幼い双子は無邪気に笑いながら元気なのをアピールする。
「ふわぁ〜ぅ」
「…」
大きなあくびを、目に涙を溜めながら終えたエアリアルは隣で驚いている楼騎に時間を訪ねる。
彼は質素な腕時計で既に真夜中なのを知らせる
「うぅ…どうりで眠いわけだぁ…」
また出そうになるあくびを噛み殺しながらエアリアルはもう寝る、と伝える
それにGも同調したのでここは一時解散となる。子供を遅くまで起こしておくのも問題なので誰も異論は挟まない。
「今夜は休むといいよ。あと、変な服のクロア」
「んだとコラ!」
「君の自宅に行って着替えを拝借しましたよ。あと、探しに行った職員がベッドの下のあんな本を…」
「そんな本はねぇよ」
ヘラヘラとそうだね、と頷いたDを一発殴ろうかと思ったが…やめておく
「いやぁ、元気だねぇ」
―あぁ…。殴っておくか
ゴスッ、あいたっ。と聞こえて
「では、解散。」
Gの号令で各自、自分の部屋を目指してあまり広くない部屋を後にする…カツコツと足音が響く金属質の廊下を歩きながら、未だに横縞模様の服のままのクロアは小さくあくびする。
時間はすでに深夜、眠気はあまりないのだが体内時計が無理矢理にでも寝かせようと睡魔を呼び出している。クロアは二回目のあくびを噛み殺しながら一緒に部屋を出てきた楼騎に話しかける
「…どうしてお前が助けに来たんだ?最初はあんま…というより完全に敵対してたよな?」
楼騎はそうだな、と頷く
「確かに、お前の力は異端だ。能力を打ち消す、能力に対する能力なんて見たことないが…」
少しだけ躊躇うように言葉を切った楼騎は、少しだけ諭すように、少しだけ決意したように、少しだけ恥ずかしそうに言う
「『力の使い方は使い手次第』だからな。お前は、世界を壊そうとするほどバカじゃなさそうだからな」
フッ…、と小さく笑い、柄でもないなと楼騎は自嘲する
「まぁ、今日は寝ろ。何なら明日手合わせしてやる」
そう言って彼は一見すると壁と大差ない色合いの扉を開き、中に消える。
―そこ、お前の部屋だったのか
考えてもいなかったクロアは少しだけ驚いて、蛍光灯が照らす廊下に足音を再び響かせ始める。部屋はもうすぐ。今夜はゆっくり寝るとしよう…彼は自分の部屋の前でそう思った―朝―
ちゅんちゅん、チチチチチ…とどこか平和で、やや耳障りな小鳥の声で目を醒ます。
薄暗い部屋の中に明るい太陽の日差しが一筋の線となってあまり大きくない窓からの明かりを目立たせる
クロアはいつの間にか寝入ってしまったベッドの布団を剥ぎ取りあくびを噛み殺しながら小さな洋箪笥を開く
―ったく、どうやって調べたんだ?
クロア自前の服がぎっしりと詰め込まれた箪笥にやや不審な目を向けながら適当に見繕って羽織る。
白と黒と灰色のワイシャツに、似たような色のシャツを着込む。黒いジーンズのような形の、やや肌触りのいい生地を用いたパンツを履き、ベルトにチェーンでアクセントを添える。
小さな鏡を見て、箪笥の小物入れを探すとやはり自前のブレスレットを取り出してはめる
「こんなもんか」
少し過激すぎる気がするが、まぁ横縞の服を着させられた腹いせとして若干攻撃的な格好でいよう、と小さく思う。
コンコン、とノックされた扉を開きクロアは部屋を出た廊下に出ると、今日も変わらない服装のエアリアルに出くわす。おはよー、と言われてクロアは手を上げて答える
「早いね、びっくり」
「お前とは違うからな」
「あ、ひどいよぅ」
スタスタとクロアは歩き始める。それを追いかけるようにエアリアルはやや小走りでついてくる
「私服、黒いねー、ダーク系?」
「さぁな、好みだ」
「でも『クロア』は青いよね?なんで?」
「さぁな、気分だ」
「むぅ…冷たい」
「さぁな、性格だ」
静かな廊下に、それなりに響く音量で二人は会話しながら進む。時折笑いながら、時折冷たくあしらいながら二人は食堂前まで朝から元気に会話していたキィ…、と小さく鳴る金属の扉を開けて食堂へと足を踏み入れる
「早いな。意外と」
既に机と椅子を確保していた楼騎が挨拶がわりに茶化している
「でしょー?ちゃんと早起きしました。」
「まぁ、俺に朝部屋をノックするように電話したのはどこの誰か…、ってのは不問にしといてやろうか」
ギクリ、としたエアリアルを前に楼騎は二人に先に朝食をとってくるように促す
「今日のメニューは『焼き魚のモーニング』と『フレンチトースト』の二種類だ」
「了解ー」
楼騎の親切な事前情報のお陰で二人はさほど悩まずにカウンターに並ぶ目の前に並んでいた白衣の研究員と、少し物足りなかったのかサイドメニューの追加に来た緑と白の制服の職員がいなくなるとクロア達の順番が回ってきた。
「…フレンチトースト」
クロアは少しだけ焼き魚が気になったが、消化しやすいフレンチトーストを選ぶ
「私もフレンチ。…それから…」
うーん…と悩むエアリアルに何かあるのかと聞く
「バニラアイス…いや、チョコアイス…それともストロベリーアイス…でもカロリーが…」
「すいません。コイツ後回しに。」
親指で自分のよこにいる悩める乙女を指差してクロアは自分の食事だけを先に受け取り、席に戻る。
黄色に、柔らかく浸された食パンが食欲をそそる朝の料理。皿の脇に少しだけ生クリームが添えてあるあたり、ここの料理人は心得ている。
さらに、小さなコーヒークリーム用の器には茶褐色のメープルシロップが満たされておりクロアは小さく喜びの声を上げる
「ご機嫌だな」
ニヤニヤと笑う楼騎にうるさいと言いつつナイフで器用に生クリームを掬ってフレンチトーストにのせる。熱でほんの少し溶けたときにメープルシロップをかける…
「ねー、クロアー」
遠くから呼ばれてやや不機嫌に振り返る
「のせるアイス何がいいと思う?」
「何もいらない。」
スッパリと言い切ってクロアはフレンチトーストにフォークを突き刺して口の中に放り込むじんわりとメープルの風味が口の中に広がり、少しばかり幸せな気分になる
甘味はいいな…とか思いつつ、いつの間にか『焼き魚のモーニング』を手に入れた楼騎がニヤニヤとこちらを見つめている
「何だよ」
「いや、あんまりにも幸せそうにしてるから…な」
「幸せじゃないもん」
ガタン。と乱暴に椅子を引いてエアリアルが着席する。その手にはフレンチトーストの器と、クロアにはなかった底が深めの椀型の器が乗っていた。
「クロア…そんなんじゃアレイアにも嫌われちゃうよ?」
「いや、そんな関係じゃないんだが…」
「じゃあ何よ」
「…世話のやける、妹?ってとこか」
ピシャァァァァン、と雷にでも打たれたかのような表情でエアリアルは固まる。なんだ?
「妹萌えかぁ…」
「寝惚けんな」
やはり、ニヤニヤと楼騎は眺めていたが、もはや何も言う気にはなれずクロアは次のトーストを口にする
「なら、私も」
深い器から三色のアイスをスプーンで掬ってフレンチトーストにのせる。結局、迷ったもの全てを持ってきたらしい。
本当に女は良く分からない、とクロアは思った。カチャリカチャリとナイフが皿に触れて、フォークが皿に刺さる二つの音が賑やかに食堂に溢れる…。音から察するに大半がフレンチトーストを食べているようで、目の前の焼き魚のモーニング―焼きジャケと海苔と味噌汁と白米の超典型的ともいえる和食スタイル―は少数派らしい。
そんな少ないうちの一人、楼騎はオレンジのような色の魚の骨を回避しつつ丁寧に食べていく
「上手いな…俺はその骨が嫌いなんだが」
「なに。何年も食べ続ければ嫌でも上手くなる。」
ぱくり、と食べたシャケを飲み込んで楼騎は今日の簡単な予定を説明する
「これから模擬戦を行い、その後に第三試合に全員エントリーする。たまには友達と遊んでこい」ズズズ…と湯気の立つ緑茶を飲んで楼騎は、どうだ?と見回す
「私は構わないわよー、たまには気分転換にいいしね」
クロアも小さく頷く
「わかった。また後で会おう」
既に食べ終えた二人はゆっくりと白米を食べている楼騎を置いて席を立つ
「相席、いいですか?」
クロアの知らない女性職員が聞いてきて、エアリアルが代わりに返答する
「いいですよ」
「エアリアルさん…」
なんだかジーンとしている職員の後ろにももう一人いて、何も言わずに見つめてくる
「どうぞ」
素っ気ない言葉に、
「…どうも」
素っ気ない言葉が返される
「さてっ、準備しないと。また後でね!」
「あぁ…わかった」
スタスタと歩き去るエアリアルを男女問わず沢山の視線が追いかけるのに気付き、出ていった後には、じとりとその視線が恨みがましくクロアに注がれる
むっ…としたがここは大人しく食堂を後にする
何故か恨みがましい視線が増えた気がするが…。そのまま振り返らずに微妙に開きにくく錆びている扉を開き、廊下へと移動したさて、と廊下で簡単な予定を頭に描き出す。少しだけ時間が早いがエントランス付近にいるのが効率的だと判断し、のんびりと歩き始める
最初のバグチェックを兼ねた模擬戦の開始まで三十分とかなりの余裕があるのでゆっくり歩く
―それでもエントランスまで十分かからなかった
やれやれ、と思いつつ暇なので準備中の売店を覗いてみる
―シールド100円
―無銘『短剣』50円
―再録パック150円
等のポップが並び、その後ろでは
―限定版!在庫限り!
