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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
2章 創世樹の森
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アルミラージュ

 宿屋で一晩を明かした煉太郎達は早朝から買い物をする為に市場へと赴いていた。


 「賑やかですね、流石は公都の市場です!」


 市場の騒がしい程の活気に目を爛々と輝かてスキップしそうな勢いで歩いているセレン。


 ラナファスト大森林では手に入らない食材で作られた料理、飼育されているモンスター、曲芸や手品をしている大道芸など、目に映るもの全てが新鮮に見えているのだろう。


 まるで子供のようにはしゃぐセレンを後ろに、煉太郎達は苦笑いしながら歩いていた。


 「お、そろそろ時間だな」


 買い物を終えた頃、村人青年との待ち合わせの時間に気付いた煉太郎。


 「確か待ち合わせ場所は正門でしよね? 行きましょうか」


正門へと向かうことした時――


 「――わきゃっ」


 「っと――ふらふらしてんじゃねえぞてめえ!」


 チンピラ冒険者にぶつかったセレンはバランスを崩し、そのまま尻餅をついてしまう。


 そして――


 「おいおい、こいつエルフ族じゃねえか!」


 倒れた時にフードが外れたのか、チンピラ冒険者にセレンがエルフ族だとバレてしまった。


 「エルフ族……」


 「エルフ族よ……」


 「どうしてこの公都に……」


 慌ててフードを被り直すセレンだが時は既に遅く、チンピラ冒険者が大声で騒いだせいで周囲にもセレンがエルフ族だと知られてしまう。


周囲の反応からやはりエルフ族は快く思われていないようだ。


 「……」


 周囲から疎ましい視線を向けられて黙り込んでしまうセレン。


 「そう言えば、騎士団が最近出現する植物モンスターについて調査しているらしな。噂ではエルフ族が関係しているって言われているし、こいつを騎士団に連れていけば報酬が貰えるんじゃね? こんな街中でエルフ族を発見するなんて俺ってラッキーだな! おいお前、ちょっと俺に付いてきて貰うぞ」


 そう言ってチンピラ冒険者はセレンの腕を強引に引っ張て騎士団本部に連れて行こうとする。


 その瞬間――


 「汚い手で俺の仲間に触ってんじゃねえよ……」


 「――がっ!?」


 額に血管を浮かせた煉太郎のアッパーがチンピラ冒険者の顎に炸裂。チンピラ冒険者は綺麗に放物線を描いて宙に浮き、そのまま地面へと叩きつけられることになる。


 「「「「「「「「「「………………」」」」」」」」」」


 他の冒険者もエルフ族であるセレンを捕らえようと様子を伺っていたが、今はそのような気配はない。


白目を剥けて気絶しているチンピラ冒険者は公都でも名のある冒険者であった。そんな彼を一撃で倒した煉太郎の実力を目の辺りにして、下手をすれば自分達もあのような目に遭うと思って諦めたようだ。


 「レンタロウさん、ありがとうございます……」


 「気にするな」


 少し照れ臭そうに頬を掻く煉太郎。


 そんな様子の煉太郎を見て、セレンも少し嬉しそうに頬を赤らめる。


 煉太郎がチンピラ冒険者を殴り飛ばしたのはセレンの為だ。セレンが煉太郎達と同行をすることになって短い時間だが、既にセレンのことを仲間として扱っているようだ。


その煉太郎の気持ちが何よりも嬉しく思うセレンだった。


 「おい、何を騒いでいるんだ!?」


 騒ぎを聞き付けて巡回中の騎士団員が駆けつけてきた。


 「レンタロウ、これはちょっと不味い状況なんじゃないかな?」


 「逃げるぞ!」


 「あ、待て!」


 騎士団員に捕まれば厄介なことになると思った煉太郎はフィーナとセレンを抱えて正門へと全速力で走る。


 追ってくる騎士団員を振り切って正門に到着すると、馬車を待機させて待っている村人青年が丁度手続きを終えていたところだった。


 「あ、レンタロウさん。待ってましたよ。おや、そちらの方は?」


 「説明は後だ。急いで馬車を動かしてくれ」


 「あ、はい。分かりました……」


 煉太郎に言われるがまま急いで馬車を走らせ、煉太郎達は公都を離れてアルバ村へと向かうのだった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 公都を離れて1時間が経過した。


 「いや~、まさかエルフ族を乗せることになるとは、レンタロウさんにはつくずく驚かされますよ」


 ゴトゴトと馬車に揺られながら御者台の青年が嬉しそうに呟いた。


 エルフ族は基本森でしか過ごさない種族で、滅多なことでは姿を現さないので感動しているのだろう。


 「初めての馬車、感動です!」


 セレンも初めて乗る馬車にテンションが上がっているようだ。


 そんなセレン達を他所に、フィーナが荷台から顔を覗かせると――


 「ん、あれはモンスターかな?」


 街道から離れた場所にモンスターの集団を発見するフィーナ。


 「「「「「「「「「「クゥクゥクゥクゥクゥ」」」」」」」」」」


 そこにいたのは1メートル近い体格、ぴょこぴょこと揺れる長い耳に、赤い瞳、白と茶色が混じったような毛並み、ふさふさの尻尾、額には1本の鋭い角を生やした二足歩行の兎だった。


