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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
3章 漆黒の暗殺者
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暗殺

 とある国の領主の屋敷。


 真っ白い大理石で造られた床と非常に高価な装飾で彩られた屋敷が、今は直視することすら憚られる程惨状と化していた。


 壁や床の至るところはまるで爆発が起きたかのように砕けており、装飾品の数々は最早ガラクタと化している。


 そして、そこには無数の死体が転がっていた。


 屋敷に使えている執事やメイド全員の首は刎ねられており、まるで地獄絵図のような光景が広がっていた。


 そんな中、1つだけ動く姿があった。


 無数の死体が転がる中、唯一生存していたのはこの館の主である領主だった。


 「何が……起きたと言うのだ……」


 領主は訳が分からないと言ったように呟いた。


 それは突然の出来事だった。


 いつものようにメイド達が用意した夕食を食している時に突然、屋敷中の灯りが消えたと思ったら執事やメイド達の悲鳴が聞こえ始め、しばらくすると悲鳴はピタリと止まった。


 領主は光魔法で灯りを灯した時には、従者全員の首が刎ねられている状況だった。


 「誰が……こんな酷いことを……!」


 従者を全員殺されて怒りを抑えきれない領主。


 「俺だよ、そいつらを殺ったのは……」


 「――ッ!?」


 ややかすれた声。突然話しかけられて警戒しながら声のする方へと振り向く。


 部屋の隅の薄闇からぼんやりと浮ぶ影。それが領主に近づいてくる。


 「お前がこの屋敷の領主だな……?」


 「貴様は……」


 領主の鋭い眼光がその人物の爪先から頭まで撫で上げた。


 やや奇抜な格好をした男だった。全身を黒装束で纏っており、肩から腰にかけてベルトをクロスで巻いている。部屋が薄暗いせいでハッキリとは見えないが後頭部に流した髪は金髪と黒髪の2色に染め分けられている。大柄という訳ではないが手足は非常に長く、その長い両手には禍々しく刃が反っている2本のショーテルが真っ赤に染まっている。


 「貴様が私の従者達を殺したのか!?」


 「そうだ、お前を殺す前の準備運動に殺した。それがどうした?」


 「貴様!?」


 領主は床に転がっていた護衛が使用していた剣を拾い上げ、男に斬り掛かる。領主は幼少の頃から剣術を嗜んでおり、その腕は貴族の中でも上位に位置する腕前だった。


男は領主の剣を避けると、ニヤリと笑みを浮かべる。


 「ひゃははは! いいぞ、もっと怒れ、憎め、もっと昂れ! そして俺をもっと楽しませろ!」


 「この、狂人が……!」


 楽しげで猛猛しい笑みを浮かべながら挑発する男の態度に領主の怒りは増すばかり。


 暫く打ち合う2人だったが、次第に領主が押されていく。


 「おいおい、どうした? もうへばったのか? 俺はまだ昇りつめちゃいないぞ?」


 「――くっ……!?」


 打ち合い続けることによって体力が消耗していく領主に対して、男は打ち合うごとに更に威力もスピードを上げてくる。


 「くそ、死ね!」


 押されて後がないと思った領主は最後の一撃として渾身の一撃を男に見舞う。


 だが――


 「チッ、こんなもんかよ……」


 「何……!?」


 男は領主の一撃を片手のショーテルで意図も簡単に受け止めると、ガッカリしたかのように溜め息を吐く。


 「剣術の腕が良いと聞いていたから楽しみにしていたんだが、この程度だなんて拍子抜けだぜ……。もういい――死にな」


 そう言って男は、もう片方のショーテルで領主の首を刎ねる。


 領主の首は床に転がり、首の切断面から大量の血が噴出して床を赤く染め上げる。


 「今回もダメだった……。俺を昂らせる相手じゃなかった……。いつになれば俺は上り詰めることが出来るんだ……?」


 男は領主の遺体を見つめながら不満げにブツブツと呟き始める。


 「終わりましたか?」


 廊下側の扉から現れたのは顔を覆面で隠した黒装束の暗殺者。声からすると女性――否、少女のものだった。


 「ああ、そっちも済んだのか……?」


 「ええ、例の書類はここに。警備兵には眠ってもらっていますから我々の正体がバレることはないでしょう。それにしても、貴方はまた暗殺対象以外の人を殺したようですね……」


 「お前の方は相変わらず必要最低限の殺ししかしないようだな。外の警備兵も殺さずに眠らせただけのようだし、俺のように皆殺しにした方が手っ取り早いのによ」


 「私を貴方と一緒にしないでください」


 少女は心底不愉快だと言わんばかりに男を睨み付ける。


 少女の鋭い視線を受けて、ケラケラと男は笑う。


 「お、いいねいいね。俺と殺ろうってのか? 俺と一緒る滾るか?」


 「……貴方には付き合っていられません。任務は終わりました。引き上げましょう」


 「へいへい、分かったよ」


 男はショーテルを鞘に仕舞うと、そのまま闇へと消えてしまった。


 少女も男に続こうとしたが、不意に身を翻して亡き領主の遺体に視線を向けると――


 「本当に、ごめんなさい……」


 そう呟いて、少女の姿は闇の中へと消え去るのだった。


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