―期間限定セール中
―センター限定パック抽選券配布中
などのポップが追加されようとしていた。クロアは苦笑いしながら日本人の限定への弱さを嘆く
「邪魔ですよ」
「悪ぃ」
後ろから台車を押してきた職員に道を譲り、クロアはガラスで覆われた天井を見上げる最初に見上げたのはいつだったか…
クロアはほとんど『ヴァルハラ』にはいなかった。通常のキャラクターとは違う『2』を持つツバインとしてもそれはどうかと思う
「まだほとんどやったことないんだな…『ヴァルハラ』」
そんなふうに呟いてクロアは広いエントランスを一瞥して試合場に向かう。今いる場所から直結しているので時間などかからない
クロアは部屋を仕切る扉を開き、今は観客のいない部屋に入る部屋はまだ完全に目覚めてはいない。何割かしか点灯していない照明を見ながらクロアはステージへと歩いていく
「もう少しで模擬戦です。どうぞ、席について下さい」
気弱そうな職員が声をかけてきてクロアはおとなしく、別段することもないので彼に『クロア』のカードを渡して認証させる
「『クロア』、認証しました」
返されたカードを手にしてクロアは配線がむき出しの舞台裏を抜けて華やかなステージに立つ。
眺めは遠く、また清々しい。高所にいるのはまるで全てを見通すような気持ちにさせられる
クロアは端末に座り、時間になるのを待つ…。
他のメンバーは数分程度で揃い、定刻で模擬戦が開始されたそして、定刻で終わった。
前回のルイエスのようなイリーガルではなく正常業務ならばさしたる時間もかからないらしい
中でやったのはと言うと、パネル移動や若干特殊な行動、同時に実行した場合、などの動作チェックや呪符・操符・装符の動作やバグチェックだ。
それらじたいは日々繰り返されているので驚くほど短時間で終了する
ガコン!と現実世界に帰還したクロアは
「つまらないな」
そう感想をもらした
「ねー、ルイエスも物好きだよね」
同じく『ヴァルハラ』から帰還したエアリアルも相づちを打つ
「さてっ、本番への準備しますかぁ〜」
「本番への…ってなんだ?」
「ふふふ、秘密」
「なんなんだよ」
一回伸びをしてからエアリアルは階段を降りていく。クロアも一拍おいてから降りようとして、今度は自分に視線が集まるのを感じる
「何だよ」
ざわっ、とたいして多くもない職員がざわめいて何人かはヒソヒソと話し合っている
「みんな、気にしてるんだよ」
よう、と相変わらずの笑いを浮かべながらDが扉から入ってくる。何人かは挨拶をして、何人かはさらにお辞儀もする
「エアリアルは最近まであんな風じゃなかった。もっと冷たい、かつては『氷炎』の称号を獲たほどに無感情な奴だった」
そこで一旦言葉を切り、あちこちで同意の頷きが見受けられたのを把握してからDはさらに続ける
「なぁクロア『女子は変わる』って言葉を知ってるかい?」
「さぁな。興味ない」
そう言ったら、何人かは
「ふっ…」と笑った。女性職員が多い気がした。
「知らないか…なら、考えるといいよ」
ヘラヘラと笑いながら後ろ手に手を振って彼は試合場から出ていく…。まさか、あれを言うために出てきたのか?と考えるが答えは知ることができない
なんなんだ…と思いつつも本来の目的である移動を再開する階下へ降り、試合場からエントランスヘと出る。開館時間まで15分、クロアは館内放送にしたがって撤収する職員達と共にスタッフエリアへと引き揚げた15分後、きっちり計ったように施設内に活気が巻き起こる。
「さぁ、本日の第一試合!エントリーはこちら!」
アナウンス兼司会は今日は女性のようだ。クロアは試合場から漏れ聞こえる声にどことなく懐かしさを感じる
思えば、つい最近あの場所で進んだ技術を見せつけられ、感動したのだが…
「もう当たり前、か」
小さく、呟いて彼はエントランスヘと出る。第三試合までにアイツに話をつけないと面倒な事になりそうだ…案外、早く見つかった。
「おっと!ガルトの反撃が決まったー!」
司会の叫びに観衆が白熱する。いつもの、いつも通りの光景にクロアは少しだけ気分が高揚する
「おっと、危ない!ジェイミーの罠だ」
「やっちまえガルト!」
「負けんなジェイミー!」
わいわいと会場を二分して盛り上がる両陣営は賑やかに叫ぶ
「本当に…」
…すげぇな。そう言ったはずなのだがその声は大歓声に掻き消されてしまった
ガコン!と最後に残ったプレイヤーが機械から解き放たれて天へと拳を掲げる
「四十連勝っ!」
ああ、まだ連勝してたのか。なんて思ったがまわりはかなりの大音量で歓声を上げる
ガルトの名が連呼されたりしていたが…
「ふん」
一瞬、人混みの中に白い服が見えた気がした。
「…ルイエスか?」
まさかな、と見回そうとしたのをやめて壇上を見上げる。調子に乗ったガルトが盛り上がっている観客を煽って遊んでいる
「ガルト!」
「ガルたん!」
…なんか同時に避けんだ奴がいた「次の試合、始まらないでしょ?降りなさい!」
エアリアルが威風堂々と、なんとなく威厳に満ち溢れたオーラを纏って階段を上がってくる
「おっ、エアリアルか。久々だな」
「ガル!降りなさい」
「いや、もうちょい…」
「降りなさい?」
スッ…とエアリアルの全てが殺意に変わるのがわかり、会場が静まりかえる…
誰も声を出さず、出せない。
これも上級ランカーの実力だろうか?
「あー、悪ぃ。」
「いいえ、許さない!」
ふと、エアリアルがこちらをむいて片目を閉じる。人混みの中にいたのにそう見えたのは…偶然か?
「…第三試合、チーム限定バトルで勝負を挑むわ。最低二人で来なさい」
金髪を振り乱して肩から払うと彼女はまた威圧のオーラを放ちながら階下へと降りていく
その姿に男女問わず嘆息が漏れる
「カッコイイ…」とか
「マジヤベェ…」とかも聞き取れた「…怖いな。」
「うぉ!?」
何故か、いつの間にか隣にいた楼騎が感想を漏らしあまりにも唐突な登場にクロアは心臓に悪い程度に驚く
「何でここにいる…っていうか、何時からここにいる」
「少し前だ。なに、気にするな」
スタスタと去っていく背中を追おうとしたとき、周囲の観客が楼騎に気付いて揉みくちゃに殺到したので断念せざるをえなかった…。どうせ、あいつはあの中にはいないのだから
「ちっ…なんなんだよ」
クロアは悪態をつきながら部屋外に逃げ延びて親友の姿を探すエントランスは試合が終わり、会場から出ていく観客と今から入ろうとする観客達で混沌としていた。
「ちっ…多いな」
舌打ちしながら周囲を見回すと、柱と柱のスキマで携帯端末を操作している親友を見つける。何やら何回かため息をついていた
「よう、相棒」
クロアが声をかけると、ガルトは非常に驚いた風に顔を上げる
「なっ…クロア!お前最近どうしてたんだよ!」
「あー、色々あってな」
流石のガルトにもツバインやBUG、『ミッドガルド』の一件は言えないだろう
「まっ気にすんな」
「気になるんだかな?すごく」
倒置法を用いられてもさすがに言えないので無理矢理にでも話を進めることにする
「さっきエアリアルから宣戦布告されてたな、受けるんだろ?」
ガルトは、うっ…とうめいて少しだけ悩む表情を浮かべる
「悪い、お前じゃ手におえない」
「参加してやるよ」
ガルトの話を無視してクロアは受付に歩き出す
「ちょっと待て!なに即決してんだ」
まぁ、当然の反論を受けてクロアは足を止める。
「俺も強くなったんだ。いいだろ?」
「いや、なんで決定してんだよ…」ガルトはクロアの肩を掴んで引き戻す。
無理矢理振り向かされて肩に痛みが走る
「お前じゃ無理だ!」
クロアは少しだけ目を背ける
「なぁ…ガルト…」
小さく呟く。まるで、落胆したような演技でだ
「寝言は寝て言え!」
全力で殴り付ける。不意打ちがまともに入ったのかガルトはその勢いでふっとぶ
「ウジウジうっせぇな!俺は、アイツとやりあえる!