 「あれはアルミラージだな……」


 『アルミラージ』


 ランクEの兎型モンスター。


 可愛らしい見た目とは裏腹に非常に好戦的で狂暴。雑食で牛等の家畜を襲い、人間も補食対象にして食べる。


 嗅覚、聴覚に優れており、特に聴覚は100メートル先の音まで判別出来る程。


 毛皮は衣服等の素材に、肉は食用として使われる。


 「数は10、距離は300メートルと言ったところか……」


 「私に任せて下さい!」


 自信満々の言葉を言い、背中に背負っている創世樹の弓を構えるセレン。弦を引くと魔力で構成された風の矢が出現し、狙いをアルミラージに定める。


 「おいおい、アルミラージのいる場所まで300メートルもあるんだぞ? 流石のセレンでも――」


 ヒュンッ!


 風の矢は風を切って飛び、300メートルも先にいるアルミラージの頭部に深く突き立つ。


 「「「「「「「「「クゥッ!?」」」」」」」」」


 突然仲間の1匹が襲われて驚くアルミラージ達。その瞬間には、既に2本目、3本目の矢をセレンは放っていた。


 それはまたしても、アルミラージの頭部を寸分たがわず射抜く。


 「おお、凄いな……」


 300メートルも先にいる豆粒のようにしか見えないアルミラージの頭部を的確に射抜くセレンに感嘆の声を漏らす煉太郎。


風の力によって飛距離と威力を向上させる創世樹の弓の性能もそうだが、1番驚くべきところは遠くに離れている的を的確に射ることが出来るセレンの視力だろう。


 煉太郎の視力は実験の影響でかなり高くなっている。そんな煉太郎でさえ300メートルの距離となると視認するのは容易ではない。どうやらセレンの視力は常人以上のようだ。


 「アルミラージ、討伐完了です」


 「ごくろくさん」


 残りのアルミラージを射抜いたセレン。アルミラージの死体を異空間に収納して、煉太郎達はアルバ村へと向かうのだった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 「そろそろ野営の準備に取り掛かりましょうか?」


 太陽が沈みそうになる時刻に馬車を止める青年。


 「今日の夕食はアルミラージュの肉を使った料理にしようか。セレン、アルミラージュの解体を手伝ってくれ」


 「分かりました」


 「私も手伝うよ」


 3人でアルミラージュを手際よく解体していく。


 「それで、このお肉でどんな料理を作るの?」


 「実は兎の肉は俺も初めてなんだ。だからシンプルにステーキにしようと思っている」


 まずは解体した肉に塩と胡椒を刷り込み、下味をつける。


 熱したフライパンに油を敷いて肉を投入し、表裏良く焼いたところでバターを入れて香り付けをする。


 焼けた肉を皿に移して、肉を焼いたフライパンにスライスしたにんにくを焼き醤油とみりんを加えて煮詰める。


 最後に煮詰めたにんにくソースを皿に乗せた肉に掛け、野菜を盛り付ける。


 「にんにく醤油ステーキの完成だ」


 煉太郎はそれぞれのステーキを乗せた皿と、今回は醤油を使ったステーキなのでパンではなくあらかじめ炊いておいたライスを配っていく。


 「「「いただきます(クルルルル)」」」


 一斉にステーキを頬張る。


 「「「美味いな。これが兎の肉の味か。豚――いや、鶏肉に近いか」


 初めて食べる兎肉を絶賛する煉太郎。


 鶏肉のようにやや噛み応えのある食感、淡白でいて上品な味。肉を噛み締める度に肉汁が溢れ出て、にんにくの香りが鼻を刺激する。


 そんな兎肉の旨味を引き出しているのはにんにくと醤油を使用したソースだった。


 (やっぱりにんにく醤油にはパンより米が合うよな)


 煉太郎はステーキを口の中に残しながらライスを口に運ぶ。


 単体では濃いめに感じるステーキがライスと共に食すことで絶妙な組み合わせへと変化する。ステーキ一口でライスが何杯でも行けそうな気がした。


 「このステーキ美味しいよ、レンタロウ!」


 「このソースも兎肉の旨味を最大限に活かしていますね」


 「クルルルル!」


 「このステーキとライスの組み合わせはまさに運命ですね」


 他の皆もステーキを気に入ってくれたようで、満足げな様子の煉太郎。


 「レンタロウ、おかわり!」


 「私もお願いします」


 「クルルルル!」


 「あ、僕にも頂けますか?」


 「まだまだ焼いてやるから、そんなに焦って食べるな」


 煉太郎達はアルミラージュのにんにく醤油ステーキを存分に楽しむのだった。

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