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すずなり番長観察記録  作者: 六青流星
3/73

重力

翔太は小さい体を、さらに小さくまるめ、一直線に新藤秋生の懐に飛び込んでいった。


「ど阿呆がっ!」


新藤が木刀を振り下ろすと、そのスイングで、木の塊が大きく撓った。

それは一直線に突っ込んでくる小さな翔太をボールに見立て、粉砕せんばかりの勢いで振り下ろされた。


タイミングはまさにホームラン…、のはずだったが。


何かが、新藤の木刀をふわりと受け止めていた。


「何っ!」


新藤が叫ぶのと、翔太が、小さく丸まった体から、強烈なアッパーカットを新藤の引き締まった腹筋に撃ち込むのが、ほぼ同時だった。


新藤の体が、くの字に曲がった。

三五センチのリーバイスが、確かに宙に浮いていた。


「げほぅ!」


新藤は叫び、そのままコンクリートの地面に頭から落ちた。

一瞬、気が遠くなりかけるが。

独特な臭いが、新藤を現実に引き戻した。


翔太の汚い白いスニーカーが、新藤の目の前にある。

そして、盛んにドクダミを踏みつけていた。


ちっきしょう!


嫌なもんを見せやがって!


新藤は、地面に膝をつき、土下座のような姿で、震える体を、何とか立ち上がらせた。


「おいおい、無理をすると体に毒だぜ、雑草君」


言いながら、石黒翔太は、まだ新藤の前で、コンクリートの罅割れから顔を覗かせた、小さな白いドクダミの花を、踏み潰していた。

白、というか、ほとんどグレーのスニーカーが、ドクダミの草液に濡れて、ますます汚れていく。


新藤の、見事に通った鼻筋の鼻腔の中にも、ドクダミ独特の香りが漂ってくる。


「クソガキがぁ!」


新藤は立ち上がった。

まだ、身体は震えているものの、腹の底から湧き上がってくる怒りが、新藤を奮い立たせていた。


「おおっ、凄い凄い。

だけど、雑草大好き新藤君よ、お前の魔術は、もう見切ってるぜ。

お前は、石を操る能力者だろ?

俺の顔面に、見事なコントロールで打ち込んでたのも、風じゃなくて石弾だ。

ネタがバレちゃあ、お前、後はタコ殴りにブチのめされるのを待つだけだぜ。

ごめんなさい、と頭を下げりゃあ、こっちも、わざわざ神奈川県くんだりまで傘下にしたって意味はねぇ。

手打ち、で終わらねぇのか?」


両手をポケットに突っ込んで、石黒翔太は、盛んにドクダミを磨り潰し続けていた。

重い湿度が、ドクダミの臭いに染まっていく。


「けっ、馬鹿野郎が。

ネタがバレてんのは、俺だけじゃ、ねぇ」


言いながら、その巨大な手から、金属の小さな弾が、ポロポロと落ちていく。

それは、どこにでもあるパチンコ玉のようだった。


お前は金属を操る魔術師。

しかも、おそらく、このチンケなパチンコ玉しか扱えねぇ。

そうだろうが」


ギャハハ。


翔太は、つい大声で笑ってしまった。


いつも低く喋っているのに、思わぬ高音が喉から漏れて、慌てて低い声に戻して。


「残念だな。

俺がパチンコ玉しか扱えないのは正解だが、俺は金属を扱っているんじゃねぇ。

作用と反作用。

重力を操作する魔術師君だ。

覚えとけ」

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