…アイツは、俺を見たんだ。だから」
「寝言はテメェだ!」
ガルトが全体重を乗せた一撃を見舞う。クロアも吹っ飛ばされて壁にぶつかる
「戦場でお前を守れるほどアイツは緩くない!奴は、氷炎だ!」
「黙れっ!俺は守られない。ダメなら見捨てろ!ついでに、アイツは氷炎なんかじゃない!エアリアルだ!」
二人の叫びに多くの人が反応し、中には職員を呼ぶものが現れた。
…どうやら、相棒も気付いたらしい。
「どうしました?」
「喧嘩です!喧嘩!」
予想以上に早く来た…。こうなれば…
「喧嘩ですか?」
冷静な緑の制服を着た職員の質問に
「違う!」
「違うな」
全く同時に否定した二人に職員は当然の質問をする。
「じゃぁ何です?」
「「演劇」」
同時に言って、同時に思う。
―いくらなんでもそりゃないだろう
だが言ってしまった言葉は戻せない。覆水盆にかえらずとは言うが言葉は口に戻らずと言ったところだろう
「…、そうですか」
職員は少し疑いながらもそれ以上は追求しなかった。どうやら騒ぎを大きくしたくないらしい
よくあるパターンだ。クロアは安堵する
職員はジッと二人を見てから少し人混みが落ち着いた受け付け側へと歩き去る職員が見えなくなると
「ヤベェ、しょっぴかれるかと思ったぜ」
「ヤバかったな」
二人は脱力して感想を漏らす
「クッソ…もうすぐ時間じゃねえか…」
時計を見て、ガルトは第三試合の受け付け終了が間近なのに気付いて悪態をつく。
「メンバーがいないと不戦敗だな」
クロアの追い討ちで、相棒は屈する
「わかった。お前も参加しろ。でも守るのは保証出来ない。いいか?」
「いいぜ、元よりその気だ」
ニヤリ、と笑ったクロアは受付へと向かい既に秒読みになっていた第三試合の受付を済ます。
―1stガルト
―2ndクロア
他のチームは何人組だろうかと苦笑しながら、クロアは相棒を呼びエントリー完了を知らせる
「よし。試合場に行くか」
受付をした方が頷いて、二人は歓声の響く大きな部屋に移動する隣の部屋では、前の試合が終わったところだった。大歓声は敵全てを切り伏せた人物への賛辞として贈られる
「さぁっ!次は注目の第三試合!上級ランカー、エアリアルと同じく上級ランカー、ガルトのチーム戦だぁっ!
二人のチームメンバーも注目だぞ」
おぉ〜、とどよめく会場に二人は入場する
ステージ下の職員に自分のカードを提示する
「『ガルト』、『クロア』チーム認証しました。神々の加護のあらんことを」
職員からカードを受け取り、二人は既に退場の終わっているステージに上がる
「『エアリアル』、『メリアル』、『マリア・フィオーレ』チーム認証しました。戦乙女に加護のあらんことを」
階下からもう一つのチームの受付が聞こえる。エアリアルのチームも準備は万端のようだ。クロアは少しだけ緊張して拳を握りしめる
「怖いのか?」
クックック、とガルトは笑うが
「武者震いだ」
クロアは淡々と返して席の前に立つ。「さあっ!みんな座って!」
司会に促されて五人は椅子のような端末に座る。機械は頭を軽く締め付け、意識を『ヴァルハラ』へと移行させる世界が下から上へと形成されていく。なにもない空間にただ浮かんで青碧のコートを風に遊ばせながらクロアは世界創世を見つめる
生まれた世界は、『遺跡』タンッ、と二人分の足音がして着地する
「『エリア:遺跡』か…隠れやすいな」
「さて、やるか」
二人は周囲を観察する…。
場所は『開けた森』といったところ。少し草の背丈が高いが隠れるのには最適だろう…。
そして、開けた森の中心部に白い巨大な石造物体が存在した。これが恐らく『遺跡』だろう。近付いて観察すると大理石で外壁が作られているのがわかった。
「外壁が大理石か…、中もそうだといいな」
クックック、と笑いながらガルトは一度背後を確認して一番近くにある石の壁に移動する。
遺跡の一部がかけていることから遺跡から剥離したものと推測、同時に一応崩れてこなさそうなのも確認できた。
「作戦会議といくか、クロア」
小さく頷きを返してクロアはガルトの隣に腰を下ろしたガルトは適当に落ちている木の枝を拾って巨大な四角を描く。そして、中に小さな四角を書きさらにそれよりも小さい四角を描く。
間隔はバラバラだがおおよその見当がついた
「地図か?」
「マップって言え」
どっちも同じだろ…と思いつつもクロアは先を促す
「大きな四角がエリア領域…、取りあえず先に進める範囲だ。次の四角は森の終端。大きな四角との幅が森の広さだ」
そう言って意外と狭いスキマをグリグリと塗り潰す
「そして、最後の四角が遺跡の大まかな図だ。実際は他に地下遺跡もあるがこっちは複雑すぎて迷う。だから、地上を戦闘の中心にする」
「わかった」
クロアは大理石の壁から顔を出して周囲を確認する…。どうやらまだエアリアル達は来ていないらしい
「少し周囲を見たいんだが、いいか?」
「見つかるなよ?」
わかってるさ、と答えてクロアは空間からカードを一枚引く。
カードは無銘『長剣』。灰色のナイトソードで特にこれと言った装飾や能力はない
代わりに何のデメリットも無いのが唯一のメリットなのだろう
クロアは低く剣を構えながら用心深く茂みに姿を同化させる…
ゆっくりと、だが歩くよりも早く、猫のように足音をさせないように慎重に偵察をするさらに少し歩いていたとき、話し声が微かに聞こえた。
聞き耳を立てるが…距離が遠すぎて詳しくは聞き取れない
イントネーションの高い音が途切れ途切れに聞こえているような感じだ。
クロアは近寄るかどうかを迷い…一時戻ることに決める。もしここで見つかったりしようものならば…
―なぶり殺しもいいとこだ
ゆっくりと、間違っても小枝を踏んでバレるなんてことをしないように後退する。ゆっくりと、ゆっくりと
「ふぅーん、じゃあマリアさんは久々なんだ」
「はい…、半年ぶりに参戦です」
…声が近づいてきている
クロアは進路を変えようかと迷ったが、見つかればやはり勝ち目はない。少し速度をあげる
「私は一年半くらいかしら?最後に戦った相手は…嶺かしらね?」
「わたしは…よくわかんないモンスターをあいてにしてました」
「イベントのあれね、懐かしいわねぇ…」
着実に近付いてきている。なのに姿が確認できない
―どこにいる?
