第十二章 模倣世界
ゲームファンタジー!
今回は今までとちょこっと違うお話です。そして、一つばかり警告文
『今回の舞台、再現しちゃ駄目だよ!』
はい、理由は読めばなんとなくわかるので省略。そして…
みんな、あの人を忘れてないよね?
白い子だけどさ。
影薄かったかな?とか反省…くそう
ではでは、軽くネタバレしちゃったんで本編へどうぞー!(≧▽≦)/
トクン、と、少女がこのゲーム空間に割り込んできたときに体が反応した。何かを求めるように、否定するように、期待するように、失望するように。何故なのか彼にはよく分からなかったが…ほんの少しだけ体が震えた。
「駄目!クロアには触らせない」
そう言った彼女はクロアの前面に障壁を展開して管理者達の武器の動きを止めていた。
誰かがBUGかと叫び、
「ならどうする?おばかさんたち」
少女は一度手を払うような仕草をして、全員の体を彼らの武器の柄で貫いた。
化物じみた一瞬、クロアは剣を握りしめて少女に斬りかかろうかと淡い思考の中で考える。
それを見透かしたのか、少女は振り返って、笑った。
「いこっ、クロア、怖くないから」
そう笑って、彼女はクロアの頭を抱いた。ふわりと柔らかい指が頬を撫でる…
何故だかその瞬間に争う気が無くなり、ひどい倦怠感にみまわれた…まるで、深い眠りに落ちるような…そん…な…
クロアはゆっくりと目を閉じる。なんだか、世界が波打っているように歪んでいた………ふと、意識が覚醒する。
目を開くと……、何も見えない。目を開けてないのか?と思わず疑ってしまう。少しするとこの暗い部屋に差し込む薄明かりに気付いた
どうやら、目は開いていたらしい
クロアは至って普通な丸いノブの扉に手をかける…、比較的堅かったがそれ以外に特長もない扉の先には部屋があった。
およそ、六畳程度の板張りの部屋。部屋には中心に大きな机…テーブルか何かだろう、それと中型の棚と部屋の右側に暖炉、今の位置から丁度向かいにもう一つ似た扉があった。
「どこだ…ここは…」
そう呟いたとき、突然沸き上がった寒気でクロアはクシャミをする。そして、体にコートを巻き付けて、気付く
「…ヴァルハラなのか?ここは」
キャラクター『クロア』は現実世界にいないことに愕然とする。そして、自分の記憶をたどって…途中が不鮮明なのにさらに驚く
「俺は…管理者と戦って…?いや、戦ったのか?」
頭にかすかな痛みが走ってクロアは片手で押さえる
「うん、たたかった。そして、たたかわなかった」
幼い子供の声にクロアは驚いて顔を上げる。部屋の反対側のドアの前には幼い少女がいた。
身長は幼稚園児より少し上くらい、小学校低学年くらいだろう。そして、それくらいの幼いが整った少女を前にクロアは怪訝に眉をひそめる
「クロア、目、さめたんだ」
ニコリとした少女はクロアの元へ、テトテトとやって来て抱きつく
「ずっと一緒!ねっ!」
いや、意味が分からん。とクロアは少女を引き剥がして目線に合わせる
「お前は誰だ。そしてどこだ。」
少女はちょっとだけ恨めしそうにクロアを見て、一旦目を閉じてから笑顔になる
「アレイア、ワタシはずっと待ってた」
やっぱり抱きついてくる少女を再度引き剥がす。少しばかり面倒だ「うぅ…」
ちょっと泣きそうにうるんだ瞳を前にしてクロアは罪悪感に襲われる…。今まで生きてきた中でも数年に一度しかないというのに、
「こいつ…」
クロアは口元をやや吊り上げる。
「ぴっ、ごめんね!お兄ちゃん!」クロアはズキリと心が痛む…はずだが
「…それはもうヨロワの専売特許だ」
「くっ…さきをこされてたか…」
小さく、何か聞こえた気がした。
目の前にいる少女に対して深いため息を吐く…。どうにもガキは扱いに困る。
クロアはここはどこかと聞く。
知らないエリアに放り込まれていて、ガキの子守りをしながら戦うには少し…
「ぐっ…?!」
鈍い痛みが頭を走る
少女はスッとその場所に手を伸ばして、唄う
「ほら、わらおうよ。せかいにわたしがいるからね。ほら、わらおうよ。せかいはきみとわたしのせかいだけ」
痛みが薄らいでいき、やがて消えたクロアは意味の分からない唄を歌った少女に驚きと、疑念の目を向ける
「何だ?それ」
「おまじない」
そう言った少女は無邪気に笑う。クロアにはわからなくとも彼女にはわかるものがあるのだろう、と無理矢理納得しておいて質問を続ける
「ここはドコなんだ?」いい加減、それくらい知らなければいけないだろう…。とりあえず普通の場所じゃないのはわかったが…
「『ミッドガルド』…エミュレートサーバー。」
…何だって?
