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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
2章 創世樹の森
88/139

同行

 創世樹での一件を終えて、煉太郎達はエルフの里へと戻ることにした。


 ちなみにセレンは煉太郎達と別れて自宅に戻ることになった。父親を失ったことが余程ショックだったようで、暫く1人になりたいと言ったのだ。


  「何と言う有り様でしょう……」


 エルフの里へと帰還したシスリカの目に移ったのは、悲惨とも言える光景だった。


 巨木に建てられている家はことごとく破壊されており、エルフ達の中には重傷を負っている者もいる。恐らくローランが従わせた植物モンスターのせいだろう。


 「おお、長老だ……!」


 「長老がお帰りになられたぞ!」


 「ご無事でしたか!」


 シスリカが無事に帰還したことにより、エルフ達は安堵の息を吐く。


 エルフ達によれば、煉太郎達が聖域へと向かった後、ローランが植物モンスター達を従えてエルフの里を襲ったようだ。


 圧倒的な植物モンスターの数に流石のエルフ達も為す術がなく、捕らえられてしまった。ローランは煉太郎達を始末した後、植物モンスターの軍勢を作るべく、マンドラゴラへの生贄にするつもりでエルフ達を捕らえていたようだ。


 暫くの間は植物モンスターによって包囲されて身動きが取れない状況だったが、煉太郎達がマンドラゴラを討伐したことにより植物モンスター達は消滅し、解放されたようだ。


 詳しい詳細を聞き、シスリカはまず怪我人の治療を始める。


 「酷い怪我ですね。治療をしましょう。〝癒しの光よ――ヒール〟」


 詠唱が終わると、シスリカの手から淡い光が放たれ、怪我を負っているエルフの傷口を治療していく。


 「レンタロウ……」


 フィーナが懇願するような眼差しを煉太郎に向ける。自分もシスリカを手伝いたいと言いたいのだろう。


 「分かった、良いぞ」


 煉太郎の言葉にフィーナはコクリと頷くと、エルフ達の治療に取り掛かる。


 最初は余所者であるフィーナに治療されると言う事態に困惑し、敬遠しようとするエルフ達だがフィーナの真剣な表情に次第に心を許すようになり、治療を受けることにした。それでも抵抗しようとするエルフには煉太郎が強烈な殺気を浴びせさせて大人しくさせて治療を受けさせた。


 フィーナとシスリカにより、負傷したエルフ全員の治療が終わる。


 「長老、どうしてローラン様はあのようなことを?」


「その理由をお話ししましょう」


 1人の老エルフがローランについてシスリカに問うと、シスリカは聖域で起きた出来事、そして彼が同胞を騙して裏で何をしていたのかを嘘偽りなく里のエルフ達に話した。


 「そんな……」


 「嘘だろ……」


 「ローランさんがそのようなことを……」


 複雑そうな表情をするエルフ達。彼等にとってローランは尊敬に値する人物だったのだ。


そんな彼が同胞を騙し、あまつさえ自分達をマンドラゴラへの生贄にしようと考えていたと言う真実に信じられないと言った様子だ。


 そんなエルフ達をシスリカは宥めると、煉太郎達に向き合う。


 「まだお礼を言っていませんでしたね。レンタロウさん、フィーナさん。貴方達のお陰で我々エルフ族は――このラナファスト大森林は救われました。本当にありがとうございます」


 シスリカはそう言って深く頭を下げる。それに次いで他のエルフ達も頭を下げ始める。


 「お礼と言ってなんですが、お祝いの席を設けたいと思っているのですが、どうでしょうか?」


 「いや、俺達はそろそろこの森を出ようと思う」

 

 シスリカの誘いを断る煉太郎。


 煉太郎達がラナファスト大森林に来た目的は魔動ジープ製作に必要な月光花を採取することだ。成り行きでラナファスト大森林の異変を解決することになったが、明日にはアルバ村に戻らなくてはならない。まだ食料等の調達もあるので煉太郎は早々に公都へ戻ることを決めたようだ。


 「レンタロウ、公都に戻る前にセレンに挨拶だけはしておきたいな……」


 「……そうだな」


 セレンとは短い間だったが、それなりに仲良くなった間柄だ。別れの挨拶なしに公都に戻るのは流石に非情だと煉太郎は思ったようだ。


 「一度セレンの家に行くとするか」



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ☆



 エルフの里を後にした煉太郎達はセレンの家へと向かう。


 「さて、どの面下げてセレンに会えばいいのやら……」


 セレンの家を前にして煉複雑な表情を浮かべる煉太郎。


 仕方がない状況だったとは言え、煉太郎はセレンの父親を殺したのだ。


 後悔はしていないがセレンから別れ際に何か言われるのは明確。今頃セレンは父親を失って悲しみに暮れているだろう。そんなセレンにどのような顔をして会えばいいのか、煉太郎には分からないのだ。


 そんな煉太郎にフィーナは「きっと大丈夫だよ」と手を握ってくる。少しでも気持ちを落ち着かせようとしてくれているのだ。


「ありがとう」


 煉太郎はそうと言ってフィーナに微笑む。


 「よし」


 覚悟を決めて家のドアを開ける。


 すると――


 「あ、レンタロウさん、それにフィーナさんも!」


 ドアを開けると、悲しむどころかいつもの明るい表情のセレンが迎えてくれた。


 (……俺のことは怒っていないのか?)


