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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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看護と悪意

 「……ん、んん……」


 「目が覚めたんだね、荒神くん! 良かった!!」


 「櫻井……?」


 煉太郎が目覚めると、目の前には愛美がいた。


 目元を真っ赤に腫らしており、目元には大粒の涙が溜まっている。


 どうやら煉太郎が気を失っている間、ずっと泣いていたようだ。


 「ここは、何処だ……? 俺はいったい……?」


 目覚めたばかりで意識が朦朧としている煉太郎。


 「医務室だよ。荒神くん、私や凛ちゃん達が止めに入った後、気を失ったんだよ?」


 気を失った煉太郎は直ぐに医務室に運ばれた。

 

 愛美は煉太郎の看護をすると言って医務室に残り、凛と勇悟は煉太郎を医務室に運んだ後、訓練場に戻った。


 加賀達が煉太郎に対して仕出かしたことをレクター団長に報告するためだ。


 「荒神くんの怪我は治ったのに、全然目を覚まさないから私、心配で心配で……」


 愛美は煉太郎の右手を握りながら、また目元に大粒の涙を浮かべ、泣き出す。


 急に泣かれて反応に困る煉太郎。なので必死で愛美を慰めようとする。


 「心配かけてすまなかった、櫻井。でも、もう大丈夫だから心配しないでくれ。意識もはっきりしてるし、記憶もある。身体はまだ本調子じゃないけど、痛みはない。だから頼む。もう泣かないでくれ……」


 そう言って、煉太郎は愛美の手を握り返す。どうにかして慰めたいのだが、身体が動かないのでそれぐらいのことしか出来なかった。


 「……うん」


 どうにか安心させることが出来たようだ。


 「それで、あの後はどうなったんだ?」


 涙を拭う愛美に煉太郎は問う。


 「凛ちゃんから聞いた話だと訓練は行われたそうだけど、全体にレクター団長から説教があったそうだよ」


 「……あの3人は?」


 「加賀くん達は訓練が終わった後、罰としてレクター団長の特別訓練を受けているはずだよ。レクター団長、加賀くん達に物凄く怒ってたらしいから……」


 「そうか……」


 レクター団長は周囲から落ちこぼれと呼ばれている煉太郎に対しても親しく接してくれる数少ない人物で、時々だが個人訓練を受けているのでそれなりに仲が良い。


 「それより荒神くん、いつも加賀くん達にあんなことされてるの?」


 目元の腫れが少し引いた愛美が、怒気を含んだ声で聞いてきた。


 いつもニコニコと笑っている女神のような愛美とは思えない程の表情。あまりの怖さに背筋が凍ってしまう感覚を覚える煉太郎。


 「荒神くんにあんなことするなんて……加賀くん達酷いよ……許せないよ……‼」


 「お、おい……落ち着け!」


 激昂する愛美を宥める煉太郎。


 「ごめんね、荒神くん……。私がもっと早く気づいていたらこんなことには……」


 「櫻井が気にやむことじゃないだろ!?」


 思いつめた目をする愛美に煉太郎は必死で慰める。


 「いつもはあそこまではされない。俺が加賀達に何か癇に障ることでもあったんじゃないかな? もう終わったことだし、気にしてない」


 「でも……」


 それでも納得出来なさそうな表情をする愛美に再度「大丈夫だから」と言って笑顔を見せる煉太郎。


 「……分かった」


 渋々ながら、ようやく愛美も引き下がる。


 「それにしても、荒神くんは本当に優しいんだね。昔と全然変わらない」


 「?」


 愛美の言葉に訝しそうな表情をする煉太郎。その表情に愛美はクスリと笑う。


 「荒神くんは私と初めて会ったのが高校からだと思ってるでしょ? でもね、私は中学生の頃から知ってるんだよ?」


 愛美の予想外の言葉に絶句する煉太郎。


 必死に中学生時代の記憶を探るが、全く身に覚えがなかった。消し去りたい思うほどの黒歴史しか思い出せない。愛美程の美貌を持つ少女を忘れるなどそうそうないと思うのだが、どうしても思い出せなかった。


 煉太郎が「う~ん……」と首を傾げている、愛美は再びくすりと笑った。


 「私が一方的に知ってるだけだよ。荒神くんは真冬の川を泳いでいたから私のこと見えていなかったと思うし」


 「俺が真冬の川を泳いでた!?」


 愛美の衝撃的な言葉に唖然とする煉太郎。


 (中学生の頃で真冬の川……駄目だ! 全然思い出せない!?)


 必死に記憶を探る煉太郎に愛美は話を続ける。


 「中学3年の十12月頃だったかな。荒神くん、溺れてた子犬を助けたでしょ?」


 「子犬……あっ!?」


 子犬というキーワードを聞き、思い出した煉太郎。


 あれは2年前――煉太郎がまだ中学3年生の12月頃。


 その日は日曜の休日だった。


 新作ゲームを買った帰り道に河川敷を通ると子犬が溺れているのを見つけた煉太郎はすぐ様川に飛び込み、寒い川の水の温度に我慢しながら必死で泳いで子犬を助けた。


 次の日は高熱を出して学校を休んだことは言うまでもない。


 ちなみに、煉太郎が助けた子犬は今頃、煉太郎の家のリビングのソファーでうたた寝でもしているだろう。


 「荒神くんが子犬を助けるのを見て、凄く優しい人だと思った。私は荒神くんよりも早くその場に居たのに、泳げなくて……。誰か助けてあげてって思うことしか出来なかったから……」