「エミュレートサーバー、模倣世界」
クロアは理解に相当苦しむ。何だよ、エミューだかなんだか知らないが日本語に直してくれ
少女はプクッとふくれてからちょっと考えて、日本語として変換する
「わかりやすくするとね、違法個人サーバー『ミッドガルド』。あなたのともだちとはかんけいないよ」
ほぅー、と頷いてから気付く。
今、コイツは何て言った?違法個人サーバー??いや、それよりも
「お前…ガルトを知ってるのか?」
その質問に、少女はビクッとしてから繕うように笑いを浮かべる…。だが、どこか薄い笑い方だった
「知ってるんだな?」
少女は首を振る。
「ち、ちがうよ。その…上級…ってやつだから」
そうか、とやや疑いの込められた頷きを返してからクロアは部屋の外へと通じる扉を見てから、不思議そうに頭をかしげる
「この部屋は何だ?エリアなのか?」
少女が首を横に振る感触が伝わってくる。またくっついてやがる…少し嫌気の指したクロアは引き剥がした後彼女を一歩分間合いを開けた場所まで持ち上げて、放した
「…少し、見てみるか」
クロアが一歩進むと、少女が手を勝手に握って、ぱぁっと笑顔になる
「なら、あんないするね」
「おい、いいって!俺一人で…」
先行した少女がまるで雷にうたれたような驚きを見せ、クロアは
「…いや、走ると危ないからな」
渋々折れる。
「うん!じゃいこうよ!」
元気な掛け声に、クロアは小さくため息をついた円形のノブを回すと、キィ…という錆びた蝶番の音が聞こえて外に世界が広がる。
どんよりとした曇天に、どことなく廃れた町の雰囲気をかもしだす。まるで
「ゴーストタウンだな」
クロアは独り言を呟く
扉を閉めてから二人は町の中を歩いてみる。廃棄寸前のような町には意外にも人がいたことに驚く。まぁ、『ヴァルハラ』で見かけたような人々とは雰囲気が違ったが…エミュレートサーバーとかいうのならば日常茶飯事らしい
体の一部が透けているもの、どう見ても獣人のキャラクター。そして
「んぎゃぁだろぅえあ!?」
…アレイアがぶつかっただけでなんか絡んでくる奴…、現実とあまりにも変わらなさすぎる行為に思わず苦笑する
「んだろぉうえおぁ!?」
「日本語喋れ、つの」空間からカードを抜き出し、無骨な大剣をその手に握る。久々に手にした『灰色の長剣』にクロアは懐かしさを感じる
「やるんきゃぁゴラァ!?」
「…」
静かに構えて、両眼を見据える
そのまま互いに身動きせずに睨み合う…すると
「…何してる」
何故だか、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
「ぶ…ブロウの兄貴!すいやせん!」
お、日本語話せんじゃねぇか
…じゃないな
「まさか…な」
振り返って、ブロウが凄まじい表情でこちらを見ているのに気付く
「クロア…!!」
貴様の、せいで…と腕が天の方向へ昇っていく
…あーこりゃヤバいな
そう感じてクロアは少女を抱き寄せてから後ろへと跳躍して距離をあける
少しばかり厄介な事になったものだ「…」
なんだか複雑な表情で見上げている少女に小さな声で聞く
「悪かったな、怖かったろ?」
ふるふると否定されるが、クロアは離れてろ、と警告してからアレイアを放して剣を握る。
半回転するようにして立ち上がったクロアはブロウに対峙する
「…こいつに手を出すなよ」
何故だか、その呟きは祈るように聞こえた
「…」
返事は無音、だが、必要ないと目が言っている。
「行くぜ」
タンッ、とその場から素早く距離を詰める。始めは十メートル、今の距離はたったの二メートルだ。
半身をひねりながら速度と遠心力、ついでに体重を乗せた一撃を叩き込む
鋭く空を掻いた剣先は地面を砕いてたいした舗装もされてない道を削る
「…」
剣戟をユラリと後ろに下がって回避した巨腕の大男はクロアの開いた掌よりも大きい拳で横凪ぎに払う
クロアは回避しようとして、予想以上に深く地面を抉った剣を呪う。
ほんの僅かな差でクロアは掌の一撃をまともに受ける
「かっは…」
宙に浮いたクロアをブロウは左手をやや下に傾けて、叩き落とす!