クロアは茂みから抜けて振り返る。近くにいる。そう伝えようとして
「あ、クロアだ」
「エアがご執心の彼?」
「はじめまして」
赤いフリルまみれの服を着た金髪のエアリアルと、
白いワンピースの滑らかな長い黒髪をもつ少女と、
まだ小学生かと思われる上等な生地の動きやすい半袖に半ズボン、その上にややサイズの大きいベストを羽織った短い黒髪の少女がにこやかに挨拶して
「離脱する!走れ!」
大理石の壁に隠れていたガルトが叫んだのはほぼ同時だったガサリ、と足下の草を踏みしめてガルトはクロアの方へと走り出す。一瞬呆気にとられたがすぐに後に続いて包囲を脱する。
「逃げた!」
エアリアルの叫びに黒髪長髪の少女が、わかった!と返事する。
「『水晶』」
使用を宣言されたカードから綺麗な六方水晶体が飛び出し、それを手に収める。パキリと音がして彼女の手に突然武器が出現する
「『水晶の大鎌』」
名前の通り、水晶のように透けている鎌は美しく太陽光を集約して拡散させるようにして輝く
鎌には純白の飾り布が刃と反対側に穴を開けて結ばれており、希薄な存在感の鎌に圧倒的な存在感を与えている
むしろ飾り布に目が行ってしまう。
「『水壁』!」
地面から分厚い水流が横に広く展開される。水の壁は鎌を弾きクロアを守る。
「退くぞ作戦変更だ!」
「…わかった」
二人は少し薄くなった壁を見る。どうやらあまり時間はなさそうだ。
クロアは反対側から壁をつつく少女を見て、後ろへと走り出した
「逃げちゃったね」
鎌を手にした少女が残念そうに呟く
「いいわよ、メリアル。そんなに早まらなくても」
「なんだか嬉しそうですね…エア」
くすり、と笑って短髪の少女が笑う。柔らかな髪が揺れた
「マリア、人生楽しんだ方が勝ちよ」
「悪役のセリフですね」
にこやかに言い放った少女は笑い、大分弱まった水壁に手をのせて二言三言呟やいた。
すると光がふわりと舞い上がり、水壁が消え去る
「解呪完了です…」
どことなく誇らしげに胸を張ったマリアに二人分の賛辞が届く
「さてとっ、いきますよぉ〜」
「はいはい」
「クマちゃん出すまで待ってください…」
マリアがぽいとカードを投げて空中にクマのぬいぐるみを出現させる。
重力に引かれてポスンとマリアの腕の中に収まり小柄な見た目以上の幼さを際立たせる。茶色い体毛のクマは手をパタパタと動かされてはしゃいでいるように見える
「本気なんだ…」
「なにがですか?」
くすり、とマリアが笑ってクマの手を二人が逃げた方向に向けて呟く
「『てきはあっちです』」
器用に頭まで動かしたマリアはサクサクと草のなかを進みはじめて
「相変わらずねぇ…マリアは」
「変わらないわね…」
二人は短い会話をしてからそのあとに続いたガサガサと草を掻き分けて二人の人影が遺跡の外壁沿いに新しい道をうみ出していた。
「ちっ…リスペルしやがったか…」
ガルトが舌打ちして、最初に見た遺跡よりも一回り小さい遺跡の前で立ち止まる。
「今から奴らを正面から倒すのは正直無理だ。だから、一旦体勢を建て直す」
あの中でな、と指差してガルトは長さにしたら四メートル程度の石段を登る。その先にはぽっかりと遺跡が口を開けて待ち構えている
「中は複雑なんだろう?大丈夫か?」
「こっちの遺跡は地下ほど複雑じゃない…ついでに道幅も鎌を振るうのには狭すぎる」
良いことづくめだ。と言って、やや小さな遺跡の中に逃げ込んだ暗い。第一印象はそれだ。
内部は光などなく、薄暗い通路が分岐しながら続いている…
壁には電線が後から取り付けられておりスイッチさえつければ奥まで明かりが点灯する仕掛けらしい
「スイッチ押すなよ…。ここらへんか」
ガルトは髪の毛を数本抜き取り、床にばらまく
「何やってんだ」
聞くとガルトは簡潔に
「罠だ」と答える。
「まぁ見てな…奥へ行くぞ」
クロアは長い剣を背負うようにして移動しやすくすると走り始める
「壁を傷つけるなよ、しばらく気をつけな」
たったかと複雑に分岐を繰り返す通路を迷いなく選択しながら奥へ奥へと突き進む。暗い遺跡はさらに光を失い、より深い濃密な闇に包まれる
「さて、ここらへんか」
ガルトはカードを引き抜いて、武器を解放した。
「『青竜刀』」
パチン!と電気が一瞬だけ点灯してすぐに消える。空豆のような不思議な剣を手にしたガルトは
「来たな…」
と笑った入口にいた三人はまず最初に落ちていた毛髪に気付いていた。
「ねぇ、エア。これ二人のだよね?」
しゃがんだメリアルの隣でエアリアルもしゃがみ、観察する
「暗くて見にくいわね…」
「…えいっ」
パチッと何かの音がした。
エアリアルは突然明るくなった手元で落ちていた毛髪を調べる…
「ってマリアストップ!スイッチ切って!」
「…暗いと目が悪くなりますよ?」
「違うわ!来たのがバレた!」
あっ…と納得したマリアの横にある妙に安っぽいON/OFFスイッチを切る。
電気が消えて遺跡を再び闇が包み込む
一度光に慣れた目は闇をより深く見せ、エアリアルは一歩だけ後退る
「さて、行くわよ」
三人は武器(一人だけクマ)を握りしめて暗闇が支配する迷宮へと乗り込んだ一方、闇の中でたたずんでいた二人は
「よし、罠二号…完成!」
「只の鳴子だな」
ジャラジャラと鳴る木の罠を仕掛けたガルトは耳を澄ませて敵との距離をはかる…
―遠いな
小さく呟く。
いくら規模は小さめとは言っても中は迷路のようにいりくんだ迷宮、完全にマッピングできているものは少ない…
だから迷ったならばこちらから出向かなければならないのだが…どうすっかな…
うむぅ…と考え込む相棒を見ながら、この逃げ一方の試合にクロアは苛立っていた。ただでさえエアリアルがセッティングした試合だ。何があっても逃げるのは許さない…
「…」
二人して黙りこみ、沈黙が訪れる
暗いだけの迷宮にカランコロンと音が響き、少女のような高い声が反響しながらクロアの耳に届いた。
「嘘だろ?早ぇな!」
「ガルト…しっかりしろよ」
二人は並んで武器を構える「やっぱり、ツバインは存在感が違うわねー」
暗闇からエアリアルの声が聞こえる。
「本当に?でもツバインって誰?」
メリアルの声が続く
「いいじゃないですか…ほら」
紅い光が闇を切り裂いた。
「狩りの時間です」
マリアの声が一際冷たく響いた。
ガルトは静かに構えを変えてクロアの前に飛び出す。
キィン…と残響を残して竜の紋が描かれた剣と透明な何かがぶつかり、刺すような緊迫した空気が流れる
「くっ!」
苦し紛れに突き出した長剣を
「させない!」
突如暗闇に燃え上がった炎が向きを変えさせる。ジャリッと砂を踏む音、返される一閃。髪の毛をすこし斬られながらもクロアは半歩下がって攻撃を回避する唯一の光源であるレイピアが静かに心臓の高さに合わせられ、エアリアルが構えたまま話しかける
「さぁクロア、どれだけ強くなったか見せてよぉっ!」
突き出された剣をクロアは左手を柄から手を放して腋を潜らせるようにして避け、エアリアルの手を掴む
「幻影『ミラージュ』」
パリン…と砕けたエアリアルの姿を探し、後ろへの接近に気付くのが遅れた
「鎌符『決死の大鎌』」
石造りの壁を削りながら鎌がしゃがんだクロアの頭上を通り過ぎる。砂と変わった石が頭や服を汚す
「あっぶねぇな!」
足をなぐ。鎌を手にした少女はそれを跳躍でかわすと落下の勢いを乗せた石突きで腕に一撃する
「危ないのはどっちよ…もう」
剣を落とす寸前で持ちこたえたクロアの右腕を彼女は踏む。
「マリア!終わらせよー」
「はい」
小さな少女がにこりと笑うのが見えた。
少女はポケットから小さな小瓶を取り出した。中には液体が満たされており、蓋を外して中身を飲み込んだ少女は
「ぐっ…ぅっ!」
苦しげに壁に手を打ち付けて悲鳴に近いうめきを抑え込む
「なんだ…毒?か?」
「違うわよ。私たちにとっては、ね」
メリアルはそう言ってクロアの腕を一度強く踏みつけてから退却した。
―何から?
