表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

年賀状

作者: コメタニ

「ねえあなた、これ見て」

 元日の昼過ぎの事だった。こたつでおせち料理をつまみながら日本酒をちびりちびりとやっていると、妻が部屋に入ってくるなり一枚の年賀状を差し出した。もう片方の手には年賀状の束を持っている。もうおかしくてたまらないといった表情をしている。

「なんだよいったい」

「これなんだけど、おかしいの」

 見るとその年賀状は大学時代の友人から送られたものだった。もうすっかりと付き合いも途絶えてしまい、年に一度交わす年賀状だけが繋がりとなって久しい。

「佐野からじゃないか、これがどうしたの」

「裏を見てみて」

 受け取ったはがきを言われるままにひっくり返してみると、そこには今年の干支が描かれてあった。プリントされた状態で販売されている『ありもの』の年賀はがきで、あいさつ文が手書きの毛筆で書かれている。


謹賀新年

 今年も残り少なくなりました

  どうかお身体にお気を付けください


「ぷっ」思わず私は吹き出してしまった。

「ね、おかしいでしょ」

 妻はこらえきれないといった風に笑い出す。

「ほんとだ、そそっかしいなあ。『今年も残り少なくなりました』だって」

「佐野さん、これを書いている年末の気分でそのまま書いちゃったのかしら」

 ふたりで大笑い。正月からご機嫌な気分だ。

 そのときだった。いきなり地面からドンと突き上げられる衝撃を感じたかと思うと家中ががたがたと大きな音をたてて揺れ出した。演芸番組をだらだらと流していたテレビが突然切り替わり、画面ではアナウンサーが険しい表情で叫ぶように同じ言葉を繰り返していた。

「緊急警報です。緊急警報です。身の安全を確保してください」

 アナウンサーの後ろでは、東京だろうか、たくさんの高層ビルが次々に崩れていく様子を映し出していた。私と妻は立ち上がることさえ出来ずに抱き合ったままぶるぶると震えているのが精いっぱいだった。

『そういえば佐野は予知能力があるとかいってたなあ。あの頃はおかしな奴だと馬鹿にしていたが。残り少ないとはこういう意味だったのか』

 家中の家具が倒れ転げまわる轟音と柱のミシミシという音を聴きながら私は考えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] コメタニさんらしいオチのホラーでしたね [一言] 震災のトラウマって云っても大きな被害の出ていない地域の人の方が多く患っているからねぇ 免震、制震、耐震、補強の建物の動きの違いを間近で…
[一言] 書いている時点の気持ちでなくて、未来の気持ちを綴る年賀状って、よく考えると面白い文化だなあと思わされました。 不謹慎だなんて、全く思いませんよ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