ベキッ、という音と共に地面に亀裂が入り彼は小さく痛みにうめく
「…」
無言で掲げられた両手を睨む。どうせヤラレル…なら、最後まで抗うべきだろう…
「っ…」
感覚がぼやけている右腕は諦めて左手で虚空からカードを抜く
「炎符『火の粉降る夜に』」
ボウッと輝いた呪符の力で世界に僅かな火の気の群れが変成されて、降り注ぐ
ブロウは自身に対して脅威になりえない、と判断する
「合成符」
一瞬だけ火の粉に気を取られた隙にクロアは次のカードを引いて、叫ぶ
「『火炎弾』!」
ズドン、と放たれた呪符の力にブロウは跳ね飛ばされて一メートル程度後退する。たいした距離ではないが今のクロアにはそれが精一杯だった『彼』はいつものように暗い町を歩いていた。
いつものように暇な、それでいて全員が何かしら共有しているような…そんな奇妙な感覚を持つサーバーでふと気付く
人々が何故か一ヵ所に固まっているのだ。まるで、円のように…
「まったく…人を呼び寄せておいて…どこですか?ねぇ」
と、まぁどのあたりにいるかの見当はついているのだが形式的な愚痴をこぼしておく。
彼はワイワイと賑やかな人の柵を掻き分けて内側へと入っていく
「通して下さい」とか
「通ります」とか言いながら来るあたり、彼の根の優しさが見え隠れしている本当に人が多い…と彼は呟く
いつも以上に多いらしい。はて、なにがあったのだろうと彼は頭の中にある予定で黒く染まったカレンダーを思い浮かべて、頷く
「あぁ…今日はブロウ達の集まりでしたか」
穏やかそうな、知的な声で目の前が開けた場所で呟く。
「…若草」
目の前に、呼び出した張本人が座っていた。幼い、白い肌に白い髪、さらには白い小さな服を着ていて、雪原にいたら気付かないと思う少女だ「あれあれ…彼は誰です?」
若草色の和装…を若干アレンジして上掛けをベストのように、そしてところどころに菊や飛んでいる鳥の刺繍が施されている。目はキツネのような糸目、髪は金毛
彼は丁寧な物腰でアレイアに接している
「あぁー、あの人ですね。この間聞いた人は」
少女はコクンと頷く
「でも死んじゃいますよ?助けなくても?」
少女はフルフルと首を振る。
ちょっとだけ躊躇ってから
「はなれてろ…って」
彼…名は若草という人物はカラカラと笑う
「ならば私が手助けしましょうかねぇ?」
若草の目の前に火の粉が舞い落ちる。どうやら、あの人もまだ戦う気らしいですね。
彼はヒュゥン、という奇怪な音と共に空中に、まるで画面が割れたようなモザイクを生み出す。内部では武器がゲームのスロットのように高速で変化していた。
「開け」
彼の目の前で『火炎弾』が大男を吹き飛ばす。一メートル程度だったが、彼には嬉しい修正だった。
「『パンドラ』」ズダン!と目の前のブロウが吹き飛ばされて、クロアは目を見開く…
金色の粒子に変化していく大男が姿を消したときにようやく自体の半分を飲み込む。
後ろを振り返り、一人、巨大な回転式弾倉銃を手にした人物を見つける。
銃全体で一メートル近い、もはや大砲。それを手にした人物はクロアに笑いかける
「はじめまして、あなたを強くしに参りました」
何かを値踏みするような目に、クロアは少しだけ敵意を覚えた…
―――――
脱落者の宴
―――――
ブロウ「…またここか。」
「…」
「…」
と、ここでスタジオに波紋が現れる
アレイア「しゃべりなさいよ」
ブロウ「…無い」
アレイア「やれやれ。全然駄目ね」
ブロウ「お前…?」
アレイア「あははっ、ばぁーか」
アレイア「油断しすぎよ。そんなんだからやられてるの。おわかりぃ?」
ブロウ「…!」
アレイア「ふふっ」
激しいノイズのため確認不可能。
以降はバックアップを復元したものだ
アレイア「あっはっは!死んだ部屋で死んじゃ意味無いわねぇ!あっはっはっは!」
アレイア「さて、戻ってあげますか」
アレイア「『この子』のクロアの為に。ね」
これ以降は復元できなかった。
部屋に残されたのは金色の飛末と
『神影ハ我二有リ』
と鋭利な何かで刻まれた文字だけだった…