もちろん、巨大すぎる力から。
「あー、っ。もう少し素直に体を渡しなさい。マリア」
クマのぬいぐるみを抱いた少女はその体つきからは想像できないような冷徹な声で呟いた。先程聞いた声とは違うもはや別人の声だ。
「ん?驚いているのか?まぁ無理もない」
少女はクマのぬいぐるみを天井ギリギリまで投げる。
「そのまま死ね」
右手を突き上げ、クマのぬいぐるみが呼応する。ほんの少し姿が揺らいだかと思うとその姿からは想像もつかない突起が腹部から突き出した。
灰色のグリップ。紅い紐が巻かれた『柄』としか思えないそれを掴んだマリアは一気に引き抜いた!まるで綿が抜かれるように中からズルリと姿を現したのは、巨大な剣。
刀身からグルリと一周する金属部品が気になるが、少女とは不釣り合いな武器なのには依然変わりがない
「『サディスティックプリンセス』」
それが彼女の武器の名前。
高圧的に告げられた解放宣言はどこか死刑の宣告にも似ていた。
「それじゃぁね、少年」
めんどくさそうに別れを告げたマリアは手にした獲物を振り下ろした
「幻影『ミラージュ』」
クロアの攻撃を回避したエアリアルは目の前に落ちてきた蛇を見て凍り付いていた。
「初心者相手に二対一は卑怯じゃねぇか?」
青竜刀をパシパシと左手に叩きつけながらガルトがエアリアルとの距離を詰めていく…。今は歩数にして四歩の位置、今すぐ斬りかかれば負けない
「『炎壁』」
ゴウと燃え上がった壁が二人の間を別かつ。
「お返しよっ」
フランメリーゼを壁越しに突きつけながらエアリアルが笑う。ガルトも少しだけ笑い、素早く壁を殴り付けた蒸発するあの独特な音がして少女が真横に流した剣が弾かれる。
やや厚みのある剣はどうにか耐えたが何度も打たれれば折れてしまうだろう…ガルトはもちろんへし折ろうと両手で剣を振るっていた。
「ちょっとぉ〜容赦なし?」
「新人がいるんだ、見逃せ!」
ガルトが狭い通路で唯一の空間、上空を一閃して頭上から重い一撃を加える。エアリアルは苦しげにそれを払い、払い終わった体勢から突きを出す
炎の細剣と水の青竜刀がぶつかり合い、互いの属性を否定して白い蒸気を生み出す
「キリが無いわねぇ」
ヒュンヒュン、と素早く二閃したエアリアルはカードを抜き出す。そしてそれをフランメリーゼで貫く
「亜式解放。業炎『フランメリーゼ』」クロアは宙を舞っていた。
「がっは…」
壁に叩きつけられて痛みでうずくまり、衝撃で息ができない
「防いだか…やるわね」
一撃で粉砕された剣は既に金色の粒子となって世界の藻屑へと変化していた。今彼が目の前の少女の武器を止める手だてはない。
「くっそ…」
カードを引こうとするクロアに
「させないわよ?」
巨大な武器が足元から振り上げられる
形状が馬鹿でかい剣、それしかわからないのだから避けただけ上々か…そう思って第二撃に備えていると天井がミシリと嫌な音をたてる
「カード…」
「させない」
ゴウと唸りをあげて巨大な武器が横に振るわれる。武器は壁を砕いて隣の通路と直結させる
「狙いはこっちね?」
「当たり前だ」
急いで隣の通路に逃げ込み、クロアは走りながらカードを取り出す。
「巡れ!『白陰』『黒陽』!」二色の剣が巨大な武器を受け止める。
軋むような音が聞こえたがそれすらもねじ伏せるように『能力に対する武器』を振るう
「やるな。流石はエアが見込んだ者だ」
マリアは武器にそっと触れる。
そして、一度撫でるような仕草をして呟く
「起きなさい。」
ドルン…と武器が震えた。火花が数回散り、大気を伝ってその爆音を遺跡中に轟かせる。
マリアの武器、サディスティックプリンセスは剣ではなかった。
「チェーンソーかよ」
「悪いかしら?」
獰猛な唸りをあげる武器を愛でるようになでながらマリアは笑う。聖母のような笑みで悪魔のように笑う。普通の人にはできないだろう芸当…
「ていっ」
気の抜けた気合いと共に振り下ろされたチェーンソーを黒陽で受け止める…いや、止めきれない!剣がチェーンによって上へと流されてチェーンソーから放れる
完全に無防備になった腹部めがけて爆音を響かせる巨体が落ちる
「あちゃ…あれは死んだかな?」
暗い遺跡の中でただ一人猛烈に暇している少女が暇そうに呟く
「ねぇ…どうしよ」
鎌に話しかけてみるが返事はない。あたりまえだが。
「うーん、しょうがない。エアはクロアとやりたがってたから代わってあげますか」
ん〜、と伸ばしてから少女は鎌を担ぎなおす。鎌を振るうのには狭すぎるので歩くたびに先端が壁を引っ掻いてカリリと音をたてている
「クロアがもちこたえてればいいけど…」
ポツリと呟いて少女は水蒸気が立ち込める通路に入っていった…ガルトの目の前で炎がはぜた。鋭い一突きが直前まで背中に位置していた壁に当たりその部分がまるで爆発したように猛火に飲み込まれていた
「避けないでよぅ」
「避けるだろ普通…な!」
不意を狙った攻撃は軽くかわされてしまいエアリアルは少しずつ熱量を増してきたフランメリーゼを体と水平に構える
「火符『炎刺赫染』」
呪符を解き放ち更なる炎を呼び出す。追加された炎は鋭く収束してより長い刃となる。
フランメリーゼの本来の刀身は130cm、レイピアとしては普通の長さだ。だが今の刀身は180cm程…二メートル近くあるレイピアを彼女は扱おうとしていた
「ちっ…使いたくはなかったんだがな…」
ガルトは舌打ちしながら虚空からカードを抜き出して解き放つ。
「西見る青竜、水流隔てし朱雀を睨む。水と炎、相容れない力の一端を我が武器に!」
ガルトの周囲の水が更なる収束を見せる。力はより強大に、そして宿る竜もまた力を得る。
「第二解放『水冷青竜』」
水が遺跡の床を壊して噴き上げる。その水は止まる事を知らないかのようにあっという間に床を水浸しにする
「っ…まだ上位解放を残してたのねぇ」
エアリアルは強化されたフランメリーゼが水に触れないように気を付けながらまだ噴き出し続ける水流の中心を見る
「でも、動かないならばこの私が貫く!」
「馬鹿。動くに決まってんだろ」
手甲で水の噴出を切り裂いたガルトは先程とは形を変えた武器を手にしていた。竜の紋が描かれているのは変わらずに刀身が薄く、やや反り返った形に変わっていた
「さぁ、暴れろ!『吉兆白蛇』!」
手にした水冷青竜からズルリと現れたのは巨大な白蛇
体長は十数メートルにもなり、胴回りはこの遺跡の通路の大半を塞ぐほどに大きい…
「久々だな、白蛇」
「シュ〜…」
嬉しそうに返事をした蛇はエアリアルを睨み付ける
「なぁるほど…ちょっと大きくなるんだ」
エアリアルが少しひきつった笑みを浮かべて笑う。あはは…と乾いた笑いは白蛇の鳴き声で掻き消されてしまった
「うぅ…爬虫類はニガテなのよぅ」
「なら良かった。遊んでやれ、白蛇」
ズルリと這いずる巨体が構えるエアリアルへと進んでいく。速度は非常にゆっくりと…戦意を削ぐのに最も適した速度で向かってくる
「や…ややや、やってあげるわよぅ!か、かかってきなさい!爬虫類!」
「キシャー!」
白蛇は大きくいなないてエアリアルへと襲いかかった!クロアはかなり危ない状況にいた。
黒陽を弾かれてしまい、通常のチェーンソーとは逆向きに回転しているチェーンを白陰でどうにか凌いでいた。
「消す能力がわかんねぇ…」
ガリリ…と削られていく白陰を床に突き刺して自分とチェーンソーとの壁に使っている。白陰は既に三分の一程度の深い溝が刻まれてしまっている
持ちこたえるのも厳しいだろう…
「いいわね、その顔。まだ勝とうとしてる」
マリアは嗜虐的な目付きで見下ろす。
「屈伏なさい」
「嫌だね」
望んだ回答なのか、少女は何とも言えない顔で震える。
―どうせロクでも無いことだろう
クロアはほんの少しだけ緩んだチェーンソーの圧力を白陰に全て押しつける。自由に動かせる部分が出来たので自分の上にいる少女を蹴り上げようとして、遺跡の奥から轟音が聞こえてきた
「何?」
「何だ?」
二人が同時に遺跡を見つめると
「逃げて!マリア!」
メリアルが全速力で走りながら、ついでに遺跡を削りながら叫ぶ
「水が…!」
それを聞いた途端、少女はチェーンソーを片手に跳び上がり、天井に武器を突き刺して無理矢理静止する
「何だ?」
「うるさい!」
必死にチェーンソーにしがみついたマリアを見ていたら足に冷たいものが触れて驚く。
―水…か?
クロアは天井からぶら下がる少女を見上げる
「水がダメなのか?」
「は、はん!べ、別にこんなの平気よ!この愚民が!」
試しに水を蹴りあげてみる
「ちょっと、何を!」
「いや、気になってな」
もう一度水飛沫を上げる
「うぅ…メリアル!なんとかしなさい!」
叫ぶと、廊下の端っこで傍観していた少女は
「うんうん、水はダメか。なら豆もダメかな?」
「それが我がフィオーレに対する礼儀か!?」
何やら喧嘩が始まった。
クロアは思いがけない事態に戸惑ったがこの隙に呪符の下準備をしておく…
「あははっ、ほらっ水よ」
「あっ、くぅっ!」
チェーンソーを軸に物凄い身体能力で水を回避していたマリアがついに水を体に受ける。するとまるで焼けたかのような傷が広がってその痛みに手を放してしまう「マリアっ!!」
落下していく少女が叫び、そして落ちる。
水深1センチ。クッション効果を期待しても無駄な深さに少女は落ちる
「マリア…大丈夫?」
メリアルが駆け寄り、助け起こす
「痛い…です」
じとーっとメリアルを睨み付ける少女の背後に、クロアは三枚の呪符を組み合わせた陣を展開する
「水はあるからな」
電符『100ボルト』
炎符『火の粉降る夜に』
木符『野草のくさむら』
その三枚が同時に発動される
「あばよ」
軽く挨拶を済ませて、クロア以外の二人は何が起こるか理解したクロアの足元に一マス分の草むらが現れて数センチ隆起する。そこから電流が発せられて水を伝い、二人に襲いかかる
そして、大量の水―H2O―が電気分解されて可燃性の物質水素―H2―と酸素―O―が生成されて、発生した炎が引火する。
クロアの前方に壁のように広がった炎はあっという間に二人を飲み込んで通路から見えなくなる
―やったか?
