勇者としての自覚
「……あ、が……」
ピクピクと痙攣しながら盗賊は白目を剥いて気絶している。峰打ちだったので、命に別状はないだろう。
「下衆はそこで寝ていなさい……」
気絶している盗賊に冷たい視線で見下ろしながら呟く凛。先程の盗賊達の発言にかなりご立腹のようだ。
「よくも仲間を! 行けお前ら!」
「「「「「「「「「「おおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」
ダンバールの合図で一斉に攻撃を仕掛ける盗賊達。
「〝氷よ、大地を凍らせろ――フリーズ〟」
愛美が氷属性の上級魔法〝フリーズ〟を発動させる。
ビキビギと音を立てて盗賊達の足元の地面が氷に覆われていき、次第に氷は盗賊達の足まで凍らせていく。
「おい、マジかよ……!」
「つ、冷たい……!」
「あ、足が凍って動かねえ……!」
足を凍らされて身動きが取れない盗賊達。今ので3分の1の盗賊の動きを封じただろう。
「チッ、こうなったら遠距離から攻めろ!」
盗賊達は投擲用のナイフや遠距離魔法で勇悟達を攻める。
「無駄です」
盗賊達の攻撃は早乙女が作り出す魔法障壁によって全て防がれる。
「おい、効かねえぞ!」
「……どうする?」
自分達の攻撃を全て防がれ狼狽する盗賊達。そんな彼等にリーダーは指示を出す。
「人質だ! 人質をさえいればこちらのもんだ!」
人質を狙って数人の盗賊達が倉庫に近づくと――
「『爆炎』」
「『魔力糸』!」
「打つべし打つべし!」
「おらぁっ!」
加賀、遠藤、中村、剛田の4人が動く。
ある者は加賀の『爆炎』によって吹き飛ばされて、ある者は遠藤の作り出した魔力の糸で拘束され、ある者は中村の鋼鉄のように硬い拳で殴られ、ある者は剛田の持つハンマーで野球ボールのように打たれることになる。
「ひっ、こんな奴らに勝てるかよ……!」
「に、逃げろ!」
勇者一行との実力差に怖じ気づいたのか、2人の盗賊が村から逃げようと企てる。
「させませんわ!」
有栖川が叫ぶと、村の入口付近に待機させていた岩のゴーレムが動きだし、逃げようとする盗賊達を捕らえる。
しかし、ゴーレムから逃れる盗賊がいる。そんな相手は――
「『追尾矢』!」
放たれた鋭い羽音を響かせ、天野の弓から放たれる矢が逃げる盗賊に向かって一直線に飛び、盗賊の脚を射抜いた。
「ぎゃあああああ!?」
脚を射抜かれ盗賊は喚きながらのた打ち回る。
「チッ、使えねえ野郎共が!」
無様に倒されていく部下を尻目にダンバールは斧を腰だめに構える。そして一気に勇悟へと踏み込んで斧を降り下ろす。
「――ッ!」
ダンバールの一撃をエクスカリバーとマジックソードを十字にクロスさせて受け止める。
「ほう、俺様の一撃を耐えるとは流石は勇者か……」
少し感心したように言うリーダー格。
(こいつ……強い……!)
流石は盗賊達を纏め上げる者と言ったところか、それなりの実力はあるようだ。
しかし――
「けどこっちはもっと強いレクター団長に毎日扱かれているんだよ!」
勇悟のエクスカリバーがダンバールの斧を斬り裂く。
「マジかよ……!?」
自慢の斧を斬り裂かれ、ダンバールは勇悟のエクスカリバーの切先を向けられてその場に座り込む。
「俺様の負けだ……降参するよ……」
両手を上げて降参するダンバール。
「お前達を王都に連行する。罪を償うんだ」
ダンバールに抵抗する気がないと判断した勇悟はエクスカリバーとマジックソードを鞘にしまう。
そんな勇悟を見て、ダンバールはニヤリと笑みを浮かべる。
(勇者と言ってもまだまだガキだな……!)
勇悟達に気づかれないようにダンバールは隠し持っていたダガーを抜き取る。
「死にやがれ!」
隠していたダガーを勇悟に向けて突き出すダンバール。
「愚かな……」
しかしダンバールの攻撃は容易に避けられ、勇悟の鞘越しのエクスカリバーで頭を思い切り強打される。
「がッ!?」
鞘越しとは言え、重いエクスカリバーで頭部を強打されたダンバールは白目を剥いて地面に倒れる。
「盗賊団のリーダーを退治したぞ!」
「「「「「「「「「「おおおおおおおおっ!」」」」」」」」」」
勇悟の雄叫びと共に村人達が歓喜の声を上げる。
こうして勇者一行の盗賊退治は無事終了を迎えるのだった。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「この村を救って下さり、まことにありがとうございます! どうぞ楽しんでください勇者様!」
『略奪の斧』の盗賊達を無事に全員捕獲した勇者一行はコロナ村の広場で宴会を行っていた。
盗賊達は騎士団によって王都バレリウムに護送されている。到着しだい裁判を受け、奴隷として鉱山などで働かされることになるだろう。
「美味しい!」
「旨すぎるだろこれ!」
「はぐはぐ……」
皆、豪華なバーベキューに舌を唸らせている。
広場の中央には大きな焚き火をしており、ちょっとしたキャンプファイヤーの気分だ。
そんな宴会を勇悟達が楽しんでいると――
「勇悟、ちょっといいか?」
皆と宴会を楽しんでいる勇悟にレクター団長が話しかける。
2人きりで話があると言われて勇悟はレクター団長と一緒に広場から人のいない場所に向かう。
「どうしたんですか、レクター団長?」
「勇悟に聞きたいことがある」
「何ですか?」
「どうしてあの時、ダンバールを討ち取らなかった? なぜ奴を生かした?」
レクター団長が言う「あの時」とは、ダンバールが降参したふりをして勇悟に奇襲を仕掛けた時だ。
本来ならあの場でダンバールは即座に処罰されるべき状況だった。しかし、勇悟はそれをしなかった。
「確かにあの男は僕を騙し、奇襲を仕掛けてきました。しかし、あの場で殺しただけではダメだ。あの盗賊達には生きて今までの行為を償ってもらいたいんです」
「……ユウゴ」
勇悟の言葉にレクター団長はどう返していいか悩むことになる。
『地球』では人を殺せば余程の理由がない限り、殺人犯として犯罪に問われるだろう。
しかし、ここは『ラディアス』。異世界だ。モンスターが存在すれば盗賊も存在する。今では魔人族との戦争も控えている。この世界での人命とは勇悟達が考えている程重くはないのだ。
どうやら勇悟達は『地球』と『ラディアス』との命の重さは同じだと勘違いしているようだ。そして勇者としての自覚をまだ理解出来ていなかったようだ。特に勇悟は人命を奪うと言う行為には激しい抵抗がある。
かと言って、勇悟達に殺人を強制することがレクター団長にはどうしても出来なかった。そうすることによって勇悟達に心理的に大きな打撃を与え、その影響がいつまでも続くトラウマを残さないようにする為だ。
「敵だからと言って自分より弱い者を殺すことをすれば、あの盗賊達と同じことをしていることと同じです。僕は誰も殺さずに戦いたいと思っています。それが盗賊であろうと、魔人族であろうと。そのために僕はもっと強くなってみせますよ……」
そう言って勇悟はクラスメイト達のもとに行ってしまう。
「誰も殺さずに、か……」
小さく呟き、勇悟の言葉にどこか複雑な心境を抱くレクター団長だった。




