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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
2章 創世樹の森
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調合屋

 「ここが調合屋か……」


 チンピラ冒険者達とのやり取りを終えた煉太郎達は地図を頼りに目的地の調合屋に到着する。


 「――ッ!?」


 「……う!?」


 「クルル……!?」


 店内に入ると、鼻の奥をツンと刺激するような悪臭が店中に漂っていた。特にクルは嗅覚が優れているので相当キツいようだ。


 鼻を摘みながら店内を見渡すと棚には怪しげな色の薬品が入った瓶が置かれており、どうやら悪臭はその薬品から漏れる匂いのようだ。


 「あら、久しぶりのお客だねえ」


 店の奥から現れたのは六十代から七十代のローブを纏った老婆が現れた。どうやらこの老婆が調合屋の店主であるミネルバのようだ。


 「あんたがミネルバか?」


 「そうだよ。あんた達は一体何者だい?」


 「俺は煉太郎。こっちはフィーナで、カーバンクルのクルだ。俺達はドーンの使いだ」


 ドーンの名前を口に出すと、ミネルバはニヤリと笑みを浮かべる。


 「そうかいそうかい、ドーンの知り合いかい。まあ立ち話もなんだし、こっちに来てお座りな」


 ミネルバに付いていき店の奥へ行く煉太郎達。


 奥の部屋は店内と違って悪臭は一切していない。机の上には淡い光を発しているオーブ型のマジックアイテムが置かれているので、どうやらそれが消臭の役割を果たしているようだ。


 テーブルに案内された煉太郎達は椅子に座り、出されたお茶を飲んで一息入れる。


 お茶は少し独特な苦味があるが、飲むと疲れが癒えていく。どうやらお茶には特殊な薬草を煎じて淹れられているようだ。流石は調合屋の店主と言ったところだろう。


 「あんた達がここに来た理由は分かっているよ。ドーンがアタシに頼んでいた調合薬を取りに来たんだろう?」


 「そうだ」


 煉太郎の言葉にミネルバはばつが悪そうな表情をする。


 「悪いんだけど、頼まれた調合薬は作れそうにないんだ。諦めておくれ……」


 「何?」


 ミネルバの言葉に首を傾げる煉太郎。どういうことかミネルバに問うと、彼女は表情を暗くして口を開く。


 「頼まれた調合薬を作るのに必要な材料が調達出来ないんだよ……」


 「どういうことだ?」


 煉太郎の問いにミネルバは静かに答える。


 ミネルバによると、調合薬を作るために必要な月光花と言う花が店にないようだ。


 月光花とは昼間は蕾を閉じ、月が輝くよるにしか花を咲かさないと言うとても珍しい薬草で、あらゆる薬品の原料になる特殊な花とされている。


 エルフ族が住むとされるラナファスト大森林にしか月光花は咲いておらず、本来は冒険者ギルドに依頼を出して冒険者に採取してもらうはずなのだが――


 「最近妙なモンスターがラナファスト大森林に出現するようになってのう……」


 「妙なモンスター?」


 「全身が植物のモンスターじゃ……」


 ミネルバの言葉に煉太郎達は息を呑む。


 「レンタロウ、それってもしかして……」


 「ああ。俺達が倒したあの巨人のことだろう……」


 煉太郎達がアルバ村から公都ハーンスに向かうまでの道中に出くわしたモンスター。その姿が煉太郎達の脳裏に浮かぶ。


 最近はこの植物モンスターがラナファスト大森林に出現するようになり、森に入る冒険者を襲うらしい。


 冒険者達の間では謎の植物モンスターの出現はエルフ族の仕業ではないかと考えられているそうだ。


 エルフ族は人間族に対してあまり良い印象を抱いてはいないらしい。


 それは10年前に起きた奴隷狩りが原因だった。


 エルフ族は皆、容姿端麗な為奴隷としてはかなりの金額で取引されている。10年前にエルフ族を拐うために多くの盗賊達がエルフ族を襲い、拐い、奴隷として売り払おうとする事件が続出するようになった。


 その結果、人間族とエルフ族との間には深い溝が生まれ、エルフ族はラナファスト大森林から出ないようになったと言う。ごく稀にだが外の世界に憧れてラナファスト大森林から出ていくエルフ族もいるそうだ。


 公都ハーンスでは植物の巨人は10年前の出来事を未だに恨んでいるエルフ族の仕業だと噂が広がっているようだ。


 「月光花を採取しに行った冒険者は皆行方不明となってしまった……。だからアタシはもう月光花を採取する依頼は取り下げるつもりじゃ。アタシのせいで多くの冒険者が行方不明になるのは御免じゃからのう……」


 自分の依頼のせいで何人も冒険者が行方不明になってしまったことに罪悪感を抱いているのだろう。ミネルバは暗い表情をしている。


 「悪いが、俺は諦めるつもりはない。他の冒険者が無理なら俺達が月光花を採取しに行くまでだ」


 「バカなことを言うのはおよし。今まで何人の冒険者が行方不明なったと思っているんだい? やめておくんだね……死ぬよ?」


 ミネルバが説得するも、煉太郎は全く聞く耳を持たない。


 フィーナに煉太郎を説得するよう懇願するミネルバだが、「レンタロウが決めたことだから」と言って席を立つ。


 「俺達は死ぬつもりなんて毛頭ない。俺達の邪魔をするならエルフ族だろうが植物の巨人だろうが容赦はしないさ」


 そう言い残して煉太郎達はエルフが住む森――ラナファスト大森林へと向かうのだった。

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