水が無くなった通路に再び水が流れ込んでくる…。通路で吹っ飛ばされたのか二人の少女は離れた位置で横たわっていた。
「…行くか」
クロアがガルトの場所へと行こうとすると、
「…待ち、なさい」
メリアルが立ち上がった。
「マリア…ありったけの防壁をあなたとエアに…。私にはいらないから」
スッと少女は黒い水晶を手にとり、マリアは何をするかを理解して黙って頷いた。
「私ね、昔『仲間殺し』の名を持ってたのよ…。敵味方関係無く皆殺し、ってね」
メリアルは鎌を捨てて手のひらに収まった黒水晶を軽く抱いた。
「越えられない壁を見せてあげる」
決意を込めた眼差しで彼女は叫び、武器の名を解き放つ。
「闇堕ちる太陽、白昇る月、対性なる夜に傷つきし少女の名を借りる!
狂い、乱れて咲き誇れ!『黒水晶の絶華』!」何かが振るわれるのが、なんとか見えた。
「くうっ…!」
青白い円形のバリアに守られたマリアが軽々と飛んでいき、落ちる音が空虚に響く
「じゃえ…」
小さく何度も呟くメリアルは手にした獲物を素早く二閃する。
風が切り裂かれ、武器に直接触れていないクロアの頬から紅い水が一筋流れる
「全部、全員、死んじゃえ!!!」
メリアルが叫んだ。
その叫びに応じるように遺跡自体が大きく揺れる
「おい…ちょっと待て」
ピシリピシリとヒビが入り始めた壁を見ながらクロアは戦慄する
「どうやって…」
天井が一際大きくひび割れたかと思うと、一気に崩落を始めた。
大小の瓦礫が降り注ぎ、砂ぼこりが視界を奪い、退路を分からなくさせる
「ちっ…こうなったら勘だな」
クロアは自分の背後の道へ走る。
その道が外に通じていることを願いながら、剣を頭の上にのせて落ちてくる瓦礫から頭部を守りつつ戦域から逃げ出した「…なんだ?」
ガルトは遺跡全体が振動しているのに気付いて様子を窺う
「…メリアル」
白蛇と死闘を繰り広げている青白い球体に包まれたエアリアルが小さく呟いた。
「おいおい…お前のとこのメンバー、何したんだよ…」
ガルトがやれやれと右手を真横に一閃する。
白蛇が頭でエアリアルを吹き飛ばして壁を数枚貫通させる
「頑丈なバリアだな…もう7回も吹っ飛ばしてるぞ…」
瓦礫に変わった壁から立ち上がりながらエアリアルはフランメリーゼを構えなおす
「マリアの防壁はそう簡単には壊せないわ。だから…」
ピシリ
二人の頭上から嫌な音が聞こえた。
「お?」
「へっ?」
頭上の天井が崩壊した。
ガラガラと周囲の壁を巻き込みながら瓦礫の雨が降り注ぐ
「白蛇!」
使役し、撤退しようとしたのだが
「シュー…」
と鳴くだけで振り返らない…
「?…どうし」
ゴウッ、と目の前を何かが掠めた。
白蛇が金色の粒子に変わり、世界から消失する。ガルトは数分の一秒で攻撃方法をシュミュレート。次撃の予測をたてる
「「後ろっ!」」
二人が同時にしゃがみ、頭上を黒い何かが二閃する。
「やっぱり…『黒水晶の絶華』ね」
「おいおい…『仲間殺し』の武器じゃないのか?ソレ」
「わかったわ、メリアル」
「いや、わかんねぇよ」
ピシリと壁が割れる。
二人はバックステップで互いに逆方向へ逃げると、身を翻して遺跡の中を走り始めた。
どちらも、自分の方に出口があることを祈りながら…数分とたたずに、遺跡自体が轟音と共に崩壊した。
「ケホッ…死ぬかと思ったわよぅ…」
エアリアルは砂ぼこりを払いながら立ち上がる。
彼女は遺跡が崩落する直前に遺跡の入り口に辿り着いたのだ。
メリアルの鎌の跡が出口までの目印となっていた。
「さて…誰を狙おうかしらねぇ」
「いって…」
森と遺跡の間の草むらに倒れていたガルトはその身を起こして全身の怪我を確認する
「取りあえず大したことないな」
ガルトは遺跡が崩落する直前にぶち破った壁の残骸を投げ飛ばして悪態をつく
「クロアの奴、死んでねぇだろうな…」
「…」
暗い場所でクロアは横たわっていた。
「ねぇ…」
耳元で少女の声がした。割と最近知り合い、割と仲良くなった、この戦いに参戦していない少女の声…
「っ…、アレイア…」
「契約にて参上しました。御命令を」
じっ、と自分の上に乗って座っている人外の少女を見つめる
「あれ?雰囲気出てると思ったのになぁ…もう一周聖杯戦争見直して…」
クロアは遺跡が崩落する直前に彼女の名を呼んだ事を後悔しながら真っ暗な空間で周囲から差し込む光を頼りに脱出を試みる
「脱出?なら」
ビビビ…と空気が振動して極彩色の光が瓦礫を飲み込んだ。光は遺跡の残骸を分解して更地に変えてしまった
「『ブレイク』してあげる」
最後の一片が消えて、クロアは立ち上がる
少女もまた立ち上がり、見慣れぬ服装で微笑んだ。
銀色に変化した髪、服はゆったりとした眩しさのない白銀の布地のドレスタイプの衣装。優しく差し出された手には銀色の指輪がはめられていた。
「お前…随分変わったな」
アレイアは、そう?と笑って幼い仕草で後ろ側に手を組んで言う
「恋をすれば女子は変わるの、ねっ!」
パッと顔を反らしたアレイアは背中越しに行こうと催促する
「…誰を狙うか、だな」クロアがそんな呟きを漏らしたのと同時刻、『ブレイク』されなかった瓦礫の中にマリアが取り残されていた。
「…誰か、助けてください」
青白い球体に包まれた彼女は他のメンバーの防壁を意識を集中させて確認する
「みんな無事ですね、だから見つけてください」
暗闇に取り残された彼女は暇そうに呟いた
「…全部生きてる?」
唯一、円形に残った遺跡の床の上で彼女は首をかしげた
自分以外の場所は全部壊したはずなのに、おかしいなと思いつつ闇のように黒い、背の部分がハリネズミかと言いたくなるほどにギザギザと尖っている鎌を振るう。
鎌は禍々しく空間を引き裂いて全く別の場所を切り裂いた。
その鎌の能力は『無限射程』と『自動照準』、そして『狂化』。
無限射程は文字通りどこまででも狙える能力。
自動照準は敵を自動的にロックオンすることが出来る能力。
狂化は、攻撃を強める代わりに味方も容赦無く攻撃するようになるデメリット効果。
今の彼女は、味方さえいなければほぼ無敵。それほどに絶大な能力を操っていた。
「ガルト、みぃつけた♪」
彼女は鎌を振るう。
「ん?」
ガルトは突然沸き上がった悪寒に嫌な予感を覚えた。
全てのマンガや小説において、こういう寒気は良くないフラグだな…とか思いつつ勘の命ずるままに上体を後ろに傾ける
スッ…と黒い何かが横切ったかと思うと首がほんの少しだけ切られて血が滲む
「うおっ、セーフ!」
タンタンタン、と急いでバックステップを踏んで背後の森に逃げ込む。森の中ならば多少は逃げやすいかと思ったのだが…
カカッと素早く振るわれた鎌がどこからともなく森の木々を伐採してしまった
「おいおい…マジかよ…」
カードを引いたガルトは、圧倒的に不利な戦いに挑む
「…ん?」
二人して歩いていたクロアが何かに気付く
「どうしたの?」
「…いや、何か聞こえたような」
そう呟いて、ボロボロになった双剣を構える。背筋に冷たいものが走り、体が強ばる
「『炎刺赫染』、フランメリーゼ!」
突如燃え上がった草むらからエアリアルがその身を躍らせる。手にはクロアがこれまで見たことがないまるで『ランス』のようなフランメリーゼが握られていた。
「やっと見つけたわよ!」
「…運がないな」
隣でアレイアがエアリアルへと指をひとつ向けていた。指先には極彩色の網が小さな球体として存在していた
「う…」
「ばいばい、馬鹿な人」
最後の部分だけ冷徹に言い放ち、アレイアは指先の網を弾く。ゆっくりと飛びながら花開くように網がエアリアルを包み込む…
漆黒の三斬がそれを阻んだ。
「馬鹿はアナタよ、私たちは負けないんだからねっ!」
燃え盛る武器がアレイアの胸を貫いた。
「…攻撃が止んだ?」
ゆっくりと辺りを見回しながらガルトは傷ついた体を動かす。彼の全身は致命傷だけはギリギリ回避してはいるが、失血で既に限界に近い程に切り裂かれていた
「百八斬…か。何者だよ…」
ガルトはボロボロになった体を動かして遺跡地帯を目指す。
やはり絶対的な距離があっては攻撃を避けることしか出来ない…。こうなれば…「っく…あぁっ!」
貫かれた痛みに彼女は叫ぶ
「アレイア!」
クロアが助けようと一歩踏み出すとエアリアルが近寄るなと一喝する。
「さぁ、選択よ。貴方は今二つの命を司る。一つはアレイア、もう一つは、アナタ自身」
エアリアルはフランメリーゼを軽く捻る。
「――!」
声にならない叫びを上げた人外の少女と、今いる自分。その二つの選択肢が今クロアに与えられた。
「貴方の成長、どんなものかしらね?」
ふふん、と笑う可憐な少女は真剣な眼差しでクロアの目を捉える
その眼に思わず魅入られそうになり、彼は首を振って正気に戻す。
―考えろ
そう、何故いまエアリアルがこんな無茶な選択権を与えたのか…
―簡単だろ?
