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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
2章 創世樹の森
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10年前の出来事

 ――10年前。


 その日の森はやけに静かで、満月の光が暗い夜の森優しく包み込むように照らしていた。


 その頃のエルフの里は、ようやく奴隷狩りの一件から落ち着きを取り戻し、以前のような生活を取り戻しつつあった。


 そんな時、レイモンはエルフの里に現れた。怒りを露にして……。


 「レイモン、何故ここに来たのですか!? 貴方は人間族の女性と添い遂げることを許す代わりに、この里に入ることを禁じられている筈です! 即刻ここから立ち去りなさい!」


 「私の妻を殺した者がここにいる筈だ! 出てこい! 私が自ら殺してやる!」


 鬼気迫る雰囲気のレイモン。


 レイモンは最愛の妻であるサリーエが死んだのは当然シスリカの耳にも届いていた。


 しかし、サリーエの死はモンスターの襲撃によるものだと聞いていた。


 レイモンはサリーエの死はモンスターによるものではなく、人間族に恨みを持つエルフの誰かが事故に見せかけて殺害したと言い出した。


 「確かに我々は人間族を憎んでいます。しかし、それは悪意のある人間族に対してだけです。ワタシが見た限りサリーエは純粋で心の優しい人間族でした。そんな彼女を我々が殺害しようなど考えもしていません! 誰がそのようなことを言ったのですか!?」


 「煩い! 黙れ! 妻を殺した者が名乗りでないのなら見つけ出すまてだ! 〝大いなる竜巻よ、彼の者に旋風の裁きを与えろ――トルネード〟」


 詠唱が終わるのと同時に竜巻が出現する。竜巻から発せられる突風は凄まじく、周囲のエルフ達を吹き飛ばす。


 「〝光の加護よ、我が身を守る盾となれ――ライトシールド〟」


 シスリカの周囲が光で構成された結界で覆われる。レイモンが放つ竜巻による突風も防いでいるが、身動きが取れない状態だった。


 「止めなさいレイモン! ワタシ達はサリーエを殺してはいません!」


 「黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇ!!」


 シスリカは必死で誤解を解こうとするが、聞く耳を持たないレイモンによる竜巻の攻撃によって遮られる。そしてレイモンはエルフの里で破壊の限りを尽くしていく。


 元々、レイモンはエルフの里で1番の魔法の使い手と呼ばれおり、保有する魔力の量も並外れていたので、誰も彼の暴走を止めることが出来なかった。


 エルフの里を襲ったレイモンは多くのエルフ達を傷付け、次々と建物を壊すと言う蛮行を行い続けた。


 「……はぁ……はぁ……はぁ……」


 息を切らしながら立ち尽くすレイモン。魔力を使いすぎたせいか、立っているのがやっとな状態だった。


 竜巻が収まると、シスリカは光の結界を解除し、魔力切れによる魔力枯渇症(魔力を限界まで使用することにより体力を大幅に失い、身体の自由が効かなくなる症状)になり、膝を突くことになる。


 そんなシスリカに、レイモンはゆっくりと近付くと――


 「……本当に済まない、長老」


 ポツリとレイモンは呟いた。


 その表情は先程の憤怒の形相ではなく、どこか悲しげな表情だった。


 「……え?」


 レイモンの言葉にシスリカは思わず首を傾げることになる。何故、エルフの里を襲っておいて謝罪などするのか。どうしてそのように悲しげな表情をしているのか。


 その意味を聞こうとするシスリカだが、エルフの里を半壊させたレイモンはそのまま創世樹がある聖域へと向って逃げてしまった。


 そして、彼は2度と帰って来ることはなかった……。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 「これが10年前に起きた出来事――レイモンが大罪人と呼ばれるようになった理由です……」


 長い話を終えたシスリカは一息吐くと、少し冷めてしまった紅茶を口にする。


 シスリカが言うにはレイモンが聖域に行ったその日を境に、謎の植物型モンスター達が出現するようになったと言う。


 「嘘です! 父がそんなことをする筈がありません!」


 セレンはテーブルをバンッ、と叩いて席を立つ。その表情は絶対にあり得ないと言った感じの雰囲気だった。


 セレンの知っているレイモンはとても穏和な性格で、優しく接する人物だ。そんな父が人を傷付けるような蛮行を仕出かすとは到底思えなかった。


 「ワタシもレイモンがそんなことをするとは思いません。しかし、彼がエルフの里を襲い、聖域に無断で立ち入ったことは確かです……」


 セレンの反論を言い返すシスリカ。彼女はレイモがまだ子供の頃からの知り合いだったのでそんなレイモンが人を傷付けるような性格ではないことを知っている。だから信じたくなかったが、レイモンがエルフの里を襲い、大勢の同族を傷付けたことは事実だった。


 セレンもこれ以上反論出来ないのか、黙り込むとそのまま静かに席へと座る。


 「聖域には創世樹を守護する妖精がいるんだろう? だったらその妖精に直接話を聞けばいいんじゃないのか?」


 煉太郎の質問にシスリカは小さく首を横に振るう。


 「現在聖域に行くことは出来ない状況です。謎の植物モンスター達が聖域への道を塞いでいるせいで妖精様との面談が出来ません……」


 エルフ達はレイモンの真相を確かめようと聖域に向かったのだが、植物モンスター達によって阻まれてしまい、大勢の被害者が出てしまった。


 シスリカの考えでは、創世樹に手を出して妖精の逆鱗に触れたか、もしくはレイモンが何か良からぬことを仕出かしているのではないかと推測している。


 だがそれは聖域に行くことが出来ない今の現状では謎のままだった。


 「長老、大変です!」


 ノックもせずに応接室へ入室する若い男性エルフ。額には大量の汗を流しており、顔色は青褪めている。只事ではない様子だ。


 「どうしたのです、そんなに慌てて……」


 シスリカは心配したように青年エルフに声を掛ける。


 すると青年エルフは慌てて口を開く。


 「例の植物モンスター達がこの里を目指して進行中です! モンスターによって既に数名の負傷者が出ています!」


 「何ですって!?」


 シスリカは信じられないと言った表情で席を立つ。


 植物モンスターは何故かエルフ族を襲うことはなく、モンスターや人間族を狙う傾向があった。


 しかし、今回は違う。今回の植物モンスターはエルフ族でも襲う程狂暴だったのだ。


 「直ちに戦士達を門の前に集合させなさい! ワタシも直ぐに行きます!」


 「はっ!」


 シスリカの命令に青年エルフは直ぐ様行動に移す。


 「申し訳ありませんが、ワタシは行かなくてはなりません。貴方達はここで待機していてください!」


 そう言い残してシスリカは行ってしまう。


 残された煉太郎達。だが、彼らにじっと待機をする忍耐はない。


 「行ってみるぞ!」


 シスリカの後を追い、煉太郎達も門へと向かうのだった。

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