表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
9/139

夢と不安

 薄暗く、不気味な洞窟のような場所に愛美は1人で佇んでいた。


 縦横5メートルはある通路は薄く発光している。


 周りを見渡しても人1人もいない……。愛美だけがその場にいた。


 「ここは何処? 凛ちゃーん! 荒神くーん! 誰かいないのー!」


 親しい友人の名を呼ぶが、反応がない。愛美の声が虚しく洞窟中に響き渡るだけだった。


 仕方なく洞窟の奥を進む愛美。


 しかし、どれだけ歩いても出口が見あたらない。進んでも進んでも洞窟が続く。


 「皆……何処に、いるの……?」


 不安と寂しさに思わず泣き出しそうになる愛美。


 すると――


 「荒神、くん……?」


 ふと視線を洞窟の奥に向けると、そこに見覚えのある人物の姿があった。


 ――煉太郎だ。


 「荒神くん!? 良かった、私だけじゃなかったんだね!」


 愛美は急いで煉太郎の元に駆け寄る。


 しかし、煉太郎は一瞬だけ微笑むと、何も言わずに洞窟の奥へと進む。


 「待ってよ荒神くん!? 私も一緒に連れていってよ!」


 必死で走り、呼び掛ける愛美。


 しかし、煉太郎は愛美に振り向きもせずに無言で洞窟の奥へと進む。


 「待って!」


 煉太郎は歩き、愛美は走っているはずなのに距離が徐々に引き離されていく。


 「お願い、止まって! 荒神くーん‼」


 そして煉太郎は洞窟の闇へと消えてしまった。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 「――ッ!」


 目覚めると、そこは愛美が泊まっている宿泊宿・『安らぎ亭』の自室だった。


 愛美は荒れた呼吸を整えて、汗を拭うとゆっくりと身体を起こす。


 「……すぅ……すぅ……」


 視線を横にずらすと愛美の親友である凛が可愛らしい寝息を立てて眠っている。


 「……夢?」


 どうやら愛美は夢を見ていたようだ。


 「それにしても嫌な夢だったな……」


 そう呟くと、愛美は机の上に置いてあるハート型のペンダントを見る。


 愛美にとって大切な人から貰った初めてのプレゼント。


 愛美はペンダントを手に取ると、それをじっ、と見つめた。


 (ただの夢、だよね……?)


 愛美はそう思いながら、ペンダントを握り締める。


 「荒神くん……」


 愛美の胸中には、得体の知れない不安が生まれる。


 その日愛美は、眠れぬ夜を過ごすことになるのだった。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 翌日。


 煉太郎達はバルロス迷宮の正面入口がある広場に集合していた。


 誰もが未知への好奇心と不安を表情に浮かべていた。


 広場には様々な露店があり、帰還した冒険者がダンジョンで入手した素材や薬草などを売却していたり、これからダンジョンに挑戦するために仲間を募集していたり、作戦会議を行っていたりしている。


 ダンジョンの入口はまるで博物館の入場ゲートのようなしっかりとした入口であり、その付近には受付窓口ある。


 制服を着た受付嬢の女性が営業スマイルで冒険者の対応をしている。


 これは出入りをチェックして記録することで死亡者数を把握するためで、魔人族との戦争を控えた現状、多くの死者を出さないための措置のようだ。


 全員無事に受付を終えると、ダンジョンの入口前に集合する。


 「よし、これからダンジョンに入る! 皆、気を抜くなよ!」


 「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」


 煉太郎達はお上りさん丸出しで周りをキョロキョロと見渡しながらレクター団長に付いて行く。


 すると――


 「ねぇ、荒神くん……」


 初めてのダンジョンに少しはしゃいでいる煉太郎に愛美が話し掛けて来た。


 昨日煉太郎がプレゼントしたハート型のペンダントを身に付けている。想像していた通り、愛美に良く似合っていた。


 「どうした、櫻井?」


 愛美の表情はいつもと違い、暗い感じの雰囲気だった。


 よく見れば、化粧で隠してはいるが色濃い隈がある。昨日の夢を見た後、眠ることが出来なかったのだ。


 愛美の隈を見て、煉太郎は心配そうな表情を浮かべる。


 「大丈夫か、櫻井? 気分でも悪いのか?」


 「だ、大丈夫だよ! それより荒神くん、これを受け取ってくれないかな……」


 愛美は青色の液体が入った小さい瓶を取り出すと、それを煉太郎に渡す。


 「これは……もしかしてハイポーションか?」


 「うん、もしもの時は使ってね……」


 愛美が煉太郎に渡したのはハイポーションと言う液体型の薬で飲めば体力を回復させ、傷を癒す(失われた部分を再生することは不可能)薬品だ。


 稀少な薬草や強力なモンスターの素材をを使用しているため、高価格の値段で販売されている。


 どうしてもあの夢のことが頭から離れなかった愛美は朝早くに薬屋に行って、所持金の殆んどをはたいてこのハイポーションを購入したのだ。


 「こんな高価な物を……。ありがとう、櫻井。俺、皆の足を引っ張らないように頑張から」


 そう言って、笑顔を見せる煉太郎。


 煉太郎の笑顔を見て、少しだけホッとする愛美。


 (大丈夫だよね……。だって皆がいるんだから。それに何かあれば私が荒神くんを守ればいいんだから!)


 夢のことを振り払い、そう決心すると、いつものように明るい表情をする愛美。


 「頑張ろうね、荒神くん!」


 「ああ」


 愛美とそのようなやり取りをしていると、ふと視線を感じて思わず背筋を伸ばす煉太郎。


 負の感情がたっぷりと乗った嫌な感じの視線。


 今まで訓練場などで感じていた類の視線だが、それとは比べ物にならない程深くて重いものだった。


 「? どうかしたの、荒神くん?」


 「いや、何でもない……」

 

 そう言って、煉太郎は視線をダンジョンの入口に向ける。


 そして、煉太郎達は初のダンジョン――バルロス迷宮の内部へと足を踏み入れるのだった。

次回はモンスターとの初戦闘です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