頭の中で自分が笑う。
考えてみれば王道だろう。こんな自他の選択肢などマンガや小説で飽きるほどに明示されている…だからこそ考える。何か考えがあるのか、と
そしてふと気付く。
アレイアがまるで後ろを指差すかのように人差し指だけがクロアを指差している。
―自分を選べ?
いや違う。これはサインだ
クロアは振り返り、
「こんにちは」
漆黒の鎌が首に添えられたのに気付く
「さようなら」「『リザレクション』!」
血に染まった視界に金と白の魔法陣が浮かび上がる。白がベースで、中央に金色のひし形が描かれている見事な魔法陣…
「まだ死んでない?」
地面に倒れきる前にアブナイ笑顔を浮かべたメリアルが現れる…。
背中に鎌が押し当てられて、刃にめり込む嫌な感触を感じる…
「『変数操作』!」
先程から物凄い勢いで詠唱が続いている
「0118/prayer/クロア/HP53/3120」
いや、アレイアはただ単にシステムを書き換え続けていたのだ。
「0118/prayer/クロア/DEF/315/chenge/999」
その言葉は一秒とたたずに発せられ、もはや誰も聞き取れない領域に入っていた。
それに加えて『リザレクション』による蘇生を交えながら彼女は口の動きさえも視認不可能になる。
「硬いっ!なんで急にぃ?!」
徐々にメリアルの様子もおかしくなってきた…。何故だか鎌の攻撃により切り裂かれなくなったので痛みに痺れた頭でなんとか立ち上がるように命令する
ガツン、と鎌が頭を殴り付けて鈍い痛みが全身に染み渡る。鎌で斬られていないだけまだマシだろうと考えてクロアは双剣を握りしめる。
黒陽が与えるのは『自傷』の能力。白陰が封じるのは『無限射程』。鎌はおとなしく鎌の攻撃をやっていろ!キィン…と双剣の一撃が鎌を弾き返す。そして浮いた一瞬の隙に身体をひねりながらの斬撃を与える
パッと目の前に血の華が咲き誇り、少女の手にある鎌が手から離れて…
「あは」
笑った。
さも愉快そうに、さも幸せそうに、
「アハハハハハハ!」
彼女の『狂化』が暴走した。
自分の周囲を短く刈り取る見事な鎌捌きでクロアとの距離を離す。
「狂鎌『無限射程』ぃぃ!」
メリアルは全てが黒く染まったカードを取り出し、解き放つ。
次に引いたカードも漆黒のカード。
「狂操『狂乱世界』!」
世界がグニャリと変形し、まったく別のエリアへと転送される。そこは『テスト01』のエリアよりも更に混沌としていた。空は白く、太陽は黒く。地面は紫、草は赤。
岩があるかと思えば人形が落ちており、かと思うと随分と古びた家が一軒だけたっていた。
屋根が派手な蛍光オレンジ、さらにひび割れたガラスは骸骨を描いている。
狂乱世界と呼ぶにふさわしい、実に壊れた世界風景。
クロアはつまらなそうに一度息を吐き出す。
「アレイア、大丈夫か?」
問いかけにやや弱々しく笑った少女はその手に純白の剣を持つ。
「うん。私は平気…。でも」
少女は危ない目付きの少女を見つめる。
「アイツは許せない」
彼女は柄まで白で統一された剣を一振りして自分の破壊意識を集中させる。
その剣は鍔にあたる部分がコウモリのように広がっており、そこに青と赤の鮮やかな宝石が花のように配置されていた。
「さぁ、相手してあげる。」
白と黒がぶつかった
「…やっと脱出できました」
地面にペタンと座ってマリアはほっと胸を撫でおろす。流石に暗くて狭い場所は落ち着かないようでもう一度安堵の吐息を漏らした。
「…あなたもですか?ガルト」
彼女の死角で息を潜めていた人物は驚きつつも大人しく前に出る
「いつから気付いてた?」
「いえ、勘ですよ」
にこっと笑ったマリアにガルトは呆れた仕草を見せる。そんなんで見つけるなよ、と言い添えて。
「…それもそうですね」
バカにされているのかと思わず疑うが…彼女にはそんな気はさらさら無いようだった。
「さて、私たちもはじめましょうか」
小瓶を取り出した少女は小さく首をかしげる
「はっ…畜生め」
傷はいよいよひどくなっていた。
最後の望みは…素早く空が刈り取られる。白と黒の見事な螺旋がこの壊れた世界で唯一目を見張るものだった。
「狂鎌『儚夜の裂傷』!」
「白剣『旋空煉漸』」
素早く空中で武器がぶつかり合う。白陰が施した封印は既に八割ほど破られてはいるが、まだどうにかメリアルの攻撃を弱めている
が…あまり長くはもちそうにもない。
白陰が徐々に熱を帯びてきていよいよ限界だと訴えている錯覚を覚える
「あと少しだ、力を貸せ。白陰・黒陽」
クロアは白と黒の剣を持ち、変わらず続いているメリアルとアレイアの戦いにその身を躍らせるアレイアは目の前を遮るようにして現れた黒陽を見て驚く
「クロア…危ない!」
その持ち主を狙う鎌が襲いかかり、アレイアが防御する
「…増えた?」
「二対一は酷くないのかしらねぇ?」
紅いフリルの服が華麗に舞い、フランメリーゼを手にした彼女はメリアルに加勢すると伝える
「いらない」
振るわれた鎌は彼女の細い首めがけて一直線に突き進み、球体のバリアに阻まれる。
「このマリアの防壁が有る限り、アナタは私を殺せないわ」
「む…ひどい」
もう一度鎌で殴り付け、阻まれたのを見ると彼女は興味を失ったようにエアリアルから目を背ける
「みんな斬れない…つまんない」
そう呟いて彼女は姿勢を低くして鎌を構える。漆黒の鎌は禍々しく、その姿は魂を狩る死神にも見えた「クロア、アナタはエアリアルを狙って。
私があの狂人を止めるから」
アレイアは純白の剣を捨てて次の武器をその手に生み出す。
手にしたのは、白き大斧。
『グリダ・アルビナ』…。以前現れた敵、ゾルアの武器
「一撃撃殺♪」
にこっ、と笑った彼女に苦笑いを返す。あれでも元気付ける気持ちなんだろうとか思ってわざと大きく叫ぶ
「行くぞ!」
「はいっ!」二人は同時に行動する。
アレイアは一気に跳び上がり、クロアは姿勢を下げて低い体勢のまま走り出す。
アレイアをエアリアルが、クロアをメリアルがそれぞれ狙いを定める
「いいの?エア」
「?」
アレイアの言葉に首をかしげる
「クロアの『付加』の能力、忘れてない?
