無限に使える
「先輩!
充電器、買って来ました!」
森川大河が、コンビニ袋を下げて走ってきた。
「おう、待ってたぜ」
翔太が、ひょい、と立ち上がった。
大河の袋を受けとるが!
「って、高けっ! 千五百円かよ!」
「そんなもんでしょ?」
「もーちょっと、さぁ。
探せば、あったんじゃないの?」
「何言ってんスか!
ここだって、二キロはありましたよ!」
ギャアギャア翔太と大河が、けたたましく怒鳴りあっている声が障ったのか、むくり、と進藤秋生が目を覚ました。
「あ、先輩!
ゴリラが起きた!」
進藤は、跳び上がるように立ち上がり、
「この餓鬼。
誰にものを言ってる…!」
巨大な進藤が上から睨むと、大河は怯むが…。
「おう、進藤君。
元気そうで、何よりだ!」
石黒翔太はニカニカと満面の笑顔で振り返った。
進藤は、翔太の笑顔を苦々しく飲み込んで。
「おう、どのくらい倒れていた?」
「なーに、大したこと無いよ。
大河を起こして、この充電器を買いにやった間だ」
「えっ、でも先輩、この霊長類が頭から血を流しているのを見て、やべっ! 救急車だ! とか騒いで、スマホが点かない!
とか騒いで、
俺が、それ、電池切れてますよ、って教えたら、充電器買いに行け! って。
何で傷、治ってんの?」
はっは、と翔太は笑って。
「俺は魔術値は百だが、治療には長けているのだよ」
進藤は、眉をしかめ、
「お前、それブラフじゃ無いのかよ?」
キャハハ、と森川大河は、変声期手前の高音で笑って。
「ホントホント、この人、魔術値百の九級魔術師なんでスよ」
「ざけんな!
魔術師は八級からだろうが!」
「ところが、今年、この先輩と、もう一人、なんか伊豆の方の奴が九級をとったんスよ」
はっ?
と進藤の顎が、ガクンと落ちた。
「先輩、魔術値は本当に百なんスけど、使っても、全く減らないんです」
「なんだ、減らないって?」
「だから、この類猿人、理解しろよ、カス。
先輩は、百以上の魔術はそもそも使えないが、それ以下の魔術は無限に使える天才魔術師で、国の認定基準を大きく覆しちゃった凄い人なの。
ただ、スマホの充電切れたのにも気がつかない馬鹿なんだけどね」
「はっはぁー、あんまり誉めるなよ。
いくら俺を称えても、俺は霞さん一筋だぜ!」
翔太は、照れて自分の、ほとんど櫛も入れていないだろう、ぐちゃぐちゃの短髪を掻き上げた。
なるほど、馬鹿だと言われてることにも気がつかない馬鹿らしいが…、と進藤は納得する、が…。
「おい、じゃあ、俺のバリアをくぐり抜けた手品は、どうなってんだ!」
あー、あれね、と石黒翔太は肩をすくめて。
「お前、あれだろ?
この世の中の物、全ては固有の波動を持ってる、なんて言っても判らないだろ?」
「波動だと…」
「そうそ、
俺ちゃんは、それが見えちゃう人なのよ」
「見える?」
キャッ、ハ、と森川大河が、自分の胸ほどの身長の石黒翔太をガクガク揺らし、
「そーなんでスよ、エテ吉君。
うちの番長は、教室の、何も無いところで話し込んでいたり、木の精とお友達だとかで、毎朝、木に挨拶したりする不思議ちゃんなんスけど、失せ物なんかがあると百発百中で当てたりするので、学校のセンセーまでが相談してくる電波君なんでス!」
「電波?」
「まぁ波動と電波は違うんだが、こいつに言っても判らないだろ。
お前、バリアをかけながら、自分の剣はバリアを通してただろ。
だから、お前の波動さえ掴めれば、俺もバリアを抜けられる、って訳だ」
ふふん、と翔太は余裕の笑みを浮かべ。
「そして、回復魔術は高すぎて使えないが、ほら」
翔太が手をかざすと、さっき踏み潰していたドクダミが、みるみる治っていく。
「生体活性は魔術値十、修復は魔術値二十、更に擦り傷なんかを治すマーキロは魔術値たったの五。
これで君の傷も、一見、治った風にはなる訳だ。
けど、頭はしこたま打っているので、一度、医師に見てもらうことをお奨めする」