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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
2章 創世樹の森
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父親の最期

 「お父さんを……殺す……?」


 妖精の言葉に放心状態になるセレンだが、直ぐに我に返る。


 「お父さんを殺すことなんて出来ません! 何か別の方法はないのですか!?」


 セレンの必死の問いに対し、妖精は小さく首を振るう。


 「マンドラゴラの核とも言える種は彼の心臓に根を張っているわ。彼が死なないかぎりマンドラゴラは動き続けるわ」


 「そんな……」


 レイモンを助ける術がないことにセレンは深く絶望する。


 そんなセレンに、レイモンは呟く。


 「セレン、私を殺しなさい……」


 「出来ないよ……」


 「私を殺しなさい!」


 「私には出来きません……! お父さんを殺すなんて……!」


 セレンは首を振るう。


 そんなセレンの肩を煉太郎はそっと手を置く。


 「だったらその役目、俺が受けよう」


 タスラムを手に煉太郎はレイモンの元へと近づく。


 「待ってください!」


 煉太郎の袖を掴んで止めるセレン。


 「レンタロウさん、お父さんを殺さないでください! お願いします!」


 セレンの必死な懇願に対して煉太郎は鋭い目付きでセレンを見つめる。


 「……お前はいつまで父親を苦しめるつもりなんだ?」


 「――ッ!?」


 「お前の父親は10年もこんな状態だったんだぞ? それに自分の命を削ってまで今までお前を守ってきたんだぞ? もういいだろう? そろそろお前の父親を開放してもいいんじゃないか?」


 「……」


 煉太郎のとても厳しく、だけど優しい言葉。そんな心を打たれる言葉に何も言い返せないセレン。それが煉太郎なりの優しさだとセレンは気づいたからだ。今ここでとどめを刺すことが長く続いた苦しみからレイモンを救える唯一の方法。これ以上レイモンを苦しめることはセレンにとってとても耐えられそうになかった。


 「……お願い、します……」


 セレンは唇を噛んで俯きながら煉太郎に懇願する。


 煉太郎もそれ以上何も言わずに小さく頷く。


 「早くして! 結界が破られるわよ!」


 「……分かってる」


 妖精に急ぐように言われて煉太郎はタスラムの銃口をレイモンに向ける。


 「……君には申し訳ないことをさせるな。……本当に済まない……」


 「気にするな」


 平然と振る舞っている煉太郎だが、その内心は少し複雑な状況であった。


 今まで煉太郎は敵対する者に対しては容赦なく殺してきた。だが、今回は敵意がない人物を殺そうとしている。いつもとは全く違う感情が湧き出る。


 だが、それでも――


 「最期に言い残す言葉はあるか?」


 煉太郎の言葉にレイモンはセレンを見て微笑む。


 「お前はお前の人生を生きなさい……。私はいつでも……妻と共にお前のことを見守っているよ……」


 ズパンッ!


 最期の言葉と共に煉太郎はレイモンの眉間を狙い、引鉄を引いた。


 撃ち放たれた銃弾が正確にレイモンの頭部を貫き、痛みを感じることなく静かに息を引き取る。


 「お父、さん……」


 父親の最後を見届けると、全身の力が抜けてその場に座り込むセレン。


 「お父さん、ありがとう……」


 今まで自分を守ってくれていたレイモンに対する礼を述べると、セレンの瞳から一筋の涙が落ちる。


 それと同時にローランとマンドラゴラに異変が起きる。


 「ソンナ、ワタシノカラダガ、クチテイク……! イヤダ! イヤダアァァァァァァァァァァッ!?」


 悲痛の叫びと共にローランの身体とマンドラゴラは徐々に干からびていく。ローランは悪足掻きをするかのようにセレンに目掛けて触手を降り下ろす。


 「――チッ!」


 そんなローランに舌打ちすると、煉太郎は睨み付ける。


 「うるせえよ……。こんな大事な場面に気色悪い声を出すな……」


 煉太郎はローランにタスラムの銃口を向けて魔力を込めると、そのまま発砲する。


 「――ガッ」


 魔弾がローランの頭部を吹き飛ばし、その身体は枯れていたマンドラゴラと共に消滅した。


 レイモンの遺体も青白い光に包まれると、衣服だけを残してそのまま粒子となって消えてしまう。


 「お父さん……お父さん……」


 残されたレイモンの衣服を握り締めながら嗚咽を漏らすセレン。暫く彼女は泣き続けることになるのだった。



★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 気がつけば、レイモンは果てのない白い空間に佇んでいた。


 「ここは……どこだ……? 私は確かに死んだ筈では……?」


 自分が置かれている立場が理解出来ずに困惑するレイモン。


 そんな時――


 「ここは死後の世界ですよ、貴方」


 「――ッ!?」


 それは二度と聞くことはないと思われていた懐かしくも愛おしく思える声。その声のする方へと振り向くと、そこには1人の人間族の女性が佇んでいた。


 「サ、サリーエ……」


 それは10年前に亡くなった最愛の妻――サリーエだった。


 「お久しぶりです、貴方」


 「サリーエ!」


 最愛の妻との再会に感動を押さえきれずに思わずサリーエに抱きつくレイモン。


 「ずっと会いたかった……。こうして触れたかった……。君を思わなかった日は一度もない……」


 「ええ、私もです……」


 「君に謝らなくてはならないことがある。私のせいで君を死なせてしまった。本当に済まない……」


 レイモンの謝罪にサリーエは小さく首を横に振るうと、微笑む。


 「貴女のせいではありません。それに短い間でしたけど私は恵まれていましたよ。貴方と出会えて、結ばれて、セレンを生めて、家族3人で過ごせて……私の人生は幸せでした」


 「そうか……そうか……」


 サリーエの言葉にレイモンの心は癒されていく。


 「それよりも、ここからセレンが見えますよ。貴方も見て下さい」


 「ああ」


 サリーエと共にセレンを見守るレイモン。そこには父親を失った悲しみに涙する娘の姿があった。


 「私のせいであの子には辛い思いをさせてしまったな……」


 哀しみにくれるセレンの姿にレイモンの心は締め付けられるかのように痛み出す。


 そんなレイモンの様子をよそに、サリーエは微笑んでいる。


 「心配しなくても大丈夫ですよ。だって私と貴方の子供なんですよ? きっと直ぐに立ち直ってくれる筈ですよ」


 「そう、だな……」


 「そうそう、貴方にまだ言ってないことがありましたね」


 「何だ?」


 「今まであの子のことを守ってくれてありがとうございます。そして……お疲れ様です」


 「……ああ」


 こうして夫婦は愛娘をいつまでも見守り続けるのだった。

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