例えば、『防壁解除』の能力とかつけたら面白いんじゃない?」
さぁっとエアリアルの顔が青ざめて思わず振り返ってしまった
「ホント単純ね、お馬鹿さん」
ハッと改めて振り返ったエアリアルを巨大な斧が叩き壊す。
フランメリーゼが砕けて空気の上で最後の瞬きを見せて、消滅した。
「ゲホッ、ゲホッ」
咳き込む少女は死にかけの体で力を呼び覚ます。
「貫け、『グングニル』」
残った炎が槍に姿を変え、一度体から流れ出す血に触れる
「決死の反撃?馬鹿ね、アナタに私は倒せない」
「違うわ…。決死の希望よ!」
少女は血に濡れた手で槍を握りしめて今まで見せたこともない構えをとる。
頭の上で手を交差させて槍を回転させている…。普段とは明らかに違う構え
「『空想う少女の白羽根』」
一度大きく回転させた後、エアリアルは気合いと共にグングニルを投げる。槍は手から離れると猛烈な勢いで加速してアレイアを狙う
「『隔壁』。人間ごときが、この私に勝てる筈が…」
そう言って、言葉を飲み込む。
今、目の前にある槍は姿を変えていた。純白の光の翼を得て白鳥のように鋭く飛来する
「そんな…」
隔壁が歪むほどの衝撃が襲った。アレイアは自分の盾と互角にぶつかる槍を見て呟く
「…やれば出来るじゃない。人間も」空想う少女の白羽根の衝撃はエリア全体に広がっていた。
「…っ、凄い風」
「防いだのは…誰だ?」
壁に寄りかかるガルトにマリア・フィオーレは笑いかける
「この世界、本来の力。まぁ、ここで死ぬアンタにはわかんないわね」
チェーンソーを握った彼女はチェーンを作動させる
「バイバイ、脱落者」
「なめんなよ」
ガルトは呪符を抜く
「水呪『水蛇』」
空中から蛇が現れてマリアに襲いかかる
少女はつまらなさそうに武器で一掃する。だが、ガルトは笑い、次のカードを発動した
「『水壁』」
振るった体勢で身動きのとれないマリアが下から噴き上げた水に打ち上げられる。軽々と飛んだマリアは全身水に濡れて、苦しむ
「ぐ…ぅぁっ、きさま」
「本当に水がダメなんだな…カナヅチか?」
クックック…と笑いながらガルトは次の呪符を手にする。それは、以前ノピアとヨロワが使用したカード
「こんな狂った世界はごめんだ。繰符『大草原への片道キップ』」時間は少し巻き戻り、クロアがボロボロの剣で立ち向かっていった頃
「白陰」
「死んじゃえ!」
低い軌跡を描いた鎌を跳んで回避し、クロアは鎌に白陰を叩きつける
「効かないわ」
反転、漆黒の鎌が空を刈る。闇のように素早く振るわれた鎌は、動きを止めた。
「?」
クロアは黒陽を叩きつける
「白陰『鈍化』黒陽『効果継続』」
叫んだ武器はそれぞれ『封印』『付加』の能力を起動する。二対一体の剣は互いの力を補助するように力を発揮する
「それが―」
どうしたの?と言おうとした少女の鎌が突然動きを止めた。
「えっ?」
物凄くのろのろとした動きで鎌は動いていたが、その速度はカタツムリの十分の一すらない。あまりにも遅くなった鎌はクロアを捉えることはできない
「喰らえ、狂人!」
鋭い回し蹴りを側頭部狙いでくりだす
「ぐっ…」
一撃を受けた少女は鎌から手を放して吹っ飛ぶ。あまりにも華奢な体が地面に当たって汚れる
「剣技『影閃斬』」
殺意の一閃。呪符の攻撃。
メリアルはその剣を見て、笑う
「…さすが、エアが惚れた男だわ」
狂気をこえた殺意が少女を金の粒子に変えた。立ち昇る粒子の中心でクロアは喜びの叫びをあげる
「勝ったぞ!」
まるで彼の心境を映すかのように混沌とした世界が爽やかな草原へと姿を変える。
残った敵はたったの二人!そのどちらにも恐ろしく強い奴が対峙している。もう負けることはないだろう
クロアは小さな満足感を噛みしめながら小さくガッツポーズをとった歪んだ隔壁は空想う少女の白羽根と拮抗した攻防戦を続けていた。アレイアは時間を見計らって止めを刺す。
「貫けぇっ!」
「…弾けて」
パキン、と周囲に四散した隔壁はあっさりと白羽根を通過させて直前までアレイアがいた場所に突き刺さる
「チェックメイトね」
手にフランメリーゼを模倣した剣を持ったアレイアがエアリアルの背後から宣告する。エアリアルも流石にかわせないな、と理解して小さく目を閉じる
「見直したわ、エアリアル」
アレイアはそう言って剣を心臓に突き立てる。スッと弛緩した少女は金の粒子に変わり、彼女はそれを見送る
「あと、一人」
もはや人数差でも勝利が確定した。草むらでマリアは空を見上げていた。ただ黙って、おとなしく
「…今度は太陽か、お前はそんなにも私が嫌いか?」
「太陽が嫌いって…吸血鬼かよ」
ふん、とフィオーレは不機嫌に鼻をならす。本当に嫌そうに太陽を見つめて目を閉じる
「マリア、負けたわ」
自分自身にそう呟いて、手元に転がっていたチェーンソーを握る。
ブゥン、とエンジンが始動して独特な振動が生み出される
フィオーレはそのチェーンソーを天高く投げる。高く昇った武器は重心である剣先を下に向けて重力によって落下する
「ぐっ」
自身を貫いたマリアは小さく唸り、粒子に変わる。もはや勝てない事へのあきらめなのか、仲間の後を追ったのか、最後の一人は自ら退場していった残った三人を光が包み込む。チーム戦終了、帰還のサインだ
「私は消えるね」
アレイアはクロアにメッセージを残すと、光を振り払ってノイズと共に空間に消えた。BUGの帰る場所とは何なのか気になるが…話は進む
「クロア、お疲れな」
「やったぜ、相棒」
声だけの通信、バーチャルの草原にいられるわずかな時間でこの世界での労いを済ませる
すうっ…と意識が遠退き、自分の肉体へと回帰するのを感じる。長かった試合も、ようやく終わりを迎えたのだガコン、ガコンと体が解き放たれる。
「試合しゅーりょーっ!
今回のバトルの勝者は強豪『ワルキューレ』を破った、『チーム:ガルト!』」
歓声と、
「よくもマリアちゃんをー!」
「エアさまがぁぁぁ!」
「メリアルさんに何をしたぁぁぁ!」
怒号が二人を包み込んだ。
「はぁ…ぜんぜんクロアとできなかったなぁ…」
端末に腰かけたまま金髪がため息を一つ落とす。さらりと流れた髪に思わず見いってしまう
「…お強いですね」
ちょこんと現れた幼子が笑う
「あの方…人と違うみたいですが、可愛らしい方でしたね」
クロアはそうだな、と頷く
「大切になさってください。それから」
マリアは冷たい目でクロアを見つめる。まるで別人のような変貌に意表を突かれる
「せいぜい失わないようにしなさい。あんた、トロそうだから私が忠告してあげるわ」
マリアは笑う
「…もう一人の私はそう思ってます」
お元気で、そう挨拶して少女は階下へと向かった。肩を落としていたエアリアルをメリアルと思われる少女が元気付けている。どうやらマリアと話している間に近寄っていたようだ。
「負けたわよ…彼、咄嗟に強いみたいねー
『狂化』して殺されたの、何ヵ月ぶりかしらね?」
「やっぱり強い…かぁ…戦えなかったからなぁ…」
元気のないエアリアルをぽくりと殴る
「あいたっ!」
「シャッキリしなさい!
…しょうがない、食堂で甘いものおごってあげるから」
ぱあっ、と顔を上げたエアリアルは何を?!と期待して聞く
「フレンチトースト。アイスクリーム乗せ」
「さっき食べたよぅー!」
戦闘中のあのエアリアルはなんだったのか…クロアは激しく思案する
「次の試合が始まります。両チーム共にご退場願います」
職員に注意されて四人は一斉に階段へと歩き始める。互いにチームメイトと話しながら配線むき出しの舞台裏を抜ける
「どうだ?死線を抜けた感想は」
クロアはぶり返してきた興奮を押さえつけながら、普段と変わらぬ口調で答える
「やっぱ、面白いな」
ガルトは満足そうに頷くカチリ、とアレイアは音を聞いた。
誰もいない、ただ白いだけの部屋でたしかに音がした。
「誰?」
返事はない。
エアリアルは自分の同族かと問いかける
「…」
答えたのは沈黙だけだった。物音もそれ以降なにもなく、エアリアルはいかぶしげに周囲を窺う
「闇が訪れる」
突然、声が響く。
女性の声、とても威厳に満ちていて大抵の人間はそれだけで緊張するような、王の威厳だった。
「闇の始まりは、アレイア。
闇の終わりは、ウィストレア。
現出するは、ワルキュレア。
三位一体、全能なるはBUG」
声が終わる。
沈黙が訪れて、嫌な張り詰めた空気だけが身を突き刺すように部屋を包み込んでいった…
―――――
あとがき
―――――
エア「やっほー!こんにちわぁ!」
クロア「…何があった?」
エア「今回はゲストとプロフィール紹介!」
エア「かもーん!」
―なんか白い煙がたちこめた―
マリア「ケホッ…ケホッ」
メリアル「煙いっ」
エア「私の友人'sですっ、よろー」
マリア「…こんにちは、前作『光暗の円舞曲』より、マリア・フィオーレです」
メリアル「前々作『光暗の円舞曲』より、メリアルです。こんにちは」
エア「タイトルは同じだけど中身は違うんだったよね?」
二人「「うん」」
エア「なら、自己紹介いっちゃえぃ」
マリア「吸血鬼です。所属は『血脈の十字架』…リーダーです。
好きなものはクッキーで、特技は聖水を飲んで『吸血鬼人格』に変わることです」
メリアル「『天界の守護者』所属、地位は上級ガーディアン。ランカーみたいなものよ、
好きなものは…ノーコメント
特技は鎌と『狂化』かな」
エア「時間無い…次っ、半年とかって何?」
マリア「最後の出番からです」
メリアル「私の物語は未完で終わったわね」
マリア「私たちのはノベルサイト閉鎖で…消滅しちゃいました。みんな無事かなぁ」
メリアル「そういえばこの世界にもいるのね、嶺は」
マリア「ふん、あの頼りない奴か」
メリアル「フィオーレ。最後の一言譲るわ」
マリア「嶺の名を忘れるな。そして私たちの名を忘れるな」