 父親を殺した帳本人を目の前にしていると言うのにいつもと変わらぬ態度のセレンを不思議に思う煉太郎。


 「……ん? あの荷物は何なんだ?」


 煉太郎が視線を部屋の隅に移すと、そこには大量の荷物が積まれたリュックサックが置かれているのに気がついた。よく見ると、部屋も綺麗に整頓されていた。


 「あれですか? あれは旅に必要な物が入っているんです」


 「旅?」


 「はい。私はレンタロウさん達と一緒に旅をすることに決めました」


 「「……………………はい?」」


 予想外のセレンの言葉に煉太郎とフィーナの目が点になり、思わず間抜けな声で問い返してしまう。


 「私、お母さんの話を聞いてずっと森の外に憧れていました。いつか森を出て外の世界を見て回ることが私の夢でした。お母さんを失い、お父さんまで失った私にはもうこの森に留まる必要がありません。だからお願いです。私も皆さんの旅に同行させてください!」


 セレンの懇願に思わず動揺を隠しきれない煉太郎。


 「こんなことを自分で言うのもなんだが、理由はどうであれ俺はお前の父親を殺した奴なんだぞ? そんな俺と一緒に旅をするなんて正気の沙汰とは思えないんだが……」


 「……確かにレンタロウさんはお父さんの命を絶ちました。ですが私はレンタロウさんを恨んだりなんかしていません。レンタロウさんのお陰でお父さんは長い苦しみから解放されたんですから」


 「そうか……」


 セレンの言葉に煉太郎の心は何処か晴れ渡る気分になる。


 「それに、私はレンタロウさんのことを恨むどころか……」


 不意にセレンの顔が煉太郎の顔に近づき――


 「――ッ」


 一瞬、煉太郎の口元に軽くセレンの唇が触れた。


 「好きになりましたから」


 頬を赤く染めながら、セレンが微笑む。


 「あああああああああああっ!?」


 セレンの突然のキスに思わず大声を上げるフィーナ。


 告白と同時にキスまでされた煉太郎はと言うと――


 「……」


 まるで鳩が豆鉄砲を食ったかのようにポカンと硬直したまま動かなかった。行き成りキスをされれば流石の煉太郎も硬直するだろう。


 思考が停止していた煉太郎だが、暫くしてようやく思考が回復し始める。


 「いやいや、ちょっと待ってくれ……。どうして俺に好意を抱くことになるんだ?」


 「煉太郎さんの厳しくも優しいところに惚れました」


 死を望むレイモンを本来なら娘であるセレンがその手にかける筈だった。だが、セレンは親殺しと言う罪を背負うことに堪えきれなかった。そんなセレンの代わりに煉太郎はその罪を背負うことにした。その煉太郎の優しさがセレンの心を射止めたようだ。


 「……俺にはフィーナがいるんだが」


 「でしたら愛人でも構いませんよ?」


 「……」


 煉太郎の予想を斜め上に上回るセレンの言葉にどう返せば良いのか分からない煉太郎。


 (こうなったらフィーナに何とかして貰おう……)


 助けを求めるかのように、煉太郎は視線を恋人であるフィーナに向ける。目の前で恋人の唇を奪われて怒りを露にすると思ったのだ。


 しかし――


 「レンタロウの良さが分かるなんて、セレンは男を見る目があるね」


 怒るどころかまさかの称賛を贈るフィーナ。どうやらセレンを旅の同行に加えることに賛成のようだ。


 「フィーナ……」


 そんなフィーナにガクリと肩を落とす煉太郎。


 「……セレンの好意は嬉しいと思う。だが、セレンを俺達の旅に同行させる訳には行かない」


 「ど、どうしてですか……!?」


 同行の申し出を断られて思わず聞き返すセレン。


 「それはだな……」


 煉太郎は今に至るまでの経緯をありのままセレンに話すことにした。


 自分がこのラディアスの住人ではなく、魔王討伐の為に別の世界から召喚された人間であること。自分達の旅の目的が故郷である世界に帰還すること。そして煉太郎の世界は人間ではないハーフエルフのセレンにとっては住みにくい世界だと言うことを。