 「櫻井……」


 「私ね、ずっと荒神くんとお話ししたいと思ってた。だから、高校に入って荒神くんを見つけた時は凄く嬉しかった。もっと荒神くんのことを知りたいと思って色々と話かけようとしたのに、全然構ってくれないしさ……」


 「あはは、悪い……」


 愛美が何故、煉太郎に構うのか。その理由が分かった煉太郎は愛美の予想以上の高評価に照れくさいやら恥ずかしいやらで思わず頬を掻く。


 人から褒められることに慣れていないせいか、そういった反応しか出来ないのだ。


 「そうそう、来週には実戦訓練の一貫として、バルロス迷宮へ遠征に行くことが決まったらしいよ」


 バルロス迷宮。


 オルバーン王国に存在する唯一のダンジョンだ。


 王都・バレリウルから馬車で数時間の距離にある迷宮都市・メラリスにあり、騎士団員の訓練場としても使われている。


 「ダンジョンか……。少しでも皆の役に立てれるように頑張らないとな」


 「荒神くんなら大丈夫だよ! もしもの時は私が守ってあげるから!」


 『守ってあげる』


 まるで漫画の主人公みたいなセリフを言う愛美。


 これでは役者があべこべである。主人公は愛美で、自分はヒロインかと、男子としては何とも言えない複雑な気持ちに苦笑いをするしかない煉太郎だった。


 その時――


 コン、コン。


 医務室の扉がノックされる。


 「愛美、凜よ。入っていい?」


 凜の声が部屋の中に響く。


 「うん、調度荒神くんが起きたところだよ」


 「どうぞ」


 煉太郎がそう言うと、凜は医務室に入室する。


 「目が覚めたようね、荒神くん」


 「心配かけたな、東郷。話は櫻井に聞いたよ。東郷が俺を医務室に運んでくれたんだよな。ありがとう」


 「当然のことをしたまでよ。愛美が大泣きして大変だったけどね」


 「わーわー! 凛ちゃん、やめてよ!」

 

 それから暫く3人は談笑を続けた。


 その日からレクター団長の取り決めにより、訓練以外で異能を使用することは禁止となった。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 訓練場では先程訓練が終わったのか、3人の男子生徒が寝転がっていた。加賀と遠藤、中村の3人組だ。


 「はぁ、はぁ、はぁ……」


 「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ……」


 「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」


 レクター団長の特別訓練は相当厳しかったようだ。三人共息づかいが荒く、今にも呼吸困難に陥りそうな状況だった。


 「これで特別訓練を終了する。お前達、力に溺れて仲間を傷つけるなど言語道断だ。今回はこれで済ますが、次はないと思えよ!」


 そう言って、レクター団長は立ち去ってしまう。


 「はぁ、はぁ、はぁ、クソが!」


 「レクターの奴、調子に乗りやがって……」


 「ゴホ、ゴホ、ゴホッ……」


 「これも全部、あの『落ちこぼれ』のせいだ……!?」


 「何で、俺達が、こんな目に遭わなきゃ、いけないんだよ……!?」


 「ふざけやがって……」


 仰向けになりながら三人は愚痴を溢す。


 「『落ちこぼれ』のくせに、ふざけやがって! あの野郎、ぶっ殺してやる!!」


 「加賀、お前の気持ちは分かるが、やめろ……」


 「そうだ……。お前のせいで、俺達にも、とばっちりが、来る……」


 「『落ちこぼれ』のくせに、粋がりやがって……!」


 血管を浮き出させ、顔を真っ赤にさせて激怒する加賀を遠藤と中村は口々に止める。


 しかし、それでも加賀の怒りは収まらなかった。


 「ああー、あの『落ちこぼれ』のせいで櫻井さんに悪い印象を与えたよ!」


 「完全に櫻井さんに嫌われたな……」


 「最悪だ……」


 逆恨みもいいところである。自分達が仕出かしたことを全て他人のせいにする。小物の発想だった。


 「どうにかしてあの落ちこぼれ』を消せないかな……。そうすれば櫻井さんも目を覚ましてくれ、る……」


 そこまで言うと、急に黙り込む加賀。そしてあることを思いつく。


 「そうだ、あの『落ちこぼれには消えてもらおう……」


 意味不明な言葉に、遠藤と中村は首を傾げる。


 「消えてもらうって、どうやって……?」


 「何か良い考えでも思いついたのか?」


 遠藤と中村の問いに、加賀は答える。


 「確か1週間後にダンジョンで実戦訓練するってレクターの野郎が言ってたよな?」


 「あ、ああ……」


 「それがどうしたんだよ……?」


 それを聞いた加賀はニヤリと笑う。


 「分からないのか? ダンジョンで命を落とすことは事故として扱われる。そこであいつが死んでも……」


 「なるほどなぁ~、確かに名案だな……。よし、お前に手を貸してやるよ」


 「加賀、お前マジ天才! 俺も手を貸すぜ!」


 3人共不気味な笑みを浮かべている。その表情は狂気に歪んでいる。


 「当分はあいつに干渉しないようにするぞ。あの『落ちこぼれ』に俺達の計画がバレると不味い。それにこれ以上櫻井さんの機嫌を損ねるような真似はしたくないからな」


 「ああ」


 「了解」


 そう言って、加賀達は立ち上がる。


 「よし、今夜は俺の部屋で作戦会議だ」


 「分かった」


 「ククククク……」


 こうして話し合いを終えた3人は、暗い笑みを浮かべながら自室に帰って行った。

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