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超絶イケメンインキュバス転生  作者: ぶさいく。
1/1

インキュバスへ。

ただ白い部屋。何も無く、広く、白い。目が痛くなるほどに、ただ白い。

果てなど見えない。途方も無く広い白。

その一角。向き合う僕と幼女。

「超絶イケメンのインキュバスになりたい」

「イン…キュバス…って、あの?」

幼女の姿をした神様が、小首をかしげる。

そう。彼女は幼女であり神様だった。

腰ほどまでの銀髪ツインテール。

透き通るような白のワンピース。

覗く手足は、スラっとして健康的だ。かわいい。

「サキュバスの、男版のヤツだね」

僕は言う。

インキュバスとは。魅力的な姿と、甘い言葉で女性をたぶらかす悪魔。

「そ、そんなものになりたいの?」

引きつった顔の幼女神様。

「なりたい」

即答。その言葉には強い意志を込める。

僕の顔は真剣そのものだ。――にもかかわらず。

「ふふっ…あ、ご、ごめんなさい」

笑われる。

「いいよ、いつものことだし」

そう、笑われるのはいつものことだ。僕の真剣な顔は、【おもしろい】のだ。



僕はブサイクだ。それもとびっきり。ひどい顔なのだ。

カエルが3度、車にひかれた顔だと母は表現した。

僕は顔のせいでからかわれた。いじめられた。

先ほどのように、顔を笑われるなんて日常茶飯事だ。

鏡が見られなかった。鏡に映る自分が、自分であることを許容できなかった。

サングラスをかけ、マスクをつけると警察に職務質問された。

その時にサングラスをとると、警察にまで笑われて。

例を挙げるとキリがない。僕の最大最凶のコンプレックスだ。



「でもなんでインキュバス?ただのイケメンじゃだめなの?」

幼女神様が聞いてくる。

「ただのイケメンじゃダメだ。足りない」

「足りない?」

「僕は女性に復讐したいんだ」

僕は続ける。

「僕はこの顔のせいで、からかわれ、いじめられてきたけれど。

 それは主に、異性からの攻撃だった」

僕はさらに続ける。

「僕はね、女性の心の奥の、奥の、奥底まで。髪の毛先から足のつま先まで。

 僕のものにしたい。つまり、愛されたい。溺愛されたい。僕のことしか考えられない体にしたい。

 それには、顔も必要だけど、それだけじゃあダメだ。顔はあくまで入り口なんだ。愛の入り口」

一呼吸。

「甘いマスクで警戒を解いて、あとは、こう、インキュバスの魔力的なもので、女性を支配したい。

 分かるだろう?女性だって馬鹿じゃあない。顔だけじゃ思い通りにはならない。後押しとしての、プラスアルファがいるんだ。

 そして女性を、僕のためにだけ動き、考える。僕だけの人形にしたい。そして気が向いたときに、僕はその体を貪るんだ。

 女性は、僕のその貪りにも、強い快感を覚える。そして一層、僕に溺れていく…そして最後に」

一呼吸。

「捨てるんだ。飽きたおもちゃのように、一片の悔いも無く」

語る僕を、幼女は苦い顔で見ている。

「歪んでるね」

「うん。自覚してる」

僕はブサイクな顔でブサイクに笑う。

「正直そんな願い、叶えたくない…けれど、そうも行かないね。

 あなたが手違いで死んでしまったのは、私のせいなんだし…」

幼女は苦い顔のまま、右手をゆっくりあげる。そしてあげたてを、僕の目の前にかざす。

視界が幼女の手のひらに覆われる。まぶたが少しづつ重くなり、落ちてくる…。

「その望み、叶えるよ。えーっと…超絶イケメンインキュバス?あなたをそれに生まれ変わらせてあげる」

「楽しみだ」

「けどね、」

幼女は続ける。

「けどね、この世界じゃダメ。この世界は私のお気に入りだから。

 あなたなんかに荒らされたくないの。わかるでしょ?

 違う世界…異世界に飛ばすね。そこでインキュバスとして生きてね」

――そんな、はなしが違う。僕はこの世界で、この世界の女性に――

僕は抗議の声をあげたつもりだったが、口は動かなかった。

視界が、そして思考がどろどろとした闇に飲まれていく。

僕の意識はそこで切れる。







気づくと、そこは平原だった。

膝のあたりまで草が生い茂り、風に合わせてさわさわと揺れた。

上を向けば青空。澄んだ青色に、思い出したように雲の白色が混じる。

下は緑、上は青。それらは延々と伸びて、地平線で交わっている。

「うわぁ…」

思わずため息。模範的現代っこである僕は、こんな広い平原など見たことが無かった。

空気は少し冷えていて、透き通るようなにおいがする。

「ここは異世界…なのか?」

あの幼女神様は、僕を異世界に飛ばすと言った。

ここは地球ではないのだろうか?

きょろきょろとあたりを見回すが、平原と空以外のものは見つけられない。

静かだ。風に揺れる草の音しかここには無い。

「少し歩いてみるか…んん…?」

違和感…。自分の声が違う。

「あーあー…本日は晴天なり…」

やはり違う。以前の僕より、なんといっても滑舌が良い。

そして耳触りが良い。なんというか、聞いているだけで落ち着いてくる。

優しい声。思わず自分の声にうっとりしてしまう。

そういえば、背も高くなっている気がする。

視線を下に、自分の体へと移す。

簡素な、茶色い布の服を着ていた。ズボンも同様。ポケットすらない。アクセサリーの類も何も無い。

靴は何かの皮…だろうか。これも茶色。靴下は無い。臭くなりそうだ。

なんとも、まぁ、芋くさい服装だった。

しかし、しかしだ。それを着ている僕の体はどうだ?

引き締まった体…細身ではあるが、腹を触ってみるとなかなかに筋肉質だった。

そしてすらりと長い足。その見事なバランス。

手を見ると、細く長い指。綺麗な爪。腕毛も生えてない。

今までの僕とは大きく違う。

なるほど、確かに生まれ変わっているようだ。

顔がみたい、と僕は思った。自分の顔が見たい。

あのブサイクだった僕の顔は、どう変わっているのだろう。胸が高鳴る。


草原を少し、当ても無く歩くと、泉が見つかった。

僕は小走りで駆けていく。

泉の脇で、一度深呼吸する。スーハー。心臓がどくどくと鳴る。緊張している。

僕は固く目を瞑った。そしてそのまま泉を覗き込むように頭を動かす。

「えーい、ままよ!」

僕は目を開く。


ああ。

泉に写るのは、超絶イケメン。震え上がるほどの美少年。

さらさらと流れる、短く整えられた金髪。

意思の強さが現れている眉。

その下には、少し鋭く二重の、大きな青い瞳。

しゅっと高い鼻。桜色の唇。

形の良い輪郭に、そのそれぞれが、最高のポジションを位置どっている。

年は19…いや、17ほどだろうか?

ああ。

僕は馬鹿みたいに自分の顔に見惚れていた。

これは僕なのか?手で顔を触ると、水面の僕もそれに習う。

これは僕なんだ。

思わず笑みが零れる。水面の僕も笑う。並びの良い、白い歯が覗く。

それはまさに、万物を魅了する魔性の笑み。これが…僕の武器。

異世界に来てしまったのは、少々予定外ではあったが、やることは変わらない。

「女性達を魅了して、ぼろ雑巾のように酷使して、そして捨ててやるんだ」

零れた言葉は、その内容に反して甘い声色。

意地悪く笑う水面の僕は、それでも超絶イケメンなのだ。


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