 「だから、お前を一緒に連れていくことは出来ない。済まないが諦めてくれ」


 「……」


 煉太郎の言葉に黙り込むセレン。


 しかし――


 「それでも私はレンタロウさん達に付いていきます」


 覚悟を決めた目で煉太郎を見つめるセレン。諦めようとしないセレンに、煉太郎は言葉を続ける。


 「もう1度言うが、俺の世界はお前にとっては住みにくい場所なんだぞ? もしもお前がエルフだと知られれば世間はお前を放っては置かないだろう」


 「それは今のレンタロウさんも同じことだと思いますよ? それにフィーナさんを連れて行くなら私も連れて行っても問題ないはずですよ?」



 「……諦めるつもりはないのか?」


 「ないです。だからお願いします。私も旅に同行させてください」


 再度頭を下げるセレン。


 「……」


 何を言っても折れないセレンに黙り込む煉太郎。


 「レンタロウ、セレンを一緒に連れて行ってあげようよ」


 「フィーナ?」


 「セレンに何を言っても無理だよ。それにセレンと一緒にいるのは楽しいから」


 「クルル……」


 セレンに続いてフィーナとクルにまで懇願される煉太郎。フィーナにとってセレンは初めて出来た友達、クルもセレンに懐いている。フィーナ達としてはセレンとここで別れたくはないのだろう。


 「……はぁ」


 やがて煉太郎はガリガリと頭を掻いて溜息を吐くと、部屋の隅に置かれているセレンの荷物を異空間に収納する。


 「好きにしろ……」


 旅の同行を許す煉太郎の言葉にフィーナ達の表情が明るくなる。


 「はい! 好きにします!」


 こうして煉太郎達の旅のメンバーにセレンが加わることになった。


そんな時だった--


 「やはり、旅に出るつもりだったようですね」


 突然の声に振り返れば、扉を開けて入室しているシスリカと妖精の姿があった。


 「シスリカ様に妖精様。どうしたんですか、こんな所に?」


 「何となく貴方がこの森を出ていこう考えていたのを感じましてね。見送りをしようと思いまして。それに妖精様がどうしても貴方達にお礼をお渡ししたいと仰りますから」


 「そうそう、貴方達には感謝仕切れない程の恩があるからね。特別にご褒美を上げようと思って来て上げたのよ。まずはセレン、貴女にはこれを授けるわ」


 ニンフが徐に手を振ると、セレンの頭上から両手を伸ばした長さの枝が落ちてきたので彼女はそれを反射的に掴んだ。


 枝は大きく湾曲しており、弦がついているので弓のようだ。


 「その弓は創世樹の枝で造られた特殊な弓で、魔力を流し込めば自動的に風の力が付与された矢が作られる仕組みになっているのよ。きっと貴女の身を守ってくれる筈よ」


 「このような物を私なんかに……ありがとうございます!」


 深々と頭を下げて感謝の言葉を言うセレン。


 「次にそっちの娘ね。シスリカ」


 「はい」


 ニンフの指示に従い、シスリカがフィーナに渡したのは、虹色の液体が入った小さな瓶だった。


 「これは創世樹の雫です。あらゆる怪我や病気、異状状態を癒すことが出来る程の効果があります。もしもの時はこれをお使い下さい」


 「ありがとう。大切に使わせて貰うね」


 フィーナは創世樹の雫を受けとると、頭を下げる。


 「さて、最後は貴方ね」


 最後に煉太郎を見た妖精は彼に近付くと、その小さな手を煉太郎の額に触れる。


 「〝この者に妖精の恩恵を与える〟」


 「――ッ」


 一瞬、煉太郎の身体に異変が起きた。身体中がポカポカと暖かくなり、額には複雑な紋章が浮かび上がる。そして妖精が額から手を離すと、紋章は何事もなかったかのように消えてしまう。


 「何だ、今のは……?」


 突然の出来事に額を押さえながら困惑する煉太郎。たが、不思議と悪い気分はしない。寧ろ安心のある感覚だった。


 「貴方に『妖精の恩恵』を与えたわ。それがあれば妖精族の者は貴方を同胞として扱われるでしょう」


 妖精によると、彼女が煉太郎に与えたのは『妖精の恩恵』と言われ、妖精族が友好の証として与える代物だ。これを持つ者は全ての妖精から慕われるようになるとのこと。


 「これは良い物を貰ったな。感謝する」


 予想以上の褒美に煉太郎は感謝の礼を述べる。


 「じゃあ、そろそろ行くとするか」


 「うん」


 「はい!」


 「貴方達の旅が無事になることを祈っています」


 「元気でね」


 シスリカ達に見送られ、煉太郎達はラナファスト大森林を後にするのだった。

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