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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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迷宮都市

 加賀達のイジメ騒動から1週間が経過した。


 愛美の看護のお陰で完全に復帰した煉太郎は今日も必死で訓練に励んでいる。


 この1週間、加賀達による嫌がらせはない。


 (余程レクター団長の特別訓練が堪えたのか? まぁ、俺としては有難いことだから別に良いんだけど……)


 そう思っていると、レクター団長が全員に集まるように指示を出したので、煉太郎達は訓練を中断して集合する。


 「よし、みんな集まったな? 前にも話した通り、明日から実戦訓練としてダンジョンに挑む。必要な物はこちらで用意する。今までの訓練とは一味違うからな! 皆、覚悟しろよ!」


 「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」


 「では、午前の訓練はこれで終了だ。午後から迷宮都市・メルリオに向かう。1時間後に正門の前に集合するように。以上、解散!!」


 レクター団長はそう言ってさっさと行ってしまった。遠征の準備があるのだろう。


 煉太郎は一度自室に戻り、個室浴場で汗と泥を洗い落とし、食堂で昼食を食べ終えて、正門に向かう。


 正門の前には複数の馬車が並べられている。おそらく、この馬車で迷宮都市・メルリオに向かうのだろう。


 レクター団長以外にも四人の騎士もいる。


 全員が煉太郎達と同い年ぐらい若い。彼らは若手騎士の中でも相当の実力者で、今回は彼らも同行するようだ。


 「よし、全員集まったな。それでは出発だ!」


 煉太郎達はそれぞれ指定された馬車に乗り、迷宮都市・メルリオに向かうのだった。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 王都・バレリウムから約3時間掛けて迷宮都市・メルリオに到着する錬太郎達。


 流石は迷宮都市と呼ばれるだけあって、物凄い賑わいようだった。


 街には露店などが所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでちょっとしたお祭り騒ぎのようだ。


 ダンジョンがある街は良い稼ぎ場所として人気があるので冒険者達が自然と集まる。なので商人にとっては重要な拠点とも言える場所だろう。


 煉太郎達は騎士団が新人の訓練のためによく利用する宿屋の安らぎ亭まで移動し、明日に備えて英気を養うように言われて解散となった。


 用意された部屋(部屋の数に限りがあったため煉太郎だけ個室)に入室し、久しぶりに普通の部屋で気を緩めた煉太郎は荷物を机に置いてベットに腰掛ける。


 明日から早速、ダンジョンに挑戦だ。


 煉太郎達が挑むのはバルロス迷宮と言うダンジョンだ。


 神々が創ったとされるダンジョンで、全50階層までなっている。


 階層が深くなればなる程出現するモンスターは強くなるため、数あるダンジョンの中でもトップクラスの危険度を誇る。


 にも関わらずこのダンジョンは冒険者や傭兵、新米騎士の訓練には非常に人気がある。階層によりモンスターの強さが測り易いこと、階層が深くなると入手出来る素材や薬草なども稀少性を増すことが理由らしい。


 今回の訓練で煉太郎達が目指すのは10階層。初心者クラスの者なら余裕で到達出来る階層だ。


 それくらいなら煉太郎がいても十分カバー出来ると、レクター団長に言われた。煉太郎としては面倒を掛けて申し訳ないとしか言う他ない。


 (ちょっと市場にでも行ってみようかな……)


 まだ夕食までには時間があるので気晴らしに市場に向かうことにする煉太郎。


 市場には果物屋や武器屋、防具屋、薬屋、アクセサリー屋など様々な物を売っている露店が並んでいる。


 (へぇ、結構色々な物が売ってるんだな。何か掘り出し物でもないかな……)


 そう思いながら市場を歩く煉太郎。


 すると――


 「荒神く~ん!」


 聞き覚えのある声がして歩を止める煉太郎。


 その声がする方に振り向くと、そこにはにこにこと笑顔を浮かべてこちらに駆け寄ってくる愛美の姿があった。


 いつもの訓練用の服装ではなく、彼女は普段着っぽい薄水色のワンピースに身を包んでおり、つばが広い帽子を被っていた。


 「荒神くん、何かお買い物?」


 「ああ、何か掘り出し物でもないかなと思ってな」


 「そうなんだ! じゃあ一緒に回ろうよ! 1人で回るより二人の方が楽しいと思うし!」


 そう言って愛美は煉太郎の手を握り、強引に引っ張る愛美。


 これでは断ろうにも断れない。どうやら一緒に回ることは決定事項のようだ。


 (櫻井って、結構強引なんだよな……)


 そう思いながら煉太郎は愛美と市場を回ることになった。


 暫く市場を歩く煉太郎と愛美。


 「荒神くん! あれ凄く美味しそうだよ! 食べてみない?」


 愛美が指を指す方を見ると、まるでクレープのような食べ物を売っている屋台が視界に入る。


 「甘くて美味いフラワンスはいかがですかー!」


 店主が売り込みをしている。どうやらあのクレープのような食べ物はフラワンスと言うらしい。


 「美味そうだな。折角だから買ってみようか」


 「うん!」


 煉太郎と愛美は露店でフラワンスを注文する。


 「おじさん、フラワンス2つ売ってくれ」


 「へい毎度! どれにするんだ? この中から選んでくれ!」


 そう言って店主はメニューを見せる。


 「う~ん……どれにしようかな? 迷うな~」


 様々な種類のフラワンスを見て悩む愛美。確かにどれも美味しそうなので迷うのも無理もない。


 「……決めた! おじさん、私はこのフルーツ盛り合わせフラワンスください!」


 愛美は色々な種類の果物と生クリームを挟んだフラワンスを選ぶ。


 「じゃあ、俺はこのチョコバナナフラワンスで」


 煉太郎は定番とも言えるチョコバナナフラワンスを選ぶ。


 「二つで銀貨1枚だが、特別に銅貨6枚に負けてやるよ。可愛い彼女と仲良く食べな!」


 どうやら店主からは煉太郎と愛美は仲の良いカップルに見えたようだ。


 店主の言葉に、顔を赤く染める煉太郎と愛美。


 「いやいや、俺と櫻井はそんな関係じゃ……」


 煉太郎は店主に抗議しようとするが――


 「私が荒神くんの彼女……へへっ」


 ぽっと頬を赤らめて、嬉しそうな表情を浮かべる愛美。


 煉太郎は苦笑いを浮かべるが、フラワンスの代金が安くなったからいいかと割り切り、料金を支払い、近くにある広場のベンチに腰掛ける。


 「「いただきます!」」


 まずはぱくりとフラワンスを一口。


 「美味い!」


 「うん、甘くて美味しい!」


 予想以上の美味しさに表情を輝かせる煉太郎と愛美。


 生地は少し厚くて固めだが、味は申し分ない。


 あまりの美味しさに夢中になってフラワンスを食べる煉太郎と愛美。


 すると愛美は煉太郎が食べているチョコバナナフラワンスに視線を向ける。


 「荒神くんのも美味しそうだね。一口貰うね♪」


 「えっ?」


 ぱくり。


 愛美は煉太郎のチョコバナナフラワンスを一口食べる。


 「――ッ!」


 思わず絶句する煉太郎。その顔は茹で上がった蛸のように真っ赤に染まる。


 「このチョコバナナも美味しい! ……どうしたの荒神くん。顔が真っ赤だよ? もしかして勝手に食べたから怒った?」


 「え? い、いや、別に怒っていない……怒ってないけど……!」


 愛美は気づいていないようだ。煉太郎が食べていたフラワンスを口にしたということ。それは間接キスをしたことになるということに……。


 「?」


 愛美は意味が分からないという表情をして首を傾げている。


 その表情を見て煉太郎は――


 (心臓に悪すぎるだろ!)


 激しく動揺しながら、煉太郎は声を出せないままに叫ぶのであった。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 「ふゎあっ! あれ、凄く可愛いっ!」


 煉太郎の袖口を引っ張って、ショーウィンドウへと引っ張っていく愛美。


 そこは雑貨店のような所だった。お皿や花瓶、小物などが並べられている。


 愛美の瞳を釘付けにしたのは――


 「……」


 思わず絶句してしまう煉太郎。


 不細工な猫のイラストがデカデカと描かれた皿だった。


 「私、こーゆーのが好きなの!」


 「そ、そうか……」


 お世辞にもセンスが良いとは言えない。


 「そっちの猫よりもこっちの方が可愛くないか?」


 隣に置いてあるゆるキャラみたいな兎が描かれている皿を手に取り、愛美に見せる。


 「う~ん、そうかな?」


 愛美は小首を傾げて、不細工猫とゆるキャラ兎の皿を見比べると、大きく頷いた。


 「うんっ。間違いなく、こっちの猫のお皿が可愛いよ!」


 自信満々の笑顔浮かべる愛美。


 不細工猫の皿をうっとりと見つめて「このお皿、買おうかなぁ……」なんて呟いている。


 そんな愛美を見ていたら、煉太郎は思わず噴き出してしまった。


 決して愛美のセンスを笑ったわけではない。


 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の学園のマドンナと言われている愛美。


 そんな彼女にも『センスが良くない』という弱点があったのだ。


 愛美の意外な一面に思わず笑ってしまったのだ。


 「荒神くん? どうかしたの?」


 「いや、何でもない」


 「?」


 キョトンとした顔で首を傾げる愛美だった。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 雑貨屋を出で、武器屋や薬屋など様々な露店を見て回った煉太郎と愛美。


 気晴らしが出来れば良いと思っての買い物だったが、喜ぶ愛美の姿を見てるだけでも楽しかった。


 しかし、時間が経つのは早いもので、そろそろ夕食の時間が近づいてきたので煉太郎と愛美は宿に戻ることにした。


 「楽しかったね、荒神くん」


 「ああ。色々な店があって飽きなかったな」


 周りの店を見渡すと、既に幾つかの露店が店じまいしていた。


 流石にこの時間帯になると活気が治まっている。そんな光景に少し寂しく思えた。


 「ん?」


 ふと視線を向けると、アクセサリーを売っている露店を見つける煉太郎。まだ、店じまいはしていないようだ。


 煉太郎と愛美は露店に売られているアクセサリーを眺める。どれも細かい所まで工夫が施されている。


 「綺麗……」


 愛美はハートの形をしたペンダントを眺めて思わずうっとりとする。


 それを見た煉太郎は――


 「すみません、これください」


 「へい、銀貨3枚です」


 煉太郎は愛美が見つめていたハート型のペンダントを購入し、愛美に渡す。


 「……えっ? 荒神くん、これ……」


 渡されたペンダントを見つめる愛美。


 「プレゼントだよ。ほら、前に俺のこと治療してくれただろ? そのお礼だよ」


 照れくさそうに頬を掻きながらそう言う煉太郎。


 「……ありがとう荒神くん! 一生大切にするね!」


 今まで見せたことのない笑顔でそう言う愛美。


 あまりの可愛さに思わず顔を赤く染め、頬を掻く煉太郎。


 「ほ、ほら、早く宿屋に戻ろう。夕飯に遅れるぞ」


 「うん!」


 煉太郎と愛美は安らぎ亭に向けて歩を進めるのだった。


 しかし、煉太郎と愛美は知らない。


 宿屋に戻る煉太郎と愛美の背中を無言で見つめている者達がいることを。


 その者達の表情が酷く歪んでいることを。


 その者達の抱いている悪意を、煉太郎と愛美が知るはずもなかった。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 その日の夜。


 「るふふ~ん♪ るららら~ん♪」


 「機嫌が良いじゃない愛美。何か良いことでもあったの?」


 嬉しげに鼻歌を唄う愛美に問う凛。


 「うん! 荒神くんと市場に行ってきたんだ! 一緒にフラワンス食べて、お買い物して、プレゼントされたり……!」


 顔を真っ赤にして上機嫌な愛美。


 煉太郎から貰ったペンダントを早速身に付けていることから、余程嬉しかったようだ。


 「そう。良かったわね、愛美」


 「うん、それに荒神くんがね!」


 愛美の惚気話に付き合わされるはめになってしまう凛。


 愛美の惚気話が終わるのはその2時間後